利尻岳 最北の名峰から二度目の滑走

北海道・道北  利尻岳(北峰1,719m、南峰1,721m)、長官山1,218m 2018年4月29日

日本百名山

296

最北の海を渡れば

冷たい海の上に聳える輝く白峰

鋭鋒の頂点に立ち

大斜面を滑る

☼☼☼☼☼

代官山に着く直前、あの利尻頂上が見えてくる。真っ青に晴れ渡った空の中に鋭角の白峰が輝いている。なめらかに、きらめくような白!

やってきた後続の人たちも歓声。彼らは休まずに先に進み、その後は追いつけなかった。すでに下ってきた人たちに会い始める。何時から登ったのだろう。

南峰・頂上直下の急斜面には、やや右(東)側から取付き、早めに尾根に上がると足場がしっかりし、頂上まで楽に登れた。無風だったのが幸いだった。そして利尻岳の南峰に到達し、狭い頂上に腰を下ろしたとき、感動がこみあげてきて涙があふれそうだった。ここまで来れて、本当に幸運だった。

北峰でひっくりかえって休んでいると、一人、地元の人がやってきた。利尻に引っ越してきて3度目の登山で、天気がよかったのは今回が初めて、登れたのも初めてだという。私は12年前と今回で2度登り、2度とも晴。本当に幸運だ。

日は照っていたが頂上直下は雪は固く、ショートターンは無理。大き目のターンで斜めに下り、小尾根を越える。そこから避難小屋までが今回のハイライト。やや片斜面だが、ほどよい硬さで、心地よいショートターンを刻む。数回ターンして停止すると、エッジで削った氷の粒がジャラジャラと落ちてくる。息がはずんでいたが、すぐに滑走再開。

代官山の稜線上からの滑走は二つ目のハイライト。ほどほどのハードバーンになっていて、急斜面にショートターンを刻む。どんどん飛ばしていくと、すばらしい解放感。

夏道の出ているところに着き、滑走終了。スキーの雪をミニモップで落とし、シートラで歩いていると、スキー靴の男性が追いついてきた。「お疲れ様」「ご苦労さん」。彼は登山口の軒下で泊まっていた自転車の人だった。「寒くなかったですか」と聞くと、「冬シュラフなので大丈夫」と言っていたが、私は車の中でも朝は冷え、エンジンをかけていた。それにしてもスキーとブーツをかついでここまで自転車で来るとは・・・ここにも猛者が一人。

 代官山に着く直前、あの利尻頂上が見えてくる。真っ青に晴れ渡った空の中に鋭角の白峰が輝いている。なめらかに、きらめくような白!
 南峰・頂上直下の急斜面には、やや右(東)側から取付き、早めに尾根に上がると足場がしっかりし、頂上まで楽に登れた。無風だったのが幸いだった。そして利尻岳の南峰に到達し、狭い頂上に腰を下ろしたとき、感動がこみあげてきて涙があふれそうだった。ここまで来れて、本当に幸運だった。
南にもう一つのピーク(P3・1,710m)が見えていた。そのP3・1,710mは南峰よりも直立していて、とりつくのは至難に思えたが、驚いたことに、その頂上直下の雪壁に斜めの踏み跡がいくつかついていた。
 日は照っていたが頂上直下は雪は固く、ショートターンは無理。大き目のターンで斜めに下り、小尾根を越える。そこから避難小屋までが今回のハイライト。
 代官山の稜線上からの滑走は二つ目のハイライト。ほどほどのハードバーンになっていて、急斜面にショートターンを刻む
 夏道の出ているところに着き、滑走終了。
  4:53 野営上発(シートラ)  5:30 シール  5:58 林を抜ける  6:27 分岐点  6:49 アイゼン  7:31 夏道尾根  8:24 代官山1,218m、休憩、シール  8:48 代官山・南峰1,250m  9:21 アイゼン10:30 小尾根乗越10:52 利尻岳・北峰1,719m11:13 利尻岳・南峰1,721m・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り6時間20分11:36 利尻岳・北峰、休憩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・南峰往復44分11:58 利尻岳・北峰発、滑走12:01 小尾根乗越12:12 避難小屋下1,210m、登り返し12:23 代官山稜線、休憩12:40 代官山稜線発、滑走12:54 分岐点合流12:57 林に入る13:18 夏道、滑走終了13:27 野営場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・利尻岳・北峰から1時間29分                                   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復8時間34分

RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

(4月27日)

