11章 部下を信じて、託して、支援し、責任が取れますか:リーダーシップとモチベーション

○脇の甘さ

 非常に優秀なプレーヤーである上司がいます。その下では、意外と部下が伸びないものです。上司があれこれと指示するため、部下が自分で考え、判断できないのです。逆のケース。脇の甘い上司のもとで、部下が育つことがあります。上司に任せておけない、という危機感、明確な指示がないので自分で仕事を進めているという「自己決定感」があります。前者は「やらされ感」になり、後者は「やる感」、つまり、仕事のおもしろさにかかわります。自分で選び、判断し行ったことですので、顧客からのフィードバックで有用感を感じることができるからです。「エンパワーメント」。「権限委譲し、任せる」ということです。

○自己決定

 自分で決めたことは「やる気」になります。人から言われたことは「やらされ感」になります。したがって、自分で決めた感を持つことが大事です。これが「自己決定」です。「任せる」は「自己決定」につながります。

 例えば、ある仕事をA君に頼もうとしたときです。この企画書やっといて、と言えばやらされ感を持ちます。それに対し、こんなテーマ、こんな分野で企画を考えたいな、と自分から思いついたこと、または、自分の口から言ったことは「自分で決定したこと」。やる気になります。

○丸投げの可能性

 ただし、権限委譲は「丸投げ」を招きやすいのです。「権限も委譲したのだから、すべて自分でやれ」とばかりに投げてしまう状況をよく拝見します。すると、一人で仕事を抱え込む、不正の温床になる、壁にぶつかった時に抜け出せない・視野が広がらない、などの課題・リスクを抱えます。本来、個人を成長させようとした狙いが、個人を萎縮させてしまう傾向にある、というパラドクスが生まれているのです。

○事例

 ある大手企業の事例です。

 「大まかな目標や仮説を部下に投げかけて起きます。すると、部下からこんなやり方で、こういう成果物にしたらどうでしょうか、という提案が出ます。その提案を摺り合わせて、この方向で行こう、となれば、部下を信じて、託します。あとはじっと見守ります。時々声かけを、悩みや問題点を聞いて、一緒に考えてハードルを解決します。期限までには、完成度の高いものは出ますが、出ない場合でも、その資料を最大限生かし、経営会議などで発表する時でも、私のプレゼンテーション力で補い、通してあげます。部下は、自分の提案ですから、「やらされ感」ではなく「やる気」を持って取組みますし、自分なりに創意工夫をして作り上げる努力を惜しみません。」

 この会社は、どちらかと言えば「上意下達」型風土の会社です。その中でも、この上司はご自分で工夫して、部下を育て成長させる取り組みとして、この取り組みを実施しています。このスタイルは、上司から引き継いできたものだ、ということです。この職場のモチベーションが実際に高かったことは言わずもがな、です。

○信託援と名付ける

 これを筆者は「信託援」と名付けました。「目標・ビジョンをしっかり摺り合わせ、部下を信じて(信)、業務を託し(託)、都度援助する(援)」というものです。そして、肝心なのは、「任せた」=「責任はとる」という強い姿勢です。それが無いと、任せられた方は、思い切ってチャレンジできないのです。

○リーダーも成長

 「信託援」の強みは、部下の悩みの解決を通して上司も成長することです。自分が体験してきたことだけなく、チャレンジングな業務を疑似体験し、少し高い場所から見て、解決策を考えることができるからです。この「信託援」リーダーシップが一つのあり方です。