五竜岳 黒い岩峰の巨人、白い北壁の滑走

富山県  五竜岳2,814m、白岳2,542m、小遠見山2,007m  2008年4月28~29日(小屋1泊)

    西遠見山2,268m、大遠見山2,108m、地蔵ノ頭1,673m

(五竜岳)日本百名山

292

遠見尾根の左カーブのところを登ると初めて五竜岳が見える。雲が取れてきて、黒と白のコントラストが美しい。白い尾根の上に立つ黒い岩峰の巨人。その手前に低く遠見尾根が続いている。

白岳の最高点まで行ってザックを下ろすと、横から見た五竜がそびえ、真っ白な頂上北壁がこちらを見下ろしている。明日は登ってやるからな。

そして五竜の頂上から北壁に滑り込む。頂上直下は柔らかかったが、その下の斜面はアイスバーン状態。ショートターンを楽しめる状況ではなく、滑りやすいところを選び、固い雪面に両スキーを踏ん張っての滑りとなる。下を見ると五竜山荘に観客4名。最後に稜線に戻り、ショートターンを2、3回決めてのフィニッシュとなる。どうも、どうも。

白馬五竜スキー場に戻り、ついさっき頂上から滑った五竜岳を感慨を持って見上げる。やった、本当にあそこを滑ったんだ。昨日、登りに8時間かかった遠見尾根を、今日は2時間で下りてきた。スキー場は春スキーの人たちで賑わっている。テレキャビン・ゴンドラに乗り、ゆっくり駐車場まで下る。

遠見尾根の左カーブのところを登ると初めて五竜岳が見える。雲が取れてきて、黒と白のコントラストが美しい。白い尾根の上に立つ黒い岩峰の巨人(写真は二日目のもの)
白岳の最高点まで行ってザックを下ろすと、横から見た五竜岳がそびえ、真っ白な頂上北壁がこちらを見下ろしている。明日は登ってやるからな。
地蔵ノ頭のケルン
五竜山荘の人たち
ブナの木
東側(大渚山)から見る五竜岳(2018年3月24日)
D1 8:56 リフト乗車 9:03 リフト・トップ、シートラ 9:15 地蔵ノ頭1,673m 9:37 コル1,650m、シール10:26 P2・1,892m11:04 小遠見山2,007m11:49 中遠見山2,037m13:04 大遠見山2,106m14:32 西遠見山2,268m15:48 シートラ16:43 白岳2,541m16:58 滑走17:07 五竜山荘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リフト・トップから8時間4分D2 8:40 五竜山荘発、シートラ 9:48 G2・2,730m10:35 五竜岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り1時間55分10:54 五竜岳発、滑走11:09 五竜山荘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・滑走34分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復2時間29分11:29 五竜山荘発、滑走11:59 大遠見山12:24 コル1,960m、シートラ12:43 中遠見山(シートラ+滑走)13:04 コル1,970m(スキー横登り+滑走)13:38 スキー場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・五竜山荘11:09から2時間9分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・五竜山荘8:40から4時間58分13:49 テレキャビン乗車14:00 テレキャビン麓駅

GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG

D1

朝5時、雨で濡れた富山市内から車を出す。北アルプスは見えない。糸魚川インターで下りると、右手に明星山らしき山が見える。だんだん晴れてくるようだ。雨飾は見えないが、小谷村の入口を過ぎ、栂池高原スキー場の入口を通過。来年はここに来ることになる。そして白馬村に入り、行く手に八方尾根が見えてくる。下はもう夏なのに、雪の山がそびえる。八方尾根の入口を過ぎ、白馬五竜の入口で右折。行く手に高くスキーゲレンデが見え、やがてテレキャビンのあるスキー場に到着。ここからは五竜は見えない。テレキャビンの横の駐車場に行くと、春スキーの連中がもう集まっている。7時半だが、テレキャビンは8時15分、上のリフトは8時半とある。少し仮眠をとってから準備。先に登山届を出していると、テレキャビンに長い列ができてきた。

トイレに寄ったりでゴンドラに乗ったのは8時半過ぎ。翌日も使えるというので回数券トークンを買う。ピッケルも入れて重装備だが、結局、ピッケルを持っていったのは正解だった。ゴンドラに乗ってみると、ゴンドラ下の滑走ルートにはそこそこに雪が残っており、明日16時のテレキャビン最終に乗り遅れてもなんとか自力で下りられそうだと思う。

アルプス・ゲレンデに着いて外に出ると、真っ白なゲレンデの向こうに雲をかぶった五竜がいた。縦の菱形がくっきりと見えている。リフトまで少し滑って乗り込む。ザックは前にかかえてペア・リフトの隣に乗せる(そうしろと係員に指示された)。五竜は雲に隠れたり、また見えたりだが、晴れそうな感じ。リフトを降りると正面に雪壁があり、これが地蔵ノ頭らしい。雪壁に踏み跡がついているので、スキーを担いで登る(実はスキーで迂回して、裏から登ることはできたようだ)。頂上には立派に組まれたケルンに小さな石地蔵、頂上標識がある。方位図写真が東西に二つあるが、いずれの方角も遠景は雲でかすんでいて見えない。行く手には遠見尾根の手前の部分。稜線の一番高いところを歩いている人影が見える。

地蔵ノ頭の先には慰霊碑ケルンと石地蔵多数。そこでスキーをはいてコルまで滑り込む。見えている遠見尾根の先端が小遠見のようだ。コルには黄色のテントが一張。主は今、登っているのだろうか。コルでシールを張って出発。踏み跡もスキートレースもある。登るにつれ、スキー場や地蔵の石塔が見え、その背景の市街地がぼんやり見えてくる。八方尾根が広がり、その先端の唐松岳・東峰には目立つ黒い岩。稜線に出ると行く手の遠見尾根が小遠見まで見えるが、その向こうは見えない。小遠見の左手にあるのは天狗岳というらしい。尾根上にスキーが刺してあったが、下降点の目印かな。

遠見尾根の左カーブのところを登ると再び五竜岳が見える。雲が取れてきて、黒と白のコントラストが美しい。白い尾根の上に立つ黒い岩峰の巨人。その手前に低く遠見尾根が続いている。ずいぶん近く感ずるが、最後の白岳への登りがしんどそうだ。左カーブの先に「五竜とおみ遊歩道」の道標。なるほど。この先の緩いピーク(P2・1,892m)の手前に赤いテントがあり、下ってきた団体さんにも会う。笈とうってかわって人が多い。さすがに北アルプス。

