万太郎山 上越国境のロング・ツアー

新潟県  万太郎山1,954m

群馬県  谷川岳(トマの耳)1,963m、オジカ沢ノ頭1,890m 2018年3月31日

(万太郎山)新潟百名山

(谷川岳)日本百名山

294

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土樽駅6:28に乗ったのは私一人。思ったよりも全然立派な電車が来て、広い車内でくつろぐ。土合駅で降りたのも私一人。舗装路をスキーをかついで歩くと、車が何台も追い越してゆく。

ゴンドラに乗っているのは登山客ばかり。谷川岳が見えるとゴンドラ内に静かなどよめき。山男、山女たちの意気込みが伝わってくる。

支尾根1,420m地点に上がると天神平スキー場は眼下となり、正面に大きく谷川岳。二つの耳を立て、やや右を向き、ところどころに黒い岩肌が覗いている白い巨体。

肩の小屋が見え、そして道標に到着。これは14年前と同じ。記憶に残るモニュメント。そこからなおも登り、三角形の緩い雪斜面の先に見えている狭いトマの耳を目指す。あんなに大勢が登ったら、すぐに満員になりそうな狭い頂上。頂上の右側に突き出した雪庇。真っ青な空。そして14年ぶりのトマの耳に着く。

シートラにアイゼンで縦走路の踏み跡を下る。ヒツゴー沢への分岐表示を過ぎ、比較的平坦な細尾根を行く途中、背後から来た4人が先に行く。元気な彼らが先に歩いてくれて助かった。

行く手のオジカ沢ノ頭は近づくにつれて細く、鋭角になり、青空に突きあげている。それに向かって進むスキーヤーたち。

狭いオジカ沢ノ頭に到着。快晴に素晴らしい景観。背後の谷川岳は左右に広がり、二つの頂上の上に人々が鈴なりになっているのがかすかに見える。行く手の万太郎山はゆったりとした丸い山。これから下る主稜線の南側には広大な阿弥陀沢の谷が開けていて、カールと呼んでいいほどの広い空間。

オジカ沢ノ頭から阿弥陀沢の標高1,470mの登り返し地点まで2㎞弱、標高差400mの滑走。最初の斜面は傾斜もあり、悪くなかった。阿弥陀沢からの登り返し地点でシールを貼る。このあたりでスタミナが次第に切れてきて、息が上がり、休み休みののろのろ登りとなる。すると、はるか背後に見えていた3人が追いついてきた。

ようやく主稜線にあがり、途中からアイゼンで登る。背後には南北に谷川連峰が並び、その北に巻機山も見えている。それからようやく万太郎山に着く。西には大きな谷をはさんで仙ノ倉山。その上に午後の太陽。

3人が滑り降りていった少し後で滑走開始。ブッシュが多いので、やや北西より。西にトラバースしてゆくと広大な西斜面が見えてきて、その上にスキートレースがたくさん見えた。万太郎山と仙ノ倉山にはさまれた広大な針葉樹の空間。だだっぴろいところに唯一人。

北西の沢筋を下っていて、支尾根の西に広大な毛渡沢が見え、約百メートルを登り返し、ようやく毛渡沢。毛渡沢にはもう水が出ていて、狭いスノーブリッジで左岸に渡る。

つづら折りを下ると群大ヒュッテ前の橋。情報通りの新しい橋がかかっていて何なく通過。ところが、次の標高630m付近の支沢に橋がない。スノーブリッジもない。水が流れている平たい石の上に両足で立ち、対岸の雪に両手を乗せ、一気に雪の上に上がり、雪が崩れないうちに這い上がる。必死。

林から出ると高速道路が見え、その手前の鉄道の高架の下をくぐるところで雪がいったんなくなり、舗装車道となる。ようし、あとは駅まで歩くだけだ。シートラにしててくてく歩くが、このあと3kmが長かった。

高速道路は賑やか。私の歩いている道は静か。土樽駅手前の駐車地点に着いたとき、もう19時になっていた。長い旅だった。素晴らしい天気に素晴らしい景観、広大無辺な山と雪の世界を登り、歩き、滑り、距離18㎞、標高差1,300mの苦しみ、喜びが身に染みる。かけがえのない体験だった。

因みに、土合駅から土樽駅まで11時間半というのは、当初プラン10時間を1時間半超過した程度。だが、若い人たちの元気な登りを見ていると、もっと早く歩きたい、もっと早く歩かなければ、という思いが強くなる。さあ、新たなる旅はどんなだろう。

