トムラウシ  クワンナイの夏の日

北海道・大雪  トムラウシ 2,141m、 化雲岳 1,954m  2007年8月24~26日(テント2泊)

(トムラウシ)日本百名山

212

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前日から沢を登ること8時間でついに滝の瀬13丁に着いた。雄大な滝の横を登ると、一枚岩のナメ床を水が薄く流れ下っていた。延々と続くナメを水が走る川の世界。苔がたくさん生えていて、分厚い苔の上だとフリクションが利いて歩きやすい。ナメ床の実感を写真で伝えるのは難しい。靴底の感触というのかなあ。

ナメの世界を進むと、二つの滝が流れ落ちる1,160m二俣に出会う。9年を経た今も、左右両側から滝が流れ落ちるこの雄大な景観は、クワンナイで一番印象に残る滝の情景。この先でようやく日が射し出し、川面に光が踊る。苔の緑も映えていて、限りない美しさ!

北沼というその大きな池の向こうに、大きな背を向けたトムラウシが立っていた。物憂げに、夏の青い空の中で、それは静かに私を待っているように見えた。私はぞくぞくして、先を急いだ

そしてやっとトムラウシの頂上に着いた。そこは中央火口を中心とした外輪山の一角で、他にも岩ピークがいくつかある。途中にあった北沼というのは昔の火口湖なのだろうか。複雑だが美しい地形。これまで遠目に見ていた王冠のてっぺんに、ついに立ったのだ。

さきほどまで見えていた旭岳は雲に隠れ、縦走路で会ったオバサン軍団は南沼キャンプ場の方へ去り、私はヒサゴ沼キャンプ場へと向かう。

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長大な沢を登り、滝を越え、延々と続くナメを水が走る川の世界。印象的な二つの滝。縦走路にたどり着き、夏の青空の中で静かに待っていたトムラウシの姿。いずれも忘れられない北海道の思い出。

北沼というその大きな池の向こうに、大きな背を向けたトムラウシが立っていた。物憂げに、夏の青い空の中で、それは静かに私を待っているように見えた。私はぞくぞくして、先を急いだ
ナメの世界を進むと、二つの滝が流れ落ちる1,160m二俣に出会う。9年を経た今も、左右両側から滝が流れ落ちるこの雄大な景観は、クワンナイで一番印象に残る滝の情景
雄大な滝の横を登ると、一枚岩のナメ床を水が薄く流れ下っていた。延々と続くナメを水が走る川の世界。苔がたくさん生えていて、分厚い苔の上だとフリクションが利いて歩きやすい。ナメ床の実感を写真で伝えるのは難しい。靴底の感触というのかなあ。
ようやく日が射し出し、川面に光が踊る。苔の緑も映えていて、限りない美しさ!
チングルマ
クワガタソウ?
コザクラソウ
(D1)10:13 天人峡・清流橋P発11:43 ゴルジュ16:44 876m二俣(人に会う)17:38 テント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り7時間25分(D2) 5:28 テント発 5:47 970m二俣 6:41 最初の滝8m(滝ノ瀬13丁) 7:18 1,160m二俣・二つの滝 8:19 ハングの滝 8:57 1,350m二俣の滝10:02 最後の大滝10:48 源頭(水涸れ)12:36 縦走路(ザック・デポ)14:28 トムラウシ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り9時間0分14:38 トムラウシ発16:16 縦走路ザック・デポ地点18:12 ヒサゴ沼テントサイト・・・・・・・・・・・・・・・下り3時間34分(D3) 5:43 ヒサゴ沼テントサイト発 6:53 化雲岳 7:59 小化雲岳直下の池 9:49 木道の湿原11:19 滝見台11:57 天人峡登山口12:13 清流橋P・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・下り6時間30分

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D1

22時20分のフェリーに乗りこみ、翌2時前に函館着。カーナビは天人峡着9時半と出ている。休みながらでもそんなところだろう。4時過ぎに夜が明け始め、快晴の高速を旭川へ。旭川鷹栖インターで降りて天人峡へ。途中で旭岳温泉への分岐があり、忠別川沿いの高い崖が立つ天人峡に着く。クワンナイらしき川と橋があったが、すぐ先に大きな砂防ダムがかかっている。橋の両脇に道らしきものはなし。

