剱岳  3度目の剱、同じ辛さ、同じ感動、同じ滑走

富山県  2,999m  2017年5月20~22日(テント2泊)

日本百名山

188

剱は5年前と、そして11年前と変わらぬ姿で私を見下ろしていた。「また来たのかい」と言っているような気がした。

長次郎谷の登り、長次郎コルからの急斜面の登りは、前回同様、辛かった。

だが、登るにつれて変わりゆく眺望は、八ツ峰や源次郎尾根の岩尾根、その背後に現れる北アルプスの諸峰は、これまで同様に感動的だった。

P2・2,960mに立つと、剱の頂上が目の前に現われる。岩肌は右側に少し見えているだけで、ほとんど白い雪に覆われていて、左斜面のゆったりしたカーブが実に美しい。

ただし、このときの私はへばり切っていて鑑賞するゆとりはなく、よろよろと最後の急斜面を登る。そして感激の頂上到達。頂上の祠は石壁で囲われていた。

帰りもこれまで同様、頂上からスキーで滑走。雪が柔らかく、長次郎コルへの下降はスリル満点だった。

P2・2,960mに立つと、剱の頂上が目の前に現われる。岩肌は右側に少し見えているだけで、ほとんど白い雪に覆われていて、左斜面のゆったりしたカーブが実に美しい。
八ツ峰: 登るにつれて変わりゆく眺望は、八ツ峰や源次郎尾根の岩尾根、その背後に現れる北アルプスの諸峰は、これまで同様に感動的だった。
感激の頂上到達。頂上の祠は石壁で囲われていた。

帰りもこれまで同様、頂上からスキーで滑走。雪が柔らかく、長次郎コルへの下降はスリル満点だった。

最終日、雷鳥荘の脇の順路をバス停に向かって歩いていると、ハイマツの茂みの前で大きなカメラを構えた男性の脇から雷鳥が現われた。
長次郎コル直下: 長次郎谷の登り、長次郎コルからの急斜面の登りは、前回同様、辛かった。
D1 9:40 立山駅ケーブル乗車10:00 高原バス乗車11:01 室堂バス・ターミナル発、滑走11:39 雷鳥沢、アイゼン14:57 剱御前小屋前、滑走15:20 剱沢テントサイト・・・・・・・・・・・・・・・・・・室堂より、登り4時間19分D2 5:27 剱沢テントサイト発 5:54 長次郎谷入口、アイゼン 9:21 熊岩の上12:03 長次郎コル13:34 剱岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り8時間7分14:10 剱岳発、滑走14:29 長次郎コル14:47 熊岩の上15:20 長次郎谷入口、シール18:36 剱沢テントサイト・・・・・・・・・・・・・・・・往復13時間9分D3 6:06 剱沢テントサイト発、シール 7:37 剱御前小屋前 7:48 滑走開始 8:23 滑走終了、シール10:05 室堂バス・ターミナル・・・・・・・・・・・・下り3時間59分

**************

D1

5月の3週、週末が晴予報となり、すぐに剱に行くことに決め、ザックを準備。

立山駅の上の駐車場は満車。下の駐車場に停める。隣に来たのはアジア人。8時では遅すぎた。チケットを買うと、スキーは袋に入れることになったと言われ、売店で300円で買う。えらくごついビニール。9時のケーブルに乗ろうとすると、9:40だと言われ、40分待つ。ビショルドのミラー惑星の冒頭を読みながら待つ。バスは一番後ろの窓側。鍬崎山と薬師岳を見る。室堂に着き、すぐに屋上に上がり、雪の上でスキーを履いてゆっくり滑走。アジア人がたくさん。雪原から順路に入ると、みくりが池のところで雪が無くなり、スキーを持って歩く。炎症の右手人差し指が痛い。雷鳥荘のところから滑り出そうとしているボーダーたちに倣い(彼らは立山のほうに滑っていったが)スキーを履いて雷鳥沢方面に滑走。雷鳥沢の真下まで行ってアイゼン。前週のMTBで覚えた、ピッチを上げて進む方法を試してみる。足を速く動かして登り、疲れたら休憩。それで登り続け、剣御前小屋まで1.2㎞の1/2弱あたりで最初の休憩。ボードを背負った二人が先に行き、残り1/4あたりで2度目の休憩。

