超人髭野博士:夢野久作

『犬神博士』と同じ本に収録されていた作品で、『犬神博士』の続編と言われる作品です。

確かに名前が違うだけで、同じような構造(記者にカタル)同じようなキャラクターで、こちらは青年期から大人になり、現時点へかけて語っておりそういう意味では続編と言ってもいいと思います。

しかし、読了後の印象はだいぶ違います。一応完結されてるから、だけではなく、こっちの終わり方が余りにも、痛々しく切ないのです。

青年期、まだ超絶の力の片鱗はあるものの、だいぶ普通の色男となってきた髭野博士は、施設を飛び出し、サーカス団に入ります。そこでも大活躍するのですが、ちょっとしたミスから追い出され、金持ちのひもになり、金に飽かせて新型爆弾を作ったりします。しかしこの境遇もちょっとしたミスで失ってしまい、やがて、実験用の犬を売る仕事に就き今に至ります。

この作品でも、『犬神博士』のチィ少年のように、髭野博士は運命の外側にいます。力はあるのに十全に発揮する機会は与えられず、いつも周囲の人間の運命に翻弄されるばかりです。しかも、チィ少年のような躍動するエネルギーは無く、ぎりぎりでやっと踏ん張ってるような苦しさがあります。

最後のシーンで、大団円を迎えた場面で、唯一人笑いながらその場を去り、帝国ホテルの隣の空き地の土管に向かいます。あまりの寂しさに、泣きそうになりました。力もあり、そこそこ活躍もしたが、結局、彼がいなくても事件は解決したろうし、必要ともされてなかった(否、彼自身が、自分の存在意義を信じ切ることが出来なかった)寂しさです。そんな諦めがある分、『犬神博士』よりも寂しく切なかったのだと思います。

作品としての出来そのものは、はっきり言ってあまり良くはないと思います。かなり軽い感じで、さっと読めてしまい、印象にも残りにくいです。でも、あの切なさの分だけは、読む甲斐があるように思います。