八ヶ岳 岩尾根トレッキング、景観と花の旅

長野県  赤岳2,899m、権現岳2,715m、ギボシ(権現岳・二峰)2,700m、編笠山2,524m、西岳2,398m  2018年7月20~22日(テント2泊)

(八ヶ岳)日本百名山

319

辛い登り

ふと見上げるとピンクの花

急ぐ足元に小さな花が咲いていて

立ち止まる

(花の縦走路)

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初日、青年小屋から西岳に向かうと、林が少し切れ、背後に鋭く立つギボシ(権現岳・二峰)が迫力の景観。いったん下り、登り返したところが西岳。そこには花が多かった。咲き残りのタカネバラ、ウスユキソウにピンクの花(ジャコウソウ?)。

二日目、ギボシ(権現岳・二峰)への途上で、東にうっすら朝焼けの富士山、行く手には夜明け前の空に黒いシルエットのギボシが迫る。すごい絶景になってきた。権現小屋の手前で黄色い大きな花のウサギギクを見る。

三差路から東を見ると、緑の台座の上に岩峰を突き出した権現岳が立っていた。いかにも山神が住んでいそうな雰囲気。岩峰にとりつき、狭い頂上まで登ってみると、古い石板の上に宝剣と頂上標識が立っていた。

旭岳からは再び林に入って強烈な下り。そこを登ってくる団体さんはずいぶん大変そうだった。道を開けて立ち止まっていると、「十二人いますよ」と言われ、スティックを使ってさっさと下る。この頃はまだ元気だった。

うねる縦走路の先に、阿弥陀岳と並んで、鋭鋒の姿の赤岳が待ち構えている。岩尾根トレッキングの核心部はこれからだ。

平坦な稜線になり、その先の二つの丘、2,550mと2,560mにはコマクサの群落があった。砂礫がむき出しになった何もない緩い斜面にピンク色の花がたくさん揺れている。この花だけがもつ緑の草原とは全く違う世界。

長い急なザレのつづら折りをゆっくり登る。細かい石や大きな石は転がり落ちやすいのでなるべく触らないように登るが、時々触れてしまってザラザラ落ちていく。ツメクサの小さな白い花がびっしり。背後の権現岳は目の高さになり、西岳も阿弥陀岳と並んで見えていた。昨日と今朝はあそこに立っていたのだ。

最後の短いハシゴを登り、そして13年ぶりの赤岳頂上に立つ。頂上は満員で、頂上標識は順番待ちになっていたので、先に三角点を撮影し、ザックを置いてから頼んで写真を撮ってもらう。13年前の頂上標識もこんなだったかな。いや、たぶん違ってる。

だいぶ疲れていたが、最後にギボシに登る。下で見上げたときは鋭い鋭鋒だったが、頂上は穏やか。頂上手前に切株椅子、頂上には古い仏像。眼下には西岳と網笠山が丸い姿で兄弟のように並んでいる。そして東には権現岳が立っている。ここもまた忘れられぬ頂上。

****

赤岳に登ることを目標にした2005年の登山と違い、今回は岩尾根を辿って権現から赤岳を往復するちょっとしんどいツアー。二日目の行程は、数値のうえでは距離4㎞、標高差800mで、その日のうちに下山もと考えたが、そんなに甘くはなかった。夏の日差もきつかった。

だが、そんな辛さは全部忘れてしまえるだけの体験ができた。鋭鋒のギボシと権現岳、うねる縦走路の先に待つ赤岳。二日目の朝は富士山と三つのアルプスが全部見えていた。

観音平にはオダマキ、青年小屋にはイワオトギリ、西岳にはウスユキソウ、権現岳にはウサギギク、二つのコマクサの丘、そして赤岳へのザレの登りではツメクサの白い小さな花がびっしり咲いていて、旅人に笑いかけていた。思い出に残るすばらしい景観と花の旅。

 うねる縦走路の先に、阿弥陀岳と並んで、鋭鋒の姿の赤岳が待ち構えている。岩尾根トレッキングの核心部はこれからだ。
 緑の台座の上に岩峰を突き出した権現岳が立っていた。いかにも山神が住んでいそうな雰囲気。
 青年小屋から西岳に向かうと、林が少し切れ、背後に鋭く立つギボシ(権現岳・二峰)が迫力の景観
 観音平のオダマキ
 青年小屋のイワオトギリ
 西岳のウスユキソウ
 権現岳のウワギギク
 コマクサの丘
 赤岳のツメクサ
 ギボシから眼下には前日にここを見上げていた西岳と網笠山が、丸い姿で兄弟のように並んでいる。
D110:05 観音平駐車場発14:18 青年小屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り4時間13分14:45 青年小屋発15:57 西岳16:05 西岳発17:10 乙女の水17:21 青年小屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復2時間35分17:52 網笠山18:21 青年小屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復1時間0分D2  3:46 青年小屋発  5:24 権現小屋  5:40 権現岳  5:53 長いハシゴ  6:31 旭岳  7:05 コマクサの丘  7:35 キレット小屋・北分岐  8:37 短いハシゴ  9:32 赤岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り5時間46分10:01 赤岳発10:32 短いハシゴ11:30 キレット小屋・北分岐12:35 コマクサの丘14:00 長いハシゴ14:13 権現小屋14:38 ギボシ15:55 青年小屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復12時間9分D3  5:47 青年小屋発  8:24 観音平駐車場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・下り2時間37分

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D1

小渕沢インターで降り、観音平に向かう。山は白い霧の中。満車一歩手前の駐車場の一番手前に駐車。奥にある駐車場のほうが少し距離が短かったのかも。今回もメニューは野菜セット。スーパーで買ったキャベツの葉を2枚ちぎってマイタケと同じ袋に詰め、ザックの天袋に入れる。ソーセージとパンも入れたが、なぜかバナナを入れ忘れた。登山者カードを投函し、すこし進んだところでマップを忘れてきたことに気づき、車まで戻る。結局、マップを見ることは数度(三角点の確認等)だったが、無ければたぶん不安の種になっただろう。登山口にウツボグサ。「矢の堂跡地」には観音像があり、武田信玄が祭ったものらしい。観音平からの道は何度か分岐しており、道標のないのもあった。GPSマーカーのとおり富士見平経由を行くが、もちろん視界はなし。濃い赤のホタルブクロ。富士見平の標識に着いたが、霧で視界はなし。

雲海という標識に着くが、やはり視界はなし。代わりにピンクのシモツケソウ。ぽつんと白いヤマオダマキ。やたらに長いオシベがたくさんなのはもしかしてビヨウヤナギ?いやイワオトギリ?。途中で1回休憩。ポカリを5本もってきて、この日は1本の1/3程度。誰もいないのでウォークマンを鳴らしていく。ジェネシスが終わり、ジョージ・ハリスン。懐かしの名曲、イズンツ・イット・ア・ピティ、マイ・スウィート・ロード。押手川の案内表示があり、ここまで標高差500mを1時間半という記載は私にはぴったり。この先でぽつんと1本、リンドウが咲いていた。上を向かせてみると、中にはハチの先客。このあたりからゴゼンタチバナを見る。八ヶ岳にいる間じゅう、ずっとどこにでもいたが、写したのはここでだけ。下向きの白い花はイチヤクソウ?

