Linuxとの出会い

軽い気持ちで…

2000年春四月。

妻が、誕生日のプレゼントとして三千円分本を買って良いと言ってくれたので、仙台長町モールの紀伊国屋書店で本を物色していたとき、コンピューター関係のコーナーで見付けたのが秀和システム刊『Vine Linux 入門キット』でした。

Linuxのことは以前から聞いたことがありました。高い安定性、軽いシステム、オープンソースのフリーOSなので、タダで手に入れ自由に使うことができる。しかも、Windowsと一台のパソコンに共存させることもでき、Windowsのディスク領域で読み書きすることもできると知り、興味をひかれていました。

本を見ると、CD-ROMが付属しており、Linuxそのものの他、様々なアプリケーションもセットされており、この本買うだけですぐ始められるようです。

迷わずその本を買いました。

"ま、ちょっと試してみてうまく行かないようなら止めれば良いや"位に思っていました。(これが大間違いだったわけですが…。)

とにかくも、この時から、私の果てしないLinux道の探求が始まったのでした。

共存の方法

帰宅後、早速入門キットを読んでみます。入門キットと言うだけあって、専門的なシステムや概念、用語の説明は軽く触れるだけで、インストールの方法と付属のアプリケーションのごくごく基本的な使い方に大部分のページが割かれています。

全体像はぼんやりしかわかりませんが、とりあえずインストールの仕方は写真つきで説明してあります。

ま、使い勝手はどうせ使ってみないとわからないのだし、まずインストールしてなんぼだと思い、本を頼りにインストールしてみようと考えたのですが、本を読み返してみてはたと気がつきました。

Windowsと共存させるのが、結構難しいようなのです。

Windowsとの共存のために、fipsというソフトが用意されてます。これは、Windowsの入った状態のまま、空き領域に、linuxを入れるためのパーティションを切り直すというソフトで、デフラグをかけるなりしてデータをHDDの前方に集めた後、このソフトを使えば、後方の空き領域を新しいパーティションとして切り取ってくれるソフトなのですが、使い方を間違えるとWindowsのシステムが壊れてしまうこともあるというのです

READMEファイルを見ると英語。ネットで探すと日本語マニュアルもありましたが、直訳っぽい翻訳で日本語が変な感じになっていて、今ひとつ理解ができません。

"どうしたものかなあ…。"

結局、安全性を考え、割拠状態は止めておくことにしました。この時点でのメインシステムはWindowsだったので、半端な知識で今のシステムを壊す可能性がある作業はまずいと考えた結果です。

代案として考えたのは、HDDをもう一つ導入すると言う方法です。これもいくらか専門知識はいりますが、増設に関しては参考になる文献も割とあるからです。

問題は、どれ位のクラスのHDDを狙うか(記憶容量、転送速度等)ですが、これは、とにかく安ければ安い程良い。Linuxはシステム自体が某OSと違ってかなりコンパクトなので、システムだけで4~500MBもあれば十分で、アプリケーションをガンガン足しても1GBから2GBもあればかなり充実したシステムを作れるようなので、それほど容量は必要ないからです。

HDDを導入すると決め手から数日、ネットや大型電器店でHDDの値段を調べてみました。

だいぶ容量に対する単価が下がってます。20GBなら2万前後。30GBなら3万円前後。1GBあたり1000円になります。なら、必要な2~3GB位なら2~3千円であるはずです。が、そうは問屋が卸しません。容量が減れば減るほど単価が上がってしまうのです。結局、予算内のHDDは見つけられませんでした。

次に見たのは、中古ショップや、ヤフー・オークションなどです。

しかし、ここでも良さそうなものがなかなか見付かりません。(良いのがあると、簡単に予算(一応10000円前後)をオーバーしてしまうのです。

そんな時、ある電器店のチラシで自作パソコン用のHDDで新品の20GBのHDDが、16000円程で出ているのを見付けました。早速妻と話合い、予算を増やしてもらい、買いに行くことになりました。

この時から一週間、最初のインストールをめぐって沢山のトラブルが発生し、遂に最初の挫折を経験することになりました。

HDDを購入して帰宅後、早速取り付けました。接続は問題なく済みました。とりあえず、一旦全領域をWindows用として設定し、フォーマットをします。

そして、いよいよLinuxをインストール。

トラブル続きのインストール パーティションについて

最初に躓いたのは、パーティションの切り方でした。

部署毎についたてを立てて一つの事務所を仕切っていたりしますよね。あのついたてを、パーティションと言います。

同じように、一つのHDD内をいくつかの部分に分けることを「パーティションを切る」と言います。通常、Windowsなどを使う際はOSの特性上、パーティションを切らず、大きな領域のまま使った方が良かったりしますが、これだと、ファイルを管理しているシステムがちょっとおかしくなると、全てのデータが一瞬で消えてしまったりします。

