魔都:久生十蘭

探偵小説は、本格と変格に分かれるとよく言われます。前者は、トリックや展開に凝り、読者と作者の知恵比べ的パズル的な面白さを持つ作品。後者は、細かいトリックに凝るより、事件の持つ奇怪さ、怖さ、美しさなどに凝った、よりエンターテイメント的な作品と言えるでしょうか。

この作品は、本格と変格の良いところを兼ね合わせた小説と言えるでしょう。緻密な構成、展開といった本格派の面白さ、美しくも恐ろしい魔都、東京、そこで蠢く人々、その欲望、想い、残酷な運命。そういった変格派の面白さ。全く見事な推理怪奇小説です。

時代は、戦前。場所は、美しくも恐ろしい魔都、東京。表敬訪問するために訪れていた雲南国の王子が突如失踪。同じ頃、王子に瓜二つだが、何の取り柄もない普通の男が、泥酔して立ち寄った公園で、奇妙な光景を見る…。

そこから始まる、密かに静かに、そして有無を言わせぬ強い力で進展していく、奇怪にして美しく、残酷な事件の数々。気がつかぬうちに、あるいは望んで、その激流の中に巻き込まれていく人々の、想い、欲望、策略が複雑に絡み合い、より酷薄な方向に雪崩れ込んでいきます。

朝日文芸文庫や社会思想社現代教養文庫に収録されています。

推理小説に興味がある方のみならず、面白い小説が読みたい方には、絶対お薦めです。

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