下ってきた夫婦連れに会う。快活に「こんにちは」という妻の後で、「たくさん担いでますね」と言う夫。そんなに重そうに見えるのかなあ。もっと元気に歩けばいいのかな。青年小屋が近づき、網笠山が見えてくる。青年小屋の前にはクルマユリがたくさん。青年小屋には「遠い飲屋」の赤提灯。ここまで飲みに来る人もいるのかな。裏に広いテントサイトがあり、さっきの黄色い花が咲いていた。やっぱりイワオトギリだろう。テントは5~6張だったがスペースは十分。金曜だからかな。奥の平らなところにテントを張る。それからまず西岳に向かうが、その途上に水場があるので、水バッグをとりに一度テントに戻る。

西岳へは林の中の道でほとんど水平。最初の登りで2,370m峰。林が少し切れ、背後に鋭く立つギボシ(権現岳・二峰)が迫力の景観。いったん下り、登り返したところが西岳。高見大菩薩の石版。そこには花が多かった。咲き残りのタカネバラ、ウスユキソウにピンクの花(ジャコウソウ?)。西岳の頂上は林を抜けていて、南には網笠山、そして鋭鋒のギボシ(権現岳・二峰)が実に勇壮。うっとり眺める。そのときはギボシが権現岳だと思っていて、翌日はあの頂上に本当に立てるのかなとやや不安を感じた。帰りに寄った乙女の水というのは沢の途中にトイが取り付けてあって、そのトイから豊富に流れる水を汲むのだが、水が冷たくて手を水に長くさらしていられない。ひしゃくで一杯、飲んでみる。やっぱり冷たい。

水バッグをテントに置き、今度は網笠山に向かう。網笠山は青年小屋のすぐ近くで、標高差140mの半分は大きな岩の原。ダブル・スティックを使ってバランスを取りながらひょいひょい進む。大岩の原から林に入っても、やはりしばらくは大岩の登り。ようやく着いた網笠の頂上も思った通り岩だったが、大きなのはなし。頂上標識に三角点。霧が出ていて西岳だけが見えていた。帰路につくと、夕暮れの広い網笠頂上にぽつんと頂上標識。帰路もダブル・スティックを使ってひょいひょい下り、青年小屋に戻ってテント代600円を払う。店の人に「見てましたよ。早かったですね」と言われたが、岩登りにスティックを使うことはどのくらい広まっているのだろう。睡眠不足のためか頭が痛く、テントに入ってとりあえず寝る。夜中に起きて野外トイレへ行き、簡易水洗の水を足踏みで流す。夕食を食べたのは22時頃。翌朝は2時起きだったので、またもや睡眠時間3時間程度。野菜スープにお茶漬け。ソーセージを入れ忘れた。ガスボンベが最初点かず、あせる。バーナーとボンベ(キャプテンスタッグ)が合わないのか、それともバーナーがもう老朽なのか。なんとか火がつき、夕食を平らげ、就寝。

D2

プランはテント二泊だが、赤岳までは距離4㎞、標高差800mなので往復8時間。朝4時に出れば昼12時には戻れるので、この日のうちに下山できるだろう。三日目のため、茂来山・四方原山もGPSに入れてきていた。よって野菜が余ってしまうかもしれないので、二日分もってきた野菜の二日目の半分を朝に食べる。昨晩、ソーセージを忘れていたのに気づき、朝は1本食べる。朝は寒く、レインウェアの上を着ていたが、明るくなるにしたがい暑く感ずるようになる。林からいったん抜け出た「のろし場」でザックを下ろし、ヘッドランプをしまい、レインウェアを脱ぐ。すると、もう登っていく人たちが追いついてきた。二人組の人と、半袖半ズボンのトレイルラン・スタイルのこわそうな顔をした人。このときは網笠と西岳の背後の山々は朝霧で見えていなかったが、足元にはややくたびれたナデシコに元気なウスユキソウ。

ギボシ(権現岳・二峰)への途上で、東にうっすら朝焼けの富士山、行く手には夜明け前の空に黒いシルエットのギボシが迫る。すごい絶景になってきた。気の早いアキノキリンソウにイワギキョウ。そして日の出。登山道はギボシの頂上直下を巻いて北に向かう。ギボシに登っておきたかったが、まずは権現岳に登ろう。権現小屋の手前で黄色い大きな花のウサギギクを見る。小屋の前にも他の花といっしょに咲いていた。その先の三差路から東を見ると、緑の台座の上に岩峰を突き出した権現岳が立っていた。いかにも山神が住んでいそうな雰囲気。その台座に向かうと南に、網笠の背後の南アルプスを見た。鳳凰山、農鳥岳、北岳、甲斐駒、仙丈岳、鋸岳が見事に勢揃い。岩峰の下の登山道に「権現岳」の頂上標識が置いてある。狭い頂上では記念撮影も難しいから、わざわざそこに置いたのだろうか。そこから岩峰にとりつき、狭い頂上まで登ってみると、古い石板の上に宝剣と頂上標識が立っていた。

権現岳の頂上稜線を北に向かうと、谷を隔てた向こうに阿弥陀岳と赤岳が黒々とものものしく並んでいる。その手前に一回り小さな旭岳が鎌首をもたげていて、縦走路はその鎌首に向かって狭い稜線の上に伸びている。俗世間を超越した世界の景観が目の前に広がっている。青年小屋から赤岳は距離4㎞、高低差800mだが、それよりもはるかに遠いように見える。旭岳から先の縦走路はいったん右(東)にせり出しているが、その先で大きく落ち込んで底が見えない。権現岳からその縦走路を北に下っていくと、あのNHKにっぽん百名山に出てきた長いハシゴがあった。こいつは長い。でも思ったよりも垂直でなくて、楽に降りられそうだ。いつものようにスティックを中指・薬指・小指で握り、親指と人差し指でハシゴをもって降りる。ぶら下げてもいいが、ガチャガチャ音がするので騒がしい。難なく降りたが、帰りにこれを登り返さないといけないと思うと気が重い。