踏跡が左の尾根沿いに雪の無いところを登る地点で、先行するボーダー二人が右の雪斜面を登ろうとしているのに倣い、そちらに向かうが、そのルートには雪の切れ目があり、傾斜のあるトラバースで歩きにくそうなので、途中で向きを変え、尾根沿いの雪の無いルートを登る。それは左側が切れ落ちた狭いルートだったが、登り切ると剱御前小屋にほぼ水平に続く雪のトラバース路に繋がっていた。眼下にボーダー二人がここまで登ってこようとしている。こちらが正解だった。もう少しで剱御前小屋というところで、登山道の上に雷鳥が現われた。ハイマツの中から出てきたらしい。最初はだいぶ遠くから撮影。近づいたら逃げるだろう、と思ったが、なかなか逃げない。登山道の窪みの中に隠れているつもりなのだろうか。写真を撮り続けていると、ようやく不満そうに動き出し、少しづつハイマツの中に歩いて行った。そして剱御前小屋前に着く。人が行き交い、スキーで剱沢方面から着いた人、雷鳥沢の雪のところまで下ろうとしているスキーヤーなど。私は小屋の前の雪の土手の上でスキーを降ろし、滑走。剱御前小屋から少し下ると、剱岳と剱沢が行く手に大きく現われる。剱は5年前と、そして11年前と変わらぬ姿で私を見下ろしていた。「また来たのかい」と言っているような気がした。「そうだ、また来たぞ」とつぶやく。

剱沢テントサイトには雪のない丘の上と雪の上の2箇所にテントが4~5個づつ張られていた。少し離れたところにある穴はトイレ。丘のハイマツの横の雪の上にテント設営。雪は浅いがハイマツ2箇所にロープを張り、もう一つは石にロープを張る。少し横になってから夕食。丘の上も雪の上も賑やか。丘は男性のパーティ、雪上は男女4組。騒がしいのでホールズワースを鳴らす。1990年Thenのノン・ブリュード・コンディメント。多めの野菜に白米の雑炊を食べて腹いっぱい。春キャベツは硬くていまいち。困ったのは、ジェットボイルのバーナーの外側のプラスチックが溶けて膨らみ、容器に入らなくなってしまったこと。雪を溶かすのは問題ないが、金属製スタンドを立てて野菜を茹でるとき、金属製スタンドの熱がプラスチック部分を溶かしてしまうらしい。バーナーには、ジェットボイル用のガス・カートリッジを使用すること、と注意書きがあり、火が強すぎるのかもしれない。ヤスリを使って削ればいいのかもしれない。もう新しいのを買う時期かも。(購入したのは2008年5月11日、キウイー、16,000円。この年の笈ヶ岳で雪を溶かすのに苦労したとき。初めて使ったのは石狩岳。「今回は新兵器を二つ、モンベルのエアマットとジェットボイル」とメモにある。もう9年、この間、2013年以外は毎年使っている。スタンドで野菜スープを作り出したのは2014のトヨニ、エサオマンの頃から。)

D2

翌朝、まだ暗いうちから丘が騒がしくなり、明るくなりかけた頃には静かになる。4時にアラームが鳴った時はもう明るく、ヘッドランプも不要だった。ミニ・カップ麺とコーヒーの朝食にホットレモンを作り、外に出ると雪上テントの二人の男性の一人が片付けをしていた。前日登ってこれから帰るところらしい。私はまだ堅い剱沢にゆっくり滑り込む。ガリガリとけたたましい音。最初は右、ついで左にコースを取り、下りすぎないよう斜面をトラバース気味に下る。また右にコースを変え、武蔵谷入口を通過。ずいぶん傾斜がきつく見える。間違えて登った谷の次に平蔵谷。ここは剱の頂上までが見通せる。よくこんなところを登ったものだ。武蔵谷、平蔵谷、長次郎谷はすぐ近くに並んで見えるが、平蔵谷入口から長次郎谷入口はだいぶ高低差がある。下りすぎないように滑走し、停止してアイゼン。土手のように盛り上がったデブリを登る。

