黒伏山 絶壁の背中を滑る

山形県  1,227m  2012年3月4日

東北百名山

279

白い斜面の傾斜を斜めに登り、頃合いで大きく片足を広げて逆方向に踏み込む

後ろ足をひねってスキーを同じ方向に揃え、キックターン完了

さあ、あと何回くらいで稜線に着くだろう

まぶしい白い斜面を斜めに登り、頃合いで大きく片足を広げて逆方向に・・・・・

(キックターン)

❄❄❄❄❄

先行の踏跡は最初の堰堤の手前から左の沢筋を登っており、余り考えずにその踏跡を辿る。スキーで登るにはきつすぎる傾斜なので、大きくキックターンを切りながら登る。

雪原(標高830m付近)の端の浅い沢状のところを越え、いよいよ急な登りにかかる。徒歩の踏み跡を離れ、斜めに登ってキックターン。林を越える高さまで登ると、どんどん視界が広がり、白い雲の合間に青空が広がる。いったん傾斜が緩んでテラス(標高900m付近)のようなところに出る。背後には黒伏スノーパークのゲレンデ。リフトが動き、ボーダーが大勢滑っているのが見える。

頂上が近づくと、頭上で冬の太陽が輝き、透き通った冷たい空気が張りつめている。真っ青な空と白い雪に光と影。

11時に黒伏頂上に到着。積もった雪で丸く真っ白な頂上。標識は見当たらない。北には天を突く白森。その右に稜線が続き、頂上の半分が切り取られたような迫力の柴倉山、その背後に大きな船をひっくりかえしたような船形山が重なる。東には更に白髪山や寒風山。南のかなたには、たぶん面白山とその背後の蔵王が微かに見えている。西にはロッククライミングの岩壁。

新雪の滑走は頂上付近はややベタついていたが、林に入るとごきげんパウダーとなる。ショートカットを切りながらの滑走はあっという間に頂上急斜面が終わり、頂上基部の平坦部分に到達。そして本日のハイライトの大斜面。

最初は30度から40度くらいの斜面をショートカットを8回くらい刻んで1,050mテラスまで滑走。次の出だしはたぶん40度を超えていて、オーバーハングしていてうまく写真に入らない。アイスバーンを横滑りし、そこから気持ちよいショートターンを刻む。身震いするほどの解放感!

白銀の世界に登って青空の下の船形と蔵王の山々に出会い、まっさらなパウダーを滑り下ると、いかめしい黒伏が見下ろしていた。ある冬の日の魔法のような一日。


白銀の世界に登って青空の下の船形と蔵王の山々に出会い、まっさらなパウダーを滑り下ると、いかめしい黒伏が見下ろしていた。ある冬の日の魔法のような一日。
船形山と柴倉山
頭上で冬の太陽が輝き、透き通った冷たい空気が張りつめている。真っ青な空と白い雪に光と影。
黒伏山・西尾根
気持ちよいショートターンを刻む。身震いするほどの解放感!
将棋の町、天童の「王将」の看板
7:45 駐車場発 7:54 作業橋10:13 1,142m峰10:59 黒伏山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り3時間14分11:40 黒伏山発、滑走12:40 作業橋12:49 駐車場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復5時間4分

KKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKK

6時前に起き、朝食にパンを食べ、スキーにシールを貼り、テルモスに自動販売機で買ったホットレモンを入れ、7時前に道の駅を出発。空は晴れているが、目指す東の山は朝霧で霞んでいる。その朝霧のなかに、右に傾いた黒伏が見えてきた。それを写しながら前進。スノーパークまでの道は除雪されており、朝の道は凍っていて滑る。近づいた黒伏は頭を雲が覆っていて麓部分しか見えない。

スノーパークが近付くと、道沿いに駐車場が並んでおり、マップ指定の一番奥の第4駐車場というのを探す。その看板は無かったが、たぶんこれだろうと思われる駐車場に入る。駐車場の奥には除雪された雪が積み重なっており、いったん車を降りてその雪の山に登ってみる。駐車場の背後には確かに沢があり、黒伏へはその沢を越えれば取付けそうだ。沢の徒渉点が確認できなかったが、下に降りればなんとかなるだろう。駐車場には一台先客の車があったが、一番奥に停める。準備しているとブルドーザーが来て昨晩積もった雪の除雪を始める。邪魔かなと思ったが、駐車中の車を避けて除雪してさっさと行ってしまった。