登山道はしばらく尾根の西側をトラバースしてゆき、途中で最初の休憩。西岳の向こうに中央アルプスが見える。あれは御岳、その右に乗鞍、ありゃりゃ、北アルプスも見えている。すごい景観だ。前日は全く見えていなかったのに、この日は全てが見えていた。パンを食べ、前日に1本の1/3くらいしか飲まなかったポカリをぐいぐい飲み干す。この後、間違えて尾根に上がっていく踏み跡をたどると標識が立っていて、そこが旭岳の頂上だった。そこから下っていくと男性がやってきて、「この上は旭岳か」と聞くので、「そうです」と答える。「その先も道はあるのか」と聞かれ、「わからない。間違えて登ってしまったので」と答える。

旭岳からは再び林に入って強烈な下り。そこを登ってくる団体さんはずいぶん大変そうだった。道を空けて立ち止まっていると、「十二人いますよ」と言われ、スティックを使ってさっさと下る。「早い人がいきますよー」と大きな声をかけてもらい、恐縮。下で待ってくれた人は「ゆっくりでいいですよ」と言ってくれたが、この頃はまだ元気だった。だが、登り返しのことを考えると暗い気分になる。うねる縦走路の先に、阿弥陀岳と並んで、鋭鋒の姿の赤岳が待ち構えている。岩尾根トレッキングの核心部はこれからだ。いったん平坦な稜線になり、その先の二つの丘、2,550mと2,560mにはコマクサの群落があった。砂礫がむき出しになった何もない緩い斜面にピンク色の花がたくさん揺れている。この花だけがもつ緑の草原とは全く違う世界。コマクサの丘から林の中を更にぐんぐん下っていく。どうせ赤岳に登り返さないといけないことを思うと、このくらいにしといてくれと言いたいほどぐんぐん下る。そんなときキレット小屋の分岐表示が現われ、少しでも登り返しを減らしたい私としては、キレット小屋に行かずにまっすぐ進むが、この道が整備されてなくてハイマツやらの枝を払って進まねばならず、おまけに小さなアップダウンもあり、楽ではなかった。キレット小屋に寄った方が正解だったろう。

キレット小屋のある2,450m付近が最低コルで、ここからいよいよ登り返し。とぼとぼと登り返していくと、元気な団体さんが二組ほど追い付いてきたので道を譲る。咲き残ったシャクナゲ。長い急なザレのつづら折りをゆっくり登る。細かい石や大きな石は転がり落ちやすいのでなるべく触らないように登るが、時々触れてしまってザラザラ落ちていく。ツメクサの小さな白い花がびっしり。登りきったところから岩場となり、ペンキマークに従って登っていくと、短いハシゴが数本。このうちの一つは不要だった。再び視界が広がり、背後の権現岳は目の高さになり、西岳も阿弥陀岳と並んで見えていた。昨日と今朝はあそこに立っていたのだ。ずいぶん登ってきたものだ。雲が広がり、遠景はもう見えなくなっていたが、道端の黄色い大きな花はキンバイソウかな。再び短いハシゴを登り、2,710mコブに着くと休んでいるパーティ。だいぶ前に追い越して行ったパーティだと思うが、もう赤岳まで行って戻るところなのかと思ったら、そうではなかった。また追いついてきたので、分岐表示のところでまた道を譲る。そこは四つ角で、真教寺分岐と文三郎道の表示。今度の黄色い花はキジムシロ?

また短いハシゴを登り、よし、ここが頂上だろう、と思ったら違っていて、また分岐表示のところだった。東からのルート(真教寺尾根)を二人ほどが登ってくる。その先で間近に赤岳頂上とその横の頂上小屋が見え、更に登るとルートは頂上稜線の西側をトラバースする道となり、その頂上直下の切れ落ちた西斜面をはるか下から大勢が登ってくる。それは2005年に登った行者小屋からのルートで、頂上直下の2,870mのところで権現岳からのルートと合流している。合流点には竜頭峰分岐の標示があり、下ろうとしているらしい人が立ち止まっていて、登ってくる人を待っていた。私も登る人なので、行者小屋からの人たちに合流して登る。最後の短いハシゴを登り、そして13年ぶりの赤岳頂上に立つ。頂上は満員で、頂上標識は順番待ちになっていたので、先に三角点を撮影し、ザックを置いてから頼んで写真を撮ってもらう。13年前の頂上標識もこんなだったかな。いや、たぶん違ってる。

頂上の北側の狭いところに座って休憩。結局、本日2度目。バナナを忘れたのでナッツを袋半分ほど食べる。ポカリをいくら飲んでも足りない感じなので、3本目を半分残す。残り2.5本。節約していこう。既に雲が湧き出していて、北アルプスは見えず、蓼科山と天狗岳の二つのピークが見えていた。蓼科はいつのまにか見えなくなり、私も眠くなり、狭い所に横になって根をつむる。風が心地よい。頂上のすぐ北隣に頂上小屋があり、そこも人だかり。あんなところに泊まったらどんなだろう。

休んだら元気がでて、スティックを使ってどんどん下る。行者小屋コースとの合流点では、下からすずなりに登ってくる人たち、その列の隙間をぬって分岐を通過し、権現岳へのトラバース・ルートに入る。ここは空いているが、何人か早い人が追いついてきて、先に行ってもらう。最初の短いハシゴの下のザレのつづら折りの下りで、少しルートから外れている人がいたので声をかけてみると、「間違えちゃったみたい」と言って元気に順路に戻ってくる。「ちょっとコース外れるとすごく登りにくいですね」と話しかけたが、これは自分でこの日、何度も体験していた。このくらい歩きこまれた道でなければ、これだけの傾斜のザレをロープもなしで上り下りするのはかなり難しいだろう。