先には誰も見えなかったが、今朝のものと思われるアイゼンの跡があった。テントサイトの人だったかもしれない。こんなに良い天気なので、大勢登ってくるだろうと思い、後ばかり気にして登るが、結局、誰も登ってこなかった。ずっとハイピッチ・プラス・休憩のペースで歩き、コルまで半分強のあたり、谷に日が射してくる直前に最初の休憩。昨晩、ジェフベックがついに終了し、ジェネシスを聞き始める。トレスパスのルッキング・フォー・サムワン。熊岩手前で振り返ると八ツ峰の尖峰群が見事に並び、背後にはスバリ岳と針ノ木岳が双耳の姿で現われる。

アイゼンの跡を熊岩の正面のデブリの中で見失い、熊岩の右側に回り込み、斜めに切れ込んだところ(登れそうだった)も更に右側に回り、熊岩の上に上がる。熊岩の上からは5年前と同じ景観、左に八ツ峰、右に源次郎尾根。今回はパノラマで撮影。源次郎尾根の急な斜面に踏跡が見える。熊岩の上から左(西)にトラバースし、長次郎コルへの登りにかかる。トラバース・トレースはほとんど消えかけていたが、谷に入るといくつかの踏跡があり、その中に今朝のものらしいアイゼンの跡。たぶん熊岩へ迂回せず、左谷をまっすぐ登ってきたのかもしれない。谷にはときどき小さなデブリが崩れ落ちる音が響く。青空には白いジェット雲。しばらく遅れてから遠い爆音。九十九折の踏跡は最後はほぼ直登。コル手前に割れ目ができかけていて、それを越えて長次郎コルに到達。見下ろすとえらく急に見えるが、この先の登りに比べればたいしたことはない。長次郎谷の登り、長次郎コルからの急斜面の登りは、前回同様、辛かった。だが、登るにつれて変わりゆく眺望は、八ツ峰や源次郎尾根の岩尾根、その背後に現れる北アルプスの諸峰は、これまで同様に感動的だった。

長次郎コルからの急斜面は、5年前に比べて雪が少なく、麓のあたりに大きな雪の割れ目が開いている。スキーで降りれるかやや不安になる。休憩後、ピッケルを腰に差して急斜面にかかる。登り始めて半分くらいで、ピッケルを刺して支えにして登る。中間よりやや上の狭い部分で、雪が踏み抜けて足がかりが取りにくい部分があり、右手の岩を手掛かりにしたり、横に登ったりしてなんとか通過。一番上の小さな雪庇を越え、急斜面の上に登り切って休憩。5年前よりもずいぶん苦労した。ここはまだP3・2,900m地点で、行く手にP2・2,960mが見える。剱の頂上はまだその先。視界が広がり、北に毛勝三山と大猫山(*1)、北東に白馬三山。P2・2960mに登るペースは遅い。切れ落ちているから危ないと思っていた南側もそれほどでもない。長次郎コルに行かずにこっちを滑れないかなと思ったが、たぶん下の見えないところに関門があるだろう。往路を戻るのが正解だ。そしてP2・2,960mに立つと、剱の頂上が目の前に現われる。岩肌は右側に少し見えているだけで、ほとんど白い雪に覆われていて、左斜面のゆったりしたカーブが実に美しい。まだあれを登らないといけないのか、ずいぶん急だな。

(*1)中央右の三つのピークが毛勝三山で、左ピークが釜谷山、その手前に猫又山が重なっている。中央と右ピークが毛勝山の双耳で、三角点は右ピーク。毛勝三山の稜線上の左側が大猫山(ほとんど平)。

ただし、このときの私はへばり切っていて鑑賞するゆとりはなく、よろよろと最後の急斜面を登る。そして感激の頂上到達。頂上の祠は石垣で囲われていた。奥の祠の手前の雪の最高地点にストックを刺す。初めて立山や室堂方面が見える。三角点はGPSによるとやや北側。一応、そこまで行っておく。祠は周囲が石垣で頑丈に強化されており、5年前とはずいぶん違っている。やや斜め前からお参りし、「ありがとうございました」と礼を述べる。ゆっくりしたかったが、もう14時なので帰る準備。やはりこんなにかかってしまったか。前回よりも早く出たのに、それよりも長くかかってしまった。それにしても、あの長次郎コルへの急斜面を下れるだろうか。今朝登ったパーティはたぶん平蔵谷を下ったと思われ、踏跡があった。私も平蔵谷を下ろうか、と思ったが、過去の経験は、往路を戻るべきと言っている。帰りもこれまで同様、頂上からスキーで滑走。雪が柔らかく、長次郎コルへの下降はスリル満点だった。その前に剱岳頂上からの滑走。剱岳頂上・北東急斜面では、最初のターンで雪がザラザラと音を立てて落ち始めたので、連続ターンを止めてまっすぐ滑走。落ちた雪をP2から見上げたが、こうして見ると、たいしたことはないように見える。P2・2960mまで少しカニ歩きで登り返し、ゆっくりP3へ。