ピッケルをザックに取り付け、スキーを持って除雪の山に登り、その上でスキーを履き、沢筋のところまで滑り降りる。いやあ、徒渉できそうなところは上流側にはないなあ。こいつはダメか・・・と下流側に歩くと、なんとそこに作業用の鉄パイプの橋がある、橋桁も細いがついている、踏み跡もある、それは除雪の山からまっすぐに急斜面を降りていた。なんだ、こっち側に登山ルートがあったのか。スキーを外して橋を渡ろうとし、そんなに安易に渡らない方がいいと思い、ザックにスキーを取り付けて渡る。「柴倉コース作業用仮設備につき関係者以外通行を禁ず。定員一名、150kgまで」とある。

対岸に渡ってスキーを履き、そこからは踏跡を辿る。これは駐車場の先客のものに違いない。沢は橋のすぐ川上で二股に分かれ、踏跡は左俣の右岸に沿って続いている。その先にガイドにあった堰堤が並んでおり、二つ目の堰堤の先から斜面に取付くべきであったが、先行の踏跡は最初の堰堤の手前から左の沢筋を登っており、余り考えずにその踏跡を辿る。スキーで登るにはきつすぎる傾斜なので、大きくキックターンを切りながら登る。

朝は寒くて上着を着込んでいたが、この急斜面の登りで汗をかき、緩斜面となったところで上着を脱ぐ。そこはブナ林(とカラマツ?)の斜面で、黒伏は斜面の上の方向にあると思われたが、踏跡は斜面を右手(北)にトラバースしていく。踏跡がなければ斜面を登っていただろう。この間に林の向こうに周囲の山が見えてくるが、同定できるほどはっきりしていない。踏跡は北から西に方向を変え、やがて正面に黒伏が見えてくる。霧は晴れてきたようだ。

いったん林を抜けて雪原(標高830m付近)に出る。正面の黒伏へは右手の尾根に取付いて登っていくようだ。雪原(標高830m付近)の端の浅い沢状のところを越え、いよいよ急な登りにかかる。徒歩の踏み跡を離れ、斜めに登ってキックターン。林を越える高さまで登ると、どんどん視界が広がり、白い雲の合間に青空が広がる。いったん傾斜が緩んでテラス(標高900m付近)のようなところに出る。背後には黒伏スノーパークのゲレンデ。リフトが動き、ボーダーが大勢滑っているのが見える。風が冷たいのでいったん上着を着込むが、テラスからは更に傾斜が増していき、日も照ってきたのでまた上着を脱ぐ。

9時半前、登っている斜面の後方(東)に丸い鋭峰が見える。丸い頂上の半分が切り取られたようなその山は柴倉山のようだ。迫力のある印象的な姿。斜面はやがて沢状の窪みとなり、黒伏本峰と東尾根の間に入っていく。その沢状の窪みの急斜面をしばらく登ると、踏跡は窪みを離れて左岸の斜面に登っていく。そのまま沢状を辿るか、右岸の斜面を登ってもいい感じだが、ここは踏跡を信じて左岸を登る。コチコチのアイスバーンの斜面をスキーアイゼンを使って斜めに登る。

左岸の急斜面からいったん狭いテラス(標高1,050m付近)に達する。そこからは東尾根の登りやすい斜面となっている。背後の沢状と右岸の斜面は上方が急になっていき、登りにくくなっているようだ。スノーパークのある水無山の背後にも山が見えており、左(東)の平なのは白髪山、右奥の三つの岩峰に見えるのは面白山と思われる。その背後にかすかに見えている大きなのは蔵王かもしれない。テラスの先の急坂はやがてブナ林に入り、傾斜が緩くなっていく。右手(北)の林越しに船形の山々が見えてきた。