キレット小屋分岐表示手前にある草原の日陰になっているところでザックを下ろし、3度目の休憩。横になると心地よい。ポカリの3本目を空ける。帰りはキレット小屋に寄ってみる。新しそうな建物。昼間なので静か。テントサイトはだいぶ下。黄色い花はキンポウゲ。これから辛い登り返し。林から日向に出て早く通り過ぎようとすると、コマクサの群落に引き留められ、しゃがんで撮影。さっき撮ったからもういいじゃないかと思うが、花を見るとひきつけられてしまう。向こうからやってきた団体さんもコマクサに引き留められている。権現岳への登り返しでは日陰になっているところが少ない。我慢して日光にあぶられながら登っていると、一番きつそうな旭岳への登り返しの途中が林の中で日陰になっているので、狭いスペースに座って休憩し、ポカリの4本目を半分飲む。年配の人が登っていく。「こんにちわ」「おつかれさま」

帰りは、知らないうちに旭岳を通り過ぎてしまう。また男性が一人、先に行き、更に背後から二人が迫る。マイペースで進むと、行く手に長いハシゴが見えてくる。またスティックをもったままハシゴを登るが、長くて辛い。下で二人が待っているので休まずに登る。へとへとになって登り切り、休めそうな日陰を探してのろのろ歩く。権現小屋の西側が日陰になっていたので、そこで横にならせてもらう。小屋の前の日向で休んでいる人たちがいたが、とても私には耐えられない。

だいぶ疲れていたが、最後にギボシに登る。登山道がギボシの頂上直下を通っているので、それほど登る必要はない。登山道から尾根筋を登って簡単に到達。下で見上げたときは鋭い鋭鋒だったが、頂上は穏やか。頂上手前に切株椅子、頂上には古い仏像があり、その上に文字が書かれた金属板が置いてあった。風で飛んでしまいそうなのでくぼみに置き換え、石を当てて動かないようにしておく。眼下には前日にここを見上げていた西岳と網笠山が丸い姿で兄弟のように並んでいる。そして東には権現岳が立っている。ここもまた忘れられぬ頂上。

権現岳から下っていくとき、夫婦連れと男性が一人、先に行く。私はだいぶ疲れていて、最後に林の中で最後の休憩。青年小屋に戻り、そのまま水場に向かう。水は水バッグに半分未満しか残っていないだろう。追いついてきた夫婦連れと交代で1本づつポカリの空ボトルに水を入れ、最後に冷たい水を飲む。テントに戻り、着替えて横になる。まだ日が射していて暑い。入口を網戸にして寝ていると、周囲では夕食の喧騒。前日はいなかった団体さんが元気。夜中に寒くなって目覚め、網戸を閉じ、シュラフに入る。もう夕食を食べるのが面倒なので、朝食だけにしよう。そこで3時にアラームを設定して就寝。久しぶりにたっぷり眠る。

D3

スマホがバッテリー切れで鳴らず、周囲の人声・物音で起きる。着替えをし、食事。前日の団体さんはテントごともういない。どこまで行くのだろう。テントを担いでキレット小屋までかな。またバーナーが点火せず、あせる。ボンベを振ったりしてみたが、どうやらバーナーの栓がボンベにうまく入らないのかもしれない。ネジを奥まで押し込むとよいようだ。朝露でべっとりのテントをたたみ、コンビニ袋に入れてからザックに詰めこむ。小屋に寄って二日目のテント代と記念バッジを購入。合計1,100円。赤岳に行ってきたと言うと、私も行きたいという店の娘さん。話がはずみそうなところへ御来光撮影から戻ってきたらしいおじさん二人が割り込んできた。「いやー、よかったよー」と娘さんに報告しながら私の方をうさん臭そうに見るので、私は退散。

人は少なそうなのでウォークマンを鳴らしながら下る。ジョージ・ハリスンのジャパン・ツアーというのはビートルズやソロの名曲満載で、しかもエリック・クラプトンがギターを弾いているという涙もの。タックスマンやオールド・ブラウン・シューなどはたぶんライブ演奏は初めてのレアもの。ヒア・カムズ・ザ・サンやマイ・スウィート・ロード。サムシングで観客が盛り上がったのは分かるが、マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスでも同じくらいに歓声が上がったのは意外。クラプトンのファンが多かったのだろうか。ジョージの甘い歌声は健在。ハリスンの次はジョージ・マーチン。彼がかかわったビートルズの曲をいろんなミュージシャンがプレイする。ジェフ・ベックのア・デイ・イン・ザ・ライフは逸品。

この日も朝は雲が無く、途中の樹間から南アルプスが見えた。途中から登ってくる人にたくさん会い、団体さんもたくさん。みんな日帰り、網笠か西岳までなのだろうか。それとも青年小屋に泊まり?途中の分岐を空いてそうな富士見平の道に入ると、誰にも会わなかった。笹原の中に白いオダマキ。富士見平の周囲は木々が茂り、もう富士山は見えない。だが、鳳凰山、北岳、甲斐駒、鋸岳が見えていた。帰着した観音平駐車場は満車。私の車の隣からは道沿いに横づけしている車の列。そこにいた若い二人はやってきたタクシーに乗って下って行った。私はゆっくり片づけ、濡れたテントを荷台に広げておく。朝9時にやっている温泉はなさそうなので、近場の温泉を止め、10時過ぎに着きそうな温泉をカーナビ入力。高速は往路の中央道+圏央道ではなく、佐久・上信越道を入力。たぶんこちらの方が早いだろう。しかも安い。

行く手になにやらモニュメントが見えると思ったら「まきば公園」で、奥秩父方面が見えていたので立ち寄って写真をとる。そこも人々で満員状態。清里のあたりは観光やリクリエーションの建物が多く、人も多い。登山服スタイルの人たちが大勢いて、歩きまわっていた。ここは巨大なリゾート地のようだ。立ち寄った温泉(アクアリゾート清里・天女の湯)は巨大な駐車場に数台、大きな浴場に数人。露天は温かったが、内湯は熱かった。紫の菊の花はミヤコワスレ。今度は野菜と桃の直売。よさそうな店があったのでたくさん買う。桃もやすいのを2個。ナス、大ナメコ、キュウリなど、いくらでもある。

