4章 宗教の3要素:リーダーシップとモチベーション

○「教祖・教義・特に、物語(ストーリー)」

 人の意識が変わるということについて研究してみますと、宗教が参考になります。今回は「宗教の3要素」をご紹介します。3要素とは「教祖・教義・物語」です。

1.教祖

 経営で言うとトップ、キリスト教で言えばキリスト、浄土真宗なら親鸞、蓮如です。

2.教義

 経営では「経営理念・行動基準」「コンプライアンス・プログラム」などです。キリスト教では「聖書」、浄土真宗なら、「教行信証」です。

 この2要素、「教祖」と「教義」は大体の企業や宗教にあります。経営トップと経営理念・行動基準等です。しかし、「教義」という知識だけだと強く心に響かないですね。経営理念や行動基準を読んだだけで、その理念に感動し、それを心の支えとして活動する人がいればすごいことです。

3.物語

 良い企業や信者の多い宗教はもう一つあります。何かと言うと、「奇跡の物語」です。

 例えば、キリスト教は聖書。教義ですが「物語」の役割も果たしています。浄土真宗では「御文」。例えば、「白骨の御文」。人の命のはかなさ、無常さを説きます。「死は、年齢を問いません。死後に残るのは白骨のみです。できることは、その日暮らしの生活ではなくて、これからの生き方を考えてください。それには阿弥陀仏に深く帰依し、称名念仏する事を勧めます。」平易な解説書である「御文」は多くの物語を含み、信仰の意味をわかり易く実践的に説きます。

 映画「十戒」。出エジプト記で、モーゼがエジプトからユダヤ人を連れて、紅海に直面します。モーゼはヤハウェを信じ、その信仰の強さゆえ、ヤハウェが海の道を作ってくれます。紅海が真ん中から割れ渡ることができます。しかし、エジプト軍が追って渡ろうとすると、紅海はもとに戻って、エジプト軍を飲み込んでいくんです。

○物語の力:筋道、共感、具体性・実践性、伝えやすさ

 物語は何故力があるのでしょうか。

 一つ目は、筋道と感情(共感)のバランスです。物語には筋道と感情が含まれています。それが、理解と記憶の手助けになります。例えば歴史の事実を記憶するには、ストーリーがあり、出来事や感じ方に共感を覚えながら読むとわかりやすいし記憶に残ります。

 二つ目は、物語には具体性があります。具体的に「こういう出来事や考え方がこう役立つ」と描きます。教義など知識は「なるほど」と思い実際にやれることが大事です。知っているだけではなく、役に立つ、実体験に根ざした知識であることです。五感で、目や耳だけじゃなくて、触る、行う、それで知恵になるということだと思います。知識は、ウィキペディアでも電子辞書でも調べることができます。それだけでは意味をなさず、体験、感情、つまり自分の目で、五感で感じた知識で組み立てます。体験が大事です。

 三つ目は伝えやすさ。教義は自分だけの知識でなくて、誰かに伝えるということが大切です。物語だと伝えやすい、という特長があります。我々の仕事で大事な素材として「ベストプラクティスレポート」というものを作ります。これは、モチベーションの高い職場リーダーの取り組み事例集です。その考え方をつたえるには「実際の行動を物語で見せる」のが最も伝わるからです。

物語は、教祖や教義だけではわからないリアリティーを奇跡の物語を通して、社員で共有され、伝播し、人の心を動かすのです。

○三つが揃って

 「教祖・教義・物語」この三つが揃って、その教えを信じ、実践し続けるパワーを持つのです。特に大事なのは、奇跡の「物語」です。信仰が報われるということを、狭義を伝える時に、何か物語(ストーリー)として分かりやすく伝えるということが大事だと思います。

 リッツカールトンホテル。教祖は現場マネジャー、教義はクレド、奇跡の物語はミスティークの泉。奇跡の宝庫があるのです。日々のベストプラクティスが報告され蓄積され実践されます。

 パナソニックの斜めドラム開発物語。教祖・松下幸之助翁の言葉がパナソニック内で共有されています。「お客様の欲しがるものをつくってはいけない。お客様の喜ぶものをつくりなさい。」(教義)というものです。開発は、教義にこだわり、徹底したリサーチと試作品の試用実験を通し、喜ばれるか、という利用価値の確認を実施します。欲しがるは「購買価値」、喜ぶは「利用価値」です。その徹底が斜めドラムを生み出したのです。