車を停めて調べると、やや東側に林道のようなのがあり、そこを少し登ると標識があった。原則禁止、それでも入渓する場合は、7・8月に限る、沢登り技術要す、登山届けを出す、自己責任、云々。登山届けが分からなかったが、天人峡温泉の登山口の登山届に記載し、橋のそばの駐車場に停めて着替え、出発する。

かなり高いところから砂防ダムを越えていく。草と樹木の中の踏跡ははっきりしている。やがて踏跡は川辺に下りてゆき、焚火の跡のある空地の手前で川に下りる。すぐにポンクワンナイらしき二俣がある。水量は多く、河原はほとんどない。河原の上はどんどん進むが、水の中を歩く時間が長く、スピードが出ない。次第に水の深いところが出てきて、短パンがつかりそう。右岸に高巻の登り口らしきものがあり、ガイドにあったゴルジュ高巻地点に違いないと思ってそこを登るが、違っていた。(30mロープはもってきたが、結局使わず)

この後、最深で股下くらいまで水につかり、徒渉を続けるが、やがて12時前になって本物のゴルジュに遭遇。これにははっきりした高巻ルートあり。ゴウゴウ流れるゴルジュを上から眺めながら高巻き、再び川に下りる。快晴の青空に日差しも強いが、水は冷たい。ちょっと気温が低すぎて、長く水に入ってるのは苦痛。確かに9月になると寒すぎるだろう。今年最後のチャンスだったのか。ガイドには8km、5時間で着くとあった標高876m二俣の前に、二つの二俣があり、古いGPSで確認して「たぶんこれだろう」と思ったのだが、結局違っていた。

三時すぎに釣り人を発見。結局、釣り人ではなく学生パーティがテントを張っていたのだが、どうやらここが最初の876m二俣で、テント場もあるということらしい。「最初の876m二俣までで5時間、目指す970m二俣まではあと2~3時間、到着は17~18時」ということで先を急ぐ。学生たち、あんな水辺のテントで大丈夫かなあ。この先、深みを避けて高巻きもしながら進むが、左右徒渉しても効率が悪いので、河原が無くなってもなるべくまっすぐ進むようにして先を急ぐ。

右岸からチョロチョロの流れが落ちている、やっぱり970m二俣じゃないなと思うところに着いたのはもう17時前。日はだいぶ傾いてきた。ここまで、涸れた支流を巻いていて何箇所かテント場を見つけていたので、この先適当なところがあったらそこにテントを張ろうと考える。水流はあいかわらず多く、高巻きも二回ほどやり、薄暗くなった涸れ支流を登っているとき、すごくよいテント場を発見。水からもだいぶ高い。まだ17時半だったが、970m二俣へは19時近くなるかもしれず(実は20分ほど先だった)、ザックを下ろしてテントを張る。川に下りて手を洗った頃はもうだいぶ暗くなっていた。ホットウイスキーとクッキーとドライフード。本日初めてアイポッドを聞きながらシュラフに入る。夜中に起きると星空だったが、林の中なのでよく見えず。

D2

4時のアラームで目覚めたが、暗くては沢は歩けない、と思い込んでなかなか起きず。4時半頃に起きて食事の準備を始めると、外はどんどん明るくなってきてあせる。大盛きつねうどんをかきこんでから出発。二枚重ねの濡れたソックスをはく。寒いのでレインウェア上下を着込み、下は股下まで折り上げる(こいつは正解。今後も使える)。すっかり明るくなった河原に下りて遡行開始。すると20分ほどで河原の丘の上にテープとテントを発見。先をよくみると二俣になっており、そこが970m二俣であった。テント場は左岸。確かに数帳は立てられそうなスペース(このテントの主が誰だったのかは分からず。地点表示のためのものかもしれない)。

しかし、この次の8m滝までは1時間かかる。この間、何度かルートを間違えたのでは、と怪しんだが、やがて行く手左に大きな滝が現われ、「あれだ」と思う。幅の広い滝の左側は崖。ガイドのとおり、右側に登りルートあり。割合簡単に登り、滝の瀬13丁に降り立つ。

