30章 モチベーションの因数分解:リーダーシップとモチベーション

○モチベーションとは「人の心に火をつける」こと

 モチベーションとは「動機付け」、平たく言うと「やる気」です。「やる気」は「やる」+「気」です。つまり、「やろうとする気持ち」、心の作用であることがわかります。「高いモチベーション」は、別の言い方をすると「眼が輝いて、何かに取り組む意欲が高い状態」「人の心に火がついた状態」です。

○モチベーションの因数分解

 「モチベーション」を高めるヒントがあります。先に説明した古典理論(No19 「モチベーションの古典理論」参照)と各種モチベーション・サーベイからの学びを総合して、次のような式が得られました。5因数に分解されるというものです。

「モチベーション」=

「1.仕事のおもしろさ」×「2.仕事のチャレンジ度」(「期待理論」による)×

「3.仕事の進め方」(マズローの「所属欲求」)×

「4.上司・メンバー・顧客の承認」(マズローの「承認欲求」)×

「5.仕事の相対感・意義」(フランクルの「意味への意志」)

○「1.仕事のおもしろさ」×「2.仕事のチャレンジ度」

 ブルームの「期待理論」、「やる気」=「おもしろそう」×「やれそう」です。「おもしろさ」が100%、「やれそうだ」が100%であれば、「仕事へのやる気」は100%です。しかし、「おもしろさ」が100%でも、「やれそうだ」が0%なら、0%になってしまうし、逆に、簡単で「やれそうだ」が100%でも、「おもしろさ」が10%なら、10%です。

○「3.仕事の進め方」

 「3.仕事の進め方」は、職場の中で、「自由活発な話し合い、創造的話し合い、笑い、ポジティブ思考のある職場」で「楽しく、気持ちよく」仕事を進めると、仕事がはかどり、やりがいと感じる、というものです。同じ仕事をしても、気持ちの良いメンバーとやるのと、気の合わないメンバーでやるのでははかどり方が違いませんか?

 仕事そのものだけでなく、仕事は他メンバーとの関わり合いで、その仕事のおもしろさや進度が決まります。「適職感は適職場感」とも言えます。気持ちよく、相互の強みを引き出しながら進めることで、個でおこなうよりもモチベーションが上がるということです。

○「4.上司・メンバー・顧客の承認」

 「4.上司・メンバー・顧客の承認」は、上司や同僚が自分に関心を持ち、ストレッチ目標などをストライクゾーンに投げ、結果を承認し、メンバーの存在、努力や工夫が認める、ということです。

 筆者の今までの約30社約2,000職場に亘る研究から「上司のリーダーシップ」⇒「職場の活気」⇒「仕事のやりがい」という関係が検証されています。上司の振る舞いが、職場の雰囲気を左右し、その活気の中で力を出すことで、仕事のやりがいを感じる、というものです(「ファシリテーション:第2回 ミラーイメージの法則」参照)。

○意味

 最後の「5.仕事の相対感・意義」は、フランクルの「意味への意志」に該当します。この仕事が自分にとって意味がある、ということです。どうしても目先の仕事ばかりを意識すると、全体の中の歯車として意識してしまうことがあります。しかし、全体像を思い描いて、その中でどういう位置にある仕事なのか、を理解するだけで意味合いが違ってきます。例えば、石切の作業工が、ここにある石を切り出している、と考えるのか、ここにある石は最後に石像になる、それを切り出していると考えるのかです。目先の仕事だけでなく、仕事の最終形を見て、それが使われている現場を見るのもとても良い機会です。

 また、自分のやっていることはいやなことで、隣はよく見えるということもあります。他の職場を見る、視野を広げるなどで自分の仕事の良さや意義が見えてくるものです。ある新人は、大学の先輩がある部品メーカーに勤め、10年近く狭い同じ分野で研究開発する姿を見てぞっとしたそうです。今の仕事は、雑用も含めて自分の専門とも全くかかわりが無いのですが、幅広く関わることができとても面白く、幸せだと言っていました。

○要約

 要約しますと、やる気・モチベーションを高めるには、「仕事がおもしろく」「チャレンジングと感じられるか」「良いチームワークで協働しているか」「努力や成果が承認され、成長感があるか」「意味のある仕事で、役に立っていると感じているか」が大事なのです。仕事そのものだけでモチベーションを上げるものではなく、その周りの職場や上司、また、自分の意味づけも大きな意味を持っているということです。

 人間の認識というものはとても相対的なものです。そのように感じるかどうか、によっています。これらの要素は、すべて「自分でそう思えるか」か「上司などの誰かがフィードバックしてくれるか」による訳です。意識して、やればできることなのです。

参考文献

2009年11月4日日本経済新聞、「私の履歴書」