ここで五竜を観察。ガイドにあったB沢というルンゼが頂上右に見えているが、あれは止めておいたほうが良さそうだ。今は見えてないが、頂上北壁を滑り、斜面をトラバース滑走して五竜山荘に戻る、というクラシック・ルートが正解だろう。P2を過ぎ、小遠見が近付くと、かすんだ鹿島槍が見えてくる。北峰しか見えていないが、この位置からだと南峰は見えない。

トラバース分岐標識をまっすぐ登って小遠見頂上。11時。リフト終点から2時間。テントを張った跡が二つ。頂上標識に石標。鹿島槍の手前に大きな白い谷。カクネ里雪渓というらしい。コルまで滑り降りると山を下ってきた二人に会う。大きなザックで、どのくらい山にいたんだろう。コルで最初の休憩。風が冷たいのでネックウォーマーを出し、ゴーグルをかける。ストックにかけておいたヘルメットが落ちて坂を転がる。あわてて追いかける。雪の上で止まったが、気をつけねば。

中遠見への尾根を登ると、頂上は稜線のまだ先で、途中に緑のテント。ロープで樹木に固定している。稜線上だとこのくらいしないと飛ばされるだろう。稜線は細くなり、北側は切れ落ちている。雪は柔らかく、スキーが正解だろう。ほぼ水平の稜線上に忽然と中遠見の頂上標識とケルンあり。この次の大遠見、西遠見はマップによるとだいぶ離れていて、西遠見まで2時間、白岳の登り400mに2時間としてあと4時間とみる(西遠見と白岳の標高差は200mだが、コルまでいったん下降する)。16時には着くだろう(それぞれプラス30分、計プラス1時間かかった)。五竜はまた雲をかぶっており、今日のあの状況だと、頂上からの滑走は無理だろう。

いったんコルに下り、細尾根のアップダウンを繰り返し、小さなコルのところで休憩。降りてきたオジサンが、テントを持ってるなら大遠見か西遠見に泊まれという。「夜明けの鹿島槍の北壁がすばらいいんだ。私は正月に写真を撮った」という。正月と今とでは朝日の出どころも違うような気がするが。五竜の北壁を滑りたいんだ、とだけ言っておく。ここからだと五竜の北壁は頂上直下に白く小さく見えている。それを見ておじさん、「ジャンプターンができないと、私では無理だな」と言う。まあ、そりゃあそうだ。今日の風だとハードバーンになってるだろうから、「今日は無理だと思いますがね」と言っておく。

後方の小遠見と中遠見の二つのピークが遠くなり、やがて広い尾根にでる。標識はなかったが、そのあたりが大遠見だったようだ。白岳の手前に二つピークがあり、それが大遠見と西遠見と勘違いしていたのだが、手前が西遠見で、先のピークは白岳の肩であった。八方尾根の先端の黒いピーク(唐松岳・東峰)が目立っている。その手前の一段低いのが大黒岳だが、見た感じは東峰の方が大黒と呼ぶにふさわしい。鹿島槍の南峰が見えている。双耳峰となった鹿島槍を何度も写す。

いったん細尾根となり、再び広い尾根を歩いたところでいいかげんに疲れて休憩3回目。P6・2,200mのあたり。もう白岳は目の前に大きく、シラタケ沢源流部の大きな斜面が広がる。空はまた晴れてきたが、五竜の頂上はまだガスを引いている。白いダケカンバの尾根を下り、西遠見への急な登りとなる。だいぶへばってきていてペースは遅い。西遠見頂上は雪におおわれ、赤旗がポツンと立っていた。大きなギャップをはさんで白岳の肩(P8・2,360m)が先にある。シラタケ沢源流部の上のコルに五竜山荘の屋根と思われるものが見える。いくつか踏み跡にスキートレースが残っており、肩をトラバースしているのが多いようだ。シラタケ沢源流部には小さなデブリが落ちており、そこを通過しているトレースもある。

いつしか空は完全に晴れ、五竜が全身を現わし、鹿島槍も双耳の間が開いて印象的な姿になっている。ただし、五竜の頂上部分は見えない。コルに直接滑り降りるには狭くて急すぎるので、南側をからめて滑降・・・柔らかい雪にスキーをとられて転倒。シールでビンディングも外しているので、気をつけないといけない。北側は雪庇になっているコルに近づくと、行く手の広大な斜面に滑走トレースも見えてくる。だいぶ下のほうまで滑っているようだ。コルで休憩。スキーをひっくりかえしてこびりつた雪を取るが、冷たい風が吹いているので、解けた雪がシールにくっついて凍りやすくなっている。振り返ると西遠見の北側もすさまじい雪庇になっている。

五竜の真上に太陽がきており、シラタケ沢に影ができてきた。ここいらが日陰になるとますます登りにくくなる。肩にはゆかず、トラバースの最短ルートに向かう。デブリに向かうトレースのところまで登り、そちらに行こうかとも考えたが、やはり白岳に向かう。スキーに雪がついて重くなり、肩と白岳のコルのあたりで最後の休憩。シールの雪が凍ってとれないので、担いでいくことにする。西遠見も遠見尾根もずいぶん低く見えている。

担いで歩くのは楽ではなかった。なにせ雪が柔らかいので踏み跡の通りには歩けない。5歩づつくらいに踏み抜きもある。重いザックにスキーもしょっているのでますます靴が埋まるわけだ。五竜の影は広がり、頭上の雪壁に集中して登る。見えないゴールはなかなか来ない。シラタケ沢の上のコル(2,480m)と同じくらいの高さになると、五竜の北壁がよく見えるようになる。明日はあそこを滑れるだろうか。その下には五竜山荘の屋根。奥には、いったん見えにくくなっていた鹿島槍が再びよく見えている。

影が広がる白岳の頂上直下を最後のがんばりで登りつめ、白岳の頂上(2,541m)に着く。もう5時前。赤旗と三角点があったが、踏み抜きに悩まされていたので三角点へはゆかず。三角点の向こうには黒い東峰の後ろに唐松岳・本峰が見えている。もう少し先の西側の方が高いので、白岳の最高点まで行ってザックを下ろすと、横から見た五竜がそびえ、真っ白な頂上北壁がこちらを見下ろしている。明日は登ってやるからな。このときは西の空は曇っていて、剣は見えていなかった。