パーティションを切ると、被害をおかしくなったパーティション内のデータだけに止めることができます。また、個人のデータやファイルを別パーティションにいれておけば、OSがクラッシュしてリカバリーするとかアップグレードする際に、バックアップに手間を取られずに済みます。

Linuxでは、Windows用やMac用などの他のファイルシステムを含め、基本的に4つまでパーティションを作ることができます。その内の一つを拡張パーティションに指定すれば、その中に論理的にパーティションを沢山作ることが可能です。

基本は、全てのシステムやアプリケーションのファイルが入る"/(ルート)パーティション"と、メモリが足りなくなったときにメモリからHDDに一時的にデータを移す"swapパーティション"の二つ。それ以外は、システムの利用目的によって様々なパターンが考えられます。

しかし、買った本には、何を基準にパーティションを切ったら良いかについてはほとんど記述がありませんでした。それについて語りだしたら、システムのあり方にまで話が及ばざるを得ないから省略したものと思われますが、とりあえず、わかる範囲でパーティションを切ることにしました。

全部で20GBあります。18GBをWindows用にして残りの2GBをLinux用にすることにしました。で、インストール開始。

インストール自体は本に書いてある通りにすることで、順調に進みました。パーティションを切り、インストールするパッケージを選び、インストール開始。と、「フォーマットします」の文字が出たまま、うんとも寸とも言わなくなってしまいました。

不安になって、もう一度、始めからやり直してみますが、やっぱり止まる。

今度は、領域を1GBに減らして再開。同じように止まりますが、程なくしてパッケージのインストールが開始されました。

後でわかったのですが、LinuxのExtend2(ext2)というファイルシステムは、信頼性や安定性が高く、断片化が起きにくいぶん、フォーマットに時間がかかるらしいのです。

トラブル続きのインストール X-Windowについて

インストールが済むと、またいくつかの設定が続きます。そこで、また問題発生。

大抵の人が引っかかるX-windowシステムの設定です。

X-windowとは、Unix系OSで使われるGUIの基幹になるシステムです。

GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)とは、WindowsやMacでは常識となっている、

・マウスでポインタ(矢印)をいじって、アイコンを動かしたり、開いたりする。

・デスクトップ画面上にいくつも画面を表示したり、大きさを変えたり、当座使わない画面、ソフトはアイコン化したりしてしまっておける。 ・いろいろな操作を、アイコンによるメニューの選択やボタン、スライダなどのパーツをいじるという直感的な形で行える。

と言うような特徴を持ったインターフェイスです。

「え?それって全部そうじゃないの?」と思った方もいらっしゃると思いますが、パソコンに限らず、コンピュータでGUIが使われるようになったのはここ十年程のことで、それ以前はCUI(コマンドを文字で入力して操作する)方が主流でした。

WindowsにもCUIが存在します。MS-DOSプロンプトと言うのがそれです。Windows自体がMS-DOSというシステムから生まれた名残です。しかし機能的に弱いため、Windowsではほとんど使われなくなってしまいました。

Linuxは、UnixというOSから生まれました。Unixは、CUIでの操作が基本で、それをサポートするためにGUIが利用されています。

一つは、早い時期に機能的で使いやすいCUIソフトが様々開発されたためです。

例えば、コマンドを直接受け取りOSに伝えるシェル(shell:殻の事。MS-DOSプロンプトに相当)には、様々なものがフリーで出回っているのですが、良く使われる「Bash」というソフトには、「ファイル名補完機能」「履歴保存」「履歴検索」などの機能があります。これを使うとうろ覚えのファイル名やコマンドパスでも、ガンガン補完してくれるので、コマンド入力が苦になりません。

第二に、GUIはハードに対しとても負担をかかるからです。個人での使用ならフリーズしてもクラッシュしても、再起動して動けば良しですが、もともと研究所や会社のデータベース、ネットワークサーバーのOSとして使われていたUnixでは、システムが落ちる危険は、少しでも取り除く必要がありましたので、とっつき易さより、CUIの早さ、軽さ、安定性が選択されることが多かったのです。

使い方を覚えれば、CUIでも操作は苦にならないし、(むしろ軽快で快適です。)CUIなら、かなり昔の機能の低いマシンでも使えます。

Windows2000などでは、2年前位の最新機種でもパワー不足で使うにくいですが、CUI+Linuxなら十年前の時点で中古だったマシンでも、HDDが十分あれば動きます。

捕捉すると、最近ではLinuxでも、使いやすいGUIが出て来て、必ずしもCUIが使えないとダメというわけでもなくなって来ました。今、私は、X-window上で「GNOME」というウインドウマネージャーを使って、ネスケを開きながら、エディタでこのHTMLを書いています。はっきり言ってWindowsより使いやすいです。いろいろいじれる部分も多いし。

それに、今、CDもかけているのですが、このマシンで、同じことをWindowsにやらせると、たぶん確実に、程なく落ちます。

だいぶ話が脇道にそれました。

この、GUIを実現するX-windowの設定の際、うちのデスクトップ機のグラフィックボードであるi810チップが検出されないのです。手動で設定しようとリストを見ても載っていません。

とりあえず似たような名前のチップを指定して設定してみますが、X-windowシステムが起動しません。何度か設定を変えて挑戦してみますが、やっぱりうまく行きません。

しかたなく、ここを飛ばして進むことにしました。

その後は特に問題も起きず、インストール終了。

最後の方で、「LILOをMBRに書き込みますか?」という質問。特に考えず書き込むことにして終了。

ドキドキしながら、再起動します。

が、

動かない!!!!!