 万太郎山はゆったりとした丸い山。北尾根は鋭そうだが、南側にはなだらかな雪渓を伸ばし、我々を待っている
谷川岳
 三角形の緩い雪斜面の先に見えている狭いトマの耳を目指す。あんなに大勢が登ったら、すぐに満員になりそうな狭い頂上。頂上の右側に突き出した雪庇。真っ青な空
オジカ沢ノ頭
 行く手のオジカ沢ノ頭は近づくにつれて細く、鋭角になり、青空に突きあげている。それに向かって進むスキーヤーたち。
 JR土樽駅6:28に乗ったのは私一人。思ったよりも全然立派な電車
 肩の小屋が見え、そして道標に到着。これは14年前と同じ。
 群大ヒュッテ前の橋。新しい橋がかかっていて何なく通過。
万太郎山の頂上標識
  6:28 JR土樽駅乗車  6:37 JR土合駅下車  7:11 ロープウェイ乗車  7:30 ロープウェイ頂上駅発、シートラ10:10 谷川岳・トマの耳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロープウェイ頂上駅から2時間40分10:25 谷川岳・トマの耳発、滑走10:37 シートラ12:05 オジカ沢ノ頭・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・谷川岳・トマの耳から1時間40分12:24 オジカ沢ノ頭・避難小屋発、滑走12:49 阿弥陀沢1,470m地点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オジカ沢ノ頭・避難小屋から25分13:05 阿弥陀沢1,470m地点発、シール15:28 アイゼン15:55 万太郎山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・阿弥陀沢1,470m地点から2時間50分       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロープウェイ頂上駅から8時間25分16:15 万太郎山発、滑走18:27 シートラ19:01 JR土樽駅手前・駐車地点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・万太郎山から2時間46分                ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロープウェイ頂上駅から11時間31分

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北陸遠征の翌週も晴予報。この週は遠征は休みたかったが、次の週が晴れるとは限らない。万太郎山に行くことにする。天気図によると土曜は大きな高気圧が日本を覆う見込みであり、金曜にオイル交換して移動することにする。ところが、10時の開店時に寄ったイエローハットは17時までタイヤ交換の予約でいっぱいだというので、途中の紫波SAでオイル交換。阿賀野川SAで夕食を購入して、塩沢石打SAで車中泊。思った通り湯沢は寒い。上下ダウンにシュラフで寝るが、何度か暖房をつけたかもしれない。

4時に起きるが、6:28の電車には早すぎると思い、出たのは5:30。結果的にあわてる。土樽駅の少し手前に駐車したが、帰りのことを思えば、もっとずっと手前に駐車すべきだった。土樽駅に入ると、なんと駅舎の中に泊まっていたらしい二人がいた。車も2台ほどあったと思うが、6:28に乗ったのは私一人。プラットフォームは融雪水が流れていて待ちづらい。GPSを車に忘れたことに気づき、取りに戻る。思ったよりも全然立派な電車が来て、広い車内でくつろぐ。が、ほとんどトンネルの中。土樽で乗ったのは私一人、乗っていた人はいたが、スキーや登山ではなさそうだった。土合駅で降りたのも私一人。駅前に降りると、車が数台、準備中の人たち数人。スキーではなさそう。土合駅から舗装路をスキーをかついで歩くと、車が何台も追い越してゆく。いったん道を間違え、もどってロープウェイ駅に入る。シニア一日券3,000円を買ったが、リフトには乗らずじまい。

ゴンドラに乗っているのは登山客ばかり。下山コースは閉鎖だそうだが、トレースが見えた。谷川岳が見えるとゴンドラ内に静かなどよめき。山男、山女たちの意気込みが伝わってくる。北側のリフトに乗りたかったが、動いていたのは中央の低いのだけ。北側リフトは9時からと言われ、あきらめて登山ルートを行く。最初少し滑り、シートラで登る。踏み跡があるのでアイゼンは付けず。シートラで登っているスキーヤーが一人、あとは登山の人たち多数。支尾根1,420m地点に上がると天神平スキー場は眼下となり、正面に大きく谷川岳。二つの耳を立て、やや右を向き、ところどころに黒い岩肌が覗いている白い巨体。そこから天神尾根に向けて少し下りになるので、もう一度滑走。雪は硬い。天神尾根に乗ると、北西の空に迫真の俎嵓。14年前(2004年)に比べて雪が少ないように見える。天神尾根もシートラで登る。アイゼンを付けるべきだったが、ブーツのままでしばらく登る。西黒沢には滑った跡がかすかに見える。1,460mから鎖のある下り。