5月連休に北海道に行くため、フェリーを2月初めに予約。割高覚悟だったが、割引チケットを購入できた。ただし、天気が悪くてもキャンセルできないのを覚悟しないといけない。4月最終週に天気予報を見て、連休初めは晴れそうなので、稚内から利尻、礼文へのフェリーを予約。ここはそんなに混むまいと思ったが、礼文から稚内に戻る3便が満席のため、4便を取る。この日の移動がややきつくなるが、スケジュールをずらすほどではない。ネット予約できるようになって、ずいぶん便利だ。前々日19:10のフェリーに乗るため青森港に向かうが、道が渋滞していて港に着いたのは18時半過ぎ。スマートチェックイン。まだ積み込みは始まっていなかった。夕食を食べ、少しパソコンを打ってすぐに寝る。

(4月28日)

函館の大沼公園から高速を行くが、眠くて休憩。少し仮眠をとる。カーナビは深川JCから留萌、日本海廻りのルートを示しており、少し不安はあったが、そっちを行く。日本海沿いの道は走りやすく、平均80㎞。実質、留萌までほとんど高速で、この方が早いのだろう。ハイブリッドの航続距離も摩訶不思議で、留萌で給油したとき809㎞だった航続距離は、走るにつれて増えていき、7:00amには834㎞、7:37には881㎞!

昼前に稚内に着いたのでだいぶ時間がある。ノシャップ岬は稚内の二つの岬の西側。灯台があるが入れず、港の隣の展望所に寄る。利尻も礼文も見えていない。遠景は霞んでいた。宗谷岬はずいぶん遠い。こっちは12年前にも寄っている。「日本最北端の地」とあり、礼文島のスコトン岬よりもわずかに北。だが、海の上に見える弁天島の方が最北ではないのか?丘の上に車で上がってみると、レンガ造りの「旧海軍望楼」があった。日本語、英語、ロシア語、中国語、台湾語、韓国語の案内。稚内市内に戻り、食料などを買物。

稚内フェリーには後ろ向きにバックして乗りこむ、というのは12年前を同じだった。青森・函館フェリーと違って受付は30分前で、長蛇の列。車検証とネット・コピーを持っておとなしく待つ。稚内に着いたとき、利尻島は見えていなかった。なのにフェリーが近づくと、利尻岳が靄の中から真っ白な姿を現わした。下船のアナウンスまで、私は船べりに立ち尽くしてその姿を見ていた。実は、北東から見る利尻岳は頂上の格好がいまいちで、記憶の中の北から見る尖峰の利尻岳が見えるのを待っていたのだが、何事だろうと他の人たちも外に出てきて、さかんに利尻岳を写していた。利尻島に上陸し、その尖峰の利尻と12年ぶりに対面する。野営場への道はフェリー港を出てすぐ左折だったが、通り過ぎてしまい、富士野園地というところの駐車場に入り、利尻岳を眺め、写す。トイレもあったから、そこに泊まっても良かったが、その前にコンビニに弁当を買いにゆく。

野営場まで登ると、なんと雪が少ない。前回は野営場から即スキーだったが、今回は少し夏道を歩かないといけないようだ。最奥の建物の入口に寝袋を広げている人がいた。寒くないのかな。夕方の気温は8℃。トイレがないが、12年前と同じく、ここに泊まることにする。駐車場の車の中でゆっくり食事し、ダウンを着こみ、シュラフに入って寝る。

(4月29日)

4時のアラームの前にもう明るくなっていて、起きる。着替えてホットレモンを沸かし、シールを貼っている頃、車がやってくる。たぶんホテルの送迎で、3人下ろして帰っていった。皆スキーを担いで歩いていく。私もスキーを担いで歩き始める。ピッケルストックだが、南峰に登るためにピッケルももっていく。夏道を少し歩くと雪が覆うようになるが、木の葉や土で汚れているのでしばらくシートラのままでいく。シールに変えている二人を追い抜くが、やがて抜き返され、その直後にシールに変える。先行している人たちはずいぶん早い。

