感情とモチベーション:ポジティブ感情がキー

不満・不公平感・恐れなどネガティブ感情、満足・喜びなどポジティブ感情はモチベーション(動機づけ)にどのように作用するでしょうか。

1)ネガティブ感情は解消・回避・闘争モチベーションに

不満・不公平感・恐れなどネガティブ感情に関わるのは「衛生要因」と「回避・闘争動機」です。

「衛生要因」とは「ないと不満だが、満たされると当たり前のため存在を感じられない」要因で、条件面、給与、福利厚生、管理体制などへの不満・不公平感などです。「足枷、魚の小骨、目の上のたんこぶ」のようにずっと心にひっかかるものです。「無い」を「解消する」モチベーションになります。

悔しい、悲しい、怖いなどネガティブ感情は「回避・闘争動機」につながります。「回避・闘争動機」とは、「ネガティブな刺激を回避しよう、戦おう」という動機です。怖さから逃げたり、立ち向かって戦うなどです。

ネガティブ感情は解消・回避・闘争のモチベーションに作用します。

2)ポジティブ感情は達成・拡張・接近モチベーションに

満足・喜びなどポジティブ感情にかかわるモチベーションは「動機づけ要因」「拡張効果」「接近動機」です。

満足、達成感、承認、仕事のやりがい、自己実現などは「あればあるほどモチベーションが上がる」動機づけ要因です。

うれしい、楽しい、面白いなどのポジティブ感情は「接近動機」や「拡張効果」につながります。「接近動機」とは「ポジティブな刺激に近づこう」とする動機です。「拡張効果」とは、気分が良くなり取り組みを先に進めたり、色いろなことにチャレンジしたくなる効果です(ポジティブ感情の拡張・形成理論)。

ポジティブ感情は達成・拡張・接近のモチベーションに作用します。

3)強さの比較

不安になる通知とうれしい通知が来たらどちらに反応しますか。筆者の経験では、不安になる通知を早く解決したいと思います。

また、東日本大震災では水、電気、食料確保などネガティブ状態解消は喫緊の課題でした。

理由の一つは、次式の損失回避性(損失と利益の心理的バランス)です。

 ネガティブ感情の痛み ≒ 2X ポジティブ感情の快感

ネガティブ感情の痛みの方が2倍程度強く感じられ、避けよう、早く解決しようと本能的に動機づけられてしまうのです。

4)結論:ポジティブ刺激・感情の方が作用

不満・不公平感・恐れなどネガティブ感情は強い動機づけをしますが、反面、副作用・悪影響・リスクも強いことが示されています(『モチベーションを学ぶ12の理論』鹿毛雅治他、金剛出版、2012)

・メンタルヘルス

ストレスとなり心身への悪影響が考えられる

・認知機能、集中力の低下

不安などのネガティブ感情は認知機能、集中力の低下を導く

・ネガティブ感情による行動は長続きしない

解消・回避・闘争動機のため痛みがおさまれば動機も終わる

強さではネガティブ感情の動機づけの方が強いのですが、副作用も同様に強いのです。質的には好ましいモチベーションとは言いかねます。早期に解決し、ポジティブ感情による行動に転換することが賢明です。

ポジティブ感情は相対的には弱いのですが、質的には心地よくかつ長くモチベーションに作用します。理由は楽しさが楽しさを呼ぶからです。

良くある例ですが、「悔しさ」をバネに少年期スポーツをやってきたアスリートはある程度の成長で止まってしまうか、早くやめてしまいがちです。苦しいモチベーションで楽しめないからです。

イチロー選手やカズ選手は50代でもプレーを続け、葛飾北斎は死ぬまで絵を描き続けました。楽しいから、楽しさは心地よく持続するからです。