避難小屋手前の見晴のよいピークで最初の休憩。アイゼンを付ける。スキー場ははるか眼下となり、西にはくっきり浅間山が黒斑山を従えて見えている。東には武尊山が大きく、いつもと違う形の平ヶ岳と至仏山。白い尾根の途中に飛び出した大きな岩に登っている人。景色を見ながら休憩かな。俎嵓と谷川岳の間にオジカ沢ノ頭が大きくなり、大きな岩を越えると、谷川岳に向かって登っていく人たちの小さな長い列がはるかに見える。アイゼンにしてだいぶ楽に登れる。登山の人には抜かれていくが、この頃はまだ元気。あまり立ち止まらず、写真も撮らず、ひたすら登る。オーバーハングの先に肩の小屋が見え、そして道標に到着。これは14年前と同じ。記憶に残るモニュメント。そこからなおも登り、三角形の緩い雪斜面の先に見えている狭いトマの耳を目指す。あんなに大勢が登ったら、すぐに満員になりそうな狭い頂上。頂上の右側に突き出した雪庇。真っ青な空。そして14年ぶりのトマの耳に着く。恐る恐るマチガ沢を見下ろしてみる。迫力の大絶壁の谷向こうに朝日岳、平ヶ岳、至仏山が並ぶ。トマの耳の頂上標識は14年前とは違っているように見えた。順番に記念撮影をする人たち。風が冷たいのでスキーウェアを着込み、バナナを食べる。直前で追い越して行ったスキーの二人は、スキーを置いてオキの耳に向かった。私はひとわたり写真を撮り、スキーを履いて縦走路に向かう。

オジカ沢ノ頭の手前まで、ずいぶん下るようだが、雪がついていない。スキーで下ってルートを探すが、南北共にだめなようなので、笹の上をスキーでしばらく歩いて縦走路に戻り、シートラにアイゼンで縦走路の踏み跡を下る。ヒツゴー沢への分岐表示を過ぎ、比較的平坦な細尾根を行く途中、背後から来た4人が先に行く。元気な彼らが先に歩いてくれて助かった。細尾根の後半は地図表記から予想したよりもアップダウンがあり、岩尾根の左右を巻き、雪の割れ目を越えていく。この頃はまだスタミナはあり、先を行く4人に比べると遅いが、まだ休まずに登れていた。行く手のオジカ沢ノ頭は近づくにつれて細く、鋭角になり、青空に突きあげている。それに向かって進むスキーヤーたち。

狭いオジカ沢ノ頭に到着。快晴に素晴らしい景観。背後の谷川岳は左右に広がり、二つの頂上の上に人々が鈴なりになっているのがかすかに見える。行く手には万太郎山への主稜線。ピークが重なっているが、その一番奥の万太郎山はゆったりとした丸い山。北尾根は鋭そうだが、南側にはなだらかな雪渓を伸ばし、我々を待っている。これから下る主稜線の南側には、俎嵓と万太郎山の間に広大な阿弥陀沢の谷が開けていて、カールと呼んでいいほどの広い空間。谷底の沢筋は谷の斜面に隠れていて見えず、最初見たときは万太郎山への登り返し地点は判然としなかったが、それは万太郎山の南東尾根の先だった。

頂上の少し下に小さな避難小屋があり、その手前で先行の4人が休憩していた。私もそこまで下り、ザックを下ろして3度目の休憩。ホットケーキを食べる。オジカ沢ノ頭から阿弥陀沢の標高1,470mの登り返し地点まで2㎞弱、標高差400mの滑走。最初の斜面は傾斜もあり、悪くなかった。沢底になると傾斜がなくなり、雪は滑らず、ストックで押してゆく。上にはかすかだったスキートレースがここにはたくさん残っている。谷筋は曲がりくねっていて背後は見えなくなり、行く手に現われた沢筋の穴を避けてゆく。阿弥陀沢からの登り返し地点で4度目の休憩。万太郎山に登り返していくスキートレースが見えており、ここでシールを貼る。先行の4人よりも先に歩き始めるが、すぐに追い越される。このあたりでスタミナが次第に切れてきて、息が上がり、休み休みののろのろ登りとなる。ここで前半のペースが保てれば、まずまずのタイムになったと思うが、仕方ない。

