鬼太郎の地獄めぐり:水木しげる

今回、このコーナーを書くに当って、資料として手に入れましたが、出た時にも一度読んでます。表題作の外、地獄にからむ短編、鬼太郎が母をたずねて地獄へ降りる長編『鬼太郎地獄編』が収録されてます。

『鬼太郎の地獄めぐり』は、鬼太郎とねずみ男が、地獄を訪ね、観光をする話なのですが、オープニングが凄い。

鬼太郎 「ねずみ男、地獄へ行ってみようじゃねえか。」

ねずみ男 「そりゃあいいや。たいくつでこまってたんだ。」

鬼太郎 「道はこっちだ。」

ねずみ男 「道さえわかればしめたものよ。」

これだけ。わずか六コマでもう地獄へ行ってるのだ。この話では、伝統的な地獄が紹介されてます。

『地獄マラソン』は、スランプの女子ランナーが世をはかなんで自殺するが、鬼太郎等が主催する“地獄マラソン”に参加し、六道地獄を超えて、現世に生き返るという話です。生きる気力を失った少女を、少女の得意な“走る”ことで生き返らせようとする展開はなかなか感動的です。ちなみに少女は“花子”というのですが、よほど気に入ったのでしょうか、『鬼太郎地獄編』でも、地獄の亡者に“花子”という少女が現れます。また、『死人列車』でも、自殺するのは“花子”さんです。同一人物ではないようですが。

『鬼太郎地獄編』は四話連作の作品で、鬼太郎とその仲間が、地獄にいる鬼太郎の母を求めて地獄を旅するという話です。ギリシャ神話のオルフェウスや、日本神話のイザナギ・イザナミ等、死んだ女性を求めて黄泉巡りをする話は古今東西にあります。これもそんな流れを組む作品です。地獄の亡者や奪衣婆等が一行を妨害します。また、「妖怪と言えど、生きて地獄には来れない」というルールが絶対的に一行を支配しています。地獄の覇権を狙う吸血鬼達の策謀を壊滅させることで、特別母に会う許可を閻魔大王にもらいます。さらに地獄の奥深くへ分け入り、皆は鬼太郎の母に会います。しかし、一緒に帰ろうとすると、地上に出た途端、母は灰になってしましました。とても、悲しい話であります。

鬼太郎の前身、『墓場の鬼太郎』で人々を呪い、恨み地獄に落とそうとした鬼太郎の裏側に、常に自分を残して死んだ母への思慕と恨みがあったのでしょう。これは、それがやっと昇華される話でもあります。ここまでの間、縁もゆかりも無い人々を救ってきた鬼太郎は、戦友達に囲まれてても、ある意味常に孤独だったのでしょう。自分自身のでない“正義”のために戦い続けてきた鬼太郎が、初めて自分のために戦ったのです。そういう点で、非常に劇的な話でした。

『死人列車』は、自殺した少女を救うために鬼太郎が死後の世界に向かうのですが、結局、生き返りではなく生まれ変わらせます。なんだか、不思議な不条理な作品です。

『UFOの秘密』も不思議な話です。地底の極楽の人々が、地上を不和にするために死人を復活させ大混乱を起こさせ、鬼太郎がそれを解決するという結構長い話です。B級ホラー好きの人にはたまらん作品でしょう。「インディペンデンスデイ」か「バタリアン」かという作品です。

荒俣氏によると、この本は五行の「土」をテーマにして集められた作品なのだそうです。巻末の、荒俣氏と水木先生の対談も面白いです。

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