29章 役に立たない知識は竹光 3ヶ月ルール:リーダーシップとモチベーション

○知行合一(ちこうごういつ)

 陽明学の言葉に、「知行合一」というものがあります。「「知る」は「行う」ことで意味をなす」という大意です。知っていても行わない、知っていても役に立たない、ということでは、「知行合一」されていません。言ってみれば「竹光」です。

 吉田松陰の例。吉田松陰は「孟子」と「陽明学」を学びました。「知行合一」は松蔭の主義の一つでもあります。吉田松陰は攘夷、また、開国して外国と伍するのであれ、相手を知らなければならない、と信念を行動に移します。ペリーが1854年3月、2度目に来航した際、下田でベリー艦隊書記官に手紙を渡し、後に旗艦ミシシッピー号に向います。

 「艦隊が出航するときは乗船させて欲しい。世界中をみたい。日本人の海外渡航は禁止されており、違反が知られたら首をはねられ、アメリカにも迷惑をかけると承知している。が我々の誠意を疑わず拒絶しないで欲しい」

旗艦に着くと、通訳官ウィリアムズが流ちょうな日本語を早口でしゃべりながら応じます。しかしペリー提督の意を受けているらしくて、ふたりは親切に拒絶されます。

 「手紙の内容は私と提督しか知らない。提督は喜んでいるが、日本の法律を破ることはできない、だから海外につれてゆけないのだ。」

松陰たちは帰されます。一方、ペリーは幕府役人に、ふたりの罪をできるだけ軽くしてほしいと頼み、遠征記でも、延々と8ページにわたって松陰を絶賛する文章が続きます。

 海外を知るために、行動し、自分の目で見て、身体で感じようという、「知行合一」そのものです。

○3ヶ月ルール

 新しい知識や「気づき」があったとします。知っていることとできること、役に立つことは違います。知っていることが大事なのではなく、それを行って、役に立たなければ知らないと一緒です。それが「知行合一」の教えです。

 「できる」「役立つ」までの目安に「3ヶ月ルール」というのがあります。よく、3日坊主、と言います。また、石の上にも3年、という諺があります。3というのは期限に関する大事な数字です。3日、3週間、3ヶ月、3年。例えば、「人を否定せず、承認・肯定する(粗捜しをせず褒める)こと」が大事だ!ということを例にとりましょう。「気づき」一念発起してそれに取り組みます。

○3日坊主:「気づき」の強さが長続きに

 まず、3日の壁があります。「3日坊主」という言葉があります。始めたのに3日で止めてしまう、ということ。理由の一つは、「気づき」の強さと記憶にあるそうです。「始めよう」とした気持ち、初心と所信を忘れるということです。もう一つは、成果が見えないため、モチベーションが続かないことです。

 「動機が不純なほど長続きする」という言葉があります。「もてたい」とか「食べたい」といった欲求は長続きするというものです。心に火がついた時の「気づき」の強さ、「がつん」と来た度合いです。記憶に残るのは、頭で理解できたことか、感情を伴った場合か。強い衝撃を伴ったものは忘れにくいのです。

 通常の記憶でいえば、「エビングハウスの忘却曲線」では、24時間後には26%しか残らないとされています。「気づき」の度合いが薄いものは、3日後には記憶からも薄れ、動機も薄れます。対策としては、リマインドの為にメモを見返す。ブログに書くなど人により方法が有るようです。

○3週間で習慣化

 現代心理学の生みの親ウィリアム・ジェームズは、約3週間21日で習慣化する、としています。次の目標は3週間です。習慣化すると、意識して「さあやるぞ」というスタートの力みが不要になります。自然と行えます。ここからは巡航運転ですが、注意すべきは、初心を忘れやすく、行為が目的になりやすい。また、無意識に取り組めているのですが、本当に意味が有るのかはフィードバックされません。何故なら、受ける相手にはまだ十分には伝わらないからです。

 上司や親が、「人を否定せず、承認・肯定する(粗捜しをせず褒める)」取り組みのケース。3日のハードルを越え、3週間をすぎたころから、無意識に褒めることができるようなります。しかし、部下から見ると、「Aさん、なんか最近変だ。叱ってばかりいたのに、褒めるよね」と不思議がったり、気味悪がったりされる、という感じです。

○3ヶ月で成果が見える

 最後の目標は3ヶ月です。ここまで来ると、取り組みの本気度が伝わります。「Aさん、本気で良い所をみてくれているんだ。本当に変わったんだ。」と伝わるのです。そして、フィードバックが来ます。「ねえ、最近Aさん、本当に大きい人になったよね」と。そして、「Aさん、大きく受け止めていただき、ありがとうございます。とってもやりがいを感じます」と本人に伝えられ、承認されるのです。

 これは作り話ではありません。実話です。是非とも、「学びや気づき」がある取り組みがあれば、「知識」として留めず、「身につけて」「役立て」てください。