ブナ林の正面に真っ白い丸いピークが現れる。あれが黒伏の頂上だろうか、いやもっと左のはずだが。踏跡はその白丸ピークの麓を左に回り込み、そして向きを変えて白丸ピークに登っていく。なんでまっすぐに登らないんだ、と思ったが、たぶんこのほうが登りやすいのだろう。白丸ピーク(1,142m峰)の頂上は林を抜けた展望台となっていて、四周を見渡すことができる。特に、北にある白い尖峰が立派。踏跡はそっちに向かっているので、それが黒伏かと思ったが、そんははずはない。黒伏は南に見えている黒い林のピークで、その白尖峰は白森であった。あれにもいつか登りたいものだ。

踏跡の主が白森の頂上付近を歩いていないか目をこらしたが、どうやらもうピークの先まで行ってしまっていたようだ。白森の左にももうひとつ丸いピークが見えていたが、同定できていない。そしてそれ以外にも数えきれない数の山々が周囲に並んでいる。柴倉の後に見える平らな大きいのがどうやら船形山のようだ。その右手からスノーパークの背後にかけてたくさんのピーク。ひとわたり写真をとり、引き返して黒伏に向かう。

林のなかはすぐに急な登りとなる。頂上が近づくと、頭上で冬の太陽が輝き、透き通った冷たい空気が張りつめている。真っ青な空と白い雪に光と影。高度が上がっていくと背後に白森が見えてくる。11時前に頂上稜線に到達。林を抜け、東のかなたに船形山が見えている。大きな船をひっくりかえした形。だいぶ遠い。そして白森の左(西)にあるピークの背後に入道の頭のような先鋒(1,235m峰)が見えている。名前は無いらしいが、印象的。稜線の南側は切り立った崖だろうから近寄らないようにして登る。上から稜線を見降ろすと、すぐには崖になっていない。スノーパークがもう低くなっていて、そこを滑っている豆粒の人たち。大勢来てるのかな、と駐車場を見ると、第4駐車場のずっと先まで駐車した車が並んでいる。天気が良くなったし、今日は大入りだ。

11時に黒伏頂上に到着。積もった雪で丸く真っ白な頂上。標識は見当たらない。360度の視界だが、残念なことに西の空は霞がかかっていて、月山や朝日岳が見えていない。北には天を突く白森。その右に稜線が続き、頂上の半分が切り取られたような迫力の柴倉山、その背後に大きな船をひっくりかえしたような船形山が重なる。東には更に白髪山や寒風山。南のかなたには、たぶん面白山とその背後の蔵王が微かに見えている。西にはロッククライミングの岩壁(黒伏山の南壁というのもあるらしいが、どっちも私には無縁)。頂上よりも低いが、平らな大きな壁が今は雪をつけており、上辺の雪庇は今にも落ちそう。頂上に戻り、スタンドを立てて記念撮影。雪の上だとカメラ視線が低くなるため、背景を入れるためには人物の姿勢を低くしなければならない。深雪の上を走りまわる。

最後にスキーのシールをはがし、テルモスのホットレモンを飲み、そして雪の上に寝転んで休憩。いい天気、いい気分。結局、頂上には40分いて、名残惜しみながら帰路につく。新雪の滑走は頂上付近はややベタついていたが、林に入るとごきげんパウダーとなる。ショートカットを切りながらの滑走はあっという間に頂上急斜面が終わり、頂上基部の平坦部分に到達。少しブナ林の中を歩き、傾斜が出てから滑走再開。次第に傾斜は増し、そして本日のハイライトの大斜面。

最初は30度から40度くらいの斜面をショートカットを8回くらい刻んで1,050mテラスまで滑走。残った滑走トレースを振り返る。なかなかいい感じ。次の出だしはたぶん40度を超えていて、オーバーハングしていてうまく写真に入らない。アイスバーンを横滑りし、そこから気持ちよいショートターンを刻む。身震いするほどの解放感!

