27章 フロー状態、創造性、五上発想法:リーダーシップとモチベーション

○フロー状態と創造性

 「フロー状態」(No8「フローな気分にしてくれ」参照)と「創造性」には強い関連があります。フロー状態を最初に発案した心理学者、ミハイ・チクセントミハイは「創造性:フローと発見・発明の心理学」1996年を通して、その関係性と、創造的な人たちはどのような共通の特徴を持っているかを研究し、報告しています。

 具体的には、91名の、芸術、ビジネス、法律、行政、医学、科学などの専門分野で顕著な影響を与えたとされる人物を研究しました。中にノーベル賞受賞者が14人含まれています。そして、偉大な創造は、突然現れる訳ではなく、「好きな仕事に熱中し、長年打ち込んだ結果、予期せぬ発見」に遭遇する、としています。

 チクセントミハイの研究が示すのは、「何か新しいものを考案するか、発見する」活動に従事している時、「人は一番フロー状態を体験しやすい」ことがわかった、つまり、創造活動はフロー体験を伴うとしています。創造的な活動をしている時に何より幸せを感じるのは、忘我状態になって自分が何か大きなものの一部になったような気分になるから、だということです。

 その示唆は、仕事にマンネリ感を感じ始めたら、何か新しい視点を取り入れる取組みを心掛けると良いということです。例えば、今までの実績をレポートにしてみる、発表会をするなど。人前で発表すると新たな発見があるものです。

○創造的人間に共通する特徴

 創造的人間に共通する特徴は、「旺盛な好奇心と意欲を持つ」「自分が取り組む仕事に心を奪われる」「直感を大切にし、混乱状態の中にもパターンを見出し、別々の分野の知識を結びつける力がある」「学校で注目を浴びる例が少ないが、好奇心だけは際立っていた」「ありとあらゆる可能性を自分に取り込む傾向」だそうです。

 「好奇心」「心を奪われる」「直感」「取り込む」が大事な役割を果たしているのです。皆さんはいかがですか。

○発想法:しっかり詰め込んで、熟成して、ふっと抜く

 アイデアやひらめきは、極限に追い込まれたり、根を詰めて考えたり、気合いを入れれば出てくるというわけではありません。むしろ、張りつめた苦しい過程を経て、心が開放された状態にあるとき、生まれてくるものではないでしょうか。

アイデア出しのプロセスは以下です。

 「目的・仮説確認」⇒「ネタを集める」⇒「温め、ねかす(熟成)」⇒「ひらめく」⇒「具体化」

 「ネタ」は「目的に沿って仮説を持って集めます」。よくはまる罠は「無目的収集すること」。「こんな感じの結論」という「仮説」が無いと、延々と収集してしまうことがあります。賽の河原のような心理状況に陥ります。「完璧主義」を捨て適当な量を集めてください。

 実は大事なのが、「温め、ねかす」です。「果報は寝て待て」。詰め込んだ情報を「熟成」させるフェーズです。アイデアが生まれるポイントの一つに、ネタとネタの「つながり」が挙げられます。「無」から「有」が生まれることはありません。イメージで表現すると「しっかり詰め込んで(これがティーチングです)、熟成して、ふっと抜く」といった感じでしょうか。

 よくこんなことがありませんか?議論が堂々巡りに入ったミーティング。一端今日はここまでにしよう、と言った次の日にいいアイデアが沸く。これが「熟成」の効果です。加えて、頭がすっきりして、「ひらめき」がおこります。

○5上:馬上、枕上、厠上、そして、浴上、宴上

 筆者の好きな言葉に「欧陽脩の三上(さんじょう)」があります。「馬上、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)」というもので、もともとは「文章を練るのに最もよく考えがまとまるという三つの場所」(広辞苑)として挙げられたものです。これを「アイデアを練るのに最もよい三つの場所」と捉え直しています。いずれも、イメージで表現すると「しっかり詰め込んで、熟成して、ふっと抜く」場です。「笑い」が「アイデア発想」に効果があるのも、「ふっと抜く」点にあると思います。現代風に言えば以下の3箇所になります。

 1.馬上は、電車や車、飛行機など乗り物の中です。電車の中は、揺られて熟成が進み、アイデアの宝庫です。この記事も電車の中で、スマートフォンを使い執筆しました。

 2.枕上は、ベッド、寝室、つまり、寝起きです。筆者はよく「朝方に枕上で」閃きます。夢の中で「ネタ」と「ネタ」がつながることも多々あります。

 3.厠上は、トイレです。和式は少しきついですね。

 これに筆者は2つ加えました。

 4.浴上。温泉やお風呂です。お風呂で「ほっ」とした時、よく閃きます。アラン・グリーンスパン「私の履歴書」での記述です。「今では有名になった「根拠なき熱狂」という表現を思いついたのはバスタブの中だった。お湯につかりながら、講演の原稿を書いていた時だ。良いアイデアはたいていバスタブで浮かぶのだが、このときもそうだった」と。

 5.宴上。飲み会です。適量のアルコールが、頭を柔軟にし、ネタとネタが常識を超えたつながりかたをし、面白いアイデアや話を作り上げます。ただし、いいアイデアだったのによく忘れますので要注意です。メモをとっておいてください。次の日見ると寒気がするかもしれませんが。