エサオマントッタベツ 巨大な雪山への挑戦、日高の巨大な口

北海道・日高  エサオマントッタベツ1,902m、神威岳1,756m  2014年4月12日~14日(テント2泊)

(エサオマントッタベツ)日本の山1,000

291

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(D1)

重いザックをしょい、レインウェアを着込み、通行止めの先の雪の林道を進む。エサオマン橋を渡った先で北東尾根に取付く。

エサオマンだと思い込んでいた札内岳の右手に本物のエサオマンが姿を現わす。こっちがエサオマンだ。日高の巨大な口を初めて見る。山の本体よりもはるかに大きなカール、その巨大な丸い口の周辺は複雑に歪んでいて、空に向かって絶叫しているように見える。声なき絶叫。その姿を一度見てから、もう目が離せなくなった。

北東尾根ノ頭の手前の東斜面にテント場に良さそうなところがあり、立木が数本立っているところに滑り込み、テントを設営。

(D2)

アラームが4時半に鳴る前に起き、外に出ると快晴。北東尾根ノ頭に着くと、すばらしい景観。東に神威岳、南にはイドンナップ、ナメワッカにエサオマン。神威岳に向かうとき、行く手に見えてきた大きな丸い山はどうやら幌尻岳のようだ。

北海道99番目の山、神威岳頂上でシールを外し、今回発の滑走。日高の巨大な口に向かう。エサオマン北尾根は意外に広く、ごきげんのショートカット滑走。

長い頂稜のP6・1,563mの西側をトラバースする頃、エサオマンの巨大な口はますます大きくなり、ゆがんだ大口がもうすぐそばに広がっている。すごい迫力。画面一杯に広がるエサオマンの巨大な口は、いまや空の一角を覆っている。

最低コル1,490mに滑り込んで、アイゼンを付け、スキーを担いでP5・1,600mに登る。尾根には先行者一人の踏跡がエサオマン頂上まで続いていた。

P3・1,750mへの登りの途中、腰が痛くなってきて、休む代わりにスキーを置いていくことにする。

腰に差していたピッケルを確認し、最後の急傾斜にかかる。P2の鼻へは直登せず、先行の踏跡に従って西斜面を巻いて登る。直登でもよかったと思うが、九十九折りに西斜面を登り、最大斜度部分の上の稜線に出ると、もうP2・1,880mだった。

日高の巨大な口(北カール)の真上に立ち、初めて日高の中央部の景観を見る。エサオマン頂上峰は(巨大な口に比べると目立たないが、)近くで見ると鎌首をもたげた強烈な姿。少し遠目に急峻な北壁を見せるカムエク。まるでスプーンですくったように見えるカール群。なんと印象的な情景だろう。

そして遂にエサオマン頂上に到達。控え目に雄叫び。こんなにも大変だとは思わなかった。頂上南端から見下ろすと、ジャンクションピーク(JP)1,869m、その東には札内岳と十勝幌尻岳。エサオマン頂上にザックとストックを置き、少し休憩してから帰路につく。P2から北カールを見下ろすと、その向こうに幌尻岳や神威岳と主稜尾根がならぶ。これまた壮観な眺め。

P2からの下降は、ピッケルを右手に持ち、要所ではピッケルの歯かポールを雪に射し、三点支持を確保して下降。スキー・デポ地点に到達し、スキーで滑走。狭い尾根から立木がまばらな西斜面に滑り込み、大きく立木をかわしてターンし、最低コルの少し上で稜線に戻り、最後はショートターンを決める。本日、帰りの滑走のハイライト。

最低コル1,490mで、またシールを貼って登り返し。デジカメの光度を下げると、幌尻に沈む夕日。月と札内岳。帯広の街明かり。

北東尾根ノ頭に着いた時にはもうまっくら。ヘッドランプを取り出し、シールを外し、往路の斜面をスキーでテントまで下る。ヘッドランプでもなんとか斜面が見えていた。長い一日だった。

D3

最終日、早朝のエサオマンは巨大な口が黒い影になっていて、少し不気味。東斜面に大きく滑り込み、左ターンで尾根に戻る。

自分の二日前の登りトレースの上を歩いている踏跡に気づく。どうやら前日、誰かが来たようだ。K3・1,488mまで登り、シールを外して滑走再開。尾根の西斜面が滑走可能で、大きなターンで飛ばす。

林道に降り立ち、林道ゲートと白いエクストレイルが樹間に見え、ようやく林道終点に到着。おつかれさん。温泉・鳳乃舞の熱い湯に浸かって冷えたからだを温め、サシミを二つ購入。北海道産のイカとマグロだったかな。至福のひととき。

 エサオマンの巨大な口はますます大きくなり、ゆがんだ大口がもうすぐそばに広がっている。すごい迫力。画面一杯に広がるエサオマンの巨大な口は、いまや空の一角を覆っている。
 神威岳・最高地点にストックを立てる。北海道99番目の山。うねる尾根の先には真っ白い幌尻岳。
 エサオマン頂上峰は、近くで見ると鎌首をもたげた強烈な姿
エサオマン頂上に立つ。背景はカムエク
 少し遠目に急峻な北壁を見せるカムエク
札内岳
初めて見えたエサオマントッタベツ
幌尻岳と戸蔦別岳
イドンナップ(標高点峰と最高点峰?)
 温泉・鳳乃舞の熱い湯に浸かって冷えたからだを温める
 まるでスプーンですくったように見えるカール群
 P2から北カールを見下ろすと、その向こうに幌尻岳や神威岳と主稜尾根がならぶ。これまた壮観な眺め。
D1  7:53 ビレイ橋PA発  8:26 北東尾根取付き10:08 コル・910m12:13 K2・1,300m16:00 K5・1,488m16:03 コル・1,460m16:50 テント場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り8時間57分D2  6:11 テント場発  6:38 北東尾根ノ頭1,670m  7:13 神威岳1,756m・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り1時間2分  7:31 神威岳発、滑走  9:11 最低コル1,490m  9:25 最低コル発、シートラ10:14 P5・1,600m11:02 スキー・デポ13:03 P2・1,880m13:25 エサオマントッタベツ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神威岳から6時間12分             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・テント場から7時間14分13:40 エサオマントッタベツ発13:55 P215:04 スキー・デポ地点、滑走15:29 コル1,590m、シール16:11 P5・1,600m、滑走16:28 最低コル1,490m16:35 最低コル発、シール18:58 北東尾根ノ頭、滑走19:06 テント場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エサオマントッタベツから5時間26分     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・テント場から12時間55分D3  7:02 テント場発、滑走  7:27 コル1,460m、シール  7:54 K5・1,488m、滑走  8:43 K2・1,300m  9:27 コル910m、シートラ  9:34 K1・910m、滑走10:12 尾根取付点、林道10:18 エサオマン橋、シートラ10:25 滑走10:41 ビレイ橋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・下り3時間39分

EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

D1

道の駅中札内は寒くてほとんどエンジンかけっぱなしだったが、おかげでガソリンが減ってしまった。ホットレモンを二つ作ってから車を出す。白エクストレイルのカーナビには、最寄の岡本セルフが入っていて、高速経由でそこに向かう。高速からやや雲をかぶった日高が見えた。一番目立つのは十勝幌尻。早朝のGSは全て閉まっていたが、岡本セルフだけは24時間営業で、助かった。戸蔦別林道に入るまで、十勝幌尻岳や芽室岳を写しながら進む。心配していた林道の雪は、戸蔦別ヒュッテまでは融けていたが、その先で雪の積もっている箇所があった。先行の轍が無ければ進むのは難しかったかもしれない。ようやくびれい橋を渡り、林道終点に到着。だいぶ時間がかかった。予想に反し、誰もいない。新雪が積もっている。方向転換して駐車。

入林届に記載して出発。4月12日から14日までと書いたが、この時は2日目に下山する気でいた。重いザックをしょい、レインウェアを着込み、コスモス・ブーツにK2にシールを貼って通行止めの先の雪の林道を進む。行く手に一瞬見えたのは神威岳だったようだ。エサオマン橋を渡った先で、マップを照合し、北東尾根に取付く。前回、下見に来た時と同様、尾根に向かう踏跡は無かったが、少し登るとリボンやスキートレースを発見。よし、ここで良いようだ。トレースの上に新雪が積もり、切れ切れになっているが、徒歩は尾根伝い、スキーは尾根の右(北)斜面を九十九折りに登っていく。えらく急な九十九折りとなり、細かなキックターンはやらずに斜め登りで立木をかわす。左の頭上の尾根に見えるピンクリボンを目指して登り、尾根に復帰。

両側が切り立っていてスキーでもトラバースが難しい細尾根を登り、雪が融けて笹の出ている細尾根ピーク(K1・910m)を越える。笹と土を踏んでコルに下ると、次の斜面が現われる。帰りはこの雪の無い部分をスキーで登り返せるか考えながら下り、次の斜面にとりかかる。コルから登り返してすぐに1回目の休憩をとる。尾根に出てからは冷たい風が吹き、寒い。このあたりでネックウォーマーをつけたと思う。背後には、戸蔦別川の対岸にある妙敷山と伏美岳が高く見えている。あれと同じくらいの高さまで登らないといけない。マップを見ているが、「900mくらいから尾根はやや登りやすくなり、1,490m付近からは尾根は広くスキー使う」の900mあたりだろう。

上方に斜めになった雪庇が見え、それを乗越していく。下りではここは尾根の分岐になっていて、左(西)の方が主尾根に見える。きつい傾斜を登っていくと背後の視界が開け、妙敷山が大きく聳え立ち、はるが下に林道終点付近の戸蔦別川が見える。尾根の段差を斜めに越えようとして新雪が崩れ、何度かずり落ちる。尾根はオーバーハングして伸びており、見えている上端に達すると次の上端が現われる。はるか左上に見えていたオーバーハング(K2・1,300m)を越えるあたりから、樹間に札内岳が見えてくる。最初はこれがエサオマンだと思っていた。オーバーハングを越えると、尾根の先にK3・1,488m峰が見え、その左に札内岳。尾根は右に曲がり(実は分岐点)、いったん緩くなった傾斜は再びきつくなる。更に登って振り返ると、オーバーハング地点(K2・1,300m)を確認できる。西のピパイロのあたりの尾根が見え、最初は雲をかぶっていたが、やがて伏美岳とピパイロが姿を現わす。

腰が痛くなってきて、次のオーバーハングに達する前のやや平坦な地点で2回目の休憩。この先で樹間に見えているのは1,967m峰。次のオーバーハング手前で頭上に太陽。ここでスキー手袋に替えたと思う。そのオーバーハングを越えると、更に遠くに次のオーバーハングが現われる。そのときは、越えたのがK3・1,488mで、先に見えるのは北東尾根ノ頭だと勘違いしていた。影が長く伸びているのは、夕方が近いということでは、と思ったが、間に合うだろう。長く伸びる自分の影。

K3・1,488m手前で札内岳を何度も写す。どの尾根から登るのかな。変だ。すると、エサオマンだと思い込んでいた札内岳の右手に本物のエサオマンが姿を現す。こっちがエサオマンだ。なんていかつい姿。だが、手前に尾根が伸びている。急傾斜の新雪の登りに手を焼く。背後には伏美岳とピパイロ。K1・910mがはるか下に見えている。エサオマンの全景が姿を現わし、日高の巨大な口を初めて見る。山の本体よりもはるかに大きなカール、その巨大な丸い口の周辺は複雑に歪んでいて、空に向かって絶叫しているように見える。声なき絶叫。その姿を一度見てから、もう目が離せなくなった。北東尾根のK3・1,488mに達し、前方はるか先に北東尾根ノ頭と神威岳が初めて見え、愕然とする。まだあんなに遠いのか。とても今日中には辿りつけない。今回は神威岳だけか・・・などと思いながらも前進。しかし、マップにある通り、ここからは傾斜は緩くなり、ペースは上がる。ともかく、行けるところまで行こう。

コル1,460mからの登りは見た目ほどではなく、どんどん進む。かなり上まで行けそうだ。太陽は傾いて山陰に入るが、しばらくは明るそうだ。しかし、この風では尾根上にテントを張る訳にはいかない。東斜面に適当なところを探そう。背後には登ってきた尾根。東には南北に長い1,967m峰の双耳。北東尾根ノ頭の手前の東斜面にテント場に良さそうなところがあったが、斜面ははるか下まで続いており、立木がないと不安だ。立木が数本立っているところに滑り込み、テントを設営。今回は今季のテント・ツアー前2回と異なり、天気は良いので比較的楽。テントの山側と足先をやや深めに雪を掘る。それでも風で雪が飛び、テントを張っている間にスキーとストックが半分埋まっていた。テントの裏にも雪が吹き込み、壁が膨らんでいた。とにかく、神威岳のすぐ近くにおり、エサオマンもすぐ近くに見えている。なんとか明日中に両山に登り、下山できるだろう。前後の立木2本にロープをゆわえ、残り2本は出さず。

雪を溶かしてジェットボイルで湯を沸かし、アルファ米2食分を作って1食分を白菜とソーセージのおかゆにして食べる。「しまった、アジシオを忘れた」と思ったら、前回の残りがサックに入っていた。良かった。ライターは4個持っていたが、使えたのは2個のみ。気温が低いと点きにくいようだ。アイポッドも同様。胸のポケットに入れてイヤホンで聞く。最後にお茶とコーヒーを飲み、就寝。今回は大型ソックスを持ってきており、足も冷たくない。トヨニの時に比べると、比較的暖かかったようだ。翌朝まで外には出ず。手袋をはめ、スキーウェアのフードをかぶり、シュラフ・カバーの口を閉じて眠る。寒さのためか、熟睡が難しい。

