「正弦」の意味

直角以外のある角が等しい直角三角形は相似です。ということは、「ある角」に対し、直角三角形の辺の比はその大きさに関わらず一定です。

3つの辺から2つを選ぶと、その比の値は直角三角形の大きさに関わらず一定の値になります。

3つのうち2つを選ぶ方法は3通り、比の値は分数で表すので、どちらを分子・分母とするかという順序まで考えると6通りあります。

そこで、それぞれの比の値に次のように名前をつけます。

読み方は、sin がサイン(sine)  , cos がコサイン(cosine) , tan がタンジェント(tangent) , csc がコセカント(cosecant) , sec がセカント(secant) , cot がコタンジェント(cotangent)です。このうち、高校の数学の教科書に載っているのはサイン、コサイン、タンジェントの3つです。セカント、コセカントはあまり登場の機会がありませんが、コタンジェントは物理でよく使います。

上の図は、教科書に準拠しています。ところが、ここで理解が妨げられそうなことがらがあります。上の図で「A」は頂点の名前ですか?それとも左下の角の大きさですか?

じつは、両方なのです。中学校では、角Aの大きさは「∠A」と書きました。点Aは「Aという名前の点」ですし、∠Aは「Aのところの角の大きさ」です。しかし、高校数学では、「∠」の記号をつかわなくなります。「A」は頂点の名前であると同時に角Aの大きさを表すのです。そのどちらであるかは、文脈で判断します。「AとBが等しい」ならば、角の大きさですし、「Aを通る」ならば点Aのことです。この使い分けができないと、理解が止まってしまいます。

ですから、三角比の意味・定義ということであれば、次の図の方がよいかもしれません。角θに対して決まる直角三角形で2つの辺の比の値として三角比を定義します。

さて、sine , cosine , tangent は、日本語では、正弦 , 余弦 ,  正接 といいます。円ではないのになぜ「弦」なのでしょうか。また、tangent はなぜ「弦」ではなく「接」なのでしょう。この言葉の意味について説明している教科書は残念ながらありません。Web上に、三角比の解説をしているページはたくさんありますが、Wikipedia以外にはほとんどありません。

ヴィクター・J・カッツの「数学の歴史」にsineの言葉の由来が載っています。(Wikipediaも同じ)「sine」は、サンスクリットの単語である「jyaardha」(はじめのaの上にはバーがある) の一連の誤訳であるとしているのです。まず、この短縮形もしくは同義語として「jiba」(実際は i の上は点ではなくーでaの上もー)が使われ、インドの著作がアラビア語に翻訳されたとき「jiba」に音訳され、それが、「胸」を意味する「jaib」と解釈され、さらに12世紀にアラビアの三角法の著作がラテン語に翻訳されたとき「胸」を意味する「sinus」となり、英語の「sine」になった、というのです。では、英語の「sine」に「胸」という意味があるかというと、実はありません。(英和辞典をひいてみよう)

では、日本語の「正弦」は? 英語の「sine」を訳したとなるとまったく意味不明ですね。教科書の説明を見ても、直角三角形のどこに”弦”があるのだろう・・・。実は、この”弦”こそ、おおもとの意味なのです。”弦”とは、図のように、円周上の2点を結んだ線分。中心角θに対する弦の長さを計算したのが元なのです。

さて、扇型の弦の長さですが、中心から垂線を引けば、2つの直角三角形ができます。そこで、今では直角三角形の辺の比  AB/OA

で「正弦」を定義しているのです。

次に、「cosine」の「co」は接頭辞で、「共に」というような意味ですが、数学では「余」または「補」と訳しています。90°から引いた角を「余角」といいます。直角三角形でいえば、ある角θに対し、直角でない方のもう一方の角αです。

αから見れば「弦」はACですからθのcosineは、余角に対する弦ということになります。それで「余弦」。

最後に「tangent」。tangentは、実は「接線」なのです。(英和辞典を引いてみよう)

「弦」ではなく、「接線」を引いたときに中心角に対する接線の長さなのです。そこで、日本語では正接というわけですね。ちなみに、cotangentは「余接」といいます。

戻る