14章 塩梅が大事:6-4バランス:リーダーシップとモチベーション

○ティーチングとコーチングのバランスを考える

 全ての物事にはバランスが大切だと言われます。教えるティーチングと引き出すコーチングにもバランスが必要です。ただ、私たちは全ての物事が5:5で均衡が取れると思い込んでいるようですが、そうではありません。6:4バランスという考え方が有ります。緊張とリラックスの比率を6:4にしたときに、人や組織が最も活性化するという考えです。6:4バランスはスポーツ心理学にも応用され、この割合がピークパフォーマンスを生み出すと注目されています。

○免疫学より

 6:4という数字は免疫学から来ています。人間の身体を守っている「免疫系」とう自己防衛システムにおいて、重要な働きをするのが白血球です。この白血球の中には「顆粒球」と「リンパ球」というものがあって、「顆粒球」が「交感神経」に、「リンパ球」が「副交感神経」によって調節されているそうです。心理的なプレッシャーなどでストレスを感じると「交感神経」の働きが活発になり「顆粒球」が増えます。逆にリラックスしていると、「副交感神経」が活発に働き「リンパ球」が増えます。

 白血球の中の「顆粒球」と「リンパ球」の割合は一説には6:4が良いとされているのですが、「交感神経」または「副交感神経」のどちらかが働き過ぎるとこのバランスが崩れます。そのため体内の免疫機能も低下することになるのです。結果的には、このバランスが崩れると免疫学上は病気になりやすいというわけです。

 よく「過度のストレスは体に良くない」と言われますが、これも免疫学的に説明ができるようです。常に強いストレスにさらされている人は「顆粒球」の比率が高く、リンパ球が少なくなりますので、6:4のバランスが崩れます。その結果、免疫力が落ち、病気にかかりやすくなるという症例がみられるようです。バランスを崩して病気になる最たる例は、ガンだと思いますが、ガン患者は顆粒球とリンパ球のバランスが7:3や8:2にまで崩れているという研究もあります。

 ストレスが少なすぎてもいけません。仕事で緊張していると風邪をひかないのに、休日になると緊張が解けて体調を崩すという例もあります。これは、適度のストレスが「免疫力」を維持していることを示しているのだと思います。休日になると必ず体調を崩したりする人がいますが、これはストレスが少なすぎることによって免疫力が落ちている例になります。

○組織の健康

 6:4バランスが、個人の健康だけでなく、組織の健康にも応用ができます。企業のミドルマネジャーの方の相談に乗る時、ストレス過多の傾向がある職場では、1)「Not Why, But How法」つまり、「何故と追い詰めず、何が問題か、どうしたらできるか」と改善志向で取り組む、2)「笑いとリラックスの導入」、3)「肯定語しばり、否定語禁止」、などその職種や職場に適したストレス緩和やリラックス方法を考え提案しています。

 ストレスが多いと、不安を感じたり、焦ったりして、冷静さを失い、生産性や創造性が低下します。モチベーションの低下や、更に、ひどくなると、隠蔽などコンプライアンス問題の原因にもなりえます。追い詰められパニックを起こしてしまいます。このような状態では良い仕事はできません。

 また、あまりにストレスが少ないと、モチベーションや集中力の低下などを引き起こします。気分が乗らない状態になってしまいます。このような状態であっても、良い仕事はできません。

 叱るや教えるティーチング:褒めるや引き出すコーチングの比率は、入社したばかりの社員には、9:1や8:2から始め、次第にコーチングの比率を増やすことが必要になるでしょう。

 最終的には、ティーチング6:コーチング4を目安として、相手の力量などを勘案し、バランスを決めていくのがベストのバランスだと私は思っています。筆者は少々人の潜在力や成長力を信頼しすぎるきらいがあり、厳しさ4:優しさ6ぐらいになっていると思います。

 歴史を紐解くと、松下幸之助さんは、人を育てる心得として「長所を見ることに7の力を用い、欠点を見ることに3の力を用いるのが、大体当を得ている」という趣旨を「商売心得帖」PHP研究所の中でお書きになっています。3:7です。参考にしてください。