林の中から一瞬、利尻頂上が見えたが、すぐまた見えなくなる。やがて林を抜け、雪で埋まる広い谷に出る。行く手で谷は二つに分かれ、その分岐点あたりを行く4人。右の谷に滑走トレースがたくさん見えるが、前回は左の谷を登り、帰りは右の谷だったような気がする。見ると、中央の尾根の上を行く人影が見える。その手もあったか。先行の4人は分岐点で休んでから左の谷を登っていくが、3人はアイゼン。更にスキーを置いて登山靴に履き替えていたようで、その間に先行する。尾根にはブッシュがあり、登りやすそうには見えない。シールで代官山まで登れそうな感じがしたが、次第にシールが滑るようになり、上で緩むだろうと思った傾斜はきついまま。途中でアイゼンに変える。アイゼンでは従来、まっすぐ登ることが多かったが、今回は谷足は靴底をつけ、キックターンしながら登った。まっすぐ登るのに比べ少し距離が長くなるのだろうが、代官山まではペースは落ちなかった。

谷の上端で雪が減ってブッシュが出ており、灌木に苦戦しながら左の尾根に出ると、尾根上はブッシュがなく、歩きやすくやっていた。後続の男性に「こっちが開いている」と声をかける。そこはまだ標高1,100m付近で、行く手には代官山1,218mのピークが見えている。1,100m地点にはブッシュを避けて尾根をトラバースする踏み跡があり、それを辿って尾根に上がると、夏道が半分見えていた。休みたかったが、利尻頂上の見える代官山までそのまま登る。代官山に着く直前、あの利尻頂上が見えてくる。真っ青に晴れ渡った空の中に鋭角の白峰が輝いている。なめらかに、きらめくような白!石碑が立っており、その脇にザックとスキーを下ろし、最初の休憩。やってきた後続の人たちも歓声。彼らは休まずに先に進み、その後は追いつけなかった。すでに下ってきた人たちに会い始める。何時から登ったのだろう。風が吹いており、代官山では寒くはなかったが、念のため、ネックウォーマーを巻き、手袋をレイングローブから厚手手袋に変える。バナナを食べ、アイゼンを外し、シールで1,250m峰まで少し登り、そこから避難小屋までシール滑走。そのまま頂上に向かう。

登山靴の3人はもうだいぶ先を登っており、避難小屋で休んでいたスキー靴の男性も小屋にスキーを置いて追越して行った。結局、頂上までスキーを持って行ったのは私だけだったようだ。避難小屋の上にもブッシュの出ている箇所があり、スキーで越えていくのに苦労。先行トレースも見失いがちになり、頃合いでアイゼンに変える。また下ってきた人(二人づつ4人くらい)に会う。代官山が眼下に低く見え、その向こうにポン山や海岸、海が広がる。海を行く白い小さなのはフェリーだったようだ。ブッシュが無ければ踏み跡を見失うこともないが、だいぶ疲れてきたうえに傾斜が増し、休み休みの苦しい登り。ベンチがあったのは1,400m付近と思われる(1,580m付近の沓形ルートとの合流点はもっと上だろう)。東に延びる沓形稜が見える。こんなに天気がよいのに、私の後に続く人影はなし・・・・・と思ったら、避難小屋の東の方からスキーを担いで登っている人が見えた。その後も、避難小屋のあたりから東にスキー滑走している人たちを見た。東のどのあたりから登っているのだろう。

1,630m付近では、北尾根から左に下る小尾根を斜め左に登って乗越し、今度は斜め右に登って北尾根に戻る。北尾根に戻ったあたりでもう下ってきた登山靴の3人と会う。「ここを滑るのか」と聞かれ「ええ。いい斜面だ」と答えたが、本心。頂上直下の急斜面は、ストックを突けないのでピッケル部分をひっかけて登り、1,700mテラスに上がると、目の前に北峰。あと50m。見下ろす山の南西部には雲海が広がっていた。島の北側は晴れてるのに、南側は雲に覆われており、遠景も霞んでいて、北西に見えるはずの礼文島や東の北海道も全く見えていなかった。ちょっと残念。

利尻北峰に着き、スキーとザックを下ろし、ピッケルとピッケルスティック1本をもって南峰に向かう。南峰をよく見ると、頂上直下がかなり厳しそうだ。途中にも細尾根があった。その細尾根で、戻ってきたスキー靴の男性に会う。「頂上直下がかなり厳しい」と言われ、「風が吹かなければいいんだが」と答える。北峰までの尾根では強風が吹き、スキーも厳しいかなと思っていたが、次第に収まっていた。私が南峰に登っている間も強風は吹かなかった。幸運だった。南峰までは難所が3ヶ所くらいあった。最初の細尾根へはいったん下り、トラバースせず、雪の融けている細尾根末端から登って越える。次の細尾根には尾根の左(西)側を下る踏み跡がついており、それを辿ってトラバースで通過。ここは尾根通しだと厳しかっただろう。南峰・頂上直下の急斜面には、やや右(東)側から取付き、早めに尾根に上がると足場がしっかりし、頂上まで楽に登れた。無風だったのが幸いだった。そして利尻岳の南峰に到達し、狭い頂上に腰を下ろしたとき、感動がこみあげてきて涙があふれそうだった。ここまで来れて、本当に幸運だった。