正確には、画面に「1」がどんどん表示される。

1111111111111111111111111111111111111111111111111111111…。

画面を埋め尽くす「1」

とりあえず、もう一度最初からインストールしてみます。でも、結果は同じ。

次に、インストール作業の途中で作る起動ディスクを使って起動してみると、起動が開始されました。

「良かった!」と思う間もなくトラブル発生。

アイコンが馬鹿でかい!!

これは、どうやらグラフィックチップの設定が問題らしい。

そして、何をいじってもWindowsが立ち上がらなくなってしまった。

解決の糸口がまったく見付からない状態で、途方に暮れてしまいました。

Windowsを取り戻せ

とりあえず、Windowsが立ち上がる状態にしなければと、いろいろ設定をいじってみるが変化無し。増設したHDDを外してみるが、それでもWindowsは立ち上がらない。

Cドライブ(もともとのHDD)には一切手をつけていないのでWindowsは無事なはず。それだけが支えの状態で、かなり深夜になっていたので、とりあえず作業を中止してその日は寝ました。

次の日も仕事をしながら考えるのはトラブルのことだけ。

帰ってみると、妻から朗報。知合いの大場君に電話して聞いてみたところ、「Windows'98の起動ディスクがあれば、それでMBRを書き直して直せると思うよ。」と言われたと言うのです。早速、探してみました。が、無い。当り前です。起動ディスクは後から自分で作っておかなければならないのを、私は作っていなかったのです。(ちなみにSOTECのPC STATION 250Mのマニュアルに、起動ディスクの作り方は書かれてませんでした。妻がSOTECのサポートセンターに電話して聞いたところ、「リカバリーしてください。」としか言われなかったそうです。個人のデータはどうするっちゅうんや!!)

MBR(マスターブートレコード)とは、HDDの一番外周にあるファイルで、真っ先に読み込まれ、OSを読み込むブートローダーというソフトが記録されてます。

LILOとは、Linux用のブートローダーですが、他のOSと一緒に入っている場合その中から選んでブートできるブートセレクターとしても機能しますが、うまく起動できない場合、全く機能しないようになってしまうのです。

Windowsの起動ディスクを使えば、書き込んでしまったLILOををWindows用のブートローダーで上書きできるというのです。

早速、次の日職場の知合いにお願いして、起動ディスクを作ってくれるよう頼んでみましたが、その人はWindows'98で、うちはWindows'98SE(セカンドエディション)。起動ディスクが違うはずだよと言われ、その人の知合いのSEを使っている人にお願いしてもらうことにしました。

職場から帰ってみると、Windowsが動いてる!?

妻が、これまた知合いの関さんに無理言って、仕事中に起動ディスクを持って来てもらったらしいのだ。

はふ。

とりあえず、Windows環境も戻り、一から出直しです。

共同でパソコンを利用している妻から「また同じようなことなるなら、Linuxは止めてね。」と釘をさされてしまい、とにかくも、何が原因だったのか、どうしたらうまく行ったのかがわかるまで、Linuxの挑戦は中止することになりました。

最初の挫折です。

最初の挫折

何が問題だったのでしょうか?

あとでいろいろ調べてわかった原因は、主に次のようなものでした。

・グラフィックチップの問題

X-windowを実現するソフトに、X-Free86というソフトがあるのですが、本について来たVine Linux 1.1に入っているX-Free86のバージョン3.3.3が、i810チップに対応していなかったのです。その後に出た、3.3.5で正式に対応しました。それをダウンロードして来て組み込めば使えたのでした。

・LILOとMBRの問題

この問題は、解決にだいぶかかりました。

最初LILOのバージョンのせいだと考えたのですが、その後調べた結果、むしろコンピュータ自体の問題であることがわかりました。

うちのデスクトップ機は、増設したHDDからOSをブートできなかったのです。

ただ、後にアップグレードしたVine Linux 2.0のインストールに成功した時は、起動ディスクを使ったブートが可能でした。これは、起動ディスク内に仮のOSと、増設したHDDについてのデータが入っているため、それを利用してブートができるのです。

つまり、一時仮のLinuxをコンピュータ上に構築し、その機能を利用して増設HDDから残りのデータを読み込むわけです。

起動ディスクを使わない場合、もともとのHDD(Windowsの入っているディスク)に領域を切り、共存させなければならないのでした。

とりあえず、一時中止です。

しかし、次の挑戦まで、実に三ヵ月の時間が必要でした。

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