第9回 競争戦略・組織論の常識


 今回は、競争戦略と組織論に関わるナンバー則を紹介します。「3」はグローバルマネジメントの「3ギャップ」。「4」は組織づくりに関して「4段階」「経営の4資源」です。「5」は「5ForcesAnalysis」。「7」は「管理スパンは7名」「7Sモデル」「参入基準7割」、そして最後に「8」は「コッターの変革8段階論」です。

1.グローバルマネジメントの3ギャップ

 まずは、グローバルマネジメントの妨げになっている“三つのギャップ”についてお話ししましょう。
 この三つのギャップとは、①「役割ギャップ」、②「知識ギャップ」、③「価値観ギャップ」です。
 「役割ギャップ」とはグローバルマネジメントを自分の役割として受け入れられないケースです。例えば、海外勤務を希望しない、グローバルマネジメントに興味がない、拒否反応を示している状態です。これでは、グローバルマネジメントは出始めからつまずきます。
 「知識ギャップ」とは、たとえグローバルマネジメントを自分の役割と認識していたとしても、グローバルマネジメントの知識やスキルが足りないケースです。
 「価値観ギャップ」とは、現地に溶け込み異文化と共生することができないケースをいいます。カルチャーや価値観は時間をかけて積み上げて来たもので、訓練などではなかなか変えられないため、これら三つのギャップのうち最もハードルが高いといえるでしょう。
 「役割」認識は強い衝撃や気づきがあれば一瞬でスイッチが入ります。自分にグローバルは関係ないと思っていた人でも、現地に赴任してしまえば認識せざるを得ません。同様に、「知識」も現地に行ってしまえば、何とか仕事を回さなければいけない必要性から学ばざるを得ません。
 ところが、「価値観」は、行ってみてスイッチが入るような部分ではありません。価値観には、潜在意識化しているものも多く、自分でも気付かないことも多いですし、たとえ気付いていても習慣化していることを変えたり、自分の価値観と異なるものを受容するのは難しいためです。
 このように、とても厄介なギャップである「価値観ギャップ」ですが、これがグローバルマネジメントの肝なのです。現地のお客さまや従業員が大事にしている価値を受け入れ、共有してはじめて、ビジネスがスタートします。この場合、無理に価値観を変えなければギャップは埋まらないかといえばそうではありません。要するにどれだけ受容力を持てるか――ということが大切なのです。

2.組織づくりの4段階

 組織が成果を出すためには、以下の四つの段階があります[図表1]。
 ①場づくり→②引き出す→③かみ合わせ、整理する→④合意形成

 まずは、「①場づくり」です。目的を共有し、互いを知り合い、肯定的な話しやすい雰囲気づくりをし、同じ空気を吸っている感覚を醸成します。多数のメンバーが集まる会議などでは自己紹介や場づくりのルールを共有するのがポイントです。
 次は「②引き出す」。メンバーの良いところ、アイデアを互いに引き出し合います。メンバーが互いに、好み、興味、関心などを認識し合うのが大事です。それらを知っていることで、いざという時にメンバー間で補い合ったり、助け合うことができます。このプロセスは、カウンセリングの要領で行うとよいでしょう。具体的には、相手の話に関心を持ってじっくりと耳を傾け、共感することで思いを引き出し合います。
 ①と②で場が出来上がると、「③かみ合わせ、整理する」「④合意形成」の段階になり、実質的に業務やプロジェクトが進みます。
 よくある失敗例は、前段の「①場づくり」「②引き出す」が十分にできていないのに、「③かみ合わせ」「④合意形成」を進める組織です。研究開発、品質管理、財務など、周囲の人との関係が希薄でも仕事が進むような業務スキルが重めの職場にありがちです。業務遂行上は問題がないようにも見えますが、「①場づくり」「②引き出す」が十分でないと、ハラスメントや隠蔽(いんぺい)等が起こりやすく、また、いったんトラブルが起こると対応力・突破力が弱く、犯人探し、改ざんなどをしてしまう傾向があります。それは、メンバーが組織に対して不信感を持っていたり、組織としてバラバラ感があるためです。
 仕事も大事ですが、気持ちよく、かつ、協働が進みやすい場づくりも大事です。場づくりと業務進捗、良いバランスでお進めください。



[図表1] 組織づくりの4段階

3.経営の4資源:ヒト×(モノ+カネ+情報)