長次郎コルへの下降点の真上に立ち、滑走ルートを探る。前回はもっと雪が多く、斜面南側から右向きに横滑りで下降開始し、そのまま中段まで横歩きと横滑りで下り、下が開けてからターン滑走したのだが、今回は南側に雪はない。狭い岩の間の踏跡ルートに沿って滑走するしかない。北端の岩尾根にザイルの一端が見えていたが、ザイルでもないと歩いて下るのは難しそうだ。斜面中央から北側に向かって斜めに滑り込む。柔らかい雪がザラザラとコルまで落ちてゆく。誰もいなくてよかった。北端岩尾根手前で停止。だいぶ横滑りしたが、スキーはしっかり雪に乗っている。バランスを保てば転ぶことはない。そこで、横歩きで斜面中央に斜めに下り、最初の右ターン。またもザラザラと雪が落ちてゆくが、スキーはしっかり止まっている。次は登るときに苦労した雪がでこぼこになっている部分で、岩の出ているところを飛び越して滑り込む。でこぼこの雪をスキーで平に均した感じ。一番狭いところを横歩きでしばらく下り、少し広くなったところで左へ2度目のターン。その先のテラスのような部分でキックターンで方向転換し、右に滑走して左に3度目のターン。次もテラス部分まで横歩きで下り、キックターンで方向転換し、同じく右に滑走して左に4度目のターン。上から落ちてくる雪と競争で右に5度目のターンして、そのまま真直ぐにコルに滑り込む。もちろん勝ったのは私。「やった、降りたぞ」

長次郎コルで横になって休憩。長次郎コルから北の細い隙間からは猫又山と釜谷山が見えていた。ゆっくりはできないが、これでもうあとは楽だ。いや、登り返しがあったなあ。

長次郎コルから真下は急斜面だが、直前の長次郎コルへの滑走と比べれば、たいしたことはない。のんびり大きなターンで下る。それほど雪は落ちなかった。リラックスした滑りで熊岩の上に着く。往路では登らなかった斜めの切れ込みの上で停止して少し休憩。そして斜めの切れ込みを滑走。熊岩の下でも、デブリのない左側(東側)を滑走。そこには古い滑走トレースもあるが、私のはつかない。ゆっくり下っていくと水の音が聞こえ、左の岩尾根から水が落ちている。長次郎谷入口のところで谷の右側に移り、デブリの土手の上に乗り、その右側に下るが、勢いがつきすぎて尻もち。ストックを立てて立ち上がる。下が平らでなければ立ち上がるのは比較的簡単。滑走終了し、スキーにシールを貼り、ザックを枕にして休憩。疲れた。青空がまぶしいが、下から見上げるストックとグローブは元気。暗くなる前にテントに戻ろう。

平蔵谷入口まではかなり急に見えたが、シールで十分登れる。長次郎谷、平蔵谷、武蔵谷はずいぶん近いところに並んでいるように見えるが、はるかに遠い。朝はすぐに通過したが、登り返しではなかなか近づかない。やっと平蔵谷の入口に着き、平蔵谷を何度も写す。夕日が射し、天狗岩がどれなのかよくわからなかった(*2)。武蔵谷を過ぎ、もう次はテントサイトだったが、まるで見えてこない。正面の高い土手の上の灌木丘は違い、その左の土手(剱沢の一部なのだが)の上のようだ。GPSを何度も見るが、テントサイトの位置を2度間違え、あと500mくらいと思っていたのが、1㎞くらいあった。左の土手をまっすぐ登らず、右に大きく巻いて登ると管理小屋があり、その奥にテントサイトの灌木丘が見える。あと200mくらいが辛かった。