高さ8m、横幅はその倍はある雄大な滝の横を登ると、一枚岩のナメ床を水が薄く流れ下っていた。

滝の上のナメは思ったよりかなり流れが速く、ナメの真ん中を歩こうとして敗退。流れが速いと水底に着ける前に足が流され、スティックもナメには立てられない。流れの緩いところを選んで歩き、時々流れの急なところを慎重に横切る。

延々と続くナメを水が走る川の世界。苔がたくさん生えていて、分厚い苔の上だとフリクションが利いて歩きやすい。スティックも使える。

それまで、深みに股下までつかったり、岩の上を渡ったり、岸の上を高巻いたりと苦労してきたのが一転して、デジカメを写しながらの楽しい沢歩きとなる。とはいっても、ナメ床の実感を写真で伝えるのは難しい。靴底の感触というのかなあ。

ずっとナメかと思ったら、すぐに次の滝(F7)があり、流れのすぐそばを登る。ほとんどシャワークライム。

ナメの世界を進むと、二つの滝が流れ落ちる1,160m二俣に出会う。どっちに行くんだ?ガイドには記載がなかったが、左側の滝の横に踏跡があり、ルートは明瞭。それにしても大きな滝だ。9年を経た今も、左右両側から滝が流れ落ちるこの雄大な景観は、クワンナイで一番印象に残る滝の情景。このあたりも日が川面まで射さないため、写真写りがいまいちで残念。

この先でようやく日が射し出し、川面に光が踊る。美しく、しかも水温が若干上がった感じ。苔の緑も映えていて、限りない美しさ!何度も立ち止まって流れを写す。

がてナメの間に岩が転がり始め、ナメも終了、普通の流れとなり、8時半前にハングの滝が見える。かなり手前にテープがあり、そこから高巻き。ヘルメットを脱ぎ、ザックを下ろして休憩する。半分は来たかな(実際は縦走路12時半までの7時間のうちの3時間)。ハングの滝の高巻きはロープ場ありの大回りで、両岸とも断崖だから仕方ないが、上まで登って下る途中にテント場があった。最初のパイオニアの休憩場所だったのか、それともベースキャンプ?ハングまでは遠く感じたが、その次の1,350m二俣の滝までは20分強で着く。二つともすさまじい滝で右のは高いところから噴出しており、左の本流のもかなり高い。「中央のガレを登る」とガイドにあったが、中央部分はかなり広く、奥まで踏みこんでテープと登りルートを発見。ここには固定ロープはなく、慎重に登る。笹の手がかりのあるところまで登ってひと安心。その上にもルート案内表示があり、またしてもテント場があり、それから沢に降りる。流れはだいぶ小さくなった。

行く手に最後の大滝が現われ、それを右岸の巻道から越し、その先に小滝の連続するガイドの写真の場面があり、その先ずっと右岸に踏跡が続くようになる。するとこの踏跡がガイドにあった源頭部の踏跡なのだろう。次の小滝を越えると水流は急激に弱まり、ついに涸沢となる。涸沢となる前にザックを降ろして休憩していたが、涸沢になったところで水を汲むために再度ザックを下ろす。視界が開け、行く手になだらかなピークがいくつか見え、振り返った背景には街の情景も見える。今回はペットボトル3本とタンク1個。タンクとボトル一本に源頭の水を満たす。この後は行く手を見ながら踏跡を辿るが、やがてテント場に着く。テント場はこの先何度か現われ、テントを張ってしまおうとも考えたが、止めておく(正解だった)。涸沢にはいつの間にか水が戻り、弱い流れになっている。視界が大きく開け、カール状の地形に入り、正面は縦走路がありそうなコルに見える。

水辺のそばのテント場から踏跡は左岸の斜面を登り始め、最初は左岸のピークに向かうのかと思ったら、踏跡は斜面を下り始め、雪渓の横を通って花畑の中を通り、大きな岩の間を通っていくと、雪渓池の上の最後のテント場を過ぎ、行く手にテントらしき布に覆われた荷物らしきものが見えてくる。その先まで歩くと、上下に踏跡が続いている。どうやらこれが縦走路だと気付き、ザックをおろして休憩。GPSで確かめても間違いないようだ。それにしても人気がないなと思ってザックを置き直していると、いつの間にか後方に団体がやってきた。追いつかれる前に出発。空身の軽さでどんどん登る。もう12時半を回っているのでゆっくりしてはいられない。源頭にいるとき、テント場にテントを張ろうかと何度か思ったが、縦走路まではかなり遠かった。最初のテント場からは1時間半。最後のテント場は近かったが、化雲岳への登りを考えるとやはりヒサゴ沼まで行って正解であった。