 経営資源とは通常、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の四つです。具体的には、以下のとおりです。
①ヒト:人材
②モノ:機械設備や建物などの設備資産
③カネ:自己資金、借入金など資金
④情報:情報システム、ノウハウ、著作権など
 この4資源のうち、最も大事なのは「ヒト=人材」です。なぜなら、モノ、カネ、情報を使いこなすことができるのはヒトだけだからです。あなたの組織では、人材が尊重されていますか?この機会に確認されることをお勧めします。

4.5 Forces Analysis

業界の収益性を決める五つの競争要因から、業界の構造分析を行う手法が「5 Forces Analysis」です。以下に、事業戦略を考慮する際に検討すべき五つの力・要因を示します。
①顧客の交渉力
 まず、どれだけ顧客の交渉力があるかを検討します。この場合の“交渉力”とは、顧客側が自らの意思で商品・サービスを選ぶ力のことです。逆をいえば、事業側が顧客から選ばれないリスクがどれくらいあるかということにほかなりません。例えば、医薬、会計など情報の非対称性(ナレッジレベルの差の大きさ)が高い業界では、顧客側のナレッジが相対的に脆弱(ぜいじゃく)なため交渉力は低くなります(=顧客は事業者のいいなりになりかねない)。しかし、これまではナレッジレベルの差が大きく、顧客交渉力がかなり低いと思われていた法曹界でも、近年の法曹人口の増加による競争激化、ネット環境整備による価格・サービス比較の評価情報へのアクセシビリティーの高まりなどで顧客ナレッジが向上し、交渉力が高まるなど、状況は一定ではありません。
②サプライヤーの交渉力
 逆に、供給側の交渉力も、業界の収益性にとって重要な要因です。例えば、レアメタル分野では、供給力が限られているのに対し、部品需要が高まっており、サプライヤーの交渉力が高い状態にあります。自らが供給を受ける立場であるならば、供給元の多様化や代替素材の開発などの戦略が必要となります。
③代替製品やサービスの脅威
 レストラン業界を例に考えてみましょう。バブルの頃は、猫も杓子もフレンチで、1万円ぐらいのランチでも飛ぶように売れていました。しかし、バブル崩壊後はイタリアンが幅をきかせるようになっています。手頃な価格や、肩肘を張らずに入店できることなどがその理由です。このように、商品そのものが、ほかのものに取って代わられるという現実に、常に気を付けて見ておきたいところです。
④新規参入の脅威
 四つ目は、業界外からの参入の脅威です。例えば、成熟した自動車業界は技術、アフターサービス体制などで参入障壁が高いため参入脅威は低いのですが、飲食業など参入障壁の低い業界では新規参入が多くみられます。例えば、ラーメン業界では、新規参入が進み、街角でラーメン店が増えているようにも見受けられます。イタリア料理の業界には、うどんや日本食業界からの参入がみられます。また、健康機器メーカーのタニタは、自社の社員食堂のレシピ本が人気となり、その料理を提供するレストランを東京・丸の内にオープンして好評を博しています。このように、業界外からの新規参入の動きにも注意を払っておく必要があるでしょう。
⑤市場の競争の激しさ
 もちろん、業界内の競争の激しさも忘れられません。自動車業界は国内でも、世界でも少数のメーカーが寡占体制を敷いています。対して、飲食業界は多数の事業者が厳しい競合をしています。競合他社と自社の関係を把握しておくことが重要です。

 自社の戦略を立てるのに、以上の五つの力を論理的に分析し活用していく、これが「5Forces Analysis」です。

[図表2] 5 Forces Analysis

5.管理スパンのベストは7名

 組織において、何人までの部下に目配せをし、部下も上司を信頼できるかについては、職種やワークスタイルの違いに伴って差があると思われます。それでは、どれくらいのメンバー数が最適なのでしょうか。
 ある職種で調査した結果は最大15名でした。その人数を超えると、部下の上司に対する満足度が低くなる傾向が顕著でした。最も満足度が高かったのは7名です。偶然かもしれませんが、第6回で紹介した会議でベストパフォーマンスを上げる最大人数は7名でした。7名は小規模なグループとしてベストな人員数かもしれません。