五竜山荘まではわずかだが、一応、シールをはがしてスキーをはいて山荘まで滑走する。と思ったが、途中で雪が切れてしまい、スキーを両手に持って歩き、山荘手前のところで再びはいてフィニッシュ・・・と思いきや、バランスを崩して転倒。かっこ悪い。誰も見てなかったよな。山荘に入る前に五竜を見上げる。ずいぶん近いが、標高差400mあるから登りに2時間かかるだろう。でも、早朝ではアイスバーンだろうから、8時頃から登ろう。

五竜山荘に入ってみると、なんと明日から営業だという。素泊まりならいいというので、6,300円で素泊まりを申し込む。二階の大きな部屋を独り占めし、ふとんも二枚重ねにし、快適、快適。トイレもあり、電気もついてるし、食堂での食事では石油ストーブもつけてくれた。鼻をかみながら食事をしていると、食堂の厨房で小屋の人たちの食事。水を1リットル分けてもらい、うどんとご飯を食べる。まだ明るいので、窓から五竜を何度も眺める。部屋に戻り、7時前に就寝。このときはツェッペリンを古い順に聞いていて、1972年のミラージュ(京都公演)まできた。明日はがんばるぞ。

D2

朝起きると快晴。とりあえず7時まで寝て外を見ると、真っ白に輝く五竜の北壁が呼んでいる。見るからに固そうだ。がまん、がまん、と思ってふとんにもぐりこむが、7時半には起きて朝食にする。外が明るいのに寝ていられない。朝食を終え、昨日買った大型サックにテントやシュラフを入れ、小屋に置かせてもらって出発。小屋の玄関では男性一人が作業中。スキーをザックに取り付け、アイゼンをつけて出発。

雲ひとつない青空、しかも風もなし。こいつは登って滑るしかないだろう。少し歩いて振り返ると、五竜山荘の後に白岳があり、そのまた後に唐松岳。その向こうに見えるはずの白馬三山のあたりは雲がかかっている。踏み跡が稜線沿いに続いており、これを辿って行けばよさそうだ。シラタケ沢の上のコル2,480mは簡単に過ぎ、登りにかかる。稜線の端のところに来ると、南側に鹿島槍の北峰が見える。稜線には岩がでていて雪がないため、踏み跡は斜面をトラバースしていく。スキーの滑走トレースもひとつあって、これは稜線沿いでなく、片斜面を大きくトラバースして五竜山荘に続いている。稜線に近いとアップダウンもあり、岩も出ているので、片斜面を滑るほうが正解だろう。しかし、雪が固いとどうだろうか。

G2の前に岩ピーク二つ(G3・2,658mとG2手前の岩峰)の脇をトラバース。わずかな下りトラバースに神経を擦り減らす。足を交差するときに踏み外したら落ちそうだ。ピッケルを左手に持つが、ストックが邪魔になる。右手に持ち替えてピッケルとストックの両方を右手でもつ。しっくりこないが安心感はある。G2への登りはかなりの傾斜で、ここも右手にピッケルを持って雪面に差し込みながら登る。登っている途中で、鹿島槍が時々見え、左手はるか下に遠見尾根が見え、振り返ると五竜山荘が真下に見える。G2・2,730mに着くと、目の前に五竜が大きくそびえるが、まだ遠い(ここまで約1時間、ここから約1時間)。鹿島槍の全景と曲がりくねった稜線が見える。すぐ後ろにはG2の頂上稜線の端が白いピークのように見えており、その先に低く岩ピークが見えている。

B沢コル(2,710m)へ下降し最後の登りへ向かう。頂上北壁は目の前。頂上稜線に雪庇があるようだ。あそこを避けて滑りこまねば。B沢コル中央から下をのぞきこむ。下は良く見えないが、傾斜が急であることは確かだ。やがてG2も後に低く見えるようになり、頂上稜線に着く。正面に鹿島槍。頂上は東西に細く、鋭角に尖った西端に頂上標識が立っている、いつしか空は晴れて、唐松岳の向こうに白馬三山が見えている。眼下の北壁はかなり急だが、頂上直下に少しふくらみがある。鹿島槍へ険しい尾根が続いており、あの中央付近にキレットがあるのだろう。頂上南側は雪が切れている。

鹿島槍の右側には山々が遠く連なり、あれが薬師だろう。その右手に大きいのが立山、すると、おお、剱がすぐそばに見えている。ここから見る剱は岩峰がたくさん折り重なって荒々しく見える。たぶん長次郎谷が斜めに見えていて、その手前下が三ノ窓、それに連なるのが八ツ峰だろう。剱の右手には毛勝三山がピークを並べている。右端の毛勝頂上は更に二つに分かれているのが見える。反対側の立山は、別山と真砂岳と本峰の三つのピークを持つ横幅の広い姿に見える。薬師から見た時は尖峰に見えていたし、見る方向によってずいぶん形が変わるようだ。

頂上尾根を辿って五竜頂上。頂上標識には肝心の山名板が無い。冬のあいだはわざと取り外しているのだろうか。山荘から2時間。ザックを下ろし、スキーを山頂に立てる。三つのカールを並べた薬師と鹿島槍の間の山々は何だろう。どうやら、薬師の左にあるのが赤牛で、その先が黒岳、鹿島槍の右手にやや低く見えているのは針ノ木のようだ(針ノ木に登り、頂上直下を滑った今は、針ノ木の頂上の形と、頂上直下の目のような岩が記憶にある)。剱や白馬三山や鹿島槍をバックにフィッシャーを写すと、スキーが引き立って見える(逆かな)。ふと北西の方向を見ると、ガスに霞んだ雨飾に頚城三山、高妻が見えている。

そして五竜の頂上から北壁に滑り込む。頂上直下は柔らかかったが、その下の斜面はアイスバーン状態。ショートターンを楽しめる状況ではなく、滑りやすいところを選び、固い雪面に両スキーを踏ん張っての滑りとなる。頂上に腰かけて下を見ると、山荘までの一枚バーンが続いているように見える。実際には片斜面。オーバーハングしていて見えない斜面もある。さて、スキーを履いて滑降準備。最後に鹿島槍のバランスのよい双耳峰を見て、頂上から北西方向に滑り込み、東側に回り込んでいく。いったん止まって振り返ると、斜面に波打って付いたトレース。このあたりはまだ柔らかい。しかし、そこから稜線沿いに滑ると、カリカリの斜面となる。そのまま稜線沿いをゆくとアップダウンあり、片斜面がきつい、となるので、ここは中央の平らな斜面までトラバースすることにする。カリカリ言わせて中央の小さな尾根をこえると、平らは平らだが、雪コブがたくさんついていて滑りにくい。ジャンプターンで慎重に滑り下り、二つの岩峰の下あたりまで下り、そこから稜線沿いのトラバース滑走に移る。体重を谷足側に傾けての慎重な滑走。一つめの岩峰(G3)の下で雪の無い尾根にぶつかって停止。ジャンプターンで下を回って尾根の向こう側の斜面に進む。