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赤岳に登ることを目標にした2005年の登山と違い、今回は岩尾根を辿って権現から赤岳を往復するちょっとしんどいツアー。二日目の行程は、数値のうえでは距離4㎞、標高差800mで、その日のうちに下山もと考えたが、そんなに甘くはなかった。夏の日差もきつかった。だが、そんな辛さは全部忘れてしまえるだけの体験ができた。鋭鋒のギボシと権現岳、うねる縦走路の先に待つ赤岳。二日目の朝は富士山と三つのアルプスが全部見えていた。観音平にはオダマキ、青年小屋にはイワオトギリ、西岳にはウスユキソウ、権現岳にはウサギギク、二つのコマクサの丘、そして赤岳へのザレの登りではツメクサの白い小さな花がびっしり咲いていて、旅人に笑いかけていた。思い出に残るすばらしい景観と花の旅。

D1

観音平駐車場

小渕沢インターで降り、観音平に向かう。山は白い霧の中。満車一歩手前の駐車場の一番手前に駐車。奥にある駐車場のほうが少し距離が短かったのかも。今回もメニューは野菜セット。スーパーで買ったキャベツの葉を2枚ちぎってマイタケと同じ袋に詰め、ザックの天袋に入れる。ソーセージとパンも入れたが、なぜかバナナを入れ忘れた。登山者カードを投函し、すこし進んだところでマップを忘れてきたことに気づき、車まで戻る。結局、マップを見ることは数度(三角点の確認等)だったが、無ければたぶん不安の種になっただろう。登山口にウツボグサ。「矢の堂跡地」には観音像があり、武田信玄が祭ったものらしい。観音平からの道は何度か分岐しており、道標のないのもあった。カーナビのとおり富士見平経由を行くが、もちろん視界はなし。濃い赤のホタルブクロ。富士見平の標識に着いたが、霧で視界はなし。

観音平・登山口

ウツボグサ

矢の堂跡地の案内

(*1)矢の堂跡地 武田信玄は源氏のゆかりのある矢の観音を尊崇し、この加護によって大門峠の合戦に勝利したとし、この地に矢の観音を移祀祀した。武田氏滅亡後は荒廃したため、安永10年(1781)尾根地区内に矢の堂を再建した。小淵沢町

矢の堂跡地の仏像

ホタルブクロ

ヒヨドリバナ

ショウマ

シモツケソウと蜂

白いヤマオダマキ

ニガナ

ビヨウヤナギ?じゃなくてイワオトギリだよね?

雲海という標識に着くが、やはり視界はなし。代わりにピンクのシモツケソウ。ぽつんと白いヤマオダマキ。やたらに長いオシベがたくさんなのはもしかしてビヨウヤナギ?いやイワオトギリ?。途中で1回休憩。ポカリを5本もってきて、この日は1本の1/3程度。誰もいないのでウォークマンを鳴らしていく。ジェネシスが終わり、ジョージ・ハリスン。懐かしの名曲、イズント・イット・ア・ピティ、マイ・スウィート・ロード。押手川の案内表示があり、ここまで標高差500mを1時間半という記載は私にはぴったり。この先でぽつんと1本、リンドウが咲いていた。上を向かせてみると、中にはハチの先客。このあたりからゴゼンタチバナを見る。八ヶ岳にいる間じゅう、ずっとどこにでもいたが、写したのはここでだけ。下向きの白い花はイチヤクソウ?

ゴゼンタチバナ

イチヤクソウ

クルマユリ

青年小屋

下ってきた夫婦連れに会う。快活に「こんにちは」という妻の後で、「たくさん担いでますね」と言う夫。そんなに重そうに見えるのかなあ。もっと元気に歩けばいいのかな。青年小屋が近づき、網笠山が見えてくる。青年小屋の前にはクルマユリがたくさん。青年小屋には「遠い飲屋」の赤提灯。ここまで飲みに来る人もいるのかな。裏に広いテントサイトがあり、さっきの黄色い花が咲いていた。やっぱりイワオトギリだろう。テントは5~6張だったがスペースは十分。金曜だからかな。奥の平らなところにテントを張る。それからまず西岳に向かうが、その途上に水場があるので、水バッグをとりに一度テントに戻る。

クルマユリ

バイケイソウ

イワオトギリ

テント

シロバナヘビイチゴ

網笠山

ギボシ(権現岳・二峰)

タカネバラ

ウスユキソウ

イブキジャコウソウ

西岳・頂上標識

西岳へは林の中の道でほとんど水平。最初の登りで2,370m峰。林が少し切れ、背後に鋭く立つギボシ(権現岳・二峰)が迫力の景観。いったん下り、登り返したところが西岳。高見大菩薩の石版。そこには花が多かった。咲き残りのタカネバラ、ウスユキソウにピンクの花(ジャコウソウ?)。西岳の頂上は林を抜けていて、南には網笠山、そして鋭鋒のギボシ(権現岳・二峰)が実に勇壮。うっとり眺める。そのときはギボシが権現岳だと思っていて、翌日はあの頂上に本当に立てるのかなとやや不安を感じた。帰りに寄った乙女の水というのは沢の途中にトイが取り付けてあって、そのトイから豊富に流れる水を汲むのだが、水が冷たくて手を水に長くさらしていられない。ひしゃくで一杯、飲んでみる。やっぱり冷たい。

ギボシ(権現岳・二峰)

ホタルブクロ

乙女の水

網笠山の溶岩帯と青年小屋

網笠山の頂上標識

三角点

日暮前の編笠山頂上

水バッグをテントに置き、今度は網笠山に向かう。網笠山は青年小屋のすぐ近くで、標高差140mの半分は大きな岩の原。ダブル・スティックを使ってバランスを取りながらひょいひょい進む。大岩の原から林に入っても、やはりしばらくは大岩の登り。ようやく着いた網笠の頂上も思った通り岩だったが、大きなのはなし。頂上標識に三角点。霧が出ていて西岳だけが見えていた。帰路につくと、夕暮れの広い網笠頂上にぽつんと頂上標識。帰路もダブル・スティックを使ってひょいひょい下り、青年小屋に戻ってテント代600円を払う。店の人に「見てましたよ。早かったですね」と言われたが、岩登りにスティックを使うことはどのくらい広まっているのだろう。睡眠不足のためか頭が痛く、テントに入ってとりあえず寝る。夜中に起きて野外トイレへ行き、簡易水洗の水を足踏みで流す。夕食を食べたのは22時頃。翌朝は2時起きだったので、またもや睡眠時間3時間程度。野菜スープにお茶漬け。ソーセージを入れ忘れた。ガスボンベが最初点かず、あせる。バーナーとボンベ(キャプテンスタッグ)が合わないのか、それともバーナーがもう老朽なのか。なんとか火がつき、夕食を平らげ、就寝。