支沢の雪渓を登り返していく途中、5度目の休憩。すると、はるか背後に見えていた3人が追いついてきた。だいぶ距離があったので、追いつかれるとは思っていなかったが、私は相当に遅いということだ。だが、焦っても仕方ないので、ペースを守ってしんぼうして登る。長いキックターン・トレースをたどってようやく主稜線にあがり、再び休憩。下では汗をかいてスキーウェアを脱いだが、主稜線に上がると寒い。レインウェアを着てくるんだった。主稜線を少し登るとさっきの3人がいて、ここからはアイゼンだというので、私も途中からアイゼンで登る。狭い稜線には踏み跡がたくさん残っており、それをたどって東の道標、背後には南北に谷川連峰が並び、その北に巻機山も見えている。それからようやく万太郎山に着く。西には大きな谷をはさんで仙ノ倉山。その上に午後の太陽。とりあえずスキーウェアを着込んで休憩。ホットレモンを飲む。もうあとは滑るだけだから楽だろう、と思っていたが、そうではなかった。

頂上であまり景色を楽しんでいるゆとりはなかったが、逆光の仙ノ倉山や苗場山が記憶に残る。眼下の谷筋も迫力。あんなところをこれから滑るのか。北に見える湯沢市街の手前の、土樽駅のあたりも見えている。3人が滑り降りていった少し後で滑走開始。最初は西に下るが、ブッシュが多いので、やや北西より。楽しめるとしたらこのあたりだったが、ルートがよくわからないので先行トレースを追って大き目のターンでゆっくり滑る。北西よりの広い沢筋は下で狭くなりそうなので、早めに西にトラバースしてゆくと広大な西斜面が見えてきて、その上にスキートレースがたくさん見えた。そこをめざし、ゆっくり滑走。平らな所までおり、8度目の休憩。万太郎山と仙ノ倉山にはさまれた広大な針葉樹の空間。だだっぴろいところに唯一人。

スキートレースがたくさんあるので気楽に滑走してゆくが、いつのまにか北西の沢筋(最初の沢筋とは別)を下っていて、そのまま行くと行き詰まりそうなので支尾根を西に乗越すトレースに乗る。すると、支尾根の西に広大な毛渡沢が見えたが、雪庇になっていて下れないので約百メートルを登り返す。この登り返しはきつく、ようやく毛渡沢に下り、ひっくり返って休憩(9度目)。疲労困憊。毛渡沢にはもう水が出ていて、狭いスノーブリッジで左岸に渡る。今にも落ちそうな低いスノーブリッジで、スキーの横登りで登り切り、ほっとする。沢岸が広くなり、もう大丈夫だろうと思ったが、スキートレースは沢筋を離れて杉林に登っていく。たぶん沢筋に通過不能のところがあるのだろう。登り返した杉林の中でまた休憩。

そして仙ノ倉谷が近づくと林道のような平坦な雪道となり、つづら折りを下ると群大ヒュッテ前の橋。昔は難所だったらしいが、情報通りの新しい橋がかかっていて何なく通過。その先も林道の雪道が続き、雪もよく滑り、カラカラと滑走。だが、まだ試練は残っていた。小松沢という支沢には橋がかかっていたと思うが、その先の支沢を渡るスノーブリッジを勢いよく通過して対岸に着地すると、どすん、と音がしてスノーブリッジが落ちた。いやあ、後から来る人たちには申し訳ないことをしてしまった。ところが、次の標高630m付近の支沢に橋がない。スノーブリッジもない。どこを渡るんだ?踏み跡を探ってみると、どうやら支沢の下流の薄く水の流れている石の上から対岸の雪の上に上がっている跡がある。しかし、石の上の水はそれほど薄くはない。スキーブーツに水が入るかもしれないが、その覚悟で渡るしかなさそうだ。シートラにし、ストックを撞き、水が流れている平たい石の上に両足で立ち、対岸の雪に両手を乗せ、一気に雪の上に上がり、雪が崩れないうちに這い上がる。必死。雪は崩れなかった。ブーツに水も入らなかった。林道まで歩き、ひっくり返って休憩。またしても疲労困憊。