下を見ると五竜山荘に観客4名。最後に稜線に戻り、ショートターンを2、3回決めてのフィニッシュとなる。どうも、どうも。頂上から滑走開始するとき、五竜山荘の前に人が一人いるのが見えたが、だんだん人が集まってきて、山荘前に滑り込んだときは数人が山荘前のテーブルのところにいた。片斜面から尾根に出たところで観客の視線も気になり、ショートターンもできるところを披露してフィニッシュ。途中でスキーを少しとられてバランス崩したが、大過なし。「いやーどうも」。テーブルにいた4人のうち3人は到着を見届けるとすぐにいなくなり、一人が登山道の状況などを尋ねる。スキーを持っていたので心配で見ていたんだろうか。「踏跡はついてましたか」「あぶないところは」などを聞かれ、「大丈夫」「下りのトラバースがこわかった」などと答える。「そういえば頂上標識に山名板がついてなかった」

小屋に入って大型サックに入れておいた荷物をザックに入れなおし、尾根下りの滑走となる。もう白岳に登るのはやめ、目の前のシラタケ沢源流部の大きな斜面に滑り込む。重装備なので連続ターンというわけにはいかず、西遠見に向かってトラバース滑走。それでもぐんぐん下ってゆき、山荘はもう見えなくなり、尾根を登るスキーヤーがひとり見える。ずいぶん早いなあ。まだ昼前。西遠見の直下あたりから見る大遠見もかなり低く見え、そこに向かってゆっくりターンで降りる。踏ん張る毎にヒザに重圧。大遠見のあたりまで降りて平らなところを歩いていると、やや下のほうから三人がシールで登ってくる。三人が追いついてきて、先頭の男性が「五竜に登りましたか、頂上にスキーはありませんでしたか」と尋ねる。「頂上に登ったけど、スキーは見なかったなあ」三人はそのまま遠見尾根をシールのまま下っていってしまった。こちらはコルのところで休憩。五竜北壁のアイスバーンとはうってかわってシャバシャバの柔らかい雪。昨日の風は無く、上着を脱ぐ暖かさ。

もう五竜の白い北壁は見えなくなり、黒々とした菱形の岩稜になっている。いや、菱形の岩峰の左にわずかだが頂上北壁が覗いている。P6・2,200mと大遠見を過ぎると、白岳がトカゲの頭となり、鹿島槍が視野に入る。しかし、大遠見から尾根を歩き、急斜面をコルに下っていくと、次第に鹿島槍の双耳は近づき、やがて南峰のかげに北峰が見えなくなっていく。すると昨日、ガスで隠れて一峰しか見えない訳ではなかったのだ。逆に五竜のほうは頂上手前の岩峰の左の北壁がはっきり見えるようになっている。こちらは昨日のガスで、頂上が見えにくかったのだろう。中遠見とのコルに下っていくと、スキーの三人のうちの一人が先の二人から遅れてコルを降りているところだった。私はコル1,960mに下りたところで休憩。青空が広がり、一峰となった鹿島槍の左に爺ヶ岳。東には頚城三山と雨飾がかすんで見えている。

スキーをかついで中遠見に登ると、八方尾根の上に白馬三山が姿を現わす。鹿島槍の根本には大きな谷(カクネ里雪渓)が口をあけている。次のコル1,970mへの下りでは、南側に廻りこみすぎて少し登り返す。コルに滑り込むと、徒歩の三人が休んでいた。「何キロかついでるの。ショートスキーで50度くらいのところをうまく滑ってる人がいた」などと言う。「このくらい長くないと、うまく滑れない」と言っておく。コルからは小遠見の頂上はパスしてスキーのままで登っていく。トレースあり。向こう側の尾根に着くと、五竜まで6kmの標識あり。すると6km来たわけだ。

最後の尾根を下って行くと、はるか下に町並みが見え、その上に高妻、乙妻が見える。さっきよりだいぶはっきり見える。尾根を歩いていた二人を追い越していく。二人目の男性は何かが危ないと言っていたが、良く分からず。ピッケルをザックにゆわえていたのが動いていて、危ないということだったのだろうか(この後、毛勝岳以降はさかさまに取り付ける)。

白馬五竜スキー場に戻り、ついさっき頂上から滑った五竜岳を感慨を持って見上げる。やった、本当にあそこを滑ったんだ。昨日、登りに8時間かかった遠見尾根を、今日は2時間で下りてきた。スキー場は春スキーの人たちで賑わっている。テレキャビン・ゴンドラに乗り、ゆっくり駐車場まで下る。スキー場に滑り込んでいくと、地蔵ノ頭の頂上に何人かいるのが見える。今度は地蔵には登らずに廻りこみ、リフト頂上駅の横でザックを下ろして休憩。スキー場はスキーヤーにボーダーで盛況。まだ2時前だったが(山荘から約2時間)、疲れていたのでテレキャビンに乗り込み、駐車場に戻る。回数券で買ったトークンは有効。

駐車場に戻ってゆっくりザックを片付け、スキーを拭いてワックスを塗っておく。松本でシール・グルーと風邪薬を買いたいということでカーナビに入力しておいて出発。しかし、最初に入力した温泉が休業中で出鼻を挫かれ、二軒目の温泉でやっと一息。道の駅で食事をし、途中のドラッグストアで風邪薬やペットお茶を購入したが、松本市内は渋滞していて石井スポーツに着いたのは18時頃。チューブのグルーが無く、缶入りのを買う。ハケが付いているので悪くないが、フタを開けるのに苦労した。夕食を買い込み、久しぶりのハミルトンインに入ったのは19時前。もう暗くなっていた。

