暗黒作家列伝 夢枕獏
出会い
氏の作品とは、中学・高校時代の友人によって間接的に出合ってます。彼は、氏の「キマイラシリーズ」や「餓狼伝」が好きで、話をしていても古武術の話や修験道の話などがどんどん出てくる人でした。だから、その頃の氏へのイメージは、「小難しいファンタジーを書いてる人」と言うものでした。
実際読み始めたのは、六・七年前。最初に読んだのは、『陰陽師』でした。まだコミックバーズに岡野玲子氏による漫画が連載される前でしたが、
面白い。
たちまちはまってしまいました。その以前から陰陽師や安倍晴明には興味がありましたからいくつか他の作家の晴明ものも読んだことはありましたが、これだけ魅力的に描いてる作品は見たことがありませんでした。また、そこで描かれる「呪」の話は蘊蓄好きな私の心にビビットに入り込んできました。
それと、(邪道な読み方ですが)あとがきの力強さに惚れ惚れしました。なんだかもう、力ずくで作品と格闘している様が 感じ取れる良い文書です。
力強い、激情の戯作者。私のお気に入りの作家です。
作品の傾向
氏の作品には力強い作品が多いと思います。そして、ジャンルが幅広い。
「木犀の人」のような美しい優しいしっとりとした作品から、『大帝の剣』、『キマイラ』、『混沌の城』のようなエロティックバイオレンスとでも言うべきもの、『空気枕ぶく先生太平記』のようなとぼけた作品から、『鮎師』のような命がけの男の話、『上弦の月を食べる獅子』のような宗教的とさえ言える探求の話、『餓狼伝』、『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』のような格闘家達の話‥。
その他、とにかく多くの作品を世に出しており、その全てが実に力強い文体で書かれており、この人よく体力続くなあ。こんなに書いて大丈夫なのかしらと余計なこと考えてしまったりします。が、本人はいたって元気はつらつで、もう、次の、次の、次の作品を書きたくて書きたくてしょうがないようなのです。すげーや。
とにかく、氏の作品には戦う男達が描かれることが多いようです。力の限り、全てを出し尽くして戦う男達。
それは、取りも直さず夢枕獏先生本人の姿なのだろうと思います。
お薦め
これは他の方の書評などを見てもよく書かれてるのですが、氏の作品は、まず当たりはずれがありません。どれも、かなりの面白く読めます。あとは、好みによるとしか言えないのですがそれじゃしょうがないので、例によってタイプ別におすすめ本紹介を。
哲学的なことに興味のある方
『上弦の月を食べる獅子』(第10回日本SF大賞受賞)はいかがでしょうか?
これはある事件から世界が螺旋に見えるようになった螺旋収集家と、トシの死で追いつめられた宮沢賢治の二つの物語が螺旋を描いて融合し、さらに、禅問答が螺旋状に絡み、物語自体も螺旋状に巨大な山を登り続けていくと言うもので、その中で、悟りへの道が語られていきます。なかなか痛く苦しい、でも強い小説です。
とにかく“強い男”が読みたい方
たくさんあります。特に挙げるなら、やっぱり『餓狼伝』でしょうか。これは最近板垣恵介氏によって漫画化され『コミックバーズ』に連載されてますので、まずとっかかりに読んでみるのも良いでしょう。強い。とにかく強い。でも、もっと強い奴らがごろごろいる。なんちゅう世界じゃと言う感じの格闘小説です。
基本的にシリーズものは激闘激闘また激闘で、格好いい魅力的な奴らが死力を尽くして戦うものがほとんどです。とにかく手に取ってみてください。
蘊蓄好きな方
『陰陽師』シリーズがおすすめです。平安期の最先端科学大系だった陰陽道を余すところ無く、しかも知識先行でなく物語にとけ込んだ状態で楽しむことが出来ます。
岡野玲子氏の漫画化作品もストーリーや世界を壊すことなく蘊蓄をわかりやすく描いてるので、おすすめです。
しっとりした話が好きな方
短編集はいかがですか?『遙かなる巨神』は、氏の初期短編を集めた作品ですがその中の「木犀の人」なんかは特におすすめです。
それと、『猫弾きのオルオラネ』ですね。これが『餓狼伝』の作者か?と思うほど違った味が楽しめます。
しっとりしたでも戦う話に『鮎師』があります。巨大な鮎を狙う、鮎に憑かれた男達の静かな挑戦の話です。
笑えないと嫌と言う方
『空気枕ぶく先生太平記』をおすすめします。なんて言ったら良いんだろうこの作品。変な、でも面白い作品です。主人公は作家空気枕ぶく先生付きの編集者。彼の愛憎の入り混じった目で見た作家の生活裏話です。
あと、プロレス好きなら『仰天・平成元年の空手チョッ プ』もなかなか笑えると思います。
格闘ものが良いと言う方
前述の『餓狼伝』の他、『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』、エッセイに『戦慄!○プ業界用語辞典』などがあります。