斜面を少し登ると青空の下に視界が開け、ややいびつな旭岳が見えてくる。その右手に頂上に大岩を置いた化雲岳。行く手にはまだトムラウシは見えない。最初のテラスに着き、少し下ってからロックガーデンの登りとなる。

二つ目の丘(2,120m峰)には団体が休んでいたが、ここまで登ると行く手にトムラウシの頂上岩峰が見えてくる。まだ遠い。旭岳には雲がかかってきたが、東の空にニペソツが見えている。だから、その左に連なっているのは石狩岳となる。

丘の先までいくとなんと大きな池がある。北沼というその大きな池の向こうに、大きな背を向けたトムラウシが立っていた。物憂げに、夏の青い空の中で、それは静かに私を待っているように見えた。私はぞくぞくして、先を急いだ。

いったん下りとなり、再び登る。池の向こうに二つ並んだ岩ピークの向こう側がトムラウシの頂上かなと思ったが、行ってみると頂上はその裏のピークだった。頂上には大きな噴火口があり、その廻りを岩峰が取り囲んでおり、一番高いところが頂上ということ。一等三角点があるが、岩だらけで広くはない。南側にはトムラウシ温泉からのルート。これまで遠目に見ていた王冠のてっぺんに、ついに立ったのだ。

この頃はガスがたちこめてきて眺望はなかったが、オバサン軍団(縦走路にいた人たち)は南沼キャンプ場に向かっており、二つ目の丘にいた団体はもうおらず、後から来た男性二人は先にヒサゴ沼に戻っていった。私はだいぶへばっていたので、クワンナイ源頭三番目のテント場に行こうかと思ったが、縦走路交差点からヒサゴ沼まで1時間程度でいけそうだったのでヒサゴに向かう。実際は2時間かかってしまい、途中に雪渓の下りもあり、思ったよりもたいへんだった。ヒサゴ沼には10個程度のテント、避難小屋にも大勢いるようだ。一番手前のスペースにテントを張る。食事をしていると月が昇ってきたが、ガスも出ているようだ。

D3

ただ下山するだけの日。それだけに気も緩んでミスを犯しやすい。4時半頃起きて食事をし(ラーメンとコーヒー)、テントを畳んで出発したのが6時前。天気予報の曇時々晴ではなく、完全に濃いガスに包まれている。化雲岳への分岐の少し先にある水場で水を汲み、早歩きで登る。中腹を過ぎるともうヒサゴ沼は見えなくなる。分岐が二つあり、最初の分岐で昨日トムラウシに登っていた二人に、二つ目の分岐でトムラの手前の丘で休んでいた団体に会う。最初の二人は西の沼ノ原口に向かったが、団体さんのほうは天人峡であった。

濃いガスの中を化雲岳頂上に着くと、昨日トムラウシから見えた大きな岩が立っている。三角点を写して天人峡のほうに向かう。標識の向いた方向だと大岩の方なのでそっちに向かうが、急斜面の下りの先が濃いガスに隠れている・・・・ここであるはずがない、と戻ると、頂上にさっきの団体がきている。ガスの中をルートを探していると、「そっちじゃないですよ。天人峡に我々も下りますよ」とリーダーが声をかけてくれたので助かった。「ありがとう」と言いながらも裸地の上なので、団体の後についていく。しばらく歩き、草原の中の道になったところで、「どうぞ」と先に行かせてくれた。「ありがとうございます」と本心から言って先に行かせてもらう。やや登り坂だったが、ぐんぐん歩く。本当に助かった。あの団体さんがいなかったらどうなっていただろう。

8時頃、池のそばを通過。そのあたりが小化雲岳頂上直下だったようだが、標識はなし。天人峡まで8.5km表示のところで休憩。夫婦連れが先に行く。湿原が多くなり、ぬかるみや水溜りをかわしながらの歩き。沢靴ではつらい。夫婦連れは途中の休憩で天人峡のホテルに予約を入れていた。クッキーをほおばって水を飲み、先に行く。