D1

八方尾根

朝5時、雨で濡れた富山市内から車を出す。北アルプスは見えない。糸魚川インターで下りると、右手に明星山らしき山が見える。だんだん晴れてくるようだ。雨飾は見えないが、小谷村の入口を過ぎ、栂池高原スキー場の入口を通過。来年はここに来ることになる。そして白馬村に入り、行く手に八方尾根が見えてくる。下はもう夏なのに、雪の山がそびえる。八方尾根の入口を過ぎ、白馬五竜の入口で右折。行く手に高くスキーゲレンデが見え、やがてテレキャビンのあるスキー場に到着。ここからは五竜は見えない。テレキャビンの横の駐車場に行くと、春スキーの連中がもう集まっている。7時半だが、テレキャビンは8時15分、上のリフトは8時半とある。少し仮眠をとってから準備。先に登山届を出していると、テレキャビンに長い列ができてきた。

白馬五竜スキー場

テレキャビン

トイレに寄ったりでゴンドラに乗ったのは8時半過ぎ。翌日も使えるというので回数券トークンを買う。ピッケルも入れて重装備だが、結局、ピッケルを持っていったのは正解だった。ゴンドラに乗ってみると、ゴンドラ下の滑走ルートにはそこそこに雪が残っており、明日16時のテレキャビン最終に乗り遅れてもなんとか自力で下りられそうだと思う。

テレキャビン

上のスキー場

アルプス・ゲレンデに着いて外に出ると、真っ白なゲレンデの向こうに雲をかぶった五竜がいた。縦の菱形がくっきりと見えている。リフトまで少し滑って乗り込む。ザックは前にかかえてペア・リフトの隣に乗せる(そうしろと係員に指示された)。五竜は雲に隠れたり、また見えたりだが、晴れそうな感じ。リフトを降りると正面に雪壁があり、これが地蔵ノ頭らしい。雪壁に踏み跡がついているので、スキーを担いで登る(実はスキーで迂回して、裏から登ることはできたようだ)。頂上には立派に組まれたケルンに小さな石地蔵、頂上標識がある。方位図写真が東西に二つあるが、いずれの方角も遠景は雲でかすんでいて見えない。行く手には遠見尾根の手前の部分。稜線の一番高いところを歩いている人影が見える。

リフト

リフト・トップから八方尾根

地蔵ノ頭・頂上ケルン

地蔵ノ頭の先には慰霊碑ケルンと石地蔵多数。そこでスキーをはいてコルまで滑り込む。見えている遠見尾根の先端が小遠見のようだ。コルには黄色のテントが一張。主は今、登っているのだろうか。コルでシールを張って出発。踏み跡もスキートレースもある。登るにつれ、スキー場や地蔵の石塔が見え、その背景の市街地がぼんやり見えてくる。八方尾根が広がり、その先端の唐松岳・東峰には目立つ黒い岩。稜線に出ると行く手の遠見尾根が小遠見まで見えるが、その向こうは見えない。小遠見の左手にあるのは天狗岳というらしい。尾根上にスキーが刺してあったが、下降点の目印かな。

地蔵尊

方位図と八方尾根

地蔵ノ頭・頂上

地蔵ノ頭

唐松岳・東峰

P1・1,892m

五竜岳

遠見尾根の左カーブのところを登ると再び五竜岳が見える。雲が取れてきて、黒と白のコントラストが美しい。白い尾根の上に立つ黒い岩峰の巨人。その手前に低く遠見尾根が続いている。ずいぶん近く感ずるが、最後の白岳への登りがしんどそうだ。左カーブの先に「五竜とおみ遊歩道」の道標。なるほど。この先の緩いピーク(P2・1,892m)の手前に赤いテントがあり、下ってきた団体さんにも会う。笈とうってかわって人が多い。さすがに北アルプス。

小遠見山手前からの景観: 天狗岳、小遠見山、五竜岳

五竜岳

ここで五竜を観察。ガイドにあったB沢というルンゼが頂上右に見えているが、あれは止めておいたほうが良さそうだ。今は見えてないが、頂上北壁を滑り、斜面をトラバース滑走して五竜山荘に戻る、というクラシック・ルートが正解だろう。P2を過ぎ、小遠見が近付くと、かすんだ鹿島槍が見えてくる。北峰しか見えていないが、この位置からだと南峰は見えない。

尾根上のテント

小遠見山

小遠見山・頂上標識

トラバース分岐標識をまっすぐ登って小遠見頂上。11時。リフト終点から2時間。テントを張った跡が二つ。頂上標識に石標。鹿島槍の手前に大きな白い谷。カクネ里雪渓というらしい。コルまで滑り降りると山を下ってきた二人に会う。大きなザックで、どのくらい山にいたんだろう。コルで最初の休憩。風が冷たいのでネックウォーマーを出し、ゴーグルをかける。ストックにかけておいたヘルメットが落ちて坂を転がる。あわてて追いかける。雪の上で止まったが、気をつけねば。

中遠見山

尾根上のテント2

中遠見山・頂上標識

中遠見への尾根を登ると、頂上は稜線のまだ先で、途中に緑のテント。ロープで樹木に固定している。稜線上だとこのくらいしないと飛ばされるだろう。稜線は細くなり、北側は切れ落ちている。雪は柔らかく、スキーが正解だろう。ほぼ水平の稜線上に忽然と中遠見の頂上標識とケルンあり。この次の大遠見、西遠見はマップによるとだいぶ離れていて、西遠見まで2時間、白岳の登り400mに2時間としてあと4時間とみる(西遠見と白岳の標高差は200mだが、コルまでいったん下降する)。16時には着くだろう(それぞれプラス30分、計プラス1時間かかった)。五竜はまた雲をかぶっており、今日のあの状況だと、頂上からの滑走は無理だろう。

背後の中遠見山

小遠見山と中遠見山

遠見尾根から五竜岳と白岳

いったんコルに下り、細尾根のアップダウンを繰り返し、小さなコルのところで休憩。降りてきたオジサンが、テントを持ってるなら大遠見か西遠見に泊まれという。「夜明けの鹿島槍の北壁がすばらいいんだ。私は正月に写真を撮った」という。正月と今とでは朝日の出どころも違うような気がするが。五竜の北壁を滑りたいんだ、とだけ言っておく。ここからだと五竜の北壁は頂上直下に白く小さく見えている。それを見ておじさん、「ジャンプターンができないと、私では無理だな」と言う。まあ、そりゃあそうだ。今日の風だとハードバーンになってるだろうから、「今日は無理だと思いますがね」と言っておく。