D2

アラームが4時半に鳴る前に起き、外に出ると快晴。さっそく湯を沸かし、ホットレモン2本(1本は再加熱)を作り、ミニカップ麺を食べる。この日のうちに下山するつもりだったので、シュラフ、シュラフカバーにマットを収納し、テントを出発。九十九折りに尾根に登ると、東に1,967m峰が見える。尾根には痩せていて立木が邪魔している部分があり、最初は東側、次は西側の斜面を巻いて登り、北東尾根ノ頭に着くと、すばらしい景観。東に神威岳、南にはイドンナップ、ナメワッカにエサオマン。イドンナップは最高点峰(1,776m)が左(南西)に尾根を伸ばした姿で、三角点や標高点はその陰で見えていないと思われる。ナメワッカは平らな頂上。神威岳に向かうとき、行く手に見えてきた大きな丸い山はどうやら幌尻岳のようだ。右手眼下には昨日登った北東尾根とピパイロの尾根。鋭角三角形の戸蔦別岳。長い頂稜の1,967m峰。平らな頂上の北戸蔦別岳。

長い神威岳の頂上のどこが最高点だろう。最高点と思われる部分の少し先まで行ってみる。その先は細尾根となり、西ピークがあるが、明らかにここよりも低い。神威岳・最高地点にストックを立てる。北海道99番目の山。うねる尾根の先には真っ白い幌尻岳。神威岳頂上でシールを外し、今回発の滑走。日高の巨大な口に向かう。緩いアップダウンのところは南斜面をトラバース滑走。ブッシュやハイマツの上を滑る。北東尾根ノ頭にも登り返さず、南西斜面をトラバースし、エサオマンの北尾根に滑り込む。尾根は広く、ごきげんのショートカット滑走。比較的なだらかなマイナーピーク二つ(P8、P7)はスキーの斜め登りで越える。

P7からは急傾斜のダウンヒル。このとき、雪トラップにスキーを取られ、ターンを中止して急停止。尾根の雪庇側でなく、中央に雪トラップができている。やっかいだ。長い頂稜のP6・1,563mの先が最低コルなので、P6には登らずに西側の林斜面をトラバース。アイスバーン斜面と新雪斜面が交互に現われ、雪質に合わせてスキーをコントロール。アイスバーンのところでは斜め登り。滑っても勢いで登れる。エサオマンの巨大な口はますます大きくなり、ゆがんだ大口がもうすぐそばに広がっている。すごい迫力。いったんP6の頂稜尾根に出て、再び西斜面にトラバース。画面一杯に広がるエサオマンの巨大な口は、いまや空の一角を覆っている。

最低コル1,490mに滑り込んで最初の休憩。このとき、雪トラップにまたスキーを取られ、今度は転倒。立ち上がろうとして、ずいぶん疲れているのに気づく。滑走開始してしばらくは快調だったが、アップダウンが多く、かなり時間をくう。時刻がもう9時を回っていることを確認。これではこの日のうちの下山は無理だろう。風は無く、日が照り、ペット紅茶を半分飲む。もう一本もってくるべきだった。アイゼンを付け、スキーを担いでP5・1,600mに登る。雪はアイスバーンのところや新雪部分があり、新雪の場合に時間がかかり、体力を消耗する。尾根には先行者一人の踏跡がエサオマン頂上まで続いていた。下りの踏跡はなかったので、エサオマンの先に向かったのかもしれない。ともかくこの踏跡は雪トラップをうまく避け、尾根中央よりも西側のブッシュ蒂に入ったところを進んでいる。ハイ松を踏んで歩くのは良くないと思っていたが、この先行者はそうは思っていないようだ。体ごと雪トラップに落ちる経験をすれば、そう思うようになるだろう。

歪んだ細い潅木の枝が西側に生えているP4・1,604mに到着。眼前にP3からP2への尾根と北カールが迫り、エサオマンの頂上は見えない。もう尾根の右下は北カールの一部。P4から少し下ってコルとなり、P3への登り。ここは二つ目の急傾斜で、高度が上がり、西に幌尻が見えてくる。神威で見た左右対称の姿ではなく、左の頂上から北の肩に向かってなだらかに右に傾斜した姿。それに、神威よりも高度が上がり、幌尻の東カールと七ツ沼カールが良く見える。札内岳も白い鋭角になっている。P3・1,750mへの登りの途中、腰が痛くなってきて、休む代わりにスキーを置いていくことにする。後悔しないかが心配だったが、アイゼンの下りも少しはうまくなり、後悔はしなかった。正解だったと思う。

P3の肩に着いて急傾斜はいったん終了。しかしまだ先に次の急傾斜が待っている。右下には北カール。P3の左上に見える鋭角ピークは、エサオマンの頂上ではなく、途中の雪庇だったようだ。エサオマンの左に続く主稜線に、ジャンクションピーク1,869mとその手前のギャップが見える。それは岩肌をむき出しにしたキレットのようだ。急傾斜を登ってP3手前のテラス部分。P2の鼻の前に、黒い岩が点在するP3のピーク。テラスからP3までは比較的近く、それにだいぶ疲れたとみえ、この間は一枚も写真を撮っていない。もう残る急傾斜は一つのみ。だが、P2・1,880mへの最後の急傾斜は垂直に近く見えている。

平坦な尾根の途中で2回目の休憩。腰が痛くなっていて、休めておかないとまずいと考えた。いい天気だが、時々吹く風は冷たく、もうペット紅茶を飲む気にはならない。腰に差していたピッケルを確認し、最後の急傾斜にかかる。P2の鼻へは直登せず、先行の踏跡に従って西斜面を巻いて登る。直登でもよかったと思うが、九十九折りに西斜面を登り、最大斜度部分の上の稜線に出ると、もうP2だった。登りではピッケルを手に持たなかった(腰のあたりのザックリングに差す)が、クリティカルな登攀であり、この間の写真はなし。

日高の巨大な口(北カール)の真上に立ち、初めて日高の中央部の景観を見る。エサオマン頂上峰は(巨大な口に比べると目立たないが、)近くで見ると鎌首をもたげた強烈な姿。少し遠目に急峻な北壁を見せるカムエク。まるでスプーンですくったように見えるカール群。なんと印象的な情景だろう。しかし、主稜線のアップダウンは激しく、縦走は相当に厳しそうだ。ナメワッカとイドンナップ。イドンナップは北峰の奥に標高点峰が見えている。(因みに、エサオマンからナメワッカまでは6.5km、ナメワッカからイドンナップ標高点峰までは8km。日高は遠い。)この他、同定できない山多数。

そして遂にエサオマン頂上に到達。控え目に雄叫び。こんなにも大変だとは思わなかった。天気が悪ければ、全然無理だったろう。頂上南端から見下ろすと、ジャンクションピーク(JP)1,869mとその手前のキレットが見えたが、尾根の西側は歩きやすそうだ。しかし、テントを張るのは尾根の東側とすると、適地ではない。JPの東には札内岳と十勝幌尻岳を見る。エサオマン頂上にザックとストックを置き、少し休憩してから帰路につく。北東尾根ノ頭からエサオマンまでは約6時間(計画3時間)かかっているが、帰りは約4時間(計画3時間)としても17時を過ぎてしまう、最後はヘッドランプを覚悟。エサオマンとP2の直下は小さなカールのようになっていて(7312)、その下に広大なエサオマン川源流が広がっている。P2から北カールを見下ろすと、その向こうに幌尻岳や神威岳と主稜尾根がならぶ。これまた壮観な眺め。