そこから900mテラスまでは、登りトレースの無い沢筋左岸を滑走。やや片斜面だがごきげんショートターンを刻む。900mテラスからはさすがに雪が重くなりはじめ、登りトレースとも交錯し、きれいな滑走トレースは残せなくなる。標高800-850m雪原までの林斜面では、大量の雪を散らばしながらの滑走から始まり、その後は登りトレースを外して西寄りのオープン斜面を選んでショートターンを刻む。そして雪原(標高830m付近)に滑り込む直前のあたりで登ってくる二人を見る。その二人の西側を通って登りトレースに合流し、最後は雪原に登り返す。背後にはいかめしい黒伏の頂上部分が青空に白く光っている。

林に入ってからは登りトレースよりも高い西側を辿り、最後の沢筋の上部から急坂林間滑走。雪質が悪く、トレースは崩れてしまうが、本日最後の滑りを楽しみ、沢の右岸に降り立つ。12時半過ぎ。右岸には沢沿いを更に北に登る新しい踏跡がついていた。帰りの雪原か林の中で、東側からやってきて合流する踏跡を見たが、たぶんそれに続いているのだろう。たぶんそっちがガイドに記載のルートなのだろう。

スキーをザックに取り付けて橋を渡ると、踏跡は駐車場から直接降りてくるものの他に、私のつけたスキートレースの上を歩いているものがある。私と同じく駐車場の奥から降りたものと思われる。スキーを担いだまま急斜面を登っていくと、上でこれから登山に向かうパーティと出会う。「どこですか、黒伏ですか」「そうです」「あの人はいっしょですか」「いえ、違います」。沢右岸ルートから斜面取付のあたりに人影がひとつ見えている。黒伏では会わなかったから、どこか別のところに登っていたのだろうか。

駐車場は満車。車に戻り、スキーを拭いてワックスをかけ、帰路につく。快晴となった青空に黒伏が間近に見えているので、車を何度も停めて何度も写す。いかめしくごつごつした南側はまるで雪のない絶壁になっていて、その背中にある真っ白なパウダー世界はまるで見えていない。ついさっきまであの頂上にいたのに。車道沿いのスキー場駐車場はずっと満車。谷から平野にでると、行く手にぼんやり月山と葉山が見えている。背後の傾いた黒伏を枝道に入って写す。横長の尾根はたぶん1,235m峰、全く違う姿の黒伏。天童温泉に入ろうと昨晩泊った道の駅に寄るが、そこにあるのは足湯だけだと分かり、天童温泉街の中を捜しまわって栄屋ホテルというのに入る。

パウダー滑走のできるルートをガイドで知り、登ることのできた黒伏山はその通りに快適な雪質の山であった。スキー場の駐車場を使うが、リフトは使わない。スキー場も賑わっているが山に登るパーティもいる。天童の市街にも割と近いのに雪質は良い。白銀の世界に登って青空の下の船形と蔵王の山々に出会い、まっさらなパウダーを滑り下ると、いかめしい黒伏が見下ろしていた。ある冬の日の魔法のような一日。

道の駅天童の野外ステージ(の背中)

6時前に起き、朝食にパンを食べ、スキーにシールを貼り、テルモスに自動販売機で買ったホットレモンを入れ、7時前に道の駅を出発。空は晴れているが、目指す東の山は朝霧で霞んでいる。その朝霧のなかに、右に傾いた黒伏が見えてきた。それを写しながら前進。スノーパークまでの道は除雪されており、朝の道は凍っていて滑る。近づいた黒伏は頭を雲が覆っていて麓部分しか見えない。

王将の看板

スノーパークの駐車場

スノーパークが近付くと、道沿いに駐車場が並んでおり、マップ指定の一番奥の第4駐車場というのを探す。その看板は無かったが、たぶんこれだろうと思われる駐車場に入る。駐車場の奥には除雪された雪が積み重なっており、いったん車を降りてその雪の山に登ってみる。駐車場の背後には確かに沢があり、黒伏へはその沢を越えれば取付けそうだ。沢の徒渉点が確認できなかったが、下に降りればなんとかなるだろう。駐車場には一台先客の車があったが、一番奥に停める。準備しているとブルドーザーが来て昨晩積もった雪の除雪を始める。邪魔かなと思ったが、駐車中の車を避けて除雪してさっさと行ってしまった。