鹿嶋槍ヶ岳

後方の小遠見と中遠見の二つのピークが遠くなり、やがて広い尾根にでる。標識はなかったが、そのあたりが大遠見だったようだ。白岳の手前に二つピークがあり、それが大遠見と西遠見と勘違いしていたのだが、手前が西遠見で、先のピークは白岳の肩であった。八方尾根の先端の黒いピーク(唐松岳・東峰)が目立っている。その手前の一段低いのが大黒岳だが、見た感じは東峰の方が大黒と呼ぶにふさわしい。鹿島槍の南峰が見えている。双耳峰となった鹿島槍を何度も写す。

西遠見山への登り

いったん細尾根となり、再び広い尾根を歩いたところでいいかげんに疲れて休憩3回目。P6・2,200mのあたり。もう白岳は目の前に大きく、シラタケ沢源流部の大きな斜面が広がる。空はまた晴れてきたが、五竜の頂上はまだガスを引いている。白いダケカンバの尾根を下り、西遠見への急な登りとなる。だいぶへばってきていてペースは遅い。西遠見頂上は雪におおわれ、赤旗がポツンと立っていた。大きなギャップをはさんで白岳の肩(P8・2,360m)が先にある。シラタケ沢源流部の上のコルに五竜山荘の屋根と思われるものが見える。いくつか踏み跡にスキートレースが残っており、肩をトラバースしているのが多いようだ。シラタケ沢源流部には小さなデブリが落ちており、そこを通過しているトレースもある。

白岳

いつしか空は完全に晴れ、五竜が全身を現わし、鹿島槍も双耳の間が開いて印象的な姿になっている。ただし、五竜の頂上部分は見えない。コルに直接滑り降りるには狭くて急すぎるので、南側をからめて滑降・・・柔らかい雪にスキーをとられて転倒。シールでビンディングも外しているので、気をつけないといけない。北側は雪庇になっているコルに近づくと、行く手の広大な斜面に滑走トレースも見えてくる。だいぶ下のほうまで滑っているようだ。コルで休憩。スキーをひっくりかえしてこびりつた雪を取るが、冷たい風が吹いているので、解けた雪がシールにくっついて凍りやすくなっている。振り返ると西遠見の北側もすさまじい雪庇になっている。

五竜岳と白岳

五竜岳

五竜の真上に太陽がきており、シラタケ沢に影ができてきた。ここいらが日陰になるとますます登りにくくなる。肩にはゆかず、トラバースの最短ルートに向かう。デブリに向かうトレースのところまで登り、そちらに行こうかとも考えたが、やはり白岳に向かう。スキーに雪がついて重くなり、肩と白岳のコルのあたりで最後の休憩。シールの雪が凍ってとれないので、担いでいくことにする。西遠見も遠見尾根もずいぶん低く見えている。

白岳の肩(P8・2,360m)

五竜岳を見上げる

白岳の肩(P8・2,360m)と西遠見山(2,268m)

午後の鹿嶋槍ヶ岳

五竜岳と北壁

担いで歩くのは楽ではなかった。なにせ雪が柔らかいので踏み跡の通りには歩けない。5歩づつくらいに踏み抜きもある。重いザックにスキーもしょっているのでますます靴が埋まるわけだ。五竜の影は広がり、頭上の雪壁に集中して登る。見えないゴールはなかなか来ない。シラタケ沢の上のコル(2,480m)と同じくらいの高さになると、五竜の北壁がよく見えるようになる。明日はあそこを滑れるだろうか。その下には五竜山荘の屋根。奥には、いったん見えにくくなっていた鹿島槍が再びよく見えている。

五竜岳の頂上北壁

影が広がる白岳の頂上直下を最後のがんばりで登りつめ、白岳の頂上(2,541m)に着く。もう5時前。赤旗と三角点があったが、踏み抜きに悩まされていたので三角点へはゆかず。三角点の向こうには黒い東峰の後ろに唐松岳・本峰が見えている。もう少し先の西側の方が高いので、白岳の最高点まで行ってザックを下ろすと、横から見た五竜がそびえ、真っ白な頂上北壁がこちらを見下ろしている。明日は登ってやるからな。このときは西の空は曇っていて、剣は見えていなかった。

唐松岳

遠見尾根を見下ろす

午後の五竜岳と北壁

五竜山荘方面から見る白岳

五竜山荘

五竜山荘まではわずかだが、一応、シールをはがしてスキーをはいて山荘まで滑走する。と思ったが、途中で雪が切れてしまい、スキーを両手に持って歩き、山荘手前のところで再びはいてフィニッシュ・・・と思いきや、バランスを崩して転倒。かっこ悪い。誰も見てなかったよな。山荘に入る前に五竜を見上げる。ずいぶん近いが、標高差400mあるから登りに2時間かかるだろう。でも、早朝ではアイスバーンだろうから、8時頃から登ろう。

食堂

五竜山荘に入ってみると、なんと明日から営業だという。素泊まりならいいというので、6,300円で素泊まりを申し込む。二階の大きな部屋を独り占めし、ふとんも二枚重ねにし、快適、快適。トイレもあり、電気もついてるし、食堂での食事では石油ストーブもつけてくれた。鼻をかみながら食事をしていると、食堂の厨房で小屋の人たちの食事。水を1リットル分けてもらい、うどんとご飯を食べる。まだ明るいので、窓から五竜を何度も眺める。部屋に戻り、7時前に就寝。このときはツェッペリンを古い順に聞いていて、1972年のミラージュ(京都公演)まできた。明日はがんばるぞ。

D2

朝の五竜岳

朝起きると快晴。とりあえず7時まで寝て外を見ると、真っ白に輝く五竜の北壁が呼んでいる。見るからに固そうだ。がまん、がまん、と思ってふとんにもぐりこむが、7時半には起きて朝食にする。外が明るいのに寝ていられない。朝食を終え、昨日買った大型サックにテントやシュラフを入れ、小屋に置かせてもらって出発。小屋の玄関では男性一人が作業中。スキーをザックに取り付け、アイゼンをつけて出発。