P2からの下降は、ピッケルを右手に持ち、要所ではピッケルの歯かポールを雪に射し、三点支持を確保して下降。アイスバーンのところはアイゼンの歯が立てやすく、割に楽に降りられる。往路を下り、尾根に戻ったところでピッケルをザックリングに戻す。尾根の下りでまた雪トラップにはまる。P3の肩を過ぎ、ようやくはるか下に置いてきたスキーが見える。スキー・デポ地点に到達し、スキーでコル1,590mまで滑走。わずかな登りだがコルでシールを貼り、気温低下に備えてスキー手袋に替える。P4・1,604mに達し、最低コル1,490mまでシールのまま、ブーツをスキー・モードに替えて滑ろうとしたが難しい。

結局シールを外して滑走。狭い尾根から立木がまばらな西斜面に滑り込み、大きく立木をかわしてターンし、最低コルの少し上で稜線に戻り、最後はショートターンを決める。本日、帰りの滑走のハイライト。このあたりの西斜面はアイズバーンで、ガリガリいわせながら快調な滑走となる。最低コルで、横になって休憩。だいぶ暗くなってきた。あせるまい。またシールを貼ってP6・1,563mに登り返し、自分のトレースをたどって西斜面にトラバース。往路では写真は撮っていないが、このP6トラバースは長く、雪質や林の状況が変わり、かなり苦労しているのが往路トレースから伺える。自分のトレースを戻る分、復路は気が楽だった。往路でアイスバーンだった斜面は融けている。

ここでもう一度休憩。だいぶへばってきたか。デジカメの光度を下げると、幌尻に沈む夕日。もうへとへとになっていて、テントに戻ったときのこと、明日、下山したあとにしたいことをあれこれ考える。早く着かないかなあ。P8を越えたのに、北東尾根ノ頭の前には更に3つのマイナーピークが立ちはだかる。周囲が夕日に染まりはじめた頃、テント発見。月と妙敷山。帯広の街明かり。

北東尾根ノ頭に着いた時にはもうまっくら。そこからはシールを外してテントまで東斜面を滑ろうと考えていたが、まっくらでは無理だ。しかしスキーを担いで歩くのもしんどい。まずヘッドランプを取り出し、それからシールを外し、往路の斜面をスキーでテントまで下る。最初の細尾根部分では、東斜面に滑り込み、左ターンして尾根に戻り、二つ目の細尾根部分では西斜面に滑り込んで右ターンし、尾根に戻る。そこから登りトレースを辿って難なくテントに達する。ヘッドランプでもなんとか斜面が見えていた。

テントに入り、マットを出し、着替えてからシュラフにもぐりこんで眠る。アイポッドが寒さで停止したのを機に起き、夕食にする。昨日の残りの白米とソーセージ、白菜のおかゆ。ココア、カフェオレ、コーヒーを飲み、最後にトイレに外に出て、就寝。長い一日だった。

D3

最終日、早めに下山して20時のフェリーに乗ろうと、前日と同じ4時半に起きる。この日も晴れだが、風で飛ばされた薄雪が積もっている。昨日と同じ、ミニカップ麺にカフェオレとコーヒー。ホットレモンは前日、2本とも飲み干していたが、最終日は1本のみ作る。結局、パンはひとつも食べず。ペット紅茶も前日、半分飲んだのみで持ち帰る。ライターを4本持っていたが、使えるのは2本(うち1本は不調)で、もし一つも使えなかったたら大変だった(下山してからスーパーで2個購入)。いつものように足がつるので、あぐらを組まず、雪を溶かすときはヒザをつき、食事のときは足を延ばして両手を使う。テントを撤収し、ザックを担いでスキーで滑走開始。昨日の疲れが残っており、とてもショートターンはできない。早朝のエサオマンは巨大な口が黒い影になっていて、少し不気味。東斜面に大きく滑り込み、左ターンで尾根に戻る。

自分の二日前の登りトレースの上を歩いている踏跡に気づく。どうやら前日、誰かが来たようだ。日帰りで神威まで登ったのだろうか。コル1,460mでシールを貼ってK3・1,488mまで登り、シールを外して滑走再開。標高1,400m付近から狭い急斜面。しかし、尾根の西斜面が滑走可能で、大きなターンで飛ばす。尾根が痩せ、西斜面が滑りにくくなり、尾根に戻ると、今度は東斜面が滑走可能になっている。今朝も一回、東斜面に飛び込んでいたので、もう一回飛び込み、左にターンして止まろうとしたところでバランスを失い、斜面に転倒。ザックが重く、立ちあがるのに苦労した。尾根に戻り、最初の休憩。重いザックでの滑走に前日の疲労で、思うように滑れない。

K2・1,300mは西斜面に滑り込んでトラバース。右にターンすると下に尾根が見えた。その尾根に滑り込む前に、念のために登りトレースを確認するために更に右に滑走、すると、右手(東)にもう一つ尾根があり、登りトレースはそちらにあった。危ない危ない、違う尾根に滑り込んでしまうところだった。下りの滑走で慎重になるのは、これまでに何度か苦い経験をしているからだ。この後、細尾根からブッシュをかき分けて西尾根に数回入り、大きく回って尾根に戻る。ブッシュを越えるのに時間がかかる。尾根の東斜面が大きく開けたところを下っていて、徒歩の踏跡が尾根から東斜面に下っているところに出る。あれっ、自分のスキートレースはどこだ、と探すと、もっと上の部分で東斜面に下っている。そうか、ここは尾根の合流地点で、二日前は東の方角から登って来たのだ。

広い林斜面を滑走し、コル910mに到達。そこから登り返しだが、良く見ると、右手に作業道のようなルートが見える。そこを進めばK1・910mを巻いて反対側に出られるかもしれない。しかし、その作業道はすぐに行き止まりとなり、スキーを担いで左の斜面を登り、K1に向かう。K1からは下りとなるが、雪の少ない細尾根はとてもスキーでは滑れない。スキーを下ろさず、そのまま歩いて下る。スキーを担いで歩いて下るのは無念だが、この状況(重いザック、疲労、どうせ横歩きの下り)からは歩くのが正解だろう。細尾根が終わり、スキーが使える地点になり、ザックを再び下ろして休憩をとる。ストックと手袋の向こうに妙敷山。ホットレモンを飲み干す。

最後の滑走開始。西斜面はブッシュの少ない樹林になっており、西斜面をからめて滑走。やがてピンクリボンが二つ巻かれている、見覚えのあるところに至る。二つのピンクリボンの地点には、尾根を北から登ってくる踏跡と、それとほぼ90度左(西)からに西尾根を登ってくるスキートレースがある。こっちから登ってきたスキーヤーもいたのか。でもどこへ行ったんだろう。ところが、尾根を下ると、徒歩の踏跡はあるが、自分のスキー・トレースが見当たらない。そうか、二日前、西斜面に回り込んで九十九折りに登り、二つのピンクリボンのところで尾根に戻ったのだった。ならば、林道はもうすぐだ。西斜面に大きく滑り込むが、自分の登りトレースはすぐには見えない。ずいぶん大きく西斜面を回り込んでいる。ようやくトレースを発見。その後は自分の登りトレース沿いに滑走。