作業橋

ピッケルをザックに取り付け、スキーを持って除雪の山に登り、その上でスキーを履き、沢筋のところまで滑り降りる。いやあ、徒渉できそうなところは上流側にはないなあ。こいつはダメか・・・と下流側に歩くと、なんとそこに作業用の鉄パイプの橋がある、橋桁も細いがついている、踏み跡もある、それは除雪の山からまっすぐに急斜面を降りていた。なんだ、こっち側に登山ルートがあったのか。スキーを外して橋を渡ろうとし、そんなに安易に渡らない方がいいと思い、ザックにスキーを取り付けて渡る。「柴倉コース作業用仮設備につき関係者以外通行を禁ず。定員一名、150kgまで」とある。

作業橋のコース案内図

沢沿いの踏み跡

対岸に渡ってスキーを履き、そこからは踏跡を辿る。これは駐車場の先客のものに違いない。沢は橋のすぐ川上で二股に分かれ、踏跡は左俣の右岸に沿って続いている。その先にガイドにあった堰堤が並んでおり、二つ目の堰堤の先から斜面に取付くべきであったが、先行の踏跡は最初の堰堤の手前から左の沢筋を登っており、余り考えずにその踏跡を辿る。スキーで登るにはきつすぎる傾斜なので、大きくキックターンを切りながら登る。

林間斜面

朝は寒くて上着を着込んでいたが、この急斜面の登りで汗をかき、緩斜面となったところで上着を脱ぐ。そこはブナ林(とカラマツ?)の斜面で、黒伏は斜面の上の方向にあると思われたが、踏跡は斜面を右手(北)にトラバースしていく。踏跡がなければ斜面を登っていただろう。この間に林の向こうに周囲の山が見えてくるが、同定できるほどはっきりしていない。踏跡は北から西に方向を変え、やがて正面に黒伏が見えてくる。霧は晴れてきたようだ。

標高830m付近の雪原

いったん林を抜けて雪原(標高830m付近)に出る。正面の黒伏へは右手の尾根に取付いて登っていくようだ。

黒伏山

右手の尾根に向かう

キックターン

スノーパークと水無山

雪原(標高830m付近)の端の浅い沢状のところを越え、いよいよ急な登りにかかる。徒歩の踏み跡を離れ、斜めに登ってキックターン。林を越える高さまで登ると、どんどん視界が広がり、白い雲の合間に青空が広がる。いったん傾斜が緩んでテラス(標高900m付近)のようなところに出る。背後には黒伏スノーパークのゲレンデ。リフトが動き、ボーダーが大勢滑っているのが見える。風が冷たいのでいったん上着を着込むが、テラスからは更に傾斜が増していき、日も照ってきたのでまた上着を脱ぐ。

柴倉山

9時半前、登っている斜面の後方(東)に丸い鋭峰が見える。丸い頂上の半分が切り取られたようなその山は柴倉山のようだ。迫力のある印象的な姿。斜面はやがて沢状の窪みとなり、黒伏本峰と東尾根の間に入っていく。その沢状の窪みの急斜面をしばらく登ると、踏跡は窪みを離れて左岸の斜面に登っていく。そのまま沢状を辿るか、右岸の斜面を登ってもいい感じだが、ここは踏跡を信じて左岸を登る。コチコチのアイスバーンの斜面をスキーアイゼンを使って斜めに登る。

1,142m峰

左岸の急斜面からいったん狭いテラス(標高1,050m付近)に達する。そこからは東尾根の登りやすい斜面となっている。背後の沢状と右岸の斜面は上方が急になっていき、登りにくくなっているようだ。スノーパークのある水無山の背後にも山が見えており、左(東)の平なのは白髪山、右奥の三つの岩峰に見えるのは面白山と思われる。その背後にかすかに見えている大きなのは蔵王かもしれない。テラスの先の急坂はやがてブナ林に入り、傾斜が緩くなっていく。右手(北)の林越しに船形の山々が見えてきた。