10時前、木道のある大きな湿原に出る。花はあまりないがとにかく大きい。4本組の広い木道なのでどんどん進み、10時過ぎに木道が終わって下りになると、行く手に天人峡らしき崖の連なりが見えてきた。もうついたのか、いや、これからが長いに違いない。後者が当たっていて、ここから2時間かかる。でも、マップで7時間のところを沢靴で6時間で降りれればそれほど遅くはないだろう。

天人峡の反対側の尾根をしばらく歩き、やがて羽衣の滝が見えてくる。かなり大きな滝のようだ。11時半前に滝見台に到着。羽衣の滝が正面に見えるが、その真上にあるはずの旭岳は残念ながら見えない。

この先で道は九十九折の下りとなり、途中で登ってくる老夫婦に会う。やがてはるか下の車道とバスが小さく見え、ホテルが見え、登山口に到着。登山届けに下山を記入して駐車場まで歩く。着替えをし、とってかえしてホテル天人閣の露天に入る。1,000円。湯につけた両手がやたらに痛かったのは、今朝、日焼け止めを塗らなかったせいだろう。

(D1)

22時20分のフェリーに乗りこみ、翌2時前に函館着。カーナビは天人峡着9時半と出ている。休みながらでもそんなところだろう。4時過ぎに夜が明け始め、快晴の高速を旭川へ。旭川鷹栖インターで降りて天人峡へ。途中で旭岳温泉への分岐があり、忠別川沿いの高い崖が立つ天人峡に着く。クワンナイらしき川と橋があったが、すぐ先に大きな砂防ダムがかかっている。橋の両脇に道らしきものはなし。

クワンナイ入渓注意

車を停めて調べると、やや東側に林道のようなのがあり、そこを少し登ると標識があった。原則禁止、それでも入渓する場合は、7・8月に限る、沢登り技術要す、登山届けを出す、自己責任、云々。登山届けが分からなかったが、天人峡温泉の登山口の登山届に記載し、橋のそばの駐車場に停めて着替え、出発する。

入渓地点

かなり高いところから砂防ダムを越えていく。草と樹木の中の踏跡ははっきりしている。やがて踏跡は川辺に下りてゆき、焚火の跡のある空地の手前で川に下りる。すぐにポンクワンナイらしき二俣がある。水量は多く、河原はほとんどない。河原の上はどんどん進むが、水の中を歩く時間が長く、スピードが出ない。次第に水の深いところが出てきて、短パンがつかりそう。右岸に高巻の登り口らしきものがあり、ガイドにあったゴルジュ高巻地点に違いないと思ってそこを登るが、違っていた。(30mロープはもってきたが、結局使わず)

ゴルジュ

この後、最深で股下くらいまで水につかり、徒渉を続けるが、やがて12時前になって本物のゴルジュに遭遇。これにははっきりした高巻ルートあり。ゴウゴウ流れるゴルジュを上から眺めながら高巻き、再び川に下りる。快晴の青空に日差しも強いが、水は冷たい。ちょっと気温が低すぎて、長く水に入ってるのは苦痛。確かに9月になると寒すぎるだろう。今年最後のチャンスだったのか。ガイドには8km、5時間で着くとあった標高876m二俣の前に、二つの二俣があり、古いGPSで確認して「たぶんこれだろう」と思ったのだが、結局違っていた。

人に出会った付近

三時すぎに釣り人を発見。結局、釣り人ではなく学生パーティがテントを張っていたのだが、どうやらここが最初の876m二俣で、テント場もあるということらしい。「最初の876m二俣までで5時間、目指す970m二俣まではあと2~3時間、到着は17~18時」ということで先を急ぐ。学生たち、あんな水辺のテントで大丈夫かなあ。この先、深みを避けて高巻きもしながら進むが、左右徒渉しても効率が悪いので、河原が無くなってもなるべくまっすぐ進むようにして先を急ぐ。

(D2)