朝の五竜岳・北壁

五竜山荘と白岳

鳥居から見る五竜

雲ひとつない青空、しかも風もなし。こいつは登って滑るしかないだろう。少し歩いて振り返ると、五竜山荘の後に白岳があり、そのまた後に唐松岳。その向こうに見えるはずの白馬三山のあたりは雲がかかっている。踏み跡が稜線沿いに続いており、これを辿って行けばよさそうだ。シラタケ沢の上のコル2,480mは簡単に過ぎ、登りにかかる。稜線の端のところに来ると、南側に鹿島槍の北峰が見える。稜線には岩がでていて雪がないため、踏み跡は斜面をトラバースしていく。スキーの滑走トレースもひとつあって、これは稜線沿いでなく、片斜面を大きくトラバースして五竜山荘に続いている。稜線に近いとアップダウンもあり、岩も出ているので、片斜面を滑るほうが正解だろう。しかし、雪が固いとどうだろうか。

朝の唐松岳

頂上と北壁

G3・2,658m

雪壁の踏跡

G3・2,658mを見下ろす

G2手前の岩峰とG2・2,730mと五竜岳・頂上

G2から見る五竜岳

G2の前に岩ピーク二つ(G3・2,658mとG2手前の岩峰)の脇をトラバース。わずかな下りトラバースに神経を擦り減らす。足を交差するときに踏み外したら落ちそうだ。ピッケルを左手に持つが、ストックが邪魔になる。右手に持ち替えてピッケルとストックの両方を右手でもつ。しっくりこないが安心感はある。G2への登りはかなりの傾斜で、ここも右手にピッケルを持って雪面に差し込みながら登る。登っている途中で、鹿島槍が時々見え、左手はるか下に遠見尾根が見え、振り返ると五竜山荘が真下に見える。G2・2,730mに着くと、目の前に五竜が大きくそびえるが、まだ遠い(ここまで約1時間、ここから約1時間)。鹿島槍の全景と曲がりくねった稜線が見える。すぐ後ろにはG2の頂上稜線の端が白いピークのように見えており、その先に低く岩ピークが見えている。

薬師岳

鹿嶋槍ヶ岳

G3とG2手前の岩峰を見下ろす

コル2,710m

B沢コル(2,710m)へ下降し最後の登りへ向かう。頂上北壁は目の前。頂上稜線に雪庇があるようだ。あそこを避けて滑りこまねば。B沢コル中央から下をのぞきこむ。下は良く見えないが、傾斜が急であることは確かだ。やがてG2も後に低く見えるようになり、頂上稜線に着く。正面に鹿島槍。頂上は東西に細く、鋭角に尖った西端に頂上標識が立っている、いつしか空は晴れて、唐松岳の向こうに白馬三山が見えている。眼下の北壁はかなり急だが、頂上直下に少しふくらみがある。鹿島槍へ険しい尾根が続いており、あの中央付近にキレットがあるのだろう。頂上南側は雪が切れている。

北壁

鹿嶋槍ヶ岳

五竜岳・頂上峰

鹿島槍の右側には山々が遠く連なり、あれが薬師だろう。その右手に大きいのが立山、すると、おお、剱がすぐそばに見えている。ここから見る剱は岩峰がたくさん折り重なって荒々しく見える。たぶん長次郎谷が斜めに見えていて、その手前下が三ノ窓、それに連なるのが八ツ峰だろう。剱の右手には毛勝三山がピークを並べている。右端の毛勝頂上は更に二つに分かれているのが見える。反対側の立山は、別山と真砂岳と本峰の三つのピークを持つ横幅の広い姿に見える。薬師から見た時は尖峰に見えていたし、見る方向によってずいぶん形が変わるようだ。

五竜岳頂上付近から北の景観:・白馬三山・唐松岳・白岳・G3・G2

立山

剱岳

毛勝三山

五竜岳頂上からの景観: 鹿嶋槍ヶ岳、針ノ木岳、薬師岳、立山、剱岳、毛勝三山

五竜岳頂上

頂上尾根を辿って五竜頂上。頂上標識には肝心の山名板が無い。冬のあいだはわざと取り外しているのだろうか。山荘から2時間。ザックを下ろし、スキーを山頂に立てる。三つのカールを並べた薬師と鹿島槍の間の山々は何だろう。どうやら、薬師の左にあるのが赤牛で、その先が黒岳、鹿島槍の右手にやや低く見えているのは針ノ木のようだ(針ノ木に登り、頂上直下を滑った今は、針ノ木の頂上の形と、頂上直下の目のような岩が記憶にある)。剱や白馬三山や鹿島槍をバックにフィッシャーを写すと、スキーが引き立って見える(逆かな)。ふと北西の方向を見ると、ガスに霞んだ雨飾に頚城三山、高妻が見えている。

針ノ木岳

五竜岳頂上から白馬岳

白馬岳・・・・・中央左は白馬鑓ヶ岳、中央右が白馬岳(杓子岳は白馬岳の手前に重なっている?)

鹿嶋槍ヶ岳

滑走斜面を見下ろす

そして五竜の頂上から北壁に滑り込む。頂上直下は柔らかかったが、その下の斜面はアイスバーン状態。ショートターンを楽しめる状況ではなく、滑りやすいところを選び、固い雪面に両スキーを踏ん張っての滑りとなる。頂上に腰かけて下を見ると、山荘までの一枚バーンが続いているように見える。実際には片斜面。オーバーハングしていて見えない斜面もある。さて、スキーを履いて滑降準備。最後に鹿島槍のバランスのよい双耳峰を見て、頂上から北西方向に滑り込み、東側に回り込んでいく。いったん止まって振り返ると、斜面に波打って付いたトレース。このあたりはまだ柔らかい。しかし、そこから稜線沿いに滑ると、カリカリの斜面となる。そのまま稜線沿いをゆくとアップダウンあり、片斜面がきつい、となるので、ここは中央の平らな斜面までトラバースすることにする。カリカリ言わせて中央の小さな尾根をこえると、平らは平らだが、雪コブがたくさんついていて滑りにくい。ジャンプターンで慎重に滑り下り、二つの岩峰の下あたりまで下り、そこから稜線沿いのトラバース滑走に移る。体重を谷足側に傾けての慎重な滑走。一つめの岩峰(G3)の下で雪の無い尾根にぶつかって停止。ジャンプターンで下を回って尾根の向こう側の斜面に進む。