1,142m峰からの眺望 :白森、銭山、柴倉山、白髪山

白森

ブナ林の正面に真っ白い丸いピークが現れる。あれが黒伏の頂上だろうか、いやもっと左のはずだが。踏跡はその白丸ピークの麓を左に回り込み、そして向きを変えて白丸ピークに登っていく。なんでまっすぐに登らないんだ、と思ったが、たぶんこのほうが登りやすいのだろう。白丸ピーク(1,142m峰)の頂上は林を抜けた展望台となっていて、四周を見渡すことができる。特に、北にある白い尖峰が立派。踏跡はそっちに向かっているので、それが黒伏かと思ったが、そんははずはない。黒伏は南に見えている黒い林のピークで、その白尖峰は白森であった。あれにもいつか登りたいものだ。

頂上手前の林間斜面の光と影

踏跡の主が白森の頂上付近を歩いていないか目をこらしたが、どうやらもうピークの先まで行ってしまっていたようだ。白森の左にももうひとつ丸いピークが見えていたが、同定できていない。そしてそれ以外にも数えきれない数の山々が周囲に並んでいる。柴倉の後に見える平らな大きいのがどうやら船形山のようだ。その右手からスノーパークの背後にかけてたくさんのピーク。ひとわたり写真をとり、引き返して黒伏に向かう。

冬の太陽

林のなかはすぐに急な登りとなる。頂上が近づくと、頭上で冬の太陽が輝き、透き通った冷たい空気が張りつめている。真っ青な空と白い雪に光と影。高度が上がっていくと背後に白森が見えてくる。11時前に頂上稜線に到達。林を抜け、東のかなたに船形山が見えている。大きな船をひっくりかえした形。だいぶ遠い。そして白森の左(西)にあるピークの背後に入道の頭のような先鋒(1,235m峰)が見えている。名前は無いらしいが、印象的。稜線の南側は切り立った崖だろうから近寄らないようにして登る。上から稜線を見降ろすと、すぐには崖になっていない。スノーパークがもう低くなっていて、そこを滑っている豆粒の人たち。大勢来てるのかな、と駐車場を見ると、第4駐車場のずっと先まで駐車した車が並んでいる。天気が良くなったし、今日は大入りだ。

船形山(柴倉山の背後)

11時に黒伏頂上に到着。積もった雪で丸く真っ白な頂上。標識は見当たらない。360度の視界だが、残念なことに西の空は霞がかかっていて、月山や朝日岳が見えていない。北には天を突く白森。その右に稜線が続き、頂上の半分が切り取られたような迫力の柴倉山、その背後に大きな船をひっくりかえしたような船形山が重なる。東には更に白髪山や寒風山。南のかなたには、たぶん面白山とその背後の蔵王が微かに見えている。西にはロッククライミングの岩壁(黒伏山の南壁というのもあるらしいが、どっちも私には無縁)。頂上よりも低いが、平らな大きな壁が今は雪をつけており、上辺の雪庇は今にも落ちそう。頂上に戻り、スタンドを立てて記念撮影。雪の上だとカメラ視線が低くなるため、背景を入れるためには人物の姿勢を低くしなければならない。深雪の上を走りまわる。

黒伏山頂上直前からの眺望 :1,235m峰、白森、銭山、柴倉山、船形山、寒風山、黒伏山

1,235m峰

黒伏山頂上から面白山、蔵王山方面

黒伏山頂上から船形山方面

黒伏山頂上から北の眺望 :1,235m峰、白森、銭山、柴倉山、船形山、白髪山、寒風山、面白山、蔵王連峰

面白山?

