第3回 創造性、打開力

 

今回は、創造性と打開力に関わるナンバーについてご紹介します。
発想を深め広めるため、「なぜ」はほどほどに、改善策につなげる「2Why、3how」、発想に向いた場所の「5上法」、発想を広げるチェックリスト「オズボーンの9チェック」。
時間活用術として、発想・創造する「時間管理4領域と15%ルール」、企画を練るための時間活用術として「15×6>>90」。
そして、見切り打開する「見切り千両」、失敗から学ぶエジソンの「1万回」です。

■2Why、3How

これは、アイデアを深め、広げるためのルールの一つとして、筆者のファシリテーション実績を通して発案したものです。よく知られている、分析のための5Why、つまり「5回なぜを問う」の応用型です。
Whyは「なぜ・・だった」と過去を分析し、できなかった理由を掘り出すものです。それに対して、Howは「これからどうする」と未来を創造し、解決策を引き出します。なぜは「なぜあなたは?」と人を対象としがちで、どうするは「事象」を対象とします。

「なぜ」と「どうする」のバランスをとる手法が2Why、3Howです。「5回なぜを問うのではなく、2回なぜか、3回どうするかを問いましょう」という考え方です。How(どうするか)を突き詰めると、自然にWhy(なぜか)を考えることになりますので、原因と対策をバランスよく考えることができるというわけです。

また、使う上でのもう一つのヒントは「なぜ」を「何が問題」と言い換えること。「なぜ」はきつい言葉です。「なぜ」「どうして」と畳み掛けられると、聞かれた本人は「あなたはなぜこんなことを」と聞こえ、攻められ、追い詰められる感じがするものです。ます。かたや「なぜ」と問く人は、言外に「こんなことをして」というニュアンスを込めていることが少なくありません。これでは、結果的に本当の理由でなく、言い訳を引き出してしまうことになりかねません。
責めずに原因分析するには「何が問題・原因か」と「何が」という形で聞いてみることです。対象が「何」「事」になり、聞かれた人も冷静に分析でき、本質に迫りやすくなるからです。
「なぜ」を「何が問題だ」と言い換えて2回、「どうしたらできるか」を3回問うことで、バランスをとって考えてみると、打開策が出やすくなるものです。

■時間管理4領域と15%ルール

次は、時間をどのように配分し、創造的な時間をどう作るかについて、4と15にちなんだルールを紹介しましょう。
業務を「重要度」と「緊急度」で分析すると四つに分類されます。

第1領域の「重要かつ緊急」は、優先度が高く、生産性向上が課題です。
第2領域「重要ではないが緊急」の業務は、できれば減らすか、すぐ着手し時間をかけずに済ませたいものです。
最も問題なのは、いつまでも手がつかない第3領域「重要だが緊急ではない」です。自己啓発、夢実現、人材育成、仕組みやシステム作りなど長期的な課題が、この領域に入ります。これらは、とにかく着手し、じっくりと継続すること、すぐ着手できなければ時期を決めて取り組むことです。
ポストイットで有名な3Mでは、「15%ルール」を設け、1日のうち15%は自由な研究に使えるようにしています。これは第3領域に手をつけるためです。そのことが3Mの開発力や人材育成の源の一つになっています。「15%ルール」のように、中長期的な視点で取りかかり、それを継続すること。これが次の布石として重要になってくるのです。
この領域の課題は、自部署では緊急度が低いものの、他部署や上司、部下にとっては緊急度が高いケースもあり、連携してことに当たることも一案です。
第4領域の「重要ではなく、かつ緊急でない」は、その業務をなくせないかどうかを探るべきで、一つの方法はいったんやめてみることです。その後、どうしても必要であれば始めればよいのです。




■5上法:アイデア創出法

アイデア出しのコツは、以下の五つのプロセスをたどります。

イメージで表現すると「しっかり詰め込んで、熟成し、ふっと抜く」感じです。「笑い」が「アイデア発想」に効果があるのも、この「ふっと抜く」点にあるのです。

「無」から「有」は生まれません。アイデアは「ネタ」の仕込みが必要です。「ネタ」は「目的に沿って」「仮説を持って」集めます。よくはまりがちな罠は、「目的・仮説もなく」集めることです。「こんな感じの結論」という「仮説」がないまま、延々と収集してしまうと、無駄な努力となってしまいます。
次に、「温め・寝かし」ます。果報は寝て待て。詰め込んだ情報を「熟成・孵化」させます。例えば、議論が堂々巡りに入ったミーティング。一端「今日はここまでにしよう」と終了した後で、いいアイデアが湧くこともあります。これが「熟成」効果です。そして、集めたネタどうしがつながり、「ひらめき」ます。

