坂本龍馬

1836年~1867年


土佐藩下級武士。脱藩し勝海舟に師事するも、倒幕に傾き薩長同盟をコーディネートし、大政奉還を土佐藩を通じ働きかけ、新政府綱領八策で新政体のビジョンを示した。結社・海援隊は株式会社のさきがけ、妻・お龍との婚姻後の薩摩への旅が新婚旅行のさきがけとも言われている。


リーダーの大切な仕事のひとつが、「場作り」。どんな挑戦をしても、リーダーが守ってくれるから大丈夫という“場”の雰囲気が、部下の成長へとつながります。つまり、「安全空間」を作る必要があるのです。

坂本竜馬は、人と人とが心を通わせるための「場作り」「引き出し」を身につけていたようです。例えば、司馬遼太郎『竜馬がゆく』の中で表現されている、福井藩主・松平春嶽への金策や薩長同盟を成功させたのは、その好例です。

竜馬は、神戸海軍塾練習船の購入資金を得るための出資を、春嶽公にお願いしました。謁見の間に通され、初めて公と竜馬が対面しますが、竜馬は平然としていました。「多くの者は、私の前でものおじて卑屈になるか、多弁になるかだ。竜馬、お前は、そのどちらでもない。坂本竜馬という態度をしている」と、公に気に入られます。御前であるのに関わらず、「竜馬ワールド」を作り上げたのです。竜馬は「場作り」の達人でした。

場を作るために必要なのは、まず相手をリラックスさせること、共体験などで共有の価値をもつことです。会社組織では、目標達成・数字などの成果を見がちですが、職場の潤滑油である場作りをおろそかにしてはいけません。「喫煙所」は、人と知り合え、情報共有ができ、場作りができて仕事を生みだせる好例です。場作りができていない組織では、相手に関心をもたない、協働しないといったことが起こり、チャレンジにも臆病になり、組織のパフォーマンスが上がりません。

竜馬は春嶽公に、お金を借りるのではなく、頂き、それを基に事業を興した利益から配当するという、投資を願い出ました。公は、その話の新しさとスケールの大きさに「で、いくら要りようだ」と思わず反応してしまいます。竜馬は一万両を要請し、結果として気持ちよく、公から五千両を引き出します。「引き出される」というのは、人の欲求として、大事なこと。話や力を引き出されたとき、心地よい気分になるはずです。「引き出し」は、うなずきや相手の言葉を反復するなどして話をよく聴くことにより、相手のストライクゾーンにボールを投げ、キャッチボールをする取り組みです。

最後に、竜馬は海運の話題から、これからの日本の在りようについて春嶽公に尋ねました。「国は閉ざすものでなく、開くものだ」「人は切るものでなく、育てるものだ」という公の言葉に深くうなずいた竜馬。このとき二人のあいだに、武士も平民もない平等な社会作りの共感が生まれたと思われます。このように、共通の話題をもつことも「場作り」には大切です。

竜馬は心に響くメッセージの達人でもありました。「日本を今一度、洗濯したく申し候」という言葉からは、短いフレーズながら、日本をゼロから造り直そうというイメージが伝わってきます。アメリカの実情を聞くうちに、竜馬は、「日本もアメリカみたいにならんといかん。身分がなんじゃ。武士でも、上士、下士じゃ言うて、まっこと、日本は身分にこり固まっちゅう」と感じたといいます。その言動はシンプルで、心に染みわたります。このような「相手の心に火をつける」言動が、薩長同盟を成立させる一助になったと推察します。

メラビアンの法則によると、実態のコミュニケーションの割合は、言葉が7%、残り93%は言い方、気持ち、想い、態度だと言われています。つまり、言葉の量が多いほど、想いが薄いほど、相手には伝わりにくくなってしまうということです。

伝えたいことが多すぎて話が長くなるケースが多く見られます。リーダーシップをとるときこそ、「ハート=想い」を込めたシンプルな言葉で、的確に伝えることが大切です。会社のリーダーの振る舞いや背中が、“職場”を成長させていくのです。

※ワールドジョイントクラブ誌、Vol.56、2010年10月23日号寄稿分