暗黒作家列伝 水木しげる
出会い
水木作品は、物心ついた時には既に身の回りに存在していた。だから、かえって余り印象に残ってません。
最初の水木体験は、TVアニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』になります。私が見たのは多分、二回目のアニメ化で、最初のカラーの奴でした。タイトル曲はもちろん「ゲゲゲの歌」。一番印象に残ってるのは、鬼太郎が妖怪に取り付かれて、墓場を掘り起こして死体を食おうとしてるシーンでした。幼心に“鬼太郎、おっかねえ!”と思った記憶があります。
それから以後、時々、立ち読みすることがあるものの、あまり集中して読むことはありませんでした。
また読むようになったのは、実は京極作品を読むようになってからです。(ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、水木先生は京極夏彦氏等と世界妖怪協会という組織を作り、自ら会長となって、世界中の妖怪を研究している妖怪研究の第一人者でもあるのです。)久しぶりに読み返してみると、面白い。独特の世界観と語り口は、筆舌に尽くせないものがあります。
作品の傾向
大きく分けて、三つに分かれるでしょうか。
一つは、『ゲゲゲの鬼太郎』、『河童の三平』、『悪魔くん』に代表される、妖怪漫画。
一つは、『娘に語るお父さんの戦記』、『コミック昭和史』、『のんのんばあと俺』等の個人史的ドキュメンタリー。
一つは、『水木しげるの妖怪図鑑』などの、妖怪研究資料です。
どのジャンルにおいても、先生の独特の優しくて、どこかクールな語り口、世界観、死生観が一貫して見られます。これは、他の怪奇物や恐怖物と、先生の作品を大きく分ける部分でもあると思います。
思うに、先生の作品は、怪奇を散文的ないし理論的にではなく、詩的に表現してると言えるかもしれません。実際、妖怪同士の戦いなどのシーンを見ると、他の作家等だと“これこれだから、こうなって、こっちが強い。”という事に、殊のほか力を注ぎがちです。(特にRPG風の漫画等ではそうです。)しかし先生の作品の場合、具体的な戦術よりは、妖怪達の変幻自在さや奇妙さ、不可思議さなどが中心に表現されてるように思います。
それと、先生の作品世界の人間達が、怪奇を拒否してないという点も大きいと思います。びっくりもし恐れもするが、すぐ、すんなりと受け入れてしまうのです。(初期の怪奇作品だと、いつまでも恐れ続け、遂に地獄に落とされる人なども出てきますが)
これは、先生自身が、そう言った世界を特殊な異界としてではなく、現実と地続きの世界だと感じているせいではないかと思います。
お薦め
膨大な数の著作があります。特に、『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズは百話以上描かれてるので、手に入りやすいと思います。中でも、
恐怖が読みたい人
初期の作品や、貸本時代の『墓場の鬼太郎』が良いでしょう。正義の味方でない鬼太郎が見れます。妖怪と人の合いの子として生まれ、人々の憎しみを受け排除された鬼太郎が、罪の無い人々を地獄に落としていくのです。怖いですよ。
妖怪達の活躍が見たい人
やはり、『ゲゲゲの鬼太郎』でしょうか。『悪魔くん』も良いかと思います。
ドキュメンタリーが読みたい人
『コミック昭和史』等の水木先生自身の戦争体験を扱った作品の他、ヒトラーなどを紹介している、『東西奇怪紳士録』も良いと思います。
また、現在角川書店から出ている世界妖怪協会の季刊紙『怪(kwai)』に、東西の神秘家のドキュメンタリーを連載しています。
とにかく妖怪のことが知りたい人
『水木しげるの妖怪図鑑』が良いでしょう。鳥山石燕の「画図百鬼夜行」を参考に水木ちっくに描かれた絵が満載されてます。同じシリーズで、郷土の神神を扱ったものや、世界の妖精を集めたものも出ています。
築摩書房からちくま文庫として、『水木しげる妖怪まんが集』、『悪魔くん千年王国(全