10章 承認:良い所を見守っていますか:リーダーシップとモチベーション

○承認する

 やった成果、努力に対して、伝えてあげる、フィードバックする。こういうところがよかったよ、ここが課題だよと気付きをあたえる行為です。気付きを与え、長所の強化、課題改善を促します。フィードバックのタイプには3つがあります。

 ・肯定:承認する、褒める、激励する、ねぎらう

 ・中立:伝える、評価する

 ・否定:叱る、怒る、けなす

 皆様のフィードバックはいかがでしょうか。承認する、褒める、激励する、ねぎらう、という「肯定フィードバック」と、怒る、けなす、という「否定フィードバック」の比率を振り返ってみてください。あるグループディスカッションでは、「私は1:9です」という方がいました。日本人は褒めべただという話もあります。

 松下幸之助翁の著書「商売心得帖」を読むと、心がけは7:3。圧倒的に褒めたそうです。なぜかというと、自分は小学校しか出ていないから、周りの人が偉く見えてしょうがない。なんでも凄く感じたからだそうです。どちらが大事とはいえませんが、バランスを重視していただきたいと思います。

○肯定から入り、改善ポイントを示す

 順番があります。まず叱ってから直させるのか、褒めてから直させるのか。

 あるメーカーの課長さんの事例です。ご自分は上司から、怒られ、けなされて育ったそうです。悪いところを注意され続けたそうです。学ぶこともあったのですが、良い所が伸びなかったと感じたそうです。自分は、褒めて育てようと決心された。心がけたのが、悪いところに目を向けて、それを叱ってから直させるのは、一旦鎧兜をかぶってしまいがちなので、相手が萎縮し、むしろ効果が薄い。一旦、努力や工夫をねぎらい、認めて、「よくがんばったな、ここは良く考えたな」と認める。その上で、「この部分はまだ改善できそうだ」といフィードバックするようにしたそうです。とてもよい取組みだと思います。

○学習性無力症、自己効用感と小さな達成感:だめ出しはほどほどに

 学習性無力症、という言葉があります。「学習性無力症」とは、無力感を繰り返すことで無力感を学習する、つまり、「やってもやっても」「だめ出し」され、しまいには「何もする気がなくなる」ということです。「うつ」と強い関係があり、「うつ」の手前には「無力感」があります。これは好奇心が萎えた状態ともいえます。好奇心を持って取り組んだことが認められず、好奇心もやる気も萎んで行った状態です。「うつ」は、何をやってもうまく行った実感を得られず、次第にやる気が無くなって、何もしたくない、の重度の状態と言えます。「うつ」になった人の多くは、何らかの形の「だめ出し」をくり返されてきたものと推察されます。

 無力感から立ち直る時のポイントは「承認」です。どんな行為でも必ず、工夫や努力の跡があります。それを見抜いて認めてあげるかどうかです。こまめに見守り、認めることで、実存の実感「私も居る意味があるんだ。役立っているんだ。」という小さな達成感を得て、次第に「うつ」が軽くなってくる症例があるそうです。この「役立っているんだ」を「自己効用感」といいます。

○成果承認:できた水準を見る

 認める、の最も一般的なもの。それは「成果承認」です。これは、ある期待水準を満たすと承認するという行為です。ある程度自分ができる水準や世間一般の水準と自然に比較する訳です。分かりやすいのが、お子さんの試験の結果が90点以上は認めるが、それ未満は駄目。主に数字や報告書や書類などの形に表れる水準と比較するので、わかりやすい。しかし、水準までに相当なハードルがありますので、認められにくいし、努力や工夫は無視されます。成果承認が中心の文化では、「うつ」や「学習性無力症」が増えるわけです。

○成長承認:成長、努力、工夫を見る

 次に「成長承認」。比較すべきは、部下の「スタートライン」です。その水準と比較し、改善しているか、努力しているか、工夫しているか、を認めてあげることです。これであれば、「承認ポイント」はいくつでも見つかります。人は伸びたいと思っているし、工夫を好む動物です。それを認めてあげることです。難しさは、努力や工夫は見えにくいものであり、よく見てあげること、自分の水準に至らずとも認めてあげる度量、が必要なことです。

○存在承認

 存在を認める=存在承認です。「あなたがいてくれてありがたい」ということです。挨拶をする、名前を呼ぶ、一緒にお昼ととる、鍋をつつく、そして、「観察する・見守る」、が存在承認行為です。その逆が「シカト」です。存在を無視する行為です。イジメの常套手段です。

○観る(観察する)、見守る

 意識されませんが、「観察する・見守る」というのはパワーのある行為です。見守られている、というのはそういう経験がある方であれば分かると思いますが、とても感じるものです。私どもがモチベーション向上をお手伝いした大手メーカーの事例です。一工場長が200人ぐらい面倒見ていらしたケースです。一人一人声などかけていられない。日勤と夜勤があり、朝礼で100人ぐらいの人を面倒みます。ぱっとみて、一瞬にして、表情を見て、調子がわかる、とおっしゃっていました。表情とか顔色で一瞬でわかる。それで声かけをする。すごいな、プロフェッショナルだなと感心しました。

 ある技術系職場の室長さん。30~40名の職場です。ぶらぶら歩いて、トイレまで行く途中、机の上をみる。どうもこの子は、今日は机の上が乱雑だな、ということでわかる。ざっとみて、メンタル不全になる人の比率は、日本の職業社会で5%、20人に一人と言われています。ですから、20人に2~3人ケアしておけばよい。そういう人を意識的にケアする。部下に関心を持ってみてあげる。見守ってあげる。そういう例です。見守られているというのは、人間よくわかります。