南峰1,721mからは、北に祠の見える白い北峰1,719m、西に黒い尖峰のローソク岩(1,700mくらい?)に加え、南にもう一つのピーク(P3・1,710m)が見えていた。そのP3・1,710mは南峰よりも直立していて、とりつくのは至難に思えたが、驚いたことに、その頂上直下の雪壁に斜めの踏み跡がいくつかついていた。その踏み跡は鬼脇方面(南東)にずっと続いていたので、たぶんその方角から登ってきたのだろう。冬に仙法志稜を登るという記事を見た記憶があるが、なんともすさまじい。

北峰に戻り、半分見えていた祠を拝み、幸運を感謝。北峰でひっくりかえって休んでいると、一人、地元の人がやってきた。利尻に引っ越してきて3度目の登山で、天気がよかったのは今回が初めて、登れたのも初めてだという。私は12年前と今回で2度登り、2度とも晴。本当に幸運だ。野営場から北峰まで距離7㎞、標高差1,500mを6時間というのは前回の7時間よりも早く、こんなところかなあ。登山靴の三人やスキー靴の男性は相当に早いということになるが、私もあのくらい早く登れれば、と思う。地元の男性に「頂上から滑るのはプロだけですよ」と言われ、意外に感ずる。このくらいの斜面なら、北アルプスや八甲田でも滑る人は少なくないだろう。それに、テレビやネットで見た本当のプロの記録では、頂上から北でなく、違う方角に滑っている。「そんなことはないんじゃないかなあ」というのは本心。「こんなところを滑ったらヒザがパンパンになる」と男性が言うが、足の力を抜いて滑ればヒザはそれほど疲れない。むしろ腰と肩に負担がかかる。こいつはどうしようもないのだろうか。

頂上からの滑走は12年前のようにはいかなかった。日は照っていたが頂上直下は雪は固く、ショートターンは無理。大き目のターンで斜めに下り、小尾根を越える。1,630m付近から北東に伸びる小尾根はデコボコしていてちょっとやっかい。往路ルートはえぐれたでこぼこ溝で、スキーには不向き。もう少し下のでこぼこの少ないところを越えるが、どうしてもコブの間を横に通り抜ける感じになる。斜めに滑り込むと思わず尻もちをつき、すぐに立ち上がる。ちょっと弱気だったか。そういえば、12年前も同じようなことをした記憶がよみがえる。なんとも。そこから避難小屋までが今回のハイライト。やや片斜面だが、ほどよい硬さで、心地よいショートターンを刻む。数回ターンして停止すると、エッジで削った氷の粒がジャラジャラと落ちてくる。息がはずんでいたが、すぐに滑走再開。

今回は雪が少なく、下は灌木やヤブが出ている。頂上から避難小屋まで、(12年前は小尾根以外はどこでも滑れたが、今回は)二つのヤブを越えなければならなかった。最初の灌木帯は越えたが、次のヤブは手ごわく、二つ目のヤブの脇を滑っていると、隙間から人が出てきた。頂上に向かっているパーティだった。彼等の通ってきたところを滑ろうとすると、「ヤブヤブですよ」と止められる。仕方ないのでヤブを越えずにそのまま下り、ヤブを抜けたところでクローチングを組んで少しでも登り返そうとし、避難小屋よりもたぶん20mくらい下で滑走終了。ひっくりかえって休憩。そこから踏跡のある稜線まで登り返すのがしんどかった。

頂上からの滑走終了点(避難小屋の下)から代官山によろよろと登り返している間に、頂上で会った男性が元気に追い越していく。更にもう一人シールで追い越して行った男性がいて、その人は代官山稜線からスキーで滑り降りていった。それはスキー靴で登っていた男性だった。私は代官山の稜線にたどり着き、再び横になって休憩。だいぶ疲れていたが、代官山の稜線上からの滑走は二つ目のハイライト。ここは12年前は雪が柔らかく、当時の私の腕前ではショートターンが刻めなかった。今回はほどほどのハードバーンになっていて、急斜面にショートターンを刻む。どんどん飛ばしていくと、すばらしい解放感。だが、スキートレースはたくさんついていて、自分のがどれなのかはわかりにくい。その滑走斜面には徒歩の踏み跡もあったが、往路で登ったのは隣の斜面。傾斜が一段落したところで、スキーを履いている男性がいたが、頂上で会った男性だったかもしれない。そこからはゆるゆると谷の側面をトラバースし、頃合いで谷に下るが、分岐点合流までは思ったより距離があった。