D2

夜明前

プランはテント二泊だが、赤岳までは距離4㎞、標高差800mなので往復8時間。朝4時に出れば昼12時には戻れるので、この日のうちに下山できるだろう。三日目のため、茂来山・四方原山もGPSに入れてきていた。よって野菜が余ってしまうかもしれないので、二日分もってきた野菜の二日目の半分を朝に食べる。昨晩、ソーセージを忘れていたのに気づき、朝は1本食べる。朝は寒く、レインウェアの上を着ていたが、明るくなるにしたがい暑く感ずるようになる。林からいったん抜け出た「のろし場」でザックを下ろし、ヘッドランプをしまい、レインウェアを脱ぐ。すると、もう登っていく人たちが追いついてきた。二人組の人と、半袖半ズボンのトレイルラン・スタイルのこわそうな顔をした人。このときは網笠と西岳の背後の山々は朝霧で見えていなかったが、足元にはややくたびれたナデシコに元気なウスユキソウ。

ナデシコ

ウスユキソウ

うっすら朝焼けの富士山

キジムシロ?

イワギキョウ

シルエットのギボシ

夜明前のギボシ

アキノキリンソウ

イワオウギ?

日の出

ウサギギク

権現小屋

ギボシ(権現岳・二峰)への途上で、東にうっすら朝焼けの富士山、行く手には夜明け前の空に黒いシルエットのギボシが迫る。すごい絶景になってきた。気の早いアキノキリンソウにイワギキョウ。そして日の出。登山道はギボシの頂上直下を巻いて北に向かう。ギボシに登っておきたかったが、まずは権現岳に登ろう。権現小屋の手前で黄色い大きな花のウサギギクを見る。小屋の前にも他の花といっしょに咲いていた。その先の三差路から東を見ると、緑の台座の上に岩峰を突き出した権現岳が立っていた。いかにも山神が住んでいそうな雰囲気。その台座に向かうと南に、網笠の背後の南アルプスを見た。鳳凰山、農鳥岳、北岳、甲斐駒、仙丈岳、鋸岳が見事に勢揃い。岩峰の下の登山道に「権現岳」の頂上標識が置いてある。狭い頂上では記念撮影も難しいから、わざわざそこに置いたのだろうか。そこから岩峰にとりつき、狭い頂上まで登ってみると、古い石板の上に宝剣と頂上標識が立っていた。

権現小屋の前の花々

道標

権現岳

 南アルプス:鳳凰山、農鳥岳、北岳、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳、鋸岳

登山道の権現岳頂上標識

権現岳頂上

縦走路と阿弥陀岳と赤岳

権現岳の頂上稜線を北に向かうと、谷を隔てた向こうに阿弥陀岳と赤岳が黒々とものものしく並んでいる。その手前に一回り小さな旭岳が鎌首をもたげていて、縦走路はその鎌首に向かって狭い稜線の上に伸びている。俗世間を超越した世界の景観が目の前に広がっている。青年小屋から赤岳は距離4㎞、高低差800mだが、それよりもはるかに遠いように見える。旭岳から先の縦走路はいったん右(東)にせり出しているが、その先で大きく落ち込んで底が見えない。権現岳からその縦走路を北に下っていくと、あのNHKにっぽん百名山に出てきた長いハシゴがあった。こいつは長い。でも思ったよりも垂直でなくて、楽に降りられそうだ。いつものようにスティックを中指・薬指・小指で握り、親指と人差し指でハシゴをもって降りる。ぶら下げてもいいが、ガチャガチャ音がするので騒がしい。難なく降りたが、帰りにこれを登り返さないといけないと思うと気が重い。

長いハシゴ

旭岳(縦走路の南側より)

登山道はしばらく尾根の西側をトラバースしてゆき、途中で最初の休憩。西岳の向こうに中央アルプスが見える。あれは御岳、その右に乗鞍、ありゃりゃ、北アルプスも見えている。すごい景観だ。前日は全く見えていなかったのに、この日は全てが見えていた。パンを食べ、前日に1本の1/3くらいしか飲まなかったポカリをぐいぐい飲み干す。この後、間違えて尾根に上がっていく踏み跡をたどると標識が立っていて、そこが旭岳の頂上だった。そこから下っていくと男性がやってきて、「この上は旭岳か」と聞くので、「そうです」と答える。「その先も道はあるのか」と聞かれ、「わからない。間違えて登ってしまったので」と答える。

 中央アルプス: 仙涯嶺、南駒ヶ岳、空木岳、檜尾岳、宝剣岳、木曽駒ヶ岳、経ヶ岳、御岳

北アルプス1

・乗鞍岳

北アルプス2

・穂高岳

・槍ヶ岳

北アルプス3

・黒岳(水晶岳)?、燕岳?

・立山

北アルプス4

・鹿島槍ヶ岳

・五竜岳

・白馬岳

権現岳頂上と人

小鳥(スズメじゃないよね?)•••••イワヒバリのようです

旭岳頂上標識

赤岳への縦走路

旭岳方面に縦走路を登る人々

旭岳(縦走路の北側より)

旭岳からは再び林に入って強烈な下り。そこを登ってくる団体さんはずいぶん大変そうだった。道を開けて立ち止まっていると、「十二人いますよ」と言われ、スティックを使ってさっさと下る。「早い人がいきますよー」と大きな声をかけてもらい、恐縮。下で待ってくれた人は「ゆっくりでいいですよ」と言ってくれたが、この頃はまだ元気だった。だが、登り返しのことを考えると暗い気分になる。うねる縦走路の先に、阿弥陀岳と並んで、鋭鋒の姿の赤岳が待ち構えている。岩尾根トレッキングの核心部はこれからだ。いったん平坦な稜線になり、その先の二つの丘、2,550mと2,560mにはコマクサの群落があった。砂礫がむき出しになった何もない緩い斜面にピンク色の花がたくさん揺れている。この花だけがもつ緑の草原とは全く違う世界。コマクサの丘から林の中を更にぐんぐん下っていく。どうせ赤岳に登り返さないといけないことを思うと、このくらいにしといてくれと言いたいほどぐんぐん下る。そんなときキレット小屋の分岐表示が現われ、少しでも登り返しを減らしたい私としては、キレット小屋に行かずにまっすぐ進むが、この道が整備されてなくてハイマツやらの枝を払って進まねばならず、おまけに小さなアップダウンもあり、楽ではなかった。キレット小屋に寄った方が正解だったろう。

