暗黒作家列伝 京極夏彦
出会い
「ウブメノナツだよ。やっぱり。」三・四年前、友人と面白い本について語り合ってた時、友人はそう言いました。新本格派の作品に暗い私は、それがどんな作品か全くわからず、右から左に聞き流してしまいました。しかし、数ヶ月後別な友人と話してる時にもその名が出てきました。「今度貸すよ。」早速借りた私は、ハマッてしまいました。
人の心の奥に潜む闇を妖怪として捉え直し、解体して“払う”という発想は斬新で衝撃的でした。RPGの発達で、妖怪もモンスターも数値化されデータ化され、妖怪を払うといったらゲーム的な表現がありがちでした。また、探偵物は心の綾も減ったくれも無いハードボイルドか、トリックばかりに拘ったパズル的な探偵物ばかりでした。
京極作品はそれらと明らかに一線を画す、膨大な蘊蓄によって作られた、豊かなイメージの溢れる物語でした。
そして、私は憑かれました。
作品の傾向
基本的に、日本の妖怪達をモチーフにしたミステリー作品です。妖怪を、実在の生物として扱うミステリーは多いですが、京極作品では、人の心の織り成す綾を、感情の奥に潜む闇を、妖怪の姿に仮託して物語は進みます。もともと妖怪は、そうした人々の心の闇を仮託された存在だったのかもしれません。それが、いつか表面的な有り様だけが残り、いるのいないのと言う話になり、消えていったのでしょう。先生の本を読んでいると、妖怪の本来持っていたエネルギーや、躍動、暗闇、恐怖がじわじわと伝わってきます。
また、それを補完するための膨大な蘊蓄も好きな方にはたまらない部分です。そのジャンルは基本の妖怪話から、古典、心理学、大脳生理学、神学、神道、仏教、民間信教、民俗学など多岐にわたり、それらが複雑な文様を作り、物語を彩ります。
割と分厚い本が多いですが、どれも一旦引き込まれると一気に読まずにいられない魅力を持ってます。
お薦め
全部です。
では紹介になりませんので、特に好きな本をお勧めします。
しっとりと哀しい物語が読みたい方
『姑獲鳥の夏』でしょう、やっぱり。陰陽師京極堂や迷探偵榎木津が活躍するシリーズの第一巻であり、京極先生のデビュー作でもあります。全体通して流れる「哀」のイメージが特に他の作品に比べて強い作品です。
それと、『嗤う伊右衛門』も凄く良いです。こちらは京極風四谷怪談なのですが、その解釈は実に新鮮で、ただ の怪談ではなく、男と女の情念の物語となってます。こちらはどこか哀しいながらもどこか救われる話でもあります。
複雑怪奇な物語が読みたい方
『魍魎の匣』か、『絡新婦の理』ですね。前者は、とても猟奇な作品です。乱歩作品なんどが好きな人にはたまりません。後者は、まさに蜘蛛の巣の様に複雑怪奇に絡み合った物語です。はっきり言って、一回では理解できません。でも、美しい罠と言う感じで、良いです。
とにかくビヤッと楽しみたい方
絶対、最新刊の『百器徒然袋-雨』です。迷探偵榎木津の破天荒な、トリックスターな大活躍が楽しめます。