「ひとめぼれ実験装置」嗜好画像を推定する手法

このページでは、「ひとめぼれ実験装置」がどのようにして、「運命の相手」を選び出していたのか!??

その方法について迫ってみたいと思います。

関連した論文を、「第15回日本バーチャルリアリティ学会大会」(http://www.vrsj.org/ac/2010/)にて発表させていただきました。

論文の内容をご覧になりたい方は、以下のリンクからどうぞ。

「摂動応答と重心動揺計を用いた嗜好画像のリアルタイム推定手法の提案」

・嗜好画像を選ぶとは?

そもそも嗜好画像を選ぶとはどういうことなのか?

2種類のアンケートを用意し、統計的・一般的な傾向を観察するため予備実験を実施しました。

はたして嗜好に差は見られるのか?

上の図のように、2種類のアンケートを用意。

「対になったアンケート」は、計10対の画像対を1対ずつ見ていき、1対ずつ好きな画像を選択していきます。

そして最後に最も好きだと思った画像を選んでもらいます。

「バラバラなアンケート」では、不規則に配置された画像郡の中から、一番好きな画像を選んでもらいます。

男性の大学生被験者12人を6人ずつ、グループAとBに分けました。

グループAには「対になったアンケート」を答えてもらった後、「バラバラなアンケート」を答えてもらい、

グループBには「バラバラなアンケート」から答えてもらい、その後で「対になったアンケート」を答えてもらいました。

12人中10人が、どちらのアンケートにおいても最終的に選んだ女性が一致しました。

異なった2名のヒアリングによると、「全体と対の時とで印象が変わる」そうです。

しかし概ね問題がないことがわかったため、2択(画像対)で選ばせても良いと考えました。

また、各対で左画像を選択した場合なら+1、右画像を選んだ場合なら-1というように、

全被験者の回答を点数化して集計し、平均値を求めます。

上側が画像対の左側にあたります。

得票率が非常に大きい方が、多くの被験者がそちらの画像を選んだ割合が多いということになるため、

ほとんどの被験者が赤い○のメガネの女性を選択したことになります。

紫の○は分散が大きい画像対といえ、非常に悩ましく難しい対だったといえます。

・嗜好画像推定の追加実験

先ほどの予備実験の結果を回答傾向によって並び替え、そして寄与率の高い順に画像対を提示しました。

つまり、一番最初に「メガネの女性」が一番好きかどうかを質問として投げかけます。

すると得票率の高い画像ほど的中する結果となりました。

好きではないと答えた場合でも、次に得票率の高い画像が選ばれやすい傾向が得られました。

しかし、この方法で推定結果が向上することは当然とも言えます。

寄与率の高い質問の画像対を抽出できれば、その集合におけるベストな画像を推定することは可能です。

「大量の画像をすべて評価する必要はない」というメリットもあります。

この推定手法は人間の一般的な好み・嗜好を得て、推定する手法です。

しかし問題点があります。

×有効な画像対をどうやって作るか・・・

×皆同じ結果になってしまう・・・(全員にメガネの女性を推定してしまう)

そこで、個々人の「ひとめぼれモデル」に対する違いを調査し始めました。

・WEBアンケート(全18問):回答数71人

個々人の違いが判別できるように、回答者の好みや性格などを調査するため、WEB上でアンケートを行いました。

71人の方にご協力いただきました。

Q:「ひとめぼれ」はあると思いますか?

Q:「ひとめぼれ」を体感したことはありますか?

このような質問を全18問行いました。

すると、アンケート結果から、傾向を決定づける有効な質問を発見しました。

それは、アンケートから好みの年齢層を分類分けできるという発見です!

