学校怪談:高橋葉介

『学校怪談』8巻

古本屋で見つけて購入しました。

九鬼子先生の御先祖様である“あの方”が初めて登場する巻です。また、神宮寺八千華の登場する巻でもありあます。その後の「学校怪談」の方向性を決めた巻だと言ってもいいと思います。

割と、純然たる怪談的なエピソードが多く収録されてます。特に好きなのは、神宮寺八千華が転入してきた一日を描いた、「迷惑な転校生」、「一人がいっぱい」、「廊下を走るな」、「胃袋怪物」、「幽霊タクシー」の五話と、“立石さん、眼鏡を取ると可愛いじゃん”の「ずっと水の底にいる」、そしてなんと言っても、“あの方”が登場する特別編「夜の声」と「黒い天使」でしょう。

八千華ちゃんは、登場の時からトラブルメーカーぶりを遺憾無く発揮してますが、この頃は割と傷付きやすい心を、気丈な態度で鎧った少女の様に見えます。その固い心が他の人を傷付け、嫌われ、ますます強い振りをしているような..。瞳の描き方もだいぶ違いますね。しかし、「胃袋怪物」では、だいぶそれが薄れ、現在の何があっても元気にトラブる八千華ちゃんになってますね。

「ずっと水の底にいる」は、これ短編小説にした方がもっとゾクゾクした面白さが出るかもと思いました。ブラッドベリの短編に、似たような話があります。その話では、舞台は未開の惑星にある井戸で、そこに待ち構える何かは、探検に来た人々に取り憑いては井戸に身投げさせ、また、長い長い時間を待つのです。立石さんは眼鏡を取ったら可愛い少女でした。まあ、ベタなネタですが、とはいえ、それを描いちゃうのが葉介先生らしいとも言えます。この後、結局立石さんは可愛いと言われた髪型に変えます。なんのかんの言っても”可愛い”と言われるのは嬉しいことなのでしょう。

そして、特別編。

何と言っても、かっこいい“あの方”。

この二話で、峠弥勒のエピソードは完結し、分裂していた自己は融合されます。「夜の声」では、九鬼子を守るため、”あの方”が弥勒を九鬼子から引き裂き、奪い取ります。そして「黒い天使」では、九鬼子先生が自らの意志で、弥勒を受け入れます。“あの方”は、それを助け優しい呪を弥勒にかけます。

たぶん、誰もが思春期にぶつかる世界との衝突。無意識(弥勒)と超自我(ゴキブリ、海、ホテルくだん..。)に挟まれ、追いつめられ震えるばかりだった少女(自我)が、しっかりした自分を見出すために必要な時間を作るための無意識への抑圧、封印。大人になり、強くなった九鬼子先生は、それを解き放ち、有りの侭に受容します。

“あの方”の魅力と共に、そういった心の成長が描かれてる点も、この二話の魅力です。(ややコミカルで魅惑的な、七巻での弥勒の活躍を読んでからだと、より一層楽しめると思います。)

『学校怪談』12巻

書店で購入する時は、必ず「高橋葉介の漫画の」と強調しましょう。そうしないと映画「学校の怪談」の原作本を出されます。(実話)

それはさておき、『学校怪談』は、だいぶ長く続いてるシリーズですが、12巻に至ってなお、コンスタントに面白いのが凄いですねえ。基本的に一話完結の短編ですから、下手なシリアスな長編物より何倍も力が必要なはずです。さすがは、長く、メジャー誌などで短編を書き続けてきた先生ならではと言えるでしょう。

夢幻魔美也の孫、九段先生がやっぱりかっこいいですし、八千華ちゃんはコケティッシュだし、山岸君は相変わらず取り憑かれているし、ミゾロギ君は楽しく狂ってるし、(夢幻外伝に出てくる溝呂木博士の子孫なのかな?誰か教えて下さい。)こんなに妖怪や幽霊がどんどん出てくるのに、みんな明るく元気で生きてるってのが良い。

この中ではちょっと雰囲気が違う『殺してやる』が特に好きかな。正当な恐怖作品です。でも、これはやっぱり、ちょっと『夢幻紳士』入ってますから、別物かな。

この本で、連載200回を超えたそうです。これからも、頑張って欲しいですねえ。

暗黒作家列伝高橋葉介の章へ