分岐点合流してからは、左(東)の谷を下っているらしい数人を見る。その下の広い谷をゆっくり下り、やがて林の中。12年前はトレースをたどって駐車地点まで滑れたが、今回は雪が少なく、トレースも落葉や枝で見失いがち。ときたま停止し、GPSでトレースを確認しながら滑る。そして夏道の出ているところに着き、滑走終了。スキーの雪をミニモップで落とし、シートラで歩いていると、スキー靴の男性が追いついてきた。いつの間にか追い越していたらしい。「お疲れ様」「ご苦労さん」。彼は登山口の軒下で泊まっていた自転車の人だった。「寒くなかったですか」と聞くと、「冬シュラフなので大丈夫」と言っていたが、私は車の中でも朝は冷え、エンジンをかけていた。それにしてもスキーとブーツをかついでここまで自転車で来るとは・・・ここにも猛者が一人。

野営場でゆっくり時間をかけてスキーブーツとスキーを拭き、ワックスを塗る。最高の一日だった。ゆっくり車を出し、温泉に向かう。アイポッドのビートとベース・ラインが心地よい。

 

 4月28日

朝日

函館の大沼公園から高速を行くが、眠くて休憩。少し仮眠をとる。カーナビは深川JCから留萌、日本海廻りのルートを示しており、少し不安はあったが、そっちを行く。日本海沿いの道は走りやすく、平均80㎞。実質、留萌までほとんど高速で、この方が早いのだろう。ハイブリッドの航続距離も摩訶不思議で、留萌で給油したとき809㎞だった航続距離は、走るにつれて増えていき、7:00amには834㎞、7:37には881㎞!

ノシャップ岬

昼前に稚内に着いたのでだいぶ時間がある。ノシャップ岬は稚内の二つの岬の西側。灯台があるが入れず、港の隣の展望所に寄る。利尻も礼文も見えていない。遠景は霞んでいた。宗谷岬はずいぶん遠い。こっちは12年前にも寄っている。「日本最北端の地」とあり、礼文島のスコトン岬よりもわずかに北。だが、海の上に見える弁天島の方が最北ではないのか?丘の上に車で上がってみると、レンガ造りの「旧海軍望楼」があった。日本語、英語、ロシア語、中国語、台湾語、韓国語の案内。稚内市内に戻り、食料などを買物。

宗谷岬

弁天島

ハートランド・フェリー

稚内フェリーには後ろ向きにバックして乗りこむ、というのは12年前を同じだった。青森・函館フェリーと違って受付は30分前で、長蛇の列。車検証とネット・コピーを持っておとなしく待つ。稚内に着いたとき、利尻島は見えていなかった。なのにフェリーが近づくと、利尻岳が靄の中から真っ白な姿を現わした。下船のアナウンスまで、私は船べりに立ち尽くしてその姿を見ていた。実は、北東から見る利尻岳は頂上の格好がいまいちで、記憶の中の北から見る尖峰の利尻岳が見えるのを待っていたのだが、何事だろうと他の人たちも外に出てきて、さかんに利尻岳を写していた。利尻島に上陸し、その尖峰の利尻と12年ぶりに対面する。野営場への道はフェリー港を出てすぐ左折だったが、通り過ぎてしまい、富士野園地というところの駐車場に入り、利尻岳を眺め、写す。トイレもあったから、そこに泊まっても良かったが、その前にコンビニに弁当を買いにゆく。

初めて見えた利尻岳(北東方向より)

入港直前の利尻岳(北方向より)

上陸直後の利尻岳(北西方向より)

野営場まで登ると、なんと雪が少ない。前回は野営場から即スキーだったが、今回は少し夏道を歩かないといけないようだ。最奥の建物の入口に寝袋を広げている人がいた。寒くないのかな。夕方の気温は8℃。トイレがないが、12年前と同じく、ここに泊まることにする。駐車場の車の中でゆっくり食事し、ダウンを着こみ、シュラフに入って寝る。