やがて樹間に林道と戸蔦別川とダムが見えてくる。下から妙敷山を見上げ、そしてついに林道に降り立つ。林道からは妙敷山は見えない。二日前にはエサオマン橋にも雪が残っていたが、この日は融けていた。スキーを外し、ザックに取り付けて担いで歩く。エサオマン橋からしばらく登りなので、そのままスキーを担いで歩き、下りになったところでスキーを下ろし、最後の滑走。背後には北東尾根のK1とK2が見えていた。日影のアイスバーンはスピード出るが、雪が柔らかい部分は滑らず、ビンディングを外して歩く。わずかに見えているのは神威岳かも。林道ゲートと白いエクストレイルが樹間に見え、ようやく林道終点に到着。おつかれさん。私の車しかないが、徒歩の踏跡は残っている。入林届には記載はなし。

ゆっくり片付けをし、カーナビ入力して出発。林道の雪はだいぶ解けていて、二日前よりは楽に走る。仮設の橋の先で、やってくる車と初めてすれちがう。端正な十勝幌尻岳、白い鋭鋒の芽室岳、ごつごつした頂上の剣山を見る。白エクストレイルのカーナビは最寄の温泉を検索でき、2年前に寄った温泉・鳳乃舞に行く。400円で石鹸とシャンプーがあり、熱い湯につかってで冷えたからだを温める。コンクリの露天。この後、芽室市内のスーパーでサシミを二つ購入。北海道産のイカとマグロだったかな。至福のひととき。

 D1

道の駅なかさつない

道の駅中札内は寒くてほとんどエンジンかけっぱなしだったが、おかげでガソリンが減ってしまった。ホットレモンを二つ作ってから車を出す。白エクストレイルのカーナビには、最寄の岡本セルフが入っていて、高速経由でそこに向かう。高速からやや雲をかぶった日高が見えた。一番目立つのは十勝幌尻。早朝のGSは全て閉まっていたが、岡本セルフだけは24時間営業で、助かった。戸蔦別林道に入るまで、十勝幌尻岳や芽室岳を写しながら進む。心配していた林道の雪は、戸蔦別ヒュッテまでは融けていたが、その先で雪の積もっている箇所があった。先行の轍が無ければ進むのは難しかったかもしれない。ようやくびれい橋を渡り、林道終点に到着。だいぶ時間がかかった。予想に反し、誰もいない。新雪が積もっている。方向転換して駐車。

岩内岳?

芽室岳

十勝幌尻岳

雪の林道

入林届ボックス

入林届に記載して出発。4月12日から14日までと書いたが、この時は2日目に下山する気でいた。重いザックをしょい、レインウェアを着込み、コスモス・ブーツにK2にシールを貼って通行止めの先の雪の林道を進む。行く手に一瞬見えたのは神威岳だったようだ。エサオマン橋を渡った先で、マップを照合し、北東尾根に取付く。前回、下見に来た時と同様、尾根に向かう踏跡は無かったが、少し登るとリボンやスキートレースを発見。よし、ここで良いようだ。トレースの上に新雪が積もり、切れ切れになっているが、徒歩は尾根伝い、スキーは尾根の右(北)斜面を九十九折りに登っていく。えらく急な九十九折りとなり、細かなキックターンはやらずに斜め登りで立木をかわす。左の頭上の尾根に見えるピンクリボンを目指して登り、尾根に復帰。

 5682、8147

 

林道ゲート

エサオマン橋

尾根取付き点

尾根のピンクリボン

シールの登り

両側が切り立っていてスキーでもトラバースが難しい細尾根を登り、雪が融けて笹の出ている細尾根ピーク(K1・910m)を越える。笹と土を踏んでコルに下ると、次の斜面が現われる。帰りはこの雪の無い部分をスキーで登り返せるか考えながら下り、次の斜面にとりかかる。コルから登り返してすぐに1回目の休憩をとる。尾根に出てからは冷たい風が吹き、寒い。このあたりでネックウォーマーをつけたと思う。背後には、戸蔦別川の対岸にある妙敷山と伏美岳が高く見えている。あれと同じくらいの高さまで登らないといけない。マップを見ているが、「900mくらいから尾根はやや登りやすくなり、1,490m付近からは尾根は広くスキー使う」の900mあたりだろう。

妙敷山

札内岳

ピパイロと伏美岳

北東尾根1,400m付近

上方に斜めになった雪庇が見え、それを乗越していく。下りではここは尾根の分岐になっていて、左(西)の方が主尾根に見える。きつい傾斜を登っていくと背後の視界が開け、妙敷山が大きく聳え立ち、はるが下に林道終点付近の戸蔦別川が見える。尾根の段差を斜めに越えようとして新雪が崩れ、何度かずり落ちる。尾根はオーバーハングして伸びており、見えている上端に達すると次の上端が現われる。はるか左上に見えていたオーバーハング(K2・1,300m)を越えるあたりから、樹間に札内岳が見えてくる。最初はこれがエサオマンだと思っていた。オーバーハングを越えると、尾根の先にK3・1,488m峰が見え、その左に札内岳。尾根は右に曲がり(実は分岐点)、いったん緩くなった傾斜は再びきつくなる。更に登って振り返ると、オーバーハング地点(K2・1,300m)を確認できる。西のピパイロのあたりの尾根が見え、最初は雲をかぶっていたが、やがて伏美岳とピパイロが姿を現わす。

札内岳

腰が痛くなってきて、次のオーバーハングに達する前のやや平坦な地点で2回目の休憩。この先で樹間に見えているのは1,967m峰。次のオーバーハング手前で頭上に太陽。ここでスキー手袋に替えたと思う。そのオーバーハングを越えると、更に遠くに次のオーバーハングが現われる。そのときは、越えたのがK3・1,488mで、先に見えるのは北東尾根ノ頭だと勘違いしていた。影が長く伸びているのは、夕方が近いということでは、と思ったが、間に合うだろう。長く伸びる自分の影。

初めて見えたエサオマントッタベツ

初めて見えたエサオマンのカール

K3・1,488m手前で札内岳を何度も写す。どの尾根から登るのかな。変だ。すると、エサオマンだと思い込んでいた札内岳の右手に本物のエサオマンが姿を現す。こっちがエサオマンだ。なんていかつい姿。だが、手前に尾根が伸びている。急傾斜の新雪の登りに手を焼く。背後には伏美岳とピパイロ。K1・910mがはるか下に見えている。エサオマンの全景が姿を現わし、日高の巨大な口を初めて見る。山の本体よりもはるかに大きなカール、その巨大な丸い口の周辺は複雑に歪んでいて、空に向かって絶叫しているように見える。声なき絶叫。その姿を一度見てから、もう目が離せなくなった。北東尾根のK3・1,488mに達し、前方はるか先に北東尾根ノ頭と神威岳が初めて見え、愕然とする。まだあんなに遠いのか。とても今日中には辿りつけない。今回は神威岳だけか・・・などと思いながらも前進。しかし、マップにある通り、ここからは傾斜は緩くなり、ペースは上がる。ともかく、行けるところまで行こう。