Q:「異性のどんなところ・どんな時にトキメキを覚えますか?」

本来この質問に対し、

「何かに打ち込んでいる時」・「夢や志の高さを感じた時」といった選択肢が12種類も用意されていました。

ところが、5割以上の人が3種類の選択肢に分かれる結果が得られました。

その回答は以下の3つです。

A:「自分のことを見てくれる時」 14%

A:「尊敬できることを感じた時」 17%

A:「落ち着き・安らぎを感じた時」 18%

さらに、

Q:「あなたの年齢と、相手の年齢の差はいくつまでが理想ですか?」

いう質問を投げかけたところ、先ほどの質問の回答と合わせて、以下のような傾向が見られました。

A:「自分のことを見てくれる時」 ⇒ 見てくれる人 = 一緒にいれる時間の長い人 = 若い人。 30代までが恋愛対象になる。

A:「尊敬できることを感じた時」 ⇒ 尊敬できる年上が良い。それこそ60歳以上でも恋愛対象になる。

A:「落ち着き・安らぎを感じた時」 ⇒ 気を使わず落ち着ける同年代が良い。

つまり、「自分のことを見てくれる時」と回答した人には「若者」を提供し、

「尊敬できることを感じた時」を回答した人には、「年上」の画像を提供し、

「落ち着き・安らぎを感じた時」を回答した人には、「同年代」の画像を提供すれば、

「ひとめぼれ」しやすく・嗜好画像である可能性が高まるといえます。

Q:「異性のどんなところ・どんな時にトキメキを覚えますか?」

という質問の回答を3択に絞り込むことで、体験者の好む相手の「年齢」がある程度は推定できるというワケです。

アンケートだけでも充分に、「ひとめぼれモデル」の推定が可能になりました。

・重心動揺による嗜好画像推定

アンケートによる推定が可能なことはわかりました。が、・・・

「ひとめぼれ実験装置」では、重心動揺を使用していました。

なぜアンケートだけで、装置を構成しなかったのか?

先ほどのような「言語的なアンケート」とは違い、重心動揺を意思決定に用いるメリットとは何なのでしょうか?

それはまず、被験者の負担を減らす必要性があることがわかりました。

実は、アンケートで実験をしていると、こんな被験者がいました。

●「どの画像が好きか、自分でもわからない。面倒だから、全部右側の画像で良いや。」

このように、データとしては「不要」なデータを取得してしまいます。

そこで重心動揺によって、アンケートでは取得しづらい非言語の意識・無意識の統合入力を行います。

重心動揺を意思決定に用いるメリットとしては、「あいまいさ」を許容できる点もあります。

単純な「YES」, 「NO」ではなく、強い「YES」, 弱い「YES」をデータ取得できるということです。

・重心動揺で嗜好画像の推定実験

そこで、重心動揺で嗜好画像の推定実験を行ないました。

被験者には「意識せず、ただ立っててください」と指示しました。

アンケートの予備実験で使用した画像対を見てもらいます。

1対ずつ表示していき、計10対を表示していきます。

その結果が、以下のようになりました。

見てわかるように、ほとんど「有為な傾向」をほとんど観測できませんでした。

ようするに、ただ乗るだけでは意味が無いということです。

・摂動を含めた重心動揺による嗜好実験

そこで、「摂動」を加えて実験を行ないます。ここでの「摂動」とは、

●「立位における人体に外乱を加えたことにより生じる無意識の動き」と定義します。

重心動揺における「反射」や「スティフネス(剛性)」を総合的に取得したいという狙いがあります。

先ほどの実験と同様、意識せずに、ただ立っていてもらいます。

同じように画像対を観測してもらいます。

しかし今回は、定期的な摂動を手動で与えます。

(電気的制御が理想ですが、これは摂動の有無による特性にのみに注目した実験のため、手動で行います)

その実験結果が、以下のようになりました。

摂動を加えたことにより、明らかに振幅が顕著になりました。

さらに、好みの画像の表示イベントと連動して、「振幅が高まる/少なくなる」など、波形に他と異なる特徴が見られました。

この特徴から、嗜好画像を推定できる可能性があります。

(機械学習的な方法で推定可能?)

実験後にアンケートで再び好きな画像を選んでもらったところ、

重心動揺の推移だけを見て、5・6割の確率で推定できるようになっていきました。

(推定し、的中する確率が1割ほど上昇)

今後もデータ収集を続ければ、さらに上昇すると考えられます。

つまり「摂動を加える」ことで、以下の3つのメリットがあります。

1.推定できる可能性がある(アンケートよりも、まだ的中する確率は低い)

2.「選択しなければならない」という、被験者の負担が減る(=不要なデータも減る)

3.立っているだけよりも確率がUP

・展示の時に、「摂動」を使用しなかった理由

国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)の展示時には、摂動は使用していませんでした。

WEBアンケート結果から発見した、ユーザを3つに分類する質問を主に使用していました。

なぜ?

実は、摂動を加えるためのモーター機構も製作しておりました。

以下の写真が、我がチームのチーフメカニックが担当した、自作のブラシレスモーターです。

(お客さんに見せやすいよう、箱の中で構成したものです)

スイッチでモーターの回転を逆回転にすることもできます。

2方向に分かれる赤い糸がモーターの軸についており、回転方向を切り替えることで、

体験者に対する左右への引っ張り(摂動)を実現化していました。

ただ・・・

モーターの異音がスゴいのです・・・

「ロマンチック」を演出している「ひとめぼれ実験装置」の世界観にはそぐわないため、今回は見送る結果となりました。