このあたりの林道は林の中が多くなり、杉の葉がたくさん落ちていてスキーが滑らない。悶々と進むがだいぶ薄暗くなってきた。まあ、あとは駅の車まで歩けばいいだけだが、林の中は暗いのでヘッドランプを出さないといけないかなあ・・・と思っていると林道が左にカーブしている。そっちは杉の葉がなくて進みやすいが、踏み跡はあるもののスキートレースがない。GPSを確かめるとそこはT字路で、ルートは右だった。あぶないところだった。T字路に戻り、右に進む。林から出ると高速道路が見え、その手前の鉄道の高架の下をくぐるところで雪がいったんなくなり、舗装車道となる。ようし、あとは駅まで歩くだけだ。シートラにしててくてく歩くが、このあと3kmが長かった。

舗装車道はまた雪に覆われ、スキートレースがついていたが、面倒なのでそのまま歩き、朝通過した舗装車道に出る。車が2台停めてある。なるほど、ここに駐車しておけばよかった、と思う。右折して毛渡橋を渡る。高速道路は賑やか。私の歩いている道は静か。毛渡橋の東側にも数台、駐車していた。肩が痛くなってきたので、ザックとスキーを道端に置き、空身で駐車地点まで歩く。土樽駅手前の駐車地点に着いたとき、もう19時になっていた。長い旅だった。素晴らしい天気に素晴らしい景観、広大無辺な山と雪の世界を登り、歩き、滑り、距離18㎞、標高差1,300mの苦しみ、喜びが身に染みる。かけがえのない体験だった。因みに、土合駅から土樽駅まで11時間半というのは、当初プラン10時間を1時間半超過した程度。だが、若い人たちの元気な登りを見ていると、もっと早く歩きたい、もっと早く歩かなければ、という思いが強くなる。さあ、新たなる旅はどんなだろう。

日白山

北陸遠征の翌週も晴予報。この週は遠征は休みたかったが、次の週が晴れるとは限らない。万太郎山に行くことにする。天気図によると土曜は大きな高気圧が日本を覆う見込みであり、金曜にオイル交換して移動することにする。ところが、10時の開店時に寄ったイエローハットは17時までタイヤ交換の予約でいっぱいだというので、途中の紫波SAでオイル交換。阿賀野川SAで夕食を購入して、塩沢石打SAで車中泊。思った通り湯沢は寒い。上下ダウンにシュラフで寝るが、何度か暖房をつけたかもしれない。

JR土樽駅

4時に起きるが、6:28の電車には早すぎると思い、出たのは5:30。結果的にあわてる。土樽駅の少し手前に駐車したが、帰りのことを思えば、もっとずっと手前に駐車すべきだった。土樽駅に入ると、なんと駅舎の中に泊まっていたらしい二人がいた。車も2台ほどあったと思うが、6:28に乗ったのは私一人。プラットフォームは融雪水が流れていて待ちづらい。GPSを車に忘れたことに気づき、取りに戻る。

JR土樽駅構内標示

思ったよりも全然立派な電車が来て、広い車内でくつろぐ。が、ほとんどトンネルの中。土樽で乗ったのは私一人、乗っていた人はいたが、スキーや登山ではなさそうだった。土合駅で降りたのも私一人。駅前に降りると、車が数台、準備中の人たち数人。スキーではなさそう。土合駅から舗装路をスキーをかついで歩くと、車が何台も追い越してゆく。いったん道を間違え、もどってロープウェイ駅に入る。シニア一日券3,000円を買ったが、リフトには乗らずじまい。

JR土合駅

ゴンドラ

ゴンドラに乗っているのは登山客ばかり。下山コースは閉鎖だそうだが、トレースが見えた。谷川岳が見えるとゴンドラ内に静かなどよめき。山男、山女たちの意気込みが伝わってくる。北側のリフトに乗りたかったが、動いていたのは中央の低いのだけ。北側リフトは9時からと言われ、あきらめて登山ルートを行く。最初少し滑り、シートラで登る。踏み跡があるのでアイゼンは付けず。シートラで登っているスキーヤーが一人、あとは登山の人たち多数。

1,420m地点から天神平スキー場を見下ろす

支尾根1,420m地点に上がると天神平スキー場は眼下となり、正面に大きく谷川岳。二つの耳を立て、やや右を向き、ところどころに黒い岩肌が覗いている白い巨体。そこから天神尾根に向けて少し下りになるので、もう一度滑走。雪は硬い。天神尾根に乗ると、北西の空に迫真の俎嵓。14年前(2004年)に比べて雪が少ないように見える。天神尾根もシートラで登る。アイゼンを付けるべきだったが、ブーツのままでしばらく登る。西黒沢には滑った跡がかすかに見える。1,460mから鎖のある下り。