 4月29日

朝の樹間の利尻岳

4時のアラームの前にもう明るくなっていて、起きる。着替えてホットレモンを沸かし、シールを貼っている頃、車がやってくる。たぶんホテルの送迎で、3人下ろして帰っていった。皆スキーを担いで歩いていく。私もスキーを担いで歩き始める。ピッケルストックだが、南峰に登るためにピッケルももっていく。夏道を少し歩くと雪が覆うようになるが、木の葉や土で汚れているのでしばらくシートラのままでいく。シールに変えている二人を追い抜くが、やがて抜き返され、その直後にシールに変える。先行している人たちはずいぶん早い。

雪の少ない林

林の中から一瞬、利尻頂上が見えたが、すぐまた見えなくなる。やがて林を抜け、雪で埋まる広い谷に出る。行く手で谷は二つに分かれ、その分岐点あたりを行く4人。右の谷に滑走トレースがたくさん見えるが、前回は左の谷を登り、帰りは右の谷だったような気がする。見ると、中央の尾根の上を行く人影が見える。その手もあったか。先行の4人は分岐点で休んでから左の谷を登っていくが、3人はアイゼン。更にスキーを置いて登山靴に履き替えていたようで、その間に先行する。

林を抜ける

尾根にはブッシュがあり、登りやすそうには見えない。シールで代官山まで登れそうな感じがしたが、次第にシールが滑るようになり、上で緩むだろうと思った傾斜はきついまま。途中でアイゼンに変える。アイゼンでは従来、まっすぐ登ることが多かったが、今回は谷足は靴底をつけ、キックターンしながら登った。まっすぐ登るのに比べ少し距離が長くなるのだろうが、代官山まではペースは落ちなかった。

標高760m付近、アイゼンに替える

夏道合流手前の灌木ヤブ

代官山とトラバース・ルート

谷の上端で雪が減ってブッシュが出ており、灌木に苦戦しながら左の尾根に出ると、尾根上はブッシュがなく、歩きやすくやっていた。後続の男性に「こっちが開いている」と声をかける。そこはまだ標高1,100m付近で、行く手には代官山1,218mのピークが見えている。1,100m地点にはブッシュを避けて尾根をトラバースする踏み跡があり、それを辿って尾根に上がると、夏道が半分見えていた。休みたかったが、利尻頂上の見える代官山までそのまま登る。

見えてきた利尻岳

代官山に着く直前、あの利尻頂上が見えてくる。真っ青に晴れ渡った空の中に鋭角の白峰が輝いている。なめらかに、きらめくような白!石碑が立っており、その脇にザックとスキーを下ろし、最初の休憩。やってきた後続の人たちも歓声。彼らは休まずに先に進み、その後は追いつけなかった。すでに下ってきた人たちに会い始める。何時から登ったのだろう。

代官山頂上の石碑

風が吹いており、代官山では寒くはなかったが、念のため、ネックウォーマーを巻き、手袋をレイングローブから厚手手袋に変える。バナナを食べ、アイゼンを外し、シールで1,250m峰まで少し登り、そこから避難小屋までシール滑走。そのまま頂上に向かう。

利尻岳

代官山・南峰1,250m・・・・・踏跡のあたりから復路滑走

利尻岳

登山靴の3人はもうだいぶ先を登っており、避難小屋で休んでいたスキー靴の男性も小屋にスキーを置いて追越して行った。結局、頂上までスキーを持って行ったのは私だけだったようだ。避難小屋の上にもブッシュの出ている箇所があり、スキーで越えていくのに苦労。先行トレースも見失いがちになり、頃合いでアイゼンに変える。また下ってきた人(二人づつ4人くらい)に会う。

利尻岳頂上部と小さな登山者・・・・・斜めの小尾根が見える

代官山が眼下に低く見え、その向こうにポン山や海岸、海が広がる。海を行く白い小さなのはフェリーだったようだ。ブッシュが無ければ踏み跡を見失うこともないが、だいぶ疲れてきたうえに傾斜が増し、休み休みの苦しい登り。ベンチがあったのは1,400m付近と思われる(1,580m付近の沓形ルートとの合流点はもっと上だろう)。東に延びる沓形稜が見える。

コルから見上げる利尻岳

こんなに天気がよいのに、私の後に続く人影はなし・・・・・と思ったら、避難小屋の東の方からスキーを担いで登っている人が見えた。その後も、避難小屋のあたりから東にスキー滑走している人たちを見た。東のどのあたりから登っているのだろう。