北壁の滑走

北壁の滑走

G3下のトラバース

雪のない部分の迂回

五竜山荘の人たち

下を見ると五竜山荘に観客4名。最後に稜線に戻り、ショートターンを2、3回決めてのフィニッシュとなる。どうも、どうも。頂上から滑走開始するとき、五竜山荘の前に人が一人いるのが見えたが、だんだん人が集まってきて、山荘前に滑り込んだときは数人が山荘前のテーブルのところにいた。片斜面から尾根に出たところで観客の視線も気になり、ショートターンもできるところを披露してフィニッシュ。途中でスキーを少しとられてバランス崩したが、大過なし。「いやーどうも」。テーブルにいた4人のうち3人は到着を見届けるとすぐにいなくなり、一人が登山道の状況などを尋ねる。スキーを持っていたので心配で見ていたんだろうか。「踏跡はついてましたか」「あぶないところは」などを聞かれ、「大丈夫」「下りのトラバースがこわかった」などと答える。「そういえば頂上標識に山名板がついてなかった」

終盤の尾根滑走

鳥居と五竜岳

遠見尾根への滑走(シラタケ沢源流部)

小屋に入って大型サックに入れておいた荷物をザックに入れなおし、尾根下りの滑走となる。もう白岳に登るのはやめ、目の前のシラタケ沢源流部の大きな斜面に滑り込む。重装備なので連続ターンというわけにはいかず、西遠見に向かってトラバース滑走。それでもぐんぐん下ってゆき、山荘はもう見えなくなり、尾根を登るスキーヤーがひとり見える。ずいぶん早いなあ。まだ昼前。西遠見の直下あたりから見る大遠見もかなり低く見え、そこに向かってゆっくりターンで降りる。踏ん張る毎にヒザに重圧。大遠見のあたりまでおりて平らなところを歩いていると、やや下のほうから三人がシールで登ってくる。三人が追いついてきて、先頭の男性が「五竜に登りましたか、頂上にスキーはありませんでしたか」と尋ねる。「頂上に登ったけど、スキーは見なかったなあ」三人はそのまま遠見尾根をシールのまま下っていってしまった。こちらはコルのところで休憩。五竜北壁のアイスバーンとはうってかわってシャバシャバの柔らかい雪。昨日の風は無く、上着を脱ぐ暖かさ。

遠見尾根のスキーヤー

鹿嶋槍ヶ岳

五竜岳

遠見尾根からの景観: 鹿嶋槍ヶ岳、五竜岳、白岳、唐松岳・東峰

中遠見山

もう五竜の白い北壁は見えなくなり、黒々とした菱形の岩稜になっている。いや、菱形の岩峰の左にわずかだが頂上北壁が覗いている。P6・2,200mと大遠見を過ぎると、白岳がトカゲの頭となり、鹿島槍が視野に入る。しかし、大遠見から尾根を歩き、急斜面をコルに下っていくと、次第に鹿島槍の双耳は近づき、やがて南峰のかげに北峰が見えなくなっていく。すると昨日、ガスで隠れて一峰しか見えない訳ではなかったのだ。逆に五竜のほうは頂上手前の岩峰の左の北壁がはっきり見えるようになっている。こちらは昨日のガスで、頂上が見えにくかったのだろう。中遠見とのコルに下っていくと、スキーの三人のうちの一人が先の二人から遅れてコルを降りているところだった。私はコル1,960mに下りたところで休憩。青空が広がり、一峰となった鹿島槍の左に爺ヶ岳。東には頚城三山と雨飾がかすんで見えている。

鹿嶋槍ヶ岳・北峰とカクネ里雪渓

五竜岳

鹿嶋槍ヶ岳・北峰

白岳

P6・2,200mと大遠見を過ぎると、白岳がトカゲの頭となり、鹿島槍が視野に入る

中遠見山から五竜岳と白岳

白馬三山

スキーをかついで中遠見に登ると、八方尾根の上に白馬三山が姿を現わす。鹿島槍の根本には大きな谷(カクネ里雪渓)が口をあけている。次のコル1,970mへの下りでは、南側に廻りこみすぎて少し登り返す。コルに滑り込むと、徒歩の三人が休んでいた。「何キロかついでるの。ショートスキーで50度くらいのところをうまく滑ってる人がいた」などと言う。「このくらい長くないと、うまく滑れない」と言っておく。コルからは小遠見の頂上はパスしてスキーのままで登っていく。トレースあり。向こう側の尾根に着くと、五竜まで6kmの標識あり。すると6km来たわけだ。

中遠見山と登山者

黒い岩峰の巨人、五竜岳

小遠見山

最後の尾根を下って行くと、はるか下に町並みが見え、その上に高妻、乙妻が見える。さっきよりだいぶはっきり見える。尾根を歩いていた二人を追い越していく。二人目の男性は何かが危ないと言っていたが、良く分からず。ピッケルをザックにゆわえていたのが動いていて、危ないということだったのだろうか(この後、毛勝岳以降はさかさまに取り付ける)。

ふと北西の方向を見ると、ガスに霞んだ雨飾に頚城三山、高妻が見えている: 雨飾山、天狗原山の上に焼山、火打山、妙高山、高妻山、西岳

地蔵ノ頭

ブナの木

地蔵ノ頭と妙高山と高妻山

白馬三山

スキー場

白馬五竜スキー場に戻り、ついさっき頂上から滑った五竜岳を感慨を持って見上げる。やった、本当にあそこを滑ったんだ。昨日、登りに8時間かかった遠見尾根を、今日は2時間で下りてきた。スキー場は春スキーの人たちで賑わっている。テレキャビン・ゴンドラに乗り、ゆっくり駐車場まで下る。スキー場に滑り込んでいくと、地蔵ノ頭の頂上に何人かいるのが見える。今度は地蔵には登らずに廻りこみ、リフト頂上駅の横でザックを下ろして休憩。スキー場はスキーヤーにボーダーで盛況。まだ2時前だったが(山荘から約2時間)、疲れていたのでテレキャビンに乗り込み、駐車場に戻る。回数券で買ったトークンは有効。

下界への下降

駐車場に戻ってゆっくりザックを片付け、スキーを拭いてワックスを塗っておく。松本でシール・グルーと風邪薬を買いたいということでカーナビに入力しておいて出発。しかし、最初に入力した温泉が休業中で出鼻を挫かれ、二軒目の温泉でやっと一息。道の駅で食事をし、途中のドラッグストアで風邪薬やペットお茶を購入したが、松本市内は渋滞していて石井スポーツに着いたのは18時頃。チューブのグルーが無く、缶入りのを買う。ハケが付いているので悪くないが、フタを開けるのに苦労した。夕食を買い込み、久しぶりのハミルトンインに入ったのは19時前。もう暗くなっていた。

問合せ・コメント等、メール宛先: kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com