コマクサ

阿弥陀岳と赤岳

キレット小屋への南側の分岐標示

咲き残りのシャクナゲ

タカネツメクサ

イワギキョウ

権現岳、旭岳、ギボシ、西岳、阿弥陀岳

タカネツメクサ

岩場1

キレット小屋のある2,450m付近が最低コルで、ここからいよいよ登り返し。とぼとぼと登り返していくと、元気な団体さんが二組ほど追い付いてきたので道を譲る。咲き残ったシャクナゲ。長い急なザレのつづら折りをゆっくり登る。細かい石や大きな石は転がり落ちやすいのでなるべく触らないように登るが、時々触れてしまってザラザラ落ちていく。ツメクサの小さな白い花がびっしり。登りきったところから岩場となり、ペンキマークに従って登っていくと、短いハシゴが数本。このうちの一つは不要だった。再び視界が広がり、背後の権現岳は目の高さになり、西岳も阿弥陀岳と並んで見えていた。昨日と今朝はあそこに立っていたのだ。ずいぶん登ってきたものだ。雲が広がり、遠景はもう見えなくなっていたが、道端の黄色い大きな花はキンバイソウかな。再び短いハシゴを登り、2,710mコブに着くと休んでいるパーティ。だいぶ前に追い越して行ったパーティだと思うが、もう赤岳まで行って戻るところなのかと思ったら、そうではなかった。また追いついてきたので、分岐表示のところでまた道を譲る。そこは四つ角で、真教寺分岐と文三郎道の表示。今度の黄色い花はキジムシロ?

岩場2

短いハシゴ

赤岳に向かうトラバース路

キンバイソウ

ウスユキソウ

ナデシコ

短いハシゴ(2,710m手前)

赤岳と縦走路(2,710mコブより)

四つ角標識

キジムシロ?

短いハシゴ(2,820m付近)

赤岳と赤岳頂上小屋

赤岳頂上直下を登る人々

竜頭峰分岐の標識

短いハシゴ(頂上直下)

また短いハシゴを登り、よし、ここが頂上だろう、と思ったら違っていて、また分岐表示のところだった。東からのルート(真教寺尾根)を二人ほどが登ってくる。その先で間近に赤岳頂上とその横の頂上小屋が見え、更に登るとルートは頂上稜線の西側をトラバースする道となり、その頂上直下の切れ落ちた西斜面をはるか下から大勢が登ってくる。それは2005年に登った行者小屋からのルートで、頂上直下の2,870mのところで権現岳からのルートと合流している。合流点には竜頭峰分岐の標示があり、下ろうとしているらしい人が立ち止まっていて、登ってくる人を待っていた。私も登る人なので、行者小屋からの人たちに合流して登る。

満員の赤岳頂上

赤岳の一等三角点

赤岳の頂上標識

最後の短いハシゴを登り、そして13年ぶりの赤岳頂上に立つ。頂上は満員で、頂上標識は順番待ちになっていたので、先に三角点を撮影し、ザックを置いてから頼んで写真を撮ってもらう。13年前の頂上標識もこんなだったかな。いや、たぶん違ってる。(・・・・・同じだった!)

 2005年の頂上標識

天狗岳

頂上の北側の狭いところに座って休憩。結局、本日2度目。バナナを忘れたのでナッツを袋半分ほど食べる。ポカリをいくら飲んでも足りない感じなので、3本目を半分残す。残り2.5本。節約していこう。既に雲が湧き出していて、北アルプスは見えず、蓼科山と天狗岳の二つのピークが見えていた。蓼科はいつのまにか見えなくなり、私も眠くなり、狭い所に横になって根をつむる。風が心地よい。頂上のすぐ北隣に頂上小屋があり、そこも人だかり。あんなところに泊まったらどんなだろう。

硫黄岳

赤岳頂上から北の景観・阿弥陀岳・雲の中の蓼科山・天狗岳・硫黄岳・横岳・赤岳頂上小屋

 

赤岳頂上の祠

 

ハクサンイチゲ

雲を吹く帰りの縦走路

休んだら元気がでて、スティックを使ってどんどん下る。行者小屋コースとの合流点では、下からすずなりに登ってくる人たち、その列の隙間をぬって分岐を通過し、権現岳へのトラバース・ルートに入る。ここは空いているが、何人か早い人が追いついてきて、先に行ってもらう。最初の短いハシゴの下のザレのつづら折りの下りで、少しルートから外れている人がいたので声をかけてみると、「間違えちゃったみたい」と言って元気に順路に戻ってくる。「ちょっとコース外れるとすごく登りにくいですね」と話しかけたが、これは自分でこの日、何度も体験していた。このくらい歩きこまれた道でなければ、これだけの傾斜のザレをロープもなしで上り下りするのはかなり難しいだろう。

ガレの下り

岩間のニガナ

シロバナヘビイチゴ

キレット小屋

キンポウゲ

コマクサ

キレット小屋分岐表示手前にある草原の日陰になっているところでザックを下ろし、3度目の休憩。横になると心地よい。ポカリの3本目を空ける。帰りはキレット小屋に寄ってみる。新しそうな建物。昼間なので静か。テントサイトはだいぶ下。黄色い花はキンポウゲ。これから辛い登り返し。林から日向に出て早く通り過ぎようとすると、コマクサの群落に引き留められ、しゃがんで撮影。さっき撮ったからもういいじゃないかと思うが、花を見るとひきつけられてしまう。向こうからやってきた団体さんもコマクサに引き留められている。権現岳への登り返しでは日陰になっているところが少ない。我慢して日光にあぶられながら登っていると、一番きつそうな旭岳への登り返しの途中が林の中で日陰になっているので、狭いスペースに座って休憩し、ポカリの4本目を半分飲む。年配の人が登っていく。「こんにちわ」「おつかれさま」

白いトモエシオガマ?