右岸からチョロチョロの流れが落ちている、やっぱり970m二俣じゃないなと思うところに着いたのはもう17時前。日はだいぶ傾いてきた。ここまで、涸れた支流を巻いていて何箇所かテント場を見つけていたので、この先適当なところがあったらそこにテントを張ろうと考える。水流はあいかわらず多く、高巻きも二回ほどやり、薄暗くなった涸れ支流を登っているとき、すごくよいテント場を発見。水からもだいぶ高い。まだ17時半だったが、970m二俣へは19時近くなるかもしれず(実は20分ほど先だった)、ザックを下ろしてテントを張る。川に下りて手を洗った頃はもうだいぶ暗くなっていた。ホットウイスキーとクッキーとドライフード。本日初めてアイポッドを聞きながらシュラフに入る。夜中に起きると星空だったが、林の中なのでよく見えず。

4時のアラームで目覚めたが、暗くては沢は歩けない、と思い込んでなかなか起きず。4時半頃に起きて食事の準備を始めると、外はどんどん明るくなってきてあせる。大盛きつねうどんをかきこんでから出発。二枚重ねの濡れたソックスをはく。寒いのでレインウェア上下を着込み、下は股下まで折り上げる(こいつは正解。今後も使える)。すっかり明るくなった河原に下りて遡行開始。すると20分ほどで河原の丘の上にテープとテントを発見。先をよくみると二俣になっており、そこが970m二俣であった。テント場は左岸。確かに数帳は立てられそうなスペース(このテントの主が誰だったのかは分からず。地点表示のためのものかもしれない)。

最初の滝(F1、1,070m付近)

しかし、この次の8m滝までは1時間かかる。この間、何度かルートを間違えたのでは、と怪しんだが、やがて行く手左に大きな滝が現われ、「あれだ」と思う。幅の広い滝の左側は崖。ガイドのとおり、右側に登りルートあり。割合簡単に登り、滝の瀬13丁に降り立つ。

最初の滝(F1)の上

高さ8m、横幅はその倍はある雄大な滝の横を登ると、一枚岩のナメ床を水が薄く流れ下っていた。

滝の上のナメは思ったよりかなり流れが速く、ナメの真ん中を歩こうとして敗退。流れが速いと水底に着ける前に足が流され、スティックもナメには立てられない。流れの緩いところを選んで歩き、時々流れの急なところを慎重に横切る。

ナメ床の始まり(滝の瀬13丁)

ナメ床の流れ

延々と続くナメを水が走る川の世界。苔がたくさん生えていて、分厚い苔の上だとフリクションが利いて歩きやすい。スティックも使える。

それまで、深みに股下までつかったり、岩の上を渡ったり、岸の上を高巻いたりと苦労してきたのが一転して、デジカメを写しながらの楽しい沢歩きとなる。とはいっても、ナメ床の実感を写真で伝えるのは難しい。靴底の感触というのかなあ。

静かなナメ床

F4

ずっとナメかと思ったら、すぐに次の滝(F7)があり、流れのすぐそばを登る。ほとんどシャワークライム。

ナメの世界を進むと、二つの滝が流れ落ちる1,160m二俣に出会う。どっちに行くんだ?ガイドには記載がなかったが、左側の滝の横に踏跡があり、ルートは明瞭。それにしても大きな滝だ。9年を経た今も、左右両側から滝が流れ落ちるこの雄大な景観は、クワンナイで一番印象に残る滝の情景。このあたりも日が川面まで射さないため、写真写りがいまいちで残念。

この先でようやく日が射し出し、川面に光が踊る。美しく、しかも水温が若干上がった感じ。苔の緑も映えていて、限りない美しさ!何度も立ち止まって流れを写す。

1,160m二俣の二つの滝(F5、F6)

速い流れのナメ

美しい緑の苔のナメ

1,350m二俣手前の滝(F8・ハングの滝)

やがてナメの間に岩が転がり始め、ナメも終了、普通の流れとなり、8時半前にハングの滝が見える。かなり手前にテープがあり、そこから高巻き。ヘルメットを脱ぎ、ザックを下ろして休憩する。半分は来たかな(実際は縦走路12時半までの7時間のうちの3時間)。ハングの滝の高巻きはロープ場ありの大回りで、両岸とも断崖だから仕方ないが、上まで登って下る途中にテント場があった。最初のパイオニアの休憩場所だったのか、それともベースキャンプ?ハングまでは遠く感じたが、その次の1,350m二俣の滝までは20分強で着く。二つともすさまじい滝で右のは高いところから噴出しており、左の本流のもかなり高い。「中央のガレを登る」とガイドにあったが、中央部分はかなり広く、奥まで踏みこんでテープと登りルートを発見。ここには固定ロープはなく、慎重に登る。笹の手がかりのあるところまで登ってひと安心。その上にもルート案内表示があり、またしてもテント場があり、それから沢に降りる。流れはだいぶ小さくなった。