谷川岳

 谷川岳と朝日岳

俎嵓

 俎嵓と谷川岳

俎嵓、オジカ沢ノ頭、谷川岳

避難小屋付近

俎嵓、オジカ沢ノ頭、谷川岳

浅間山

平ヶ岳

至仏山

武尊山

オジカ沢ノ頭

道標

トマの耳

避難小屋手前の見晴のよいピークで最初の休憩。アイゼンを付ける。スキー場ははるか眼下となり、西にはくっきり浅間山が黒斑山を従えて見えている。東には武尊山が大きく、いつもと違う形の平ヶ岳と至仏山。白い尾根の途中に飛び出した大きな岩に登っている人。景色を見ながら休憩かな。俎嵓と谷川岳の間にオジカ沢ノ頭が大きくなり、大きな岩を越えると、谷川岳に向かって登っていく人たちの小さな長い列がはるかに見える。

トマの耳頂上標識

・左奥:オキの耳

アイゼンにしてだいぶ楽に登れる。登山の人には抜かれていくが、この頃はまだ元気。あまり立ち止まらず、写真も撮らず、ひたすら登る。オーバーハングの先に肩の小屋が見え、そして道標に到着。これは14年前と同じ。記憶に残るモニュメント。そこからなおも登り、三角形の緩い雪斜面の先に見えている狭いトマの耳を目指す。あんなに大勢が登ったら、すぐに満員になりそうな狭い頂上。

マチガ沢

頂上の右側に突き出した雪庇。真っ青な空。そして14年ぶりのトマの耳に着く。恐る恐るマチガ沢を見下ろしてみる。迫力の大絶壁の谷向こうに朝日岳、平ヶ岳、至仏山が並ぶ。トマの耳の頂上標識は14年前とは違っているように見えた。順番に記念撮影をする人たち。風が冷たいのでスキーウェアを着込み、バナナを食べる。直前で追い越して行ったスキーの二人は、スキーを置いてオキの耳に向かった。私はひとわたり写真を撮り、スキーを履いて縦走路に向かう。

マチガ沢全景:(左上)朝日岳、(中央上)平ヶ岳、(右上)至仏山

トマの耳からオジカ沢ノ頭方面

朝日岳

・中央奥:朝日岳1,945m

・中央やや右:大烏帽子1,934m

・中央手前:笠ヶ岳1,852m

肩ノ小屋とオジカ沢ノ頭方面

肩の小屋

万太郎谷

 俎嵓、オジカ沢ノ頭、万太郎谷、茂倉岳、一ノ倉岳

ヒツゴー沢と赤城山(遠景)

道標と茂倉岳、一ノ倉岳

阿能川岳

オジカ沢ノ頭

オジカ沢ノ頭の手前まで、ずいぶん下るようだが、雪がついていない。スキーで下ってルートを探すが、南北共にだめなようなので、笹の上をスキーでしばらく歩いて縦走路に戻り、シートラにアイゼンで縦走路の踏み跡を下る。ヒツゴー沢への分岐表示を過ぎ、比較的平坦な細尾根を行く途中、背後から来た4人が先に行く。元気な彼らが先に歩いてくれて助かった。

オジカ沢ノ頭

細尾根の後半は地図表記から予想したよりもアップダウンがあり、岩尾根の左右を巻き、雪の割れ目を越えていく。この頃はまだスタミナはあり、先を行く4人に比べると遅いが、まだ休まずに登れていた。行く手のオジカ沢ノ頭は近づくにつれて細く、鋭角になり、青空に突きあげている。それに向かって進むスキーヤーたち。

俎嵓とオジカ沢ノ頭

谷川岳

オジカ沢ノ頭

オジカ沢ノ頭

オジカ沢ノ頭・頂上標識

狭いオジカ沢ノ頭に到着。快晴に素晴らしい景観。背後の谷川岳は左右に広がり、二つの頂上の上に人々が鈴なりになっているのがかすかに見える。行く手には万太郎山への主稜線。ピークが重なっているが、その一番奥の万太郎山はゆったりとした丸い山。北尾根は鋭そうだが、南側にはなだらかな雪渓を伸ばし、我々を待っている。これから下る主稜線の南側には、俎嵓と万太郎山の間に広大な阿弥陀沢の谷が開けていて、カールと呼んでいいほどの広い空間。谷底の沢筋は谷の斜面に隠れていて見えず、最初見たときは万太郎山への登り返し地点は判然としなかったが、それは万太郎山の南東尾根の先だった。