(*2)平蔵谷の天狗岩とインディアン・ク-ロアール: 中央右上に尖っているのが天狗岩。その右側がインディアン・クーロアール。雪斜面が剱岳頂上まで続いている。

もう灌木丘の上にも雪原の上にもテントはなく、残っているのは私のテントのみ、シールをつけたスキーをひっくり返し、飲用の雪を袋に入れ、着替え、テントに入ってシュラフにもぐりこみ、寝る。誰もいないのでウォークマンを大きな音で鳴らす。ジェネシスのウォークマンがバッテリー切れになっていたので、ホールズワースを1990年ゼンのハウス・オブ・ミラーから聞く。起きたのは深夜。アルファ米は止め、いつもより量の多い野菜だけ食べる。プラスチックが溶けて容器に収納できなくなったバーナーはザックの天袋に入れて持ち帰り、火曜日に業務スーパーで買ったヤスリで修復中。なんとかなりそうだ。春キャベが硬いので、本体容器でじっくり煮込むのがいいのだろう。

D3

翌朝は4時半のアラームで起き、テントサイトを出たのは6時だったが、8時のバスにはまるで間に合わなかった。2時間以上遅れたから、4時に出ないと間に合わなかったことになる。重いザックを背負ってシールでとぎれとぎれに歩いていくと、剱御前小屋の前あたりからスキーヤーが二人、剱沢に滑ってくる。ようやく剱御前小屋前に着き、トイレの前で休憩。スキーをザックに取り付け、雪のあるところまで歩いて下り、滑走。雪はだいぶ柔らかくなっているが、でこぼこなので慎重に滑る。シールで登り返す距離が短くなるよう、眼下に見える雪上車トレースのできるだけ南西部分に向かう。下っていくと、雷鳥沢を登り始めた人の姿がぽつぽつと見える。

雪上車トレースのところでシール。最後の登りだが、もう8時半前になっていて愕然。諦めてゆっくり行く。雷鳥荘の脇の順路をバス停に向かって歩いていると、ハイマツの茂みの前で大きなカメラを構えた男性の脇から雷鳥が現われた。男性は気づいていない様子。2~3メートルの距離なので、私はじっとしてデジカメを撮る。やがて男性も雷鳥に気づき、夫婦らしき二羽の雷鳥が少しづつ歩いて左手のハイマツに消えるまで、二人で黙々と撮り続ける。「ここのハイマツにいつもいる」と言う男性は常連さんのようだ。バス停周辺はアジア人の観光客がいっぱい。シールで歩いているのはやや場違い。ようやくビル屋上に着き、喧噪の屋上でシールを外し、かさばるビニルシートにスキーとストックを入れ、片手にピッケルを持ち、階段を下る。次のバスは10時40分だった。並んだ位置が比較的前だったので、窓側に座れ、大日岳を何度も写す。下から登るのはかなり大変そうだ。バスに乗っていたのはほとんど観光客。登山の人は数人。大きなザックは私以外は一人のみ。スキーは私だけだった。ケーブルは空いていたのでザックとスキーを持って車両に乗る。

駅でかさばるビニルシートを捨てたかったが、ゴミ箱はなし。立山駅前は真夏の暑さで、片付けてから車に乗ると、なんと30度。ランニングに短パンをもってくるんだったが、冬下着に長袖にジャージを着る。(ただしこの日、北東北に戻ったときは15℃近辺で、まだ寒かった。)グリーンパークとスーパーをカーナビ入力して駐車場を出る。グリーンパークの風呂は新しくなっていて、露天もよかった。野菜を少し買う。外気温が高いので冷房を起動。冷えると消す。ファンを持ってくるんだった。有磯海SAでサシミ二つ、ニギリ一つ、サラダ半分、サイダー1本弱を食べる。至福のひととき。

D1

鍬崎山

高原バスの車窓より

室堂バスターミナルからの景観: 左端:奥大日岳、中央奥:立山、中央右:浄土山、右端:バス・ターミナル

雷鳥沢・上部からの景観: 左奥より、立山、浄土山、中央:室堂、右奥:奥大日岳

雷鳥沢の雷鳥

もう少しで剱御前小屋というところで、登山道の上に雷鳥が現われた。ハイマツの中から出てきたらしい。最初はだいぶ遠くから撮影。近づいたら逃げるだろう、と思ったが、なかなか逃げない。登山道の窪みの中に隠れているつもりなのだろうか。写真を撮り続けていると、ようやく不満そうに動き出し、少しづつハイマツの中に歩いて行った。