利尻岳頂上部と小さな登山者・・・・・斜めの小尾根が見える

1,630m付近では、北尾根から左に下る小尾根を斜め左に登って乗越し、今度は斜め右に登って北尾根に戻る。北尾根に戻ったあたりでもう下ってきた登山靴の3人と会う。「ここを滑るのか」と聞かれ「ええ。いい斜面だ」と答えたが、本心。頂上直下の急斜面は、ストックを突けないのでピッケル部分をひっかけて登り、1,700mテラスに上がると、目の前に北峰。あと50m。見下ろす山の南西部には雲海が広がっていた。島の北側は晴れてるのに、南側は雲に覆われており、遠景も霞んでいて、北西に見えるはずの礼文島や東の北海道も全く見えていなかった。ちょっと残念。

灌木ヤブと利尻岳

代官山と海・・・・・・南峰(左)と本峰(右)

代官山と灌木ヤブ

利尻岳頂上部

利尻岳頂上付近の登山者

頂上付近の登山者

頂上への登り

利尻岳・北峰とローソク岩

利尻岳・北峰・・・・・左手前がテラス

利尻北峰に着き、スキーとザックを下ろし、ピッケルとピッケルスティック1本をもって南峰に向かう。南峰をよく見ると、頂上直下がかなり厳しそうだ。途中にも細尾根があった。その細尾根で、戻ってきたスキー靴の男性に会う。「頂上直下がかなり厳しい」と言われ、「風が吹かなければいいんだが」と答える。北峰までの尾根では強風が吹き、スキーも厳しいかなと思っていたが、次第に収まっていた。私が南峰に登っている間も強風は吹かなかった。幸運だった。

北峰の祠

南峰までは難所が3ヶ所くらいあった。最初の細尾根へはいったん下り、トラバースせず、雪の融けている細尾根末端から登って越える。次の細尾根には尾根の左(西)側を下る踏み跡がついており、それを辿ってトラバースで通過。ここは尾根通しだと厳しかっただろう。南峰・頂上直下の急斜面には、やや右(東)側から取付き、早めに尾根に上がると足場がしっかりし、頂上まで楽に登れた。無風だったのが幸いだった。そして利尻岳の南峰に到達し、狭い頂上に腰を下ろしたとき、感動がこみあげてきて涙があふれそうだった。ここまで来れて、本当に幸運だった。

利尻岳・南峰とローソク岩

利尻岳・南峰

利尻岳・南峰

南峰と登山者

南峰から見る北峰

南峰のピッケルと北峰

北峰の祠とスキーとザック

南峰のピッケルと北峰

利尻岳・P3・1,710m・・・・・南峰の更に南

南峰1,721mからは、北に祠の見える白い北峰1,719m、西に黒い尖峰のローソク岩(1,700mくらい?)に加え、南にもう一つのピーク(P3・1,710m)が見えていた。そのP3・1,710mは南峰よりも直立していて、とりつくのは至難に思えたが、驚いたことに、その頂上直下の雪壁に斜めの踏み跡がいくつかついていた。その踏み跡は鬼脇方面(南東)にずっと続いていたので、たぶんその方角から登ってきたのだろう。冬に仙法志稜を登るという記事を見た記憶があるが、なんともすさまじい。

利尻岳・P3・1,710mと斜面の上の踏跡

南峰から見るローソク岩

南峰への途上から見るローソク岩

ローソク岩

南峰とローソク岩

北峰に戻り、半分見えていた祠を拝み、幸運を感謝。北峰でひっくりかえって休んでいると、一人、地元の人がやってきた。利尻に引っ越してきて3度目の登山で、天気がよかったのは今回が初めて、登れたのも初めてだという。私は12年前と今回で2度登り、2度とも晴。本当に幸運だ。野営場から北峰まで距離7㎞、標高差1,500mを6時間というのは前回の7時間よりも早く、こんなところかなあ。登山靴の三人やスキー靴の男性は相当に早いということになるが、私もあのくらい早く登れれば、と思う。

南峰とスキーとローソク岩

地元の男性に「頂上から滑るのはプロだけですよ」と言われ、意外に感ずる。このくらいの斜面なら、北アルプスや八甲田でも滑る人は少なくないだろう。それに、テレビやネットで見た本当のプロの記録では、頂上から北でなく、違う方角に滑っている。「そんなことはないんじゃないかなあ」というのは本心。「こんなところを滑ったらヒザがパンパンになる」と男性が言うが、足の力を抜いて滑ればヒザはそれほど疲れない。むしろ腰と肩に負担がかかる。こいつはどうしようもないのだろうか。