北東尾根1,550m付近から背後の景観

コル1,460mからの登りは見た目ほどではなく、どんどん進む。かなり上まで行けそうだ。太陽は傾いて山陰に入るが、しばらくは明るそうだ。しかし、この風では尾根上にテントを張る訳にはいかない。東斜面に適当なところを探そう。背後には登ってきた尾根。東には南北に長い1,967m峰の双耳。北東尾根ノ頭の手前の東斜面にテント場に良さそうなところがあったが、斜面ははるか下まで続いており、立木がないと不安だ。立木が数本立っているところに滑り込み、テントを設営。今回は今季のテント・ツアー前2回と異なり、天気は良いので比較的楽。テントの山側と足先をやや深めに雪を掘る。それでも風で雪が飛び、テントを張っている間にスキーとストックが半分埋まっていた。テントの裏にも雪が吹き込み、壁が膨らんでいた。とにかく、神威岳のすぐ近くにおり、エサオマンもすぐ近くに見えている。なんとか明日中に両山に登り、下山できるだろう。前後の立木2本にロープをゆわえ、残り2本は出さず。

テント

雪を溶かしてジェットボイルで湯を沸かし、アルファ米2食分を作って1食分を白菜とソーセージのおかゆにして食べる。「しまった、アジシオを忘れた」と思ったら、前回の残りがサックに入っていた。良かった。ライターは4個持っていたが、使えたのは2個のみ。気温が低いと点きにくいようだ。アイポッドも同様。胸のポケットに入れてイヤホンで聞く。最後にお茶とコーヒーを飲み、就寝。今回は大型ソックスを持ってきており、足も冷たくない。トヨニの時に比べると、比較的暖かかったようだ。翌朝まで外には出ず。手袋をはめ、スキーウェアのフードをかぶり、シュラフ・カバーの口を閉じて眠る。寒さのためか、熟睡が難しい。

 D

朝のエサオマン

アラームが4時半に鳴る前に起き、外に出ると快晴。さっそく湯を沸かし、ホットレモン2本(1本は再加熱)を作り、ミニカップ麺を食べる。この日のうちに下山するつもりだったので、シュラフ、シュラフカバーにマットを収納し、テントを出発。九十九折りに尾根に登ると、東に1,967m峰が見える。尾根には痩せていて立木が邪魔している部分があり、最初は東側、次は西側の斜面を巻いて登り、北東尾根ノ頭に着くと、すばらしい景観。東に神威岳、南にはイドンナップ、ナメワッカにエサオマン。イドンナップは最高点峰(1,776m)が左(南西)に尾根を伸ばした姿で、三角点や標高点はその陰で見えていないと思われる。ナメワッカは平らな頂上。神威岳に向かうとき、行く手に見えてきた大きな丸い山はどうやら幌尻岳のようだ。右手眼下には昨日登った北東尾根とピパイロの尾根。鋭角三角形の戸蔦別岳。長い頂稜の1,967m峰。平らな頂上の北戸蔦別岳。

エサオマントッタベツ

北東尾根ノ頭から神威岳

北東尾根ノ頭からエサオマン

 北東尾根ノ頭からの景観: エサオマン、ナメワッカ、イドンナップ、神威岳

イドンナップ(最高峰1,776m?)

ナメワッカ

 神威岳の手前からの景観: エサオマン、ナメワッカ、イドンナップ、神威岳、ピパイロ、伏美岳、妙敷山

初めて見えた幌尻岳と戸蔦別岳(七ツ沼カールは手前の尾根の陰で見えない)

神威岳頂上から幌尻岳

長い神威岳の頂上のどこが最高点だろう。最高点と思われる部分の少し先まで行ってみる。その先は細尾根となり、西ピークがあるが、明らかにここよりも低い。神威岳・最高地点にストックを立てる。北海道99番目の山。うねる尾根の先には真っ白い幌尻岳。神威岳頂上でシールを外し、今回発の滑走。日高の巨大な口に向かう。緩いアップダウンのところは南斜面をトラバース滑走。ブッシュやハイマツの上を滑る。北東尾根ノ頭にも登り返さず、南西斜面をトラバースし、エサオマンの北尾根に滑り込む。尾根は広く、ごきげんのショートカット滑走。比較的なだらかなマイナーピーク二つ(P8、P7)はスキーの斜め登りで越える。

 神威岳頂上からの景観: 幌尻岳、戸蔦別岳、北戸蔦別岳、1,967m峰、ピパイロ、伏美岳、妙敷山

エサオマントッタベツ

エサオマン頂上峰

神威岳からの滑走

エサオマントッタベツ

エサオマン北尾根

北東尾根ノ頭をトラバースして滑走

エサオマン北尾根

巨大な口のエサオマントッタベツ

エサオマン北尾根の滑走

エサオマントッタベツの巨大な口

P7からは急傾斜のダウンヒル。このとき、雪トラップにスキーを取られ、ターンを中止して急停止。尾根の雪庇側でなく、中央に雪トラップができている。やっかいだ。長い頂稜のP6・1,563mの先が最低コルなので、P6には登らずに西側の林斜面をトラバース。アイスバーン斜面と新雪斜面が交互に現われ、雪質に合わせてスキーをコントロール。アイスバーンのところでは斜め登り。滑っても勢いで登れる。エサオマンの巨大な口はますます大きくなり、ゆがんだ大口がもうすぐそばに広がっている。すごい迫力。いったんP6の頂稜尾根に出て、再び西斜面にトラバース。画面一杯に広がるエサオマンの巨大な口は、いまや空の一角を覆っている。

正面から見るカール(P6・1,563mトラバース時)

P4・1,604mへの登り

最低コル1,490mに滑り込んで最初の休憩。このとき、雪トラップにまたスキーを取られ、今度は転倒。立ち上がろうとして、ずいぶん疲れているのに気づく。滑走開始してしばらくは快調だったが、アップダウンが多く、かなり時間をくう。時刻がもう9時を回っていることを確認。これではこの日のうちの下山は無理だろう。風は無く、日が照り、ペット紅茶を半分飲む。もう一本もってくるべきだった。アイゼンを付け、スキーを担いでP5・1,600mに登る。雪はアイスバーンのところや新雪部分があり、新雪の場合に時間がかかり、体力を消耗する。尾根には先行者一人の踏跡がエサオマン頂上まで続いていた。下りの踏跡はなかったので、エサオマンの先に向かったのかもしれない。ともかくこの踏跡は雪トラップをうまく避け、尾根中央よりも西側のブッシュ蒂に入ったところを進んでいる。ハイ松を踏んで歩くのは良くないと思っていたが、この先行者はそうは思っていないようだ。体ごと雪トラップに落ちる経験をすれば、そう思うようになるだろう。