剱沢上部からの景観: 左:剱御前、中央:剱岳、右:別山の稜線

剱岳

剱は5年前と、そして11年前と変わらぬ姿で私を見下ろしていた。「また来たのかい」と言っているような気がした。「そうだ、また来たぞ」とつぶやく。

剱沢テントサイト

D2

朝の剱沢テントサイトからの景観: 左:剱岳、中央:別山、右奥:剱御前小屋方面

長次郎谷

長次郎谷の登り、長次郎コルからの急斜面の登りは、前回同様、辛かった。

熊岩

八ツ峰

だが、登るにつれて変わりゆく眺望は、八ツ峰や源次郎尾根の岩尾根、その背後に現れる北アルプスの諸峰は、これまで同様に感動的だった。

熊岩手前からの景観

熊岩手前で振り返ると八ツ峰の尖峰群が見事に並び、背後にはスバリ岳と針ノ木岳が双耳の姿で現われる。

熊岩の上からの景観

熊岩の上からは5年前と同じ景観、左に八ツ峰、右に源次郎尾根。今回はパノラマで撮影。源次郎尾根の急な斜面に踏跡が見える。

八ツ峰

源次郎尾根の踏跡

スバリ岳と針ノ木岳

長次郎コル直下

長次郎コルから下を見下ろす

長次郎コルから上を見上げる

長次郎コルからP3・2,900mへの登り

コルからの急斜面は、5年前に比べて雪が少なく、麓のあたりに大きな雪の割れ目が開いている。スキーで降りれるかやや不安になる。

休憩後、ピッケルを腰に差して急斜面にかかる。登り始めて半分くらいで、ピッケルを刺して支えにして登る。中間よりやや上の狭い部分で、雪が踏み抜けて足がかりが取りにくい部分があり、右手の岩を手掛かりにしたり、横に登ったりしてなんとか通過。一番上の小さな雪庇を越え、急斜面の上に登り切って休憩。5年前よりもずいぶん苦労した。ここはまだP3・2,900m地点で、行く手にP2・2,960mが見える。剱の頂上はまだその先。視界が広がり、北に毛勝三山と大猫山、北東に白馬三山。

大猫山と毛勝三山

中央右の三つのピークが毛勝三山で、左ピークが釜谷山、その手前に猫又山が重なっている。中央と右ピークが毛勝山の双耳で、三角点は右ピーク。毛勝三山の稜線上の左側が大猫山(ほとんど平)。

剱岳(頂上の北東斜面)

P2・2,960mに立つと、剱の頂上が目の前に現われる。岩肌は右側に少し見えているだけで、ほとんど白い雪に覆われていて、左斜面のゆったりしたカーブが実に美しい。

ただし、このときの私はへばり切っていて鑑賞するゆとりはなく、よろよろと最後の急斜面を登る。そして感激の頂上到達。頂上の祠は石垣で囲われていた。

石垣に囲われた祠

剱岳頂上からの景観1: 左端より、祠、大猫山と毛勝三山、白馬岳、右中央:立山と真砂沢、右端:剱岳頂上の南西端と奥大日岳

立山

奥が立山、手前は真砂岳と真砂沢

剱岳頂上からの景観2: 左端より、大猫山と毛勝三山、白馬岳、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、スバリ岳と針ノ木岳、立山と真砂岳と真砂沢、奥大日岳

剱岳頂上からの滑走(滑走で雪の落ちた北東斜面)

帰りもこれまで同様、頂上からスキーで滑走。雪が柔らかく、長次郎コルへの下降はスリル満点だった。

剱岳頂上・北東急斜面では、最初のターンで雪がザラザラと音を立てて落ち始めたので、連続ターンを止めてまっすぐ滑走。落ちた雪をP2から見上げたが、こうして見ると、たいしたことはないように見える。

コルへの滑走1

長次郎コルへの下降点の真上に立ち、滑走ルートを探る。前回はもっと雪が多く、斜面南側から右向きに横滑りで下降開始し、そのまま中段まで横歩きと横滑りで下り、下が開けてからターン滑走したのだが、今回は南側に雪はない。狭い岩の間の踏跡ルートに沿って滑走するしかない。北端の岩尾根にザイルの一端が見えていたが、ザイルでもないと歩いて下るのは難しそうだ。