北峰からの滑走

頂上からの滑走は12年前のようにはいかなかった。日は照っていたが頂上直下は雪は固く、ショートターンは無理。大き目のターンで斜めに下り、小尾根を越える。1,630m付近から北東に伸びる小尾根はデコボコしていてちょっとやっかい。往路ルートはえぐれたでこぼこ溝で、スキーには不向き。もう少し下のでこぼこの少ないところを越えるが、どうしてもコブの間を横に通り抜ける感じになる。斜めに滑り込むと思わず尻もちをつき、すぐに立ち上がる。ちょっと弱気だったか。そういえば、12年前も同じようなことをした記憶がよみがえる。なんとも。

代官山への斜面

そこから避難小屋までが今回のハイライト。やや片斜面だが、ほどよい硬さで、心地よいショートターンを刻む。数回ターンして停止すると、エッジで削った氷の粒がジャラジャラと落ちてくる。息がはずんでいたが、すぐに滑走再開。

頂上斜面上部の滑走

斜面と代官山と水平線

頂上斜面中間部の滑走

頂上斜面下部の滑走

頂上斜面・滑走終了点

今回は雪が少なく、下は灌木やヤブが出ている。頂上から避難小屋まで、(12年前は小尾根以外はどこでも滑れたが、今回は)二つのヤブを越えなければならなかった。最初の灌木帯は越えたが、次のヤブは手ごわく、二つ目のヤブの脇を滑っていると、隙間から人が出てきた。頂上に向かっているパーティだった。彼等の通ってきたところを滑ろうとすると、「ヤブヤブですよ」と止められる。

ヤブで出会った登山者

仕方ないのでヤブを越えずにそのまま下り、ヤブを抜けたところでクローチングを組んで少しでも登り返そうとし、避難小屋よりもたぶん20mくらい下で滑走終了。ひっくりかえって休憩。そこから踏跡のある稜線まで登り返すのがしんどかった。

頂上からの滑走斜面

頂上直下の滑走斜面

長官山からの滑走斜面を見下ろす

頂上からの滑走終了点(避難小屋の下)から代官山によろよろと登り返している間に、頂上で会った男性が元気に追い越していく。更にもう一人シールで追い越して行った男性がいて、その人は代官山稜線からスキーで滑り降りていった。それはスキー靴ーツで登っていた男性だった。私は代官山の稜線にたどり着き、再び横になって休憩。だいぶ疲れていた。代官山の稜線上からの滑走は二つ目のハイライト。

長官山からの滑走斜面

ここは12年前は雪が柔らかく、当時の私の腕前ではショートターンが刻めなかった。今回はほどほどのハードバーンになっていて、急斜面にショートターンを刻む。どんどん飛ばしていくと、すばらしい解放感。だが、スキートレースはたくさんついていて、自分のがどれなのかはわかりにくい。その滑走斜面には徒歩の踏み跡もあったが、往路で登ったのは隣の斜面。

長官山からの滑走斜面を見上げる

傾斜が一段落したところで、スキーを履いている男性がいたが、頂上で会った男性だったかもしれない。そこからはゆるゆると谷の側面をトラバースし、頃合いで谷に下るが、分岐点合流までは思ったより距離があった。

分岐点

分岐点の下部

林の入口

林間滑走

分岐点合流してからは、左(東)の谷を下っているらしい数人を見る。その下の広い谷をゆっくり下り、やがて林の中。12年前はトレースをたどって駐車地点まで滑れたが、今回は雪が少なく、トレースも落葉や枝で見失いがち。ときたま停止し、GPSでトレースを確認しながら滑る。

夏道

そして夏道の出ているところに着き、滑走終了。スキーの雪をミニモップで落とし、シートラで歩いていると、スキー靴の男性が追いついてきた。いつの間にか追い越していたらしい。「お疲れ様」「ご苦労さん」。彼は登山口の軒下で泊まっていた自転車の人だった。「寒くなかったですか」と聞くと、「冬シュラフなので大丈夫」と言っていたが、私は車の中でも朝は冷え、エンジンをかけていた。それにしてもスキーとブーツをかついでここまで自転車で来るとは・・・ここにも猛者が一人。

小鳥のレプリカ

野営場

野営場でゆっくり時間をかけてスキーブーツとスキーを拭き、ワックスを塗る。最高の一日だった。ゆっくり車を出し、温泉に向かう。アイポッドのビートとベース・ラインが心地よい。

問合せ・コメント等、メール宛先: kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com