1,350m二俣・右俣の滝(F10)

1,350m二俣・左俣の滝(F9)

源頭手前

最後の大滝(F11)

行く手に最後の大滝が現われ、それを右岸の巻道から越し、その先に小滝の連続するガイドの写真の場面があり、その先ずっと右岸に踏跡が続くようになる。するとこの踏跡がガイドにあった源頭部の踏跡なのだろう。次の小滝を越えると水流は急激に弱まり、ついに涸沢となる。涸沢となる前にザックを降ろして休憩していたが、涸沢になったところで水を汲むために再度ザックを下ろす。視界が開け、行く手になだらかなピークがいくつか見え、振り返った背景には街の情景も見える。今回はペットボトル3本とタンク1個。タンクとボトル一本に源頭の水を満たす。この後は行く手を見ながら踏跡を辿るが、やがてテント場に着く。テント場はこの先何度か現われ、テントを張ってしまおうとも考えたが、止めておく(正解だった)。涸沢にはいつの間にか水が戻り、弱い流れになっている。視界が大きく開け、カール状の地形に入り、正面は縦走路がありそうなコルに見える。

緑の中へ流れる滝

クワンナイを見下ろす

源頭(いったん水枯れ)

緑の源頭を見下ろす

水辺のそばのテント場から踏跡は左岸の斜面を登り始め、最初は左岸のピークに向かうのかと思ったら、踏跡は斜面を下り始め、雪渓の横を通って花畑の中を通り、大きな岩の間を通っていくと、雪渓池の上の最後のテント場を過ぎ、行く手にテントらしき布に覆われた荷物らしきものが見えてくる。その先まで歩くと、上下に踏跡が続いている。どうやらこれが縦走路だと気付き、ザックをおろして休憩。GPSで確かめても間違いないようだ。それにしても人気がないなと思ってザックを置き直していると、いつの間にか後方に団体がやってきた。追いつかれる前に出発。空身の軽さでどんどん登る。もう12時半を回っているのでゆっくりしてはいられない。源頭にいるとき、テント場にテントを張ろうかと何度か思ったが、縦走路まではかなり遠かった。最初のテント場からは1時間半。最後のテント場は近かったが、化雲岳への登りを考えるとやはりヒサゴ沼まで行って正解であった。

チングルマ

クワガタソウ?

コザクラソウ

1,790mの池

縦走路から見る旭岳

斜面を少し登ると青空の下に視界が開け、ややいびつな旭岳が見えてくる。その右手に頂上に大岩を置いた化雲岳。行く手にはまだトムラウシは見えない。最初のテラスに着き、少し下ってからロックガーデンの登りとなる。

化雲岳

縦走路

二つ目の丘(2,120m峰)には団体が休んでいたが、ここまで登ると行く手にトムラウシの頂上岩峰が見えてくる。まだ遠い。旭岳には雲がかかってきたが、東の空にニペソツが見えている。だから、その左に連なっているのは石狩岳となる。

二つ目の丘、2,120m峰

物憂げな背のトムラウシ: 丘の先までいくとなんと大きな池がある。北沼というその大きな池の向こうに、大きな背を向けたトムラウシが立っていた。物憂げに、夏の青い空の中で、それは静かに私を待っているように見えた。私はぞくぞくして、先を急いだ。

石狩岳、ニペソツ、ウペペサンケ

北沼とトムラウシ

トムラウシ頂上

いったん下りとなり、再び登る。池の向こうに二つ並んだ岩ピークの向こう側がトムラウシの頂上かなと思ったが、行ってみると頂上はその裏のピークだった。頂上には大きな噴火口があり、その廻りを岩峰が取り囲んでおり、一番高いところが頂上ということ。一等三角点があるが、岩だらけで広くはない。南側にはトムラウシ温泉からのルート。これまで遠目に見ていた王冠のてっぺんに、ついに立ったのだ。

