8章 フローな気分にしてくれ:リーダーシップとモチベーション

○ポジティブ心理学とは

 「ポジティブ心理学」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。従来の心理学が、「怒り、恐れ、不安、鬱」などのネガティブな現象に注目してきたのに対し、「幸せ、喜び、人生の充足」など、人間のポジティブな現象に注目し、「幸せに生きるためには何が大事なのか」「人の強みや良い点をどうしたら伸ばせるか」に焦点を当てた心理学です。別の言い方をすれば、心の病に焦点を当てていた心理学に対し、ポジティブ心理学は心の健康に焦点をあてています。研究テーマは「フロー状態(気分)」「幸福」「ポジティブ感情」「笑い」(No9参照)「自己効力感・学習性無力症」(No25参照)等を含みます。

○フローな気分とは

 ポジティブ心理学の中心テーマの「フロー状態・気分」。これは、とても集中して、高モチベーションの気分状態を言います。「高いモチベーションを伴って、ある活動に没入し、その活動を楽しんでいる状態」です。「高い満足感、幸福感、状況のコントロール感」を伴い、かつ、「高いパフォーマンス」を発揮する傾向があります。「今に集中・注意し」「没入、時間を忘れる」ことです。そして、「自己をコントロールし、達成感」を伴います。結果として、「すっきりし」「成長感、満足感を感じ」ます。

 「フロー」の発案者・心理学者チクセントミハイはフローを次のように描写しています。

 「フロー状態にあるとは、・・・一連の目標に取り組み、活動の進展についてのフィードバックを連続的に受け取り、そのフィードバックにもとづいて挑戦への対応を調整することによって、ちょうど手ごろな挑戦(自分の能力を十二分に発揮させる挑戦)に取り組んでいるときの主観的経験をいう」。

 スポーツ選手が、期待以上の力を発揮した時は「フロー状態」であることが知られています。また、創造的な仕事をした人たちを研究した成果でも、「フロー状態」を経験していることがわかります。類似で、心理学者マズローは「至高体験」と呼んでいます。通常の仕事でも味わえる状態です。ある仕事に打ち込んで、時間が経つのを忘れたことはないでしょうか。

 手前の話で恐縮ですが、筆者の息子は、最近マジックにこっています。四六時中マジックのことを考えているようです。新しい技を思いつくと、目をきらきらさせて披露します。考えている最中と披露している最中は「フロー状態」の特徴を存分に持っています。「没入し、時間を忘れ」「今に集中・注意して」考え、手を動かし、トライしています。

○フローな気分とストレスフルな気分

 「フローな気分」では、自分を冷静に見て、モチベーションが高く、かつ、穏やかな心の状態になっています。

  「フローな気分」=「大きく」×「安定」です。

 別の表現をすると、

  「フローな気分」=「子供の無邪気さ」×「大人の安定感」です。

 「自分の心の状態」を常に「ゆるがず、とらわれず、大きく」持つことで、「フローな気分」を生み出しやすくなり、「パフォーマンス」も高くなるのです。

 逆は「ストレスフルな気分」=「小さく」×「不安定」です。別の表現をすると、「子供のわがままさ」×「大人の頑固さ」です。気分が沈み、イライラして、仕事も手につかず、集中できずはかどらない状態です。例えば、誰かに嫌みを言われた後などで経験がありませんか。こんな時に、たとえば、良いプレゼンテーションができるでしょうか。スポーツで良いプレーができるでしょうか。

○フローな気分のために

 では、ある人や組織をフローにするために、自分で出来ること、リーダーが出来ることは何でしょうか。

 「大きく」「安定した気分」は「気分転換力」(No23参照)「選択肢や発想を広げる力」とその風土づくりが大事です。そのためには、「ポジティブ思考、否定語禁止」(No17参照)「笑い、ユーモア、リラックス」「仕事は楽しむ」といった雰囲気づくり、があります。

 「フロー状態」の発案者・チクセントミハイによると、フローはどのような条件のもとで経験されるかについて、第1条件は、人が取り組んでいる活動がその行為者に要求する能力(挑戦:チャレンジ)と行為者が実際に持っているその活動を遂行するための能力(スキル)とが高いレベルで適合していることです。そのための工夫は適度な課題を設定しスキルを引き出すことです。ストレッチ目標といいます。

 第2の条件は、活動の目標が手近でかつ明瞭であり、進行中の活動に関するフィードバック(自分が確実に目標に近づいているという情報)が即座に得られるということです。そのために、「チャレンジ奨励、行動促進」をします。とにかくトライし、修正していくことです。「失敗してもいいんだというチャレンジ奨励風土づくり」が大事です。