6.7Sモデル

 経営を考える上での七つの要素として「7Sモデル」というものがあります。発案者の名を冠して、「マッキンゼーの7S」とも呼ばれるものです。
 具体的には、次の七つの項目を指し、頭文字のSをとって「7S」というわけです。
①Strategy:ストラテジー、戦略
②System:システム、仕組み・制度
③Structure:ストラクチャー、組織構造
④Shared Value:シェアード・バリュー、共有の価値・理念
⑤Staff:スタッフ、人材
⑥Style:スタイル、行動様式
⑦Skill:スキル、技術・知識
 ①~③がハードの3S、④~⑦がソフトの4Sといわれます。
 ハードの3Sは、変えようとする意思や計画があれば変更は可能です。一方、ソフトの4Sは、価値観が絡む要素だけに、強制的にまたは短時間に変更することは難しいとされる部分です。
 手を付けやすく、見えやすいという理由から、ハードをしっかり設計し、運用すればうまくいくと考えがちですが、“仏作って魂入れず”というように、ハードだけでは経営・組織は動きません。それを支えるソフトが機能しなければ、運用が進まず、ハードそのものが動かないのです。重要なことは、ハードとソフトが融合・整合している状態をいかに作り上げていくかですが、それには王道はなく、地道に進めることしかありません。その上では、今回最後にご紹介する「コッターの8段階」の考え方が役に立ちます。



[図表3] 7Sモデル

7.参入基準7割

 これは、新規参入を考える際の基準の一つで、成功確率が7割あれば参入しようというものです。日本企業はおおむね保守的で、成功確率9割ぐらいを想定して石橋をたたいて渡りがちです。
 先日、サムスンの経営について講演をお聞きしたところ、参入基準は7割程度とコメントされていました。また、ソフトバンクの孫氏も同様でした。後の3割をいかに高めるかが経営であり、努力次第で経営の質の差につながるとのことです。
 この話には二つの示唆があります。一つ目はスピードです。成功確率9割を待っていたら誰かに先を越されてしまいかねませんし、顧客は待っていてくれません。二つ目は成功確率が9割か7割か本当に分かるのか、ということです。確かに確率予測は前提を置くので不確かさが付きまといます。つまり、そもそも成功確率9割と判断するのはかなり難しいので、ある程度の確かさがあれば、後はどのようにして、それを実現するかを考えるのが“戦略”ということです。このように、経営には、スピードをもって、ゴールに向けて戦略を練り、実行するプロセスを引き出すことが重要なのです。
 なお、その際、撤退のマイルストーンを決め、一定の期間内にゴールに達しなければすばやく撤退するというリスクヘッジも同時に想定しておくべきでしょう。

8.コッターの8段階論

 ジョン・P・コッターは著書『リーダーシップ論』(ダイヤモンド社)の中で、変革を進めるためにリーダーが実行するべき八つのステップを述べています。
①危機意識を高める
 現状に対し「何とかしなければ」と、変革への危機意識を高める
②変革推進チームをつくる
 変革を主導できる適切な人材を集める。互いが信頼し合い、結束して行動できるようにする
③適切なビジョンをつくる
 変革によってどこに至るか、その道筋を心躍るビジョンとして掲げる。ビジョンが大胆であればあるほど、大胆な戦略を描けるようにする
④変革のビジョンを周知徹底する
 変革によって何を目指すのか、明確で確信が持て、しかも心に響くメッセージを伝える。心の底から支持されるようにすれば、それが行動に反映される
⑤従業員の自発的な行動を促す
 自発的行動を促すように、ビジョンや戦略に心から賛同する人たちの障害になっているものを取り除く。組織の障害、心の障害が取り除かれれば自発的に行動できるようになる
⑥短期的な成果を生む
 短期的成果で、皮肉や悲観論、懐疑的見方を封じ込め、変革に勢いをつける。目に見える成果、明確な成果、心に訴える成果を生むように心掛ける
⑦さらに変革を進める
 変革の波を次々と起こし、危機意識の低下が起こらないようにする。不要な仕事を削り、変革の途上で燃え尽きるのを防ぐ
⑧変革を根付かせる
 行動を企業文化に根付かせ、過去に引き戻されるのを防ぐ

 以上の8段階は改革を進める足がかりです。

 変革は、何といっても「人の心」に関わるものです。八つのステップを意識して、ブレずに地道に変革を進めていくことがポイントになります。 




[図表4] 変革の8段階