 俎嵓、川棚ノ頭、阿弥陀沢源流、万太郎山

万太郎山

避難小屋

阿弥陀沢源流と万太郎山

万太郎山

頂上の少し下に小さな避難小屋があり、その手前で先行の4人が休憩していた。私もそこまで下り、ザックを下ろして3度目の休憩。ホットケーキを食べる。オジカ沢ノ頭から阿弥陀沢の標高1,470mの登り返し地点まで2㎞弱、標高差400mの滑走。最初の斜面は傾斜もあり、悪くなかった。沢底になると傾斜がなくなり、雪は滑らず、ストックで押してゆく。上にはかすかだったスキートレースがここにはたくさん残っている。

阿弥陀沢への滑走

谷筋は曲がりくねっていて背後は見えなくなり、行く手に現われた沢筋の穴を避けてゆく。阿弥陀沢からの登り返し地点で4度目の休憩。万太郎山に登り返していくスキートレースが見えており、ここでシールを貼る。先行の4人よりも先に歩き始めるが、すぐに追い越される。このあたりでスタミナが次第に切れてきて、息が上がり、休み休みののろのろ登りとなる。ここで前半のペースが保てれば、まずまずのタイムになったと思うが、仕方ない。

阿弥陀沢への滑走

万太郎山を谷底から見上げる

阿弥陀沢からのの登り返し地点

シール斜面

 万太郎山・主稜線から東の景観

太陽と万太郎山

 万太郎山頂上付近(東の道標)から東の景観:巻機山、茂倉岳、一ノ倉岳、オキの耳、トマの耳、オジカ沢ノ頭、大障子ノ頭、阿弥陀沢、俎嵓、川棚ノ頭

万太郎山頂上標識

支沢の雪渓を登り返していく途中、5度目の休憩。すると、はるか背後に見えていた3人が追いついてきた。だいぶ距離があったので、追いつかれるとは思っていなかったが、私は相当に遅いということだ。だが、焦っても仕方ないので、ペースを守ってしんぼうして登る。長いキックターン・トレースをたどってようやく主稜線にあがり、再び休憩。下では汗をかいてスキーウェアを脱いだが、主稜線に上がると寒い。レインウェアを着てくるんだった。

 谷川連峰: 左から茂倉岳、一ノ倉岳、オキの耳、トマの耳

 万太郎山頂上から西の景観: 仙ノ倉山、苗場山、毛渡沢

万太郎山からの滑走(頂上直下)

主稜線を少し登るとさっきの3人がいて、ここからはアイゼンだというので、私も途中からアイゼンで登る。狭い稜線には踏み跡がたくさん残っており、それをたどって東の道標、背後には南北に谷川連峰が並び、その北に巻機山も見えている。それからようやく万太郎山に着く。西には大きな谷をはさんで仙ノ倉山。その上に午後の太陽。とりあえずスキーウェアを着込んで休憩。ホットレモンを飲む。もうあとは滑るだけだから楽だろう、と思っていたが、そうではなかった。

万太郎山からの滑走(頂上直下)

頂上であまり景色を楽しんでいるゆとりはなかったが、逆光の仙ノ倉山や苗場山が記憶に残る。眼下の谷筋も迫力。あんなところをこれから滑るのか。北に見える湯沢市街の手前の、土樽駅のあたりも見えている。3人が滑り降りていった少し後で滑走開始。最初は西に下るが、ブッシュが多いので、やや北西より。楽しめるとしたらこのあたりだったが、ルートがよくわからないので先行トレースを追って大き目のターンでゆっくり滑る。

北西の沢筋

広い西斜面と仙ノ倉山

北西よりの広い沢筋は下で狭くなりそうなので、早めに西にトラバースしてゆくと広大な西斜面が見えてきて、その上にスキートレースがたくさん見えた。そこをめざし、ゆっくり滑走。平らな所までおり、8度目の休憩。万太郎山と仙ノ倉山にはさまれた広大な針葉樹の空間。だだっぴろいところに唯一人。

