7章 カウンセリングの3原則:リーダーシップとモチベーション

○「カウンセリングの神様」カール・ロジャースの教え

 カール・ロジャースという心理学者がおり、カウンセリングの3原則というものを提唱しました。「カウンセリングの神様」と呼ばれた人です。

 前提は、「一人のかけがえのない個人として、あるがままその人を受け入れること」。人間は機械ではなく、心を持っている。あるがままの自分がいて、それを引き出してあげれば元気になり成長できる、という考え方です。人生のいろんな積み重ねで「こうあらねば」というひっかかりができる。「こうありたい」という自分と戦います。また、必ず人間には治る力・心の免疫力がある。それを引き出してあげれば、治るし、元気になる。

 その心の免疫力を引き出すための、ロジャースのカウンセリングの3原則はわかりやすく言い換えると以下です。この3つを意識し実践すればカウンセリングができるというものです。筆者もこれを知ってから意識して実践しています。

  第1原則.積極的、適切な関心を示す

  第2原則.共感を持って、相手の立場で聞く

  第3原則.言動一致で

 3番目は、言葉で「なるほどな」といったとき、目や身体の動きも「なるほど」と言うこと。「なるほどな」といったのに、目があっち行ったり、そっぽを向いていたり、言葉と体の出す気が一致していない、というのが言動不一致です。

○事例

 具体的な事例ですと分かりやすいと思います。今から30年近く前、ある不登校、ひきこもり高校生の症例です。その高校生は、学校に行くと「お前の考えは、皆と違っている」「変だ」と言われ、無視、いやがらせを受けたそうです。学校に行くのがいやになり、家に引きこもります。父親も母親も、何とか学校に行かせようとしますが、体が動きません。

 「学校に行け」というのは、父親も母親も体裁なんですね。かっこ悪いから行けと。息子の立場でなく自己中心です。息子のことはどうでもいい。自分の体裁上かっこ悪いから行けという。そういうのは子供に全部通じるんです。ミラーイメージ(※)ですから、わかるんです。それがわかるから、さらに行けないんです。

 ※「リーダーが向けた感情・思考は、そのまま相手から返ってくる」という考え

 ある日、酔った父親が、日本刀を持って、「学校へ行け」と切りかかってきたそうです。流石に母親が止めに入り一緒に逃げ出しました。そして、「もう、学校へ行かなくていいよ」と理解を示したそうです。2番目「共感」です。それまでは体裁で「学校へ行けよ」と言っていたけど、やっと「苦しいと感じていること」を共感したんです。しかも「言動一致」で。すると、その高校生は「ふー」と抜けたそうです。やっとわかってくれたんだ、と。

 「だけど、一つだけお願いがあるの。とてもいいカウンセリングの先生がいるので、行ってみて」というものでした。

今から30年前ですから、まだうつというのも認知されていない頃で、非常にハードルが高く行くのをためらっていたのですが、勇気を奮って行きました。恐る恐る行ってみると、とてもリラックスした雰囲気で会話が始まりました。

○第1原則.積極的、適切な関心を示す

  Qカウンセラー:「どうしたんですか。話してください」

  A高校生:   「学校で、変だ、といわれているんです」

  Qカウンセラー:「どんなことを話しているんですか」

  A高校生:   「ミュージカルをやりたいという夢を持っていて、そのために、アメリカに行って、というと

「お前、変なやつだ」「変わってる」「皆と違う」といって、無視されるんです」

  Qカウンセラー:「だけど、その夢の話、おもしろいから、話してみてください」

 第1原則です。「積極的に適切な関心」を、高校生に示している。ブロードウェイミュージカルの話で、今から30年前の話ですから、カウンセラーの方は知らなかったのでは、と思います。それでも「おもしろい」と言える。相手のハート・気持ちになって、ちゃんと積極的に関心を示している。

 関心を示されると、誰もが元気になります。自分に関心を示してくれ、話をきいてくれていると思うと、喜んで話しますよね。聴かれていやな人は、いませんから。積極的な適切な関心を示してもらえたと思うと、「ふー」と抜けます。

○第2原則.共感を持って、相手の立場で聞く

  A高校生:   「えーと、アメリカに行って、音楽学校に入り、・・・」

  Qカウンセラー:「いいじゃないですか。おもしろい。それで」

 「なるほど、それで」という感じで聴くんです。「次はどうなった、これからどうするの」と共感を持って聴くんです。カウンセラーは高校生になりきっています。「私も同じ気持ちで」「そうだな」という感じで。共感です。

  A高校生:   「それから、こんなことも考えていて・・・」

  Qカウンセラー:「では、もっと聞きたいので、来週も来てください」

 1週間あけることで本人が考えるそうです。自分で振り返り整理するそうです。そうすると

  A高校生:   「わかりました」

 普通精神病院に行きたくないですけど、これだけ関心を持って、共感して聴いてくれてもらっているんで行くんです。それで、聴かれているということで、自分がだんだん引き出されてくるのです。次の週も来ました。何も抵抗無く、「その気」になっています。次の週も同じような会話が続きます。カウンセラーはほとんど話をしません。ただ、「関心を示し」(第一原則)、その高校生の立場になって(共感)(第二原則)、面白そうに「聴いて」(言行一致)(大三原則)、うなずいて、引き出す質問を続けます。ほとんど話さない。時々質問をしますが、主に聴くだけなんです。

○そして

 数週間すると、その子は、気持ちがすっきりしました。次のように思えたそうです。

 「自分は変わっているかも知れないけどそれでもいいんだ。ユニークなだけなんだ。」

 「自分らしさを認めてくれる人はいるんだ。」

 「自分の考えを、試してみたい」

 これはある著名人の実話をもとにしています。「聴く」姿勢について、そして、「聴く」パワーを存分に示しています。「心の叫び」という心の奥底の強い「思い」を引き出す力は、人の良いところを引き出す、悩んでいることを解決する、とても大事な取組みです。

 自分の生きる道、存在感を肯定されたんですね。そういう風に自分が引き出されたことで、これでもいいんだ、と感じた。たったこれだけの原則で、カウンセラーは、ほとんどしゃべっていないのですが、これだけ引き出す力がある。この3つの原則を守ることで。そして人は自分の中に解決する力がありますから、治っていくんです。

 これは、病理的な話だけではなくて、部下やお子さんを育てる中でも非常に示唆があります。上司や親御さんは、部下やお子さんの中にあるものを引き出して、将来これでやっていくんだ、という気持ちになる、良きカウンセラーになってあげてください。