斜面中央から北側に向かって斜めに滑り込む。柔らかい雪がザラザラとコルまで落ちてゆく。誰もいなくてよかった。北端岩尾根手前で停止。だいぶ横滑りしたが、スキーはしっかり雪に乗っている。バランスを保てば転ぶことはない。そこで、横歩きで斜面中央に斜めに下り、最初の右ターン。またもザラザラと雪が落ちてゆくが、スキーはしっかり止まっている。

コルへの滑走2

次は登るときに苦労した雪がでこぼこになっている部分で、岩の出ているところを飛び越して滑り込む。でこぼこの雪をスキーで平に均した感じ。一番狭いところを横歩きでしばらく下り、少し広くなったところで左へ2度目のターン。

コルへの滑走3

その先のテラスのような部分でキックターンで方向転換し、右に滑走して左に3度目のターン。次もテラス部分まで横歩きで下り、キックターンで方向転換し、同じく右に滑走して左に4度目のターン。上から落ちてくる雪と競争で右に5度目のターンして、そのまま真直ぐにコルに滑り込む。もちろん勝ったのは私。「やった、降りたぞ」

長次郎コルから北の細い隙間からは猫又山と釜谷山が見えていた

コル北側の狭い岩峰の間。左ピークが釜谷山で、猫又山はその手前に重なっている。右ピークは毛勝山・西峰

長次郎コルからの滑走

長次郎コルから真下は急斜面だが、直前の長次郎コルへの滑走と比べれば、たいしたことはない。のんびり大きなターンで下る。それほど雪は落ちなかった。

長次郎谷入口の空

滑走終了し、スキーにシールを貼り、ザックを枕にして休憩。疲れた。青空がまぶしいが、下から見上げるストックとグローブは元気。暗くなる前にテントに戻ろう。

平蔵谷

長次郎谷、平蔵谷、武蔵谷はずいぶん近いところに並んでいるように見えるが、はるかに遠い。朝はすぐに通過したが、登り返しではなかなか近づかない。やっと平蔵谷の入口に着き、平蔵谷を何度も写す。

平蔵谷の天狗岩とインディアン・ク-ロアール

中央右上に尖っているのが天狗岩。その右側がインディアン・クーロアール。雪斜面が剱岳頂上まで続いている。

D3

朝の剱岳

雷鳥沢の滑走: 左から立山、浄土山、国見山、天狗山、右奥:奥大日岳

立山・雄山

中央に雄山神社3,003m

雷鳥荘の雷鳥

最終日、雷鳥荘の脇の順路をバス停に向かって歩いていると、ハイマツの茂みの前で大きなカメラを構えた男性の脇から雷鳥が現われた。男性は気づいていない様子。2~3メートルの距離なので、私はじっとしてデジカメを撮る。やがて男性も雷鳥に気づき、夫婦らしき二羽の雷鳥が少しづつ歩いて左手のハイマツに消えるまで、二人で黙々と撮り続ける。「ここのハイマツにいつもいる」と言う男性は常連さんのようだ。バス停周辺はアジア人の観光客がいっぱい。

大日岳

高原バスの車窓より

位置

D1 9:40 立山駅ケーブル乗車10:00 高原バス乗車11:01 室堂バス・ターミナル発、滑走11:39 雷鳥沢、アイゼン14:57 剱御前小屋前、滑走15:20 剱沢テントサイト・・・・・・・・・・・・・・・・・・室堂より、登り4時間19分D2 5:27 剱沢テントサイト発 5:54 長次郎谷入口、アイゼン 9:21 熊岩の上12:03 長次郎コル13:34 剱岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り8時間7分14:10 剱岳発、滑走14:29 長次郎コル14:47 熊岩の上15:20 長次郎谷入口、シール18:36 剱沢テントサイト・・・・・・・・・・・・・・・・往復13時間9分D3 6:06 剱沢テントサイト発、シール 7:37 剱御前小屋前 7:48 滑走開始 8:23 滑走終了、シール10:05 室堂バス・ターミナル・・・・・・・・・・・・下り3時間59分

問合せ・コメント等、メール宛先: kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com