「ひらめき」を促進する場が「5上」です。まず、中国・宋の時代の文学者欧陽脩は、文章を練るのに最もよく考えがまとまるという三つの場所として、馬上(馬に乗っている時)、枕上(ちんじょう:寝床に入っている時)、厠上(しじょう:便所に入っている時)の「三上(さんじょう)」を挙げています。これを「アイデアを練るのに最もよい場所」と捉え直すと、今風に言えば、馬上は自動車や電車に乗っている時、枕上は寝室、厠上は洋式トイレ(和式は少しきつい)といえるでしょう。さらに、私は「浴上」と「宴上」の二つ加えました。「浴上」とはお風呂・温泉、「宴上」は飲み会(ただし、いいアイデアだったのによく忘れます)。

ちなみに、私の場合、馬上・枕上でひらめきます。「電車」ではいい揺れで、熟成し、かつ集中できます。また、「夢の中」でネタがつながることもあります。ご参考まで。

■オズボーンの9チェック

ブレーンストーミングを考案したA.F.オズボーンは、アイデア検討のチェックリストとして次の九つを挙げました。日本酒の開発を例にして示します。
①Other Uses:別の用途→薬としての日本酒
②Adapt:適用。他からアイデアを借りる→ドライ日本酒
③Modify:変更。色、音、匂い、意味、形など→瓶の形(東京タワー、スカイツリー、…)
④Magnify:拡大。大きさ、時間、頻度、高さ、長さなど→スパークリング日本酒、高濃度日本酒
⑤Minify:縮小。小さくする、減らす・止める、分割する→ミニ樽酒、低・ノンアルコール日本酒
⑥Substitute:代用。材料、人など→芋日本酒、新人杜氏
⑦Rearrange:再配列。順番、原因と結果など→乾杯用日本酒。二日酔いしない日本酒
⑧Reverse:逆転。役割、立場を反対にする→日本酒にあうレシピ開発
⑨Combine:結合。目的、アイデアを結合する→蒸留酒と日本酒のブレンド
アイデアもさまざま視点からアプローチすることで、幅が広がります。一つのネタから面白いアイデアが出そうです。

■15×6 > 90 の法則

企画書や執筆などの際の時間活用術での、私の同僚・阿部主席研究員の奥義です。
例えば、企画書の作成に当たって、90分まとめて考えて作成するよりも、15分を細切れにして6回に分けて作成するというものです。

企画書を書く際、まず構想を考えておき、15分かけてスケルトン(全体の構成)をまとめます。この時はきれいにまとめようとせず、手書きでOK。とにかく、湧き出るアイデアを一気に出すことで気持ちが乗り移ります。次に、その手書きメモをクリアファイルに入れておき、数日後に取り出して、見直しをします。そして、次ぎに細部のパーツに手をつけます。こうして、考え、熟成し、再考するという行動を繰り返していくのです。
90分間の集中より15分間を6回に分けたほうが、集中力が持続できるだけでなく、頭の整理にもつながり、アイデアが熟成します。細切れにしか時間が取れない時代の多忙なビジネスパーソンにはオススメです。

■見切り千両

「やってみせて、言って聞かせて、させてみる」「成せば為る 成さねば為らぬ 何事も 成らぬは人の 成さぬなりけり」等の名言は、米沢藩の危機を救った第9代藩主・上杉鷹山公(1751~1822年)の言葉といわれています。その上杉鷹山公は次の言葉も残しています。

働き一両
考え五両
知恵借り十両
コツ借り五十両
ひらめき百両
人知り三百両
歴史に学ぶ五百両
見切り千両
無欲万両

「働き」が1とするならば、「考える」ことはその5倍、知人等から「知恵を借りる」ことは10倍、「コツを教えてもらう」ことは50倍、自分の「ひらめき」は100倍の価値があるということです。
さらに「人を知っている」ことには300倍、「歴史に学べば」500倍、「見切る」ことには1000倍、そして商売の本当の神髄は儲けようという欲ではなく、「お役に立つ」という「無欲」にこそ10000倍の価値がある、と教えています。

上手に「見切る」ことが千両に値するとは、一つのことを継続することは大事ですが、抜け道や将来性のないことにはしがみつかず、早く見切って、次に進むことも大事です。頭を切り替えて、他の選択肢・ターゲットに向かえば、うまくいく可能性があるということです。不採算事業や投資の撤退などの教訓にも使われます。

ちなみに、万両。ドラッカーによれば企業の目的は「顧客を創造すること」です。儲けようとすると売り上げは上がらないものですが、無欲で、顧客が喜んでもらう取り組みをすると、顧客に支持していただけるものなのです。





■1万回-新しい別の方法があると気づかされる

よく知られているエジソンの「失敗は成功のもと」という言葉。「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまくいかない方法を見つけただけだ」という言葉から来ているそうです。

超ポジティブ思考の彼は、うまくいかないと、それは新しい別の方法があると気づかされた、と受け取ったとか。電球開発の実話ですが、探究心に支えられた諦めない心が創造と現状打開に導き、万人に勇気を与えてくれるメッセージとなっています。

私にとっても「他の選択肢」「新しいやり方」という言葉は、チャレンジ精神と好奇心をかき立てる原動力になっています。