13章 モチベーションとスキル、どっちが大事:リーダーシップとモチベーション

○パフォーマンス・モデル

 スポーツをイメージするとよくわかるのですが、ある日はとても調子が良いが、ある日は調子が悪く、パフォーマンスが悪い、ということがあります。仕事でも、今日はどうも、というのがあります。「スキル」はある程度安定しているのに、調子・パフォーマンスに「ゆらぎ」があります。「心持ち、モチベーション」の揺らぎから来ているのです。「自分の心の状態」「気分・機嫌」です。良い状態=フローな気分、悪い状態がストレスフルな気分です。

 「フローな気分」で仕事をするのと、「ストレスフルな気分」で仕事をするのでは、どちらがパフォーマンスが上がるでしょうか。いい気分で集中している時とイライラしている時です。おのずと明らかだと思います。フローな気分ですよね。

 次のような式が成り立ちます。

  □「パフォーマンス」=「スキル」×「心持ち、モチベーション」 

 例えば、スキルはとてもあって100%とします。しかし、今日の気分がストレスフルであれば、モチベーションは30%です。すると、パフォーマンスは30%です。対して、スキルは80だとしても、非常にフローな気分であれば、モチベーションは80%、つまり、パフォーマンスは64%です。スキル水準が8割でも倍のパフォーマンスが出る、ということです。

 実際に、スポーツであれば起こりうることですし、仕事でも起こっている現象です。

 タイガーウッズなどの優勝時のインタビュー記事などをみると、常に「心持ち、モチベーション」が安定しています。過去のミスショットは直ぐ忘れ、これからの一打に集中する。ポジティブシンキングで常に大きい心で居る、ということが個人のパフォーマンスモデルです。WBCの岩隅投手。いつもニコニコして場を楽しんでいる。その「心持ち、モチベーション」です。

○スキルの成長は有限、心の成長は無限

 モチベーションの前提の一つに、「スキルの成長は有限、心の成長は無限」があります。人材育成というと、どうしても「スキル」に眼がいきがちです。しかし、パフォーマンスはモデルで示したように、「スキル」と「心、モチベーション」の二つの要素から成り立ってるのです。そして、特にスポーツが示すように、「スキル」はいつか頭打ちになります。しかし、「心の成長」は無限です。年を重ねるほど成長する可能性をはらんでいます。いくらでも大きくなれるのです。

 歴史上の事例ですが、西郷隆盛のお話です。勝海舟の「氷川清話」で、坂本竜馬は西郷隆盛を「大きく撃てば大きく響き、小さく撃てば小さく響く釣鐘のような人物」「どれだけ大きいかわかならい人物」と評しています。西南戦争の時には他藩であった旧中津藩士・増田栄太郎は

 「一日西郷に接すれば一日の愛生ず。三日接すれば三日の愛生ず。親愛日に加わり、今は去るべく、にあらず。ただ死生をともにせんのみ」

 とまるで初恋をした少女のような台詞を吐いたという。それほど度量(心)が大きく、多くの人に慕われ、あまりに大きくて大きさが推し量れない、ということです。無限に大きいと言っても良い訳です。

 筆者は多くの企業で、モチベーション向上に携わり、職場ごとのモチベーションの強み、課題を診断し、リーダーの方にモチベーション向上の取り組みの手渡しをしてきました。そこでの示唆は、特にスキルの高い多くの職場で「スキル」を大事にし、「心、モチベーション」を軽んじる傾向があることでした。

 これは、「見える」ものと、「見えない」ものへの姿勢の違いとも推察されます。「スキル」は比較的わかりやすく、「心、モチベーション」は見えにくい。やはり、見えるもののほうがわかりやすい。それで、「スキル」によっているのかもしれません。

 物質的な成長は有限です。しかし、知識やモノをいくら持っても幸せにならない。マズローの5段階の生理・安全欲求を満たすのみで、元気や幸せにはならないのです。「心」の成長こそが、自己実現や意味ある人生につながるのではないでしょうか。