16章 肯定語が肯定的心を、解釈が真実をつくる:認知理論:リーダーシップとモチベーション
○認知理論:肯定思考・言葉は肯定感情を作る
心理学の一分野である「認知心理学」によりますと、感情は思考が決めています。認知療法に関するA.T.ベックの基本的考え方は次のようなものです(「いやな気分よ、さようなら」(D.D.バーンズ)から引用)。
・「われわれの感情はすべて「認知」、つまり自分自身の思考によって生み出される。どのような感情を抱くかは、常にその時の思考内容に左右される」
・「うつ病は、絶え間なく否定的な思考を続けた結果である」
・「情緒不安を引き起こす否定的な思考の大半は、明らかに間違っているか、少なくとも事実を歪めたものだが、われわれは疑いもせずそれを受け入れている」
つまり、肯定思考であれば、肯定的な感情・気分になるのに対し、否定思考に陥ると、どんな人でもふさぎ込んだ感情・気分になりやすく、モチベーションが下がるという訳です。※否定思考は全く負の側面ばかりではなく、リスクに対して敏感になる、という側面があることも見逃せません。
○思考・説明スタイル
ある出来事に対する解釈のスタイルを言います。事実は変わらないのに、それを「肯定的に解釈するのか、否定的に解釈するのか」です。例えば、ある仕事に失敗したとします。それを「今回は失敗したけど、それはやり方が悪かっただけだ。これを学びにして今度は改善してやればいい」と肯定的に考えるか、「私は駄目な人間だ。何をやっても駄目なんだ」と否定的に捉えるのか、の違いです。
肯定思考は、「事柄を肯定的に解釈する思考スタイル。困難にめげない、改善志向。失敗は一時的、克服可能、成長の試練」という「思考・説明スタイル」です。何度でもやり直せばいいじゃないか、必ず、幸運が寄ってくる、という楽観思考でもあります。
それに対し、否定思考は、「過去を引きずる。困難にめげる。失敗は永続的、克服困難。成長不能」という思考法です。失敗に対し、もうダメだ、と思います。こんな事が起こったらどうしょう、と悪い方に考えがちです。「うつ」になりやすい傾向があります。
○言葉は心の栄養素:肯定語しばり、否定語禁止
認知理論によれば、肯定思考になるには、肯定的な言葉を使うことが大事です。肯定的な言葉が「肯定思考」そして「感情」を引き出します。
ご自分の日頃の会話を追跡してください。ある1時間の会話をボイスレコーダーにとる、または、観察し、肯定語と否定語の比率を確認してみてください。驚くほど否定語が多いかもしれません。まずは実態を知りましょう。
意識して肯定語を使うようにすれば、肯定語の比率は増えます。肯定語が増えると、会話の内容も肯定的になり、人間関係も肯定的になります。「その考えは面白い」と肯定し、受け入れ、「どうすればできるか」と展開し、実現に向けてサポートをし、実現に近づけ、チームとしての「小さな達成感」を引き出します。
○会議や職場風土も肯定的に
会議の場を想像してください。もし「こういうアイデアがある」と言ったのに、「それ、前聞いたことあるし、うまくいかなかったな」といわれたら、その後同じような意見を言いますか。よほど心が強い人か、自信がある人でないと、その後同じ意見を言えません。それで一つ意見が消されるとともに、その人は発言を控えるようになります。
発言を引き出すには、他人の発言を「実現しない」「くだらない」「わかりきっている」「意味がない」「以前うまくいかなかった」などと「否定」しないことです。まず受け取ってあげることです。仮にくだらなくても、アイデアというのは面白いもので、創造的なアイデアというのは、かなりの頻度でくだらないものから生まれています。くだらないものをいかに昇華するか。最初はつまらない。それを受容れてどんどん膨らましてあげる。どんなつまらないものでもいいから、そこにはネタ、ヒントがある。それを伸ばしてあげる。これが会議を盛り上げるポイントです。
職場全体を肯定的にすることも同様です。悪い側面に注力するのではなく、良い側面を見て伸ばす、というカルチャー、肯定思考を促す文化です。何事にも前向きに、めげずに一生懸命に取り組む思考が、フロー状態を生み出します。個人のモチベーションや組織のパフォーマンスを支える組織風土を「肯定思考」にすることで、組織全体が「フロー状態」になり、パフォーマンスを高めやすい、ということです。あなたの職場の風土は「肯定思考」風土でしょうか。