権現小屋

帰りは、知らないうちに旭岳を通り過ぎてしまう。また男性が一人、先に行き、更に背後から二人が迫る。マイペースで進むと、行く手に長いハシゴが見えてくる。またスティックをもったままハシゴを登るが、長くて辛い。下で二人が待っているので休まずに登る。へとへとになって登り切り、休めそうな日陰を探してのろのろ歩く。権現小屋の西側が日陰になっていたので、そこで横にならせてもらう。小屋の前の日向で休んでいる人たちがいたが、とても私には耐えられない。

シシウド

ウサギギク

だいぶ疲れていたが、最後にギボシに登る。登山道がギボシの頂上直下を通っているので、それほど登る必要はない。登山道から尾根筋を登って簡単に到達。下で見上げたときは鋭い鋭鋒だったが、頂上は穏やか。頂上手前に切株椅子、頂上には古い仏像があり、その上に文字が書かれた金属板が置いてあった。風で飛んでしまいそうなのでくぼみに置き換え、石を当てて動かないようにしておく。眼下には前日にここを見上げていた西岳と網笠山が丸い姿で兄弟のように並んでいる。そして東には権現岳が立っている。ここもまた忘れられぬ頂上。

ギボシ頂上

ギボシ頂上の石版と古い石仏

切株椅子

 ギボシからの景観: 権現小屋、権現岳、編笠山、西岳

開いたキワギキョウ

ハクサンチドリ

網笠山と西岳

賑やかなテント場

権現岳から下っていくとき、夫婦連れと男性が一人、先に行く。私はだいぶ疲れていて、最後に林の中で最後の休憩。青年小屋に戻り、そのまま水場に向かう。水は水バッグに半分未満しか残っていないだろう。追いついてきた夫婦連れと交代で1本づつポカリの空ボトルに水を入れ、最後に冷たい水を飲む。テントに戻り、着替えて横になる。まだ日が射していて暑い。入口を網戸にして寝ていると、周囲では夕食の喧騒。前日はいなかった団体さんが元気。夜中に寒くなって目覚め、網戸を閉じ、シュラフに入る。もう夕食を食べるのが面倒なので、朝食だけにしよう。そこで3時にアラームを設定して就寝。久しぶりにたっぷり眠る。

D3

テント場の夜明け

スマホがバッテリー切れで鳴らず、周囲の人声・物音で起きる。着替えをし、食事。前日の団体さんはテントごともういない。どこまで行くのだろう。テントを担いでキレット小屋までかな。またバーナーが点火せず、あせる。ボンベを振ったりしてみたが、どうやらバーナーの栓がボンベにうまく入らないのかもしれない。ネジを奥まで押し込むとよいようだ。朝露でべっとりのテントをたたみ、コンビニ袋に入れてからザックに詰めこむ。小屋に寄って二日目のテント代と記念バッジを購入。合計1,100円。赤岳に行ってきたと言うと、私も行きたいという店の娘さん。話がはずみそうなところへ御来光撮影から戻ってきたらしいおじさん二人が割り込んできた。「いやー、よかったよー」と娘さんに報告しながら私の方をうさん臭そうに見るので、私は退散。

鳳凰山

・薬師岳

・観音岳

・地蔵岳

・高嶺

富士山

イトシャジン?

人は少なそうなのでウォークマンを鳴らしながら下る。ジョージ・ハリスンのジャパン・ツアーというのはビートルズやソロの名曲満載で、しかもエリック・クラプトンがギターを弾いているという涙もの。タックスマンやオールド・ブラウン・シューなどはたぶんライブ演奏は初めてのレアもの。ヒア・カムズ・ザ・サンやマイ・スウィート・ロード。サムシングで観客が盛り上がったのは分かるが、マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスでも同じくらいに歓声が上がったのは意外。クラプトンのファンが多かったのだろうか。ジョージの甘い歌声は健在。ハリスンの次はジョージ・マーチン。彼がかかわったビートルズの曲をいろんなミュージシャンがプレイする。ジェフ・ベックのア・デイ・イン・ザ・ライフは逸品。

白いヤマオダマキ

紫のトモエシオガマ

この日も朝は雲が無く、途中の樹間から南アルプスが見えた。途中から登ってくる人にたくさん会い、団体さんもたくさん。みんな日帰り、網笠か西岳までなのだろうか。それとも青年小屋に泊まり?途中の分岐を空いてそうな富士見平の道に入ると、誰にも会わなかった。笹原の中に白いオダマキ。富士見平の周囲は木々が茂り、もう富士山は見えない。だが、鳳凰山、北岳、甲斐駒、鋸岳が見えていた。帰着した観音平駐車場は満車。私の車の隣からは道沿いに横づけしている車の列。そこにいた若い二人はやってきたタクシーに乗って下って行った。私はゆっくり片づけ、濡れたテントを荷台に広げておく。朝9時にやっている温泉はなさそうなので、近場の温泉を止め、10時過ぎに着きそうな温泉をカーナビ入力。高速は往路の中央道+圏央道ではなく、佐久・上信越道を入力。たぶんこちらの方が早いだろう。しかも安い。

富士見平からの南アルプス

・鳳凰山

・北岳

・甲斐駒ヶ岳

・鋸岳

満車の観音平駐車場

行く手になにやらモニュメントが見えると思ったら「まきば公園」で、奥秩父方面が見えていたので立ち寄って写真をとる。そこも人々で満員状態。清里のあたりは観光やリクリエーションの建物が多く、人も多い。登山服スタイルの人たちが大勢いて、歩きまわっていた。ここは巨大なリゾート地のようだ。立ち寄った温泉(アクアリゾート清里・天女の湯)は巨大な駐車場に数台、大きな浴場に数人。露天は温かったが、内湯は熱かった。紫の菊の花はミヤコワスレ。今度は野菜と桃の直売。よさそうな店があったのでたくさん買う。桃もやすいのを2個。ナス、大ナメコ、キュウリなど、いくらでもある。

ミヤコワスレ(アクアリゾート清里)

赤岳に登ることを目標にした2005年の登山と違い、今回は岩尾根を辿って権現から赤岳を往復するちょっとしんどいツアー。二日目の行程は、数値のうえでは距離4㎞、標高差800mで、その日のうちに下山もと考えたが、そんなに甘くはなかった。夏の日差もきつかった。だが、そんな辛さは全部忘れてしまえるだけの体験ができた。鋭鋒のギボシと権現岳、うねる縦走路の先に待つ赤岳。二日目の朝は富士山と三つのアルプスが全部見えていた。観音平にはオダマキ、青年小屋にはイワオトギリ、西岳にはウスユキソウ、権現岳にはウサギギク、二つのコマクサの丘、そして赤岳へのザレの登りではツメクサの白い小さな花がびっしり咲いていて、旅人に笑いかけていた。思い出に残るすばらしい景観と花の旅

問合せ・コメント等、メール宛先: kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com