頂上から北沼

天沼

ヒサゴ沼と音更山と石狩岳

ヒサゴ沼

この頃はガスがたちこめてきて眺望はなかったが、オバサン軍団(縦走路にいた人たち)は南沼キャンプ場に向かっており、二つ目の丘にいた団体はもうおらず、後から来た男性二人は先にヒサゴ沼に戻っていった。私はだいぶへばっていたので、クワンナイ源頭三番目のテント場に行こうかと思ったが、縦走路交差点からヒサゴ沼まで1時間程度でいけそうだったのでヒサゴに向かう。実際は2時間かかってしまい、途中に雪渓の下りもあり、思ったよりもたいへんだった。ヒサゴ沼には10個程度のテント、避難小屋にも大勢いるようだ。一番手前のスペースにテントを張る。食事をしていると月が昇ってきたが、ガスも出ているようだ。

木道とトムラウシ

ニペソツとウペペサンケ

残雪とヒサゴ沼とニペソツ

(D3)

朝のチングルマ

ただ下山するだけの日。それだけに気も緩んでミスを犯しやすい。4時半頃起きて食事をし(ラーメンとコーヒー)、テントを畳んで出発したのが6時前。天気予報の曇時々晴ではなく、完全に濃いガスに包まれている。化雲岳への分岐の少し先にある水場で水を汲み、早歩きで登る。中腹を過ぎるともうヒサゴ沼は見えなくなる。分岐が二つあり、最初の分岐で昨日トムラウシに登っていた二人に、二つ目の分岐でトムラの手前の丘で休んでいた団体に会う。最初の二人は西の沼ノ原口に向かったが、団体さんのほうは天人峡であった。

コザクラソウ

化雲岳頂上

濃いガスの中を化雲岳頂上に着くと、昨日トムラウシから見えた大きな岩が立っている。三角点を写して天人峡のほうに向かう。標識の向いた方向だと大岩の方なのでそっちに向かうが、急斜面の下りの先が濃いガスに隠れている・・・・ここであるはずがない、と戻ると、頂上にさっきの団体がきている。ガスの中をルートを探していると、「そっちじゃないですよ。天人峡に我々も下りますよ」とリーダーが声をかけてくれたので助かった。「ありがとう」と言いながらも裸地の上なので、団体の後についていく。しばらく歩き、草原の中の道になったところで、「どうぞ」と先に行かせてくれた。「ありがとうございます」と本心から言って先に行かせてもらう。やや登り坂だったが、ぐんぐん歩く。本当に助かった。あの団体さんがいなかったらどうなっていただろう。

道標

小化雲岳直下の池

8時頃、池のそばを通過。そのあたりが小化雲岳頂上直下だったようだが、標識はなし。天人峡まで8.5km表示のところで休憩。夫婦連れが先に行く。湿原が多くなり、ぬかるみや水溜りをかわしながらの歩き。沢靴ではつらい。夫婦連れは途中の休憩で天人峡のホテルに予約を入れていた。クッキーをほおばって水を飲み、先に行く。

第一公園の湿原と木道

10時前、木道のある大きな湿原に出る。花はあまりないがとにかく大きい。4本組の広い木道なのでどんどん進み、10時過ぎに木道が終わって下りになると、行く手に天人峡らしき崖の連なりが見えてきた。もうついたのか、いや、これからが長いに違いない。後者が当たっていて、ここから2時間かかる。でも、マップで7時間のところを沢靴で6時間で降りれればそれほど遅くはないだろう。

羽衣の滝

天人峡の反対側の尾根をしばらく歩き、やがて羽衣の滝が見えてくる。かなり大きな滝のようだ。11時半前に滝見台に到着。羽衣の滝が正面に見えるが、その真上にあるはずの旭岳は残念ながら見えない。

天人峡登山口

この先で道は九十九折の下りとなり、途中で登ってくる老夫婦に会う。やがてはるか下の車道とバスが小さく見え、ホテルが見え、登山口に到着。登山届けに下山を記入して駐車場まで歩く。着替えをし、とってかえしてホテル天人閣の露天に入る。1,000円。湯につけた両手がやたらに痛かったのは、今朝、日焼け止めを塗らなかったせいだろう。