 エサオマン・カールと幌尻岳

真横から見るカール

カール上端を見上げる

P3・1,780m

歪んだ細い潅木の枝が西側に生えているP4・1,604mに到着。眼前にP3からP2への尾根と北カールが迫り、エサオマンの頂上は見えない。もう尾根の右下は北カールの一部。P4から少し下ってコルとなり、P3への登り。ここは二つ目の急傾斜で、高度が上がり、西に幌尻が見えてくる。神威で見た左右対称の姿ではなく、左の頂上から北の肩に向かってなだらかに右に傾斜した姿。それに、神威よりも高度が上がり、幌尻の東カールと七ツ沼カールが良く見える。札内岳も白い鋭角になっている。P3・1,750mへの登りの途中、腰が痛くなってきて、休む代わりにスキーを置いていくことにする。後悔しないかが心配だったが、アイゼンの下りも少しはうまくなり、後悔はしなかった。正解だったと思う。

P2・1,880m

P3の肩に着いて急傾斜はいったん終了。しかしまだ先に次の急傾斜が待っている。右下には北カール。P3の左上に見える鋭角ピークは、エサオマンの頂上ではなく、途中の雪庇だったようだ。エサオマンの左に続く主稜線に、ジャンクションピーク1,869mとその手前のギャップが見える。それは岩肌をむき出しにしたキレットのようだ。急傾斜を登ってP3手前のテラス部分。P2の鼻の前に、黒い岩が点在するP3のピーク。テラスからP3までは比較的近く、それにだいぶ疲れたとみえ、この間は一枚も写真を撮っていない。もう残る急傾斜は一つのみ。だが、P2・1,880mへの最後の急傾斜は垂直に近く見えている。

札内岳とエサオマン川源流部

カールを見下ろす

幌尻岳

エサオマン頂上手前の雪庇

平坦な尾根の途中で2回目の休憩。腰が痛くなっていて、休めておかないとまずいと考えた。いい天気だが、時々吹く風は冷たく、もうペット紅茶を飲む気にはならない。腰に差していたピッケルを確認し、最後の急傾斜にかかる。P2の鼻へは直登せず、先行の踏跡に従って西斜面を巻いて登る。直登でもよかったと思うが、九十九折りに西斜面を登り、最大斜度部分の上の稜線に出ると、もうP2だった。登りではピッケルを手に持たなかった(腰のあたりのザックリングに差す)が、クリティカルな登攀であり、この間の写真はなし。

P2・1,880mからエサオマン頂上峰

日高の巨大な口(北カール)の真上に立ち、初めて日高の中央部の景観を見る。エサオマン頂上峰は(巨大な口に比べると目立たないが、)近くで見ると鎌首をもたげた強烈な姿。少し遠目に急峻な北壁を見せるカムエク。まるでスプーンですくったように見えるカール群。なんと印象的な情景だろう。しかし、主稜線のアップダウンは激しく、縦走は相当に厳しそうだ。ナメワッカとイドンナップ。イドンナップは北峰の奥に標高点峰が見えている。(因みに、エサオマンからナメワッカまでは6.5km、ナメワッカからイドンナップ標高点峰までは8km。日高は遠い。)この他、同定できない山多数。

カムエク

少し遠目に急峻な北壁を見せるカムエク

エサオマン頂上峰

巨大な口に比べると目立たないが、近くで見ると鎌首をもたげた強烈な姿。

P2・1,880mからの景観・エサオマン頂上峰・カムエク・2,917m峰・1,831m峰・スプーンですくったようなカール群・ナメワッカ・イドンナップ

イドンナップ

(左)標高点峰1,752m?

(右)最高点峰1,776m?

ナメワッカ

エサオマン頂上峰

 南の景観: カムエク、1,917m峰、1,831m峰、1,766m峰とカール群

カムエク

エサオマン頂上からカムエク

そして遂にエサオマン頂上に到達。控え目に雄叫び。こんなにも大変だとは思わなかった。天気が悪ければ、全然無理だったろう。頂上南端から見下ろすと、ジャンクションピーク(JP)1,869mとその手前のキレットが見えたが、尾根の西側は歩きやすそうだ。しかし、テントを張るのは尾根の東側とすると、適地ではない。JPの東には札内岳と十勝幌尻岳を見る。エサオマン頂上にザックとストックを置き、少し休憩してから帰路につく。北東尾根ノ頭からエサオマンまでは約6時間(計画3時間)かかっているが、帰りは約4時間(計画3時間)としても17時を過ぎてしまう、最後はヘッドランプを覚悟。エサオマンとP2の直下は小さなカールのようになっていて(7312)、その下に広大なエサオマン川源流が広がっている。P2から北カールを見下ろすと、その向こうに幌尻岳や神威岳と主稜尾根がならぶ。これまた壮観な眺め。

エサオマン頂上から東の景観・札内岳・十勝幌尻岳・JP1,869m・カムエク

JP・1,869m

札内岳と十勝幌尻岳

エサオマン頂上のザックとストック

幌尻岳とP2・1,880m

カールを見下ろす・幌尻岳・戸蔦別岳・1,967m峰・ピパイロ・伏美岳・妙敷山

P2・1,880mの北壁を下る

P2からの下降は、ピッケルを右手に持ち、要所ではピッケルの歯かポールを雪に射し、三点支持を確保して下降。アイスバーンのところはアイゼンの歯が立てやすく、割に楽に降りられる。往路を下り、尾根に戻ったところでピッケルをザックリングに戻す。尾根の下りでまた雪トラップにはまる。P3の肩を過ぎ、ようやくはるか下に置いてきたスキーが見える。スキー・デポ地点に到達し、スキーでコル1,590mまで滑走。わずかな登りだがコルでシールを貼り、気温低下に備えてスキー手袋に替える。P4・1,604mに達し、最低コル1,490mまでシールのまま、ブーツをスキー・モードに替えて滑ろうとしたが難しい。

スキー・デポ地点

北尾根の滑走

結局シールを外して滑走。狭い尾根から立木がまばらな西斜面に滑り込み、大きく立木をかわしてターンし、最低コルの少し上で稜線に戻り、最後はショートターンを決める。本日、帰りの滑走のハイライト。このあたりの西斜面はアイズバーンで、ガリガリいわせながら快調な滑走となる。最低コルで、横になって休憩。だいぶ暗くなってきた。あせるまい。またシールを貼ってP6・1,563mに登り返し、自分のトレースをたどって西斜面にトラバース。往路では写真は撮っていないが、このP6トラバースは長く、雪質や林の状況が変わり、かなり苦労しているのが往路トレースから伺える。自分のトレースを戻る分、復路は気が楽だった。往路でアイスバーンだった斜面は融けている。

夕日と幌尻岳

ここでもう一度休憩。だいぶへばってきたか。デジカメの光度を下げると、幌尻に沈む夕日。もうへとへとになっていて、テントに戻ったときのこと、明日、下山したあとにしたいことをあれこれ考える。早く着かないかなあ。P8を越えたのに、北東尾根ノ頭の前には更に3つのマイナーピークが立ちはだかる。周囲が夕日に染まりはじめた頃、テント発見。月と札内岳。帯広の街明かり。

