長所を伸ばせば短所は消える

短所を直す、長所を伸ばす、どちらを重視していますか。

渋沢栄一、松下幸之助、吉田松陰は長所を伸ばすこと、長所を観ることの大事さを説いています。

渋沢栄一は『青淵百話』で「長所はこれを発揮するに努力すれば、短所は自然に消滅する」と述べていますし、松下幸之助は『商売心得帳』で「長所を見る力7:欠点を見る力3」と述べています。吉田松陰は長所を見出して伸ばす教育を行いました。

筆者は「長所に意識を集中し、伸ばす/増やすことで、短所が気にならなくなる/消える」と考えています。その背景を述べます。

1)ゲシュタルト心理学から

「物を見る働き(知覚作用)」「心の働き(心的作用)」にはまとまろうとする性質があります。『コトバンク』ではゲシュタルト心理学を「知覚perceptionや認知cognitionの形成に関し,対象の部分や構成要素ではなく,構造や全体性に重きをおく立場」としています。

浮き彫りになっている部分、自分の意識が向いている部分を図(焦点)と呼びます。

対して背後に退いている部分、意識していない部分、注意が向いていない部分を地(周辺)と呼んでいます。

私たちは、日常生活の中で、知らず知らずのうちに他人と自分を比較しがちなため、自分の欠点を浮き彫りにし「図」にしやすいのです。仕事、容姿、性格などの劣った点を気にするということです。日本の欠点修正主義文化も反映していると思います。

しかし、短所は自分の中のほんのわずかな部分であることが多いのです。わずかな短所が気になりだすと意識を集中してしまい、他に目がいかなくなります。長所が「地」として後退してしまいます。

長所を「図」として前に押し出し、短所を「地」として背後に追いやる反転作業がゲシュタルト心理学を用いた治療になります。

長所を「図」としてそこに意識を集中し伸ばすと、短所の意識の面積が狭まり、ついには消えてしまうのです。

参考資料:『楽観主義は自分を変えるー長所を伸ばす心理学』鈎(まがり)治雄、2006年、第三文明社

2)ポジティブ心理学 ポジティブ感情の拡張効果

長所に目を向ける、つまりポジティブな側面に目を向ける認知をすることで、ポジティブ感情が生まれます(明るい気分で過ごすための「肯定語」認知スタイルとモチベーション)。ポジティブ感情は拡張効果(ポジティブ感情の拡張・形成理論)があります。

長所に目を向けて取り組むことで、さらに長所を伸ばし・広げる力があるのです。

3)ハロー効果

他者からの視点でいえばハロー効果があります。『デジタル大辞泉』によると「人物や物事を評価するとき、目立ってすぐれた、あるいは劣った特徴があると、その人物や物事のすべてをすぐれている、あるいは劣っている、と見なす傾向」です。

つまり、他者からは一つ目立つ長所があれば連想で他も良く見られ短所を消します。

何かに秀でる、例えば、ミュージシャンは演奏が素晴らしければ、その人のビジュアルや人柄さえも優れて見えてきます。

最後に、「私には長所が見当たらない」という学生が時にいます。実は短所と長所は裏腹です。例えば、「がんこ」は「自分がある」とも言い換えられます。「細かい」は「緻密」とも。

大胆に言えば、自分が短所と思っていることは反転作業ですべて長所になるのです。長所に読み替え伸ばせば一挙両得なのです。