黒伏山頂上から南の眺望:柴倉山、船形山、白髪山、面白山、蔵王連峰

西尾根

白森とスキー

背中の滑走

最後にスキーのシールをはがし、テルモスのホットレモンを飲み、そして雪の上に寝転んで休憩。いい天気、いい気分。結局、頂上には40分いて、名残惜しみながら帰路につく。新雪の滑走は頂上付近はややベタついていたが、林に入るとごきげんパウダーとなる。ショートカットを切りながらの滑走はあっという間に頂上急斜面が終わり、頂上基部の平坦部分に到達。少しブナ林の中を歩き、傾斜が出てから滑走再開。次第に傾斜は増し、そして本日のハイライトの大斜面。

背中の滑走

大斜面滑走

最初は30度から40度くらいの斜面をショートカットを8回くらい刻んで1,050mテラスまで滑走。残った滑走トレースを振り返る。なかなかいい感じ。次の出だしはたぶん40度を超えていて、オーバーハングしていてうまく写真に入らない。アイスバーンを横滑りし、そこから気持ちよいショートターンを刻む。身震いするほどの解放感!

大斜面滑走

大斜面滑走

そこから900mテラスまでは、登りトレースの無い沢筋左岸を滑走。やや片斜面だがごきげんショートターンを刻む。900mテラスからはさすがに雪が重くなりはじめ、登りトレースとも交錯し、きれいな滑走トレースは残せなくなる。標高800-850m雪原までの林斜面では、大量の雪を散らばしながらの滑走から始まり、その後は登りトレースを外して西寄りのオープン斜面を選んでショートターンを刻む。そして雪原(標高830m付近)に滑り込む直前のあたりで登ってくる二人を見る。その二人の西側を通って登りトレースに合流し、最後は雪原に登り返す。背後にはいかめしい黒伏の頂上部分が青空に白く光っている。

標高800m付近滑走

林に入ってからは登りトレースよりも高い西側を辿り、最後の沢筋の上部から急坂林間滑走。雪質が悪く、トレースは崩れてしまうが、本日最後の滑りを楽しみ、沢の右岸に降り立つ。12時半過ぎ。右岸には沢沿いを更に北に登る新しい踏跡がついていた。帰りの雪原か林の中で、東側からやってきて合流する踏跡を見たが、たぶんそれに続いているのだろう。たぶんそっちがガイドに記載のルートなのだろう。

白髪山?

標高800m付近滑走

スキーをザックに取り付けて橋を渡ると、踏跡は駐車場から直接降りてくるものの他に、私のつけたスキートレースの上を歩いているものがある。私と同じく駐車場の奥から降りたものと思われる。スキーを担いだまま急斜面を登っていくと、上でこれから登山に向かうパーティと出会う。「どこですか、黒伏ですか」「そうです」「あの人はいっしょですか」「いえ、違います」。沢右岸ルートから斜面取付のあたりに人影がひとつ見えている。黒伏では会わなかったから、どこか別のところに登っていたのだろうか。

黒伏山の横顔

駐車場から青空の黒伏山

駐車場は満車。車に戻り、スキーを拭いてワックスをかけ、帰路につく。快晴となった青空に黒伏が間近に見えているので、車を何度も停めて何度も写す。いかめしくごつごつした南側はまるで雪のない絶壁になっていて、その背中にある真っ白なパウダー世界はまるで見えていない。ついさっきまであの頂上にいたのに。車道沿いのスキー場駐車場はずっと満車。谷から平野にでると、行く手にぼんやり月山と葉山が見えている。背後の傾いた黒伏を枝道に入って写す。横長の尾根はたぶん1,235m峰、全く違う姿の黒伏。天童温泉に入ろうと昨晩泊った道の駅に寄るが、そこにあるのは足湯だけだと分かり、天童温泉街の中を捜しまわって栄屋ホテルというのに入る。

西尾根と黒伏山

東根市付近から見る1,235m峰と傾いた黒伏山

パウダー滑走のできるルートをガイドで知り、登ることのできた黒伏山はその通りに快適な雪質の山であった。スキー場の駐車場を使うが、リフトは使わない。スキー場も賑わっているが山に登るパーティもいる。天童の市街にも割と近いのに雪質は良い。白銀の世界に登って青空の下の船形と蔵王の山々に出会い、まっさらなパウダーを滑り下ると、いかめしい黒伏が見下ろしていた。ある冬の日の魔法のような一日。

山形道から見上げる山形神室(左奥)