広い西斜面の滑走

広い西斜面の滑走

北西の沢筋(西側)

スキートレースがたくさんあるので気楽に滑走してゆくが、いつのまにか北西の沢筋(最初の沢筋とは別)を下っていて、そのまま行くと行き詰まりそうなので支尾根を西に乗越すトレースに乗る。すると、支尾根の西に広大な毛渡沢が見えたが、雪庇になっていて下れないので約百メートルを登り返す。この登り返しはきつく、ようやく毛渡沢に下り、ひっくり返って休憩(9度目)。疲労困憊。

毛渡沢右岸

毛渡沢にはもう水が出ていて、狭いスノーブリッジで左岸に渡る。今にも落ちそうな低いスノーブリッジで、スキーの横登りで登り切り、ほっとする。沢岸が広くなり、もう大丈夫だろうと思ったが、スキートレースは沢筋を離れて杉林に登っていく。たぶん沢筋に通過不能のところがあるのだろう。登り返した杉林の中でまた休憩。

今にも落ちそうなスノーブリッジ

群大ヒュッテ前の立派な橋

そして仙ノ倉谷が近づくと林道のような平坦な雪道となり、つづら折りを下ると群大ヒュッテ前の橋。昔は難所だったらしいが、情報通りの新しい橋がかかっていて何なく通過。その先も林道の雪道が続き、雪もよく滑り、カラカラと滑走。だが、まだ試練は残っていた。小松沢という支沢には橋がかかっていたと思うが、その先の支沢を渡るスノーブリッジを勢いよく通過して対岸に着地すると、どすん、と音がしてスノーブリッジが落ちた。いやあ、後から来る人たちには申し訳ないことをしてしまった。

万太郎山?

群大ヒュッテ

ところが、次の標高630m付近の支沢に橋がない。スノーブリッジもない。どこを渡るんだ?踏み跡を探ってみると、どうやら支沢の下流の薄く水の流れている石の上から対岸の雪の上に上がっている跡がある。しかし、石の上の水はそれほど薄くはない。スキーブーツに水が入るかもしれないが、その覚悟で渡るしかなさそうだ。シートラにし、ストックを撞き、水が流れている平たい石の上に両足で立ち、対岸の雪に両手を乗せ、一気に雪の上に上がり、雪が崩れないうちに這い上がる。必死。雪は崩れなかった。ブーツに水も入らなかった。林道まで歩き、ひっくり返って休憩。またしても疲労困憊。

渡渉地点

このあたりの林道は林の中が多くなり、杉の葉がたくさん落ちていてスキーが滑らない。悶々と進むがだいぶ薄暗くなってきた。まあ、あとは駅の車まで歩けばいいだけだが、林の中は暗いのでヘッドランプを出さないといけないかなあ・・・と思っていると林道が左にカーブしている。そっちは杉の葉がなくて進みやすいが、踏み跡はあるもののスキートレースがない。GPSを確かめるとそこはT字路で、ルートは右だった。あぶないところだった。T字路に戻り、右に進む。林から出ると高速道路が見え、その手前の鉄道の高架の下をくぐるところで雪がいったんなくなり、舗装車道となる。ようし、あとは駅まで歩くだけだ。シートラにしててくてく歩くが、このあと3kmが長かった。

JR土樽駅付近

舗装車道はまた雪に覆われ、スキートレースがついていたが、面倒なのでそのまま歩き、朝通過した舗装車道に出る。車が2台停めてある。なるほど、ここに駐車しておけばよかった、と思う。右折して毛渡橋を渡る。高速道路は賑やか。私の歩いている道は静か。毛渡橋の東側にも数台、駐車していた。肩が痛くなってきたので、ザックとスキーを道端に置き、空身で駐車地点まで歩く。土樽駅手前の駐車地点に着いたとき、もう19時になっていた。長い旅だった。

岩の湯

素晴らしい天気に素晴らしい景観、広大無辺な山と雪の世界を登り、歩き、滑り、距離18㎞、標高差1,300mの苦しみ、喜びが身に染みる。かけがえのない体験だった。因みに、土合駅から土樽駅まで11時間半というのは、当初プラン10時間を1時間半超過した程度。だが、若い人たちの元気な登りを見ていると、もっと早く歩きたい、もっと早く歩かなければ、という思いが強くなる。さあ、新たなる旅はどんなだろう。