19章 モチベーションの古典理論:リーダーシップとモチベーション

○マズローの「欲求5段階説」とハーズバーグの「2要因説」

 人間は、心の欲求を満たすように行動します。欲求は頭で起すか心で起こるかです。どういうものが欲求になっているか。これが5段階だというのがマズローの説「欲求5段階説」です。5段階を2要因にしたのがハーズバーグの「2要因説」です。明確な関連付けはされていませんが、筆者の解釈で関連付けしてみました。

○マズローの「基本3段階欲求」とハーズバーグの「衛生要因」

 マズローの基本欲求は「1.生理欲求」「2.安全欲求」です。何かというと、戦争中の日本を考えてみてください。ご飯をお腹一杯食べたい。そして、平和になって欲しい。これが切なる願いでした。ご飯は、おなかがすくと、いらいらしますね。けれど、1食食べると2食は要りません。食べた後は、ご飯のことは気になりません。

 「2.安全欲求」。戦時中は早く平和な時代になって欲しいと強く願いますが、平和になるとその有難味を忘れられてしまいます。議論のあるところですが、「安全」の中には雇用、賃金、昇進・昇格なども入ると考えられます。

 「3.所属欲求」。戦争が終わり平和になった。では、会社に入ろう、友達つくろう、恋人つくろう、サークルに入ろう、組合に入ろう、という欲求です。ここまでをハーズバーグは「衛生要因」と呼びます。基本的で、「無いととても不満なんですが、必要以上あっても元気にならない要因」です。

就職試験を合格して会社に入りました。大学受験でがんばり、入りました。入る前は、強く思いますが、入ったあとには一種の達成感、そして無気力感が続きます。たとえば、ある人がとてもがんばり、大学に受かりました。しかし、入ったら五月病になりました。一種の無気力感です。目標達成されたということと、大学に入っても、人と人がつながっていないからです。

 ですから、「衛生要因」に一生懸命働きかけてもモチベーションを上げるには限界があります。必要以上に食事やお金をつんでも元気にならない。一流の会社、大学にいることだけでは元気にはならないですね。不満を低減するまでです。

○マズローの「上位2段階欲求」とハーズバーグ「動機付け要因」

 「所属」して大事なのは、「4.承認欲求」を満たすことです。お互い関心を持って認め合い(存在承認し)、切磋琢磨し成長(成長承認)すること。一流企業や良い大学に所属するが大事なのでは無く、職場や家族のメンバーから関心を持ってもらい、認められること、つながることが大事だし、元気になるのです(No10「承認:良い所を見守っていますか」参照)。

先例の高校生がまさに、カウンセラーの人に関心を持ってもらい、共感を持ってもらい、認められたことで心の病から治りました。それで、自分も生きている価値があるんだ、と思ったわけです(No7「カウンセリングの3原則」参照)。これがモチベートし、元気にする要因、「動機付け要因」です。

 「承認」の逆は「無視」です。「愛情」の反対語は「無関心」です。メンタルな問題を抱えた場合良く聞く言葉に「居場所がない」というものがあります。存在に「無関心」で「無視」された状態は、もっとも心にダメージを与えます。

 「承認」の方法について。部下であれば、仕事でがんばった。仮に、できは決してよくなくとも、とても一生懸命にやりました。中には工夫したところもみられます。そして少しずつ成長の跡が見られます。それに対し「よくがんばったな」「よく工夫したな」の一言で元気になります。「よく自分のことを見てくれているな」と感動さえします。見てあげるべきは「努力や工夫」です。そこで一言こえをかける。そうすると、人は何かに目標を定めて取り組もうとします。高校生のケースであれば、「ブロードウェイミュージカルを学ぼう」と。

 「4.承認欲求」を満たされた人が、「5.自己実現欲求」を持ちます。この「動機付け要因」が凄く大事なんです。ここだけで人間元気になります。しかも「ただ・無料」なんです。そして、「無限の資源」です。いくらでも認めて、褒めて挙げられて、いくらでも動機付けできるんです。これほどいいことはないですね。「関心を持って、認めてあげて、良い所を引き出しただけで元気になる」。人間は認められる、「じー」と本人のやった努力を、見守って、肩をたたかれれば「ちゃんと見られているんだな」と元気になります。

○ブルームの期待理論

 平易に言い換えると、仕事の「やる気」とはその仕事が「面白そうだ」、かける、「やれそうだ」、という掛算だというものです。ある仕事があって、それが非常に「面白そうだ」と思えると、「やる気」なりますよね。しかし、難しすぎて「できそうもない」となれば、「やる気」がなえる。だから両方がないとだめ、掛算であって、足し算ではない。

 「面白そうだ」は、上司の立場では、この仕事「面白そうだからやってみない」、という言い方や、「本当は自分でやりたいんだけど、やってみない」、という言い方もあります。「やれそうだ」のほうは、「ちゃんとサポートしてあげるから、やってみよう」「やってみせるし、相談しながらすすめよう」という言い方があると思います。

 個人の感覚でいえば、「好奇心が広い」人は、「面白そうだ」と思う範囲が広いですし、「チャレンジ精神がある」人は「やれそうだ」を思います。だから「やる気」が高いわけです。つまり、好奇心を刺激してあげて、かつ、チャレンジ精神を刺激してあげるような職場はモチベーション高い訳です。