第8回 マーケティング・営業ノウハウの知見
今回はマーケティングのナンバー則です。
新規顧客と既存顧客に関わるコストと利益には「1:5の法則」「5:25の法則」という関係があります。いずれも既存顧客の大事さをメッセージしています。
「2」に関しては、「2乗:ランチャスターの法則」「2層のキャズム」があります。
「3」は「営業3ハードル」「3C分析」。「4」は「マーケティングの4P」です。最後に「5」については「5スタイルの消費者、普及率16%の論理」です。
1:5の法則
販売コストを比べると、既存顧客:新規顧客=1:5、つまり、新規顧客獲得には既存顧客にかけるコストよりも5倍のコストがかかるというものです。
例えば、法人向けBtoBの商材を例に考えてみましょう。既存の法人顧客と継続的に取り引きするケースでは、今年の条件提示と価格交渉、契約といったコストがかかります。それに対して新規の顧客の場合には、広告を打つ、顧客リスティング、アポ取り(良くて成功率1割)、商談前の信頼関係づくり(後掲の「営業3ハードル」を参照)、商品説明、そこから商談(商談に乗ってくれる想定確率)、その後、価格交渉、契約と、新たに取り引きするには、さまざまな課題をクリアしなければなりません。そう考えると、新規獲得コストが既存顧客の5倍で済めばまだ良いほうといえるでしょう。
一方、消費者向けBtoCで生命保険のケースを考えてみましょう。新規顧客を獲得するのに、セールスマンは“靴を履きつぶして”訪問を繰り返します。販促品を持参し、提案書を作って勧誘します。平均10回の訪問で契約にこぎ着ければよしとしましょう。
対して既存顧客であれば、現状の契約の更新時期や顧客のライフステージ変化の情報を持っており、そのチャンスで提案するのが基本となります。さらに既存顧客とは、すでに信頼関係が築かれているという“強み”があります。「信頼」という見えないコストを考慮すると1:5というよりは、経験的には1:10にも拡大すると思われます。
5:25の法則
この法則は、先の1:5の法則の応用といえるでしょう。顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%改善されるという法則です。
例えば、[図表1]のように、毎回、新規顧客を20社獲得している企業であれば、利益は640万円になります。しかし、新規顧客の中から5%、すなわち1社を顧客としてつなぎとめ既存顧客にすることで、販売コストは200万円から40万円と5分の1に圧縮でき、利益は800万円に増加します。このケースでは利益率が25%改善したことになります。
利益の改善には、コスト面だけでなく顧客づくりの面でも既存顧客からの紹介といった副次的な効果もあり得ます。新規顧客中心でもうける営業スタイルを“焼き畑農業”に例えるならば、固定客をフォローして利益を稼ぐのは“有機農業”といえるでしょう。5:25の法則は、その差を色濃く表しています。