帯広の夜景

月と札内岳

北東尾根ノ頭に着いた時にはもうまっくら。そこからはシールを外してテントまで東斜面を滑ろうと考えていたが、まっくらでは無理だ。しかしスキーを担いで歩くのもしんどい。まずヘッドランプを取り出し、それからシールを外し、往路の斜面をスキーでテントまで下る。最初の細尾根部分では、東斜面に滑り込み、左ターンして尾根に戻り、二つ目の細尾根部分では西斜面に滑り込んで右ターンし、尾根に戻る。そこから登りトレースを辿って難なくテントに達する。ヘッドランプでもなんとか斜面が見えていた。

夕闇の北東尾根ノ頭

テントに入り、マットを出し、着替えてからシュラフにもぐりこんで眠る。アイポッドが寒さで停止したのを機に起き、夕食にする。昨日の残りの白米とソーセージ、白菜のおかゆ。ココア、カフェオレ、コーヒーを飲み、最後にトイレに外に出て、就寝。長い一日だった。

 D3

 

朝のエサオマン

最終日、早めに下山して20時のフェリーに乗ろうと、前日と同じ4時半に起きる。この日も晴れだが、風で飛ばされた薄雪が積もっている。昨日と同じ、ミニカップ麺にカフェオレとコーヒー。ホットレモンは前日、2本とも飲み干していたが、最終日は1本のみ作る。結局、パンはひとつも食べず。ペット紅茶も前日、半分飲んだのみで持ち帰る。ライターを4本持っていたが、使えるのは2本(うち1本は不調)で、もし一つも使えなかったたら大変だった(下山してからスーパーで2個購入)。いつものように足がつるので、あぐらを組まず、雪を溶かすときはヒザをつき、食事のときは足を延ばして両手を使う。テントを撤収し、ザックを担いでスキーで滑走開始。昨日の疲れが残っており、とてもショートターンはできない。早朝のエサオマンは巨大な口が黒い影になっていて、少し不気味。東斜面に大きく滑り込み、左ターンで尾根に戻る。

テント撤収

トラバース滑走

自分の二日前の登りトレースの上を歩いている踏跡に気づく。どうやら前日、誰かが来たようだ。日帰りで神威まで登ったのだろうか。コル1,460mでシールを貼ってK3・1,488mまで登り、シールを外して滑走再開。標高1,400m付近から狭い急斜面。しかし、尾根の西斜面が滑走可能で、大きなターンで飛ばす。尾根が痩せ、西斜面が滑りにくくなり、尾根に戻ると、今度は東斜面が滑走可能になっている。今朝も一回、東斜面に飛び込んでいたので、もう一回飛び込み、左にターンして止まろうとしたところでバランスを失い、斜面に転倒。ザックが重く、立ちあがるのに苦労した。尾根に戻り、最初の休憩。重いザックでの滑走に前日の疲労で、思うように滑れない。

エサオマントッタベツの巨大な口

北東尾根から南の景観・札内岳・エサオマン川源流部・エサオマントッタベツ・北東尾根ノ頭

エサオマン源流部

K2・1,300mは西斜面に滑り込んでトラバース。右にターンすると下に尾根が見えた。その尾根に滑り込む前に、念のために登りトレースを確認するために更に右に滑走、すると、右手(東)にもう一つ尾根があり、登りトレースはそちらにあった。危ない危ない、違う尾根に滑り込んでしまうところだった。下りの滑走で慎重になるのは、これまでに何度か苦い経験をしているからだ。この後、細尾根からブッシュをかき分けて西尾根に数回入り、大きく回って尾根に戻る。ブッシュを越えるのに時間がかかる。尾根の東斜面が大きく開けたところを下っていて、徒歩の踏跡が尾根から東斜面に下っているところに出る。あれっ、自分のスキートレースはどこだ、と探すと、もっと上の部分で東斜面に下っている。そうか、ここは尾根の合流地点で、二日前は東の方角から登って来たのだ。

北東尾根の滑走

広い林斜面を滑走し、コル910mに到達。そこから登り返しだが、良く見ると、右手に作業道のようなルートが見える。そこを進めばK1・910mを巻いて反対側に出られるかもしれない。しかし、その作業道はすぐに行き止まりとなり、スキーを担いで左の斜面を登り、K1に向かう。K1からは下りとなるが、雪の少ない細尾根はとてもスキーでは滑れない。スキーを下ろさず、そのまま歩いて下る。スキーを担いで歩いて下るのは無念だが、この状況(重いザック、疲労、どうせ横歩きの下り)からは歩くのが正解だろう。細尾根が終わり、スキーが使える地点になり、ザックを再び下ろして休憩をとる。ストックと手袋の向こうに妙敷山。ホットレモンを飲み干す。

北東尾根下部の滑走

最後の滑走開始。西斜面はブッシュの少ない樹林になっており、西斜面をからめて滑走。やがてピンクリボンが二つ巻かれている、見覚えのあるところに至る。二つのピンクリボンの地点には、尾根を北から登ってくる踏跡と、それとほぼ90度左(西)からに西尾根を登ってくるスキートレースがある。こっちから登ってきたスキーヤーもいたのか。でもどこへ行ったんだろう。ところが、尾根を下ると、徒歩の踏跡はあるが、自分のスキー・トレースが見当たらない。そうか、二日前、西斜面に回り込んで九十九折りに登り、二つのピンクリボンのところで尾根に戻ったのだった。ならば、林道はもうすぐだ。西斜面に大きく滑り込むが、自分の登りトレースはすぐには見えない。ずいぶん大きく西斜面を回り込んでいる。ようやくトレースを発見。その後は自分の登りトレース沿いに滑走。

林道の滑走

やがて樹間に林道と戸蔦別川とダムが見えてくる。下から妙敷山を見上げ、そしてついに林道に降り立つ。林道からは妙敷山は見えない。二日前にはエサオマン橋にも雪が残っていたが、この日は融けていた。スキーを外し、ザックに取り付けて担いで歩く。エサオマン橋からしばらく登りなので、そのままスキーを担いで歩き、下りになったところでスキーを下ろし、最後の滑走。背後には北東尾根のK1とK2が見えていた。日影のアイスバーンはスピード出るが、雪が柔らかい部分は滑らず、ビンディングを外して歩く。わずかに見えているのは神威岳かも。林道ゲートと白いエクストレイルが樹間に見え、ようやく林道終点に到着。おつかれさん。私の車しかないが、徒歩の踏跡は残っている。入林届には記載はなし。

びれい橋駐車場

ゆっくり片付けをし、カーナビ入力して出発。林道の雪はだいぶ解けていて、二日前よりは楽に走る。仮設の橋の先で、やってくる車と初めてすれちがう。端正な十勝幌尻岳、白い鋭鋒の芽室岳、ごつごつした頂上の剣山を見る。白エクストレイルのカーナビは最寄の温泉を検索でき、2年前に寄った温泉・鳳乃舞に行く。400円で石鹸とシャンプーがあり、熱い湯につかってで冷えたからだを温める。コンクリの露天。この後、芽室市内のスーパーでサシミを二つ購入。北海道産のイカとマグロだったかな。至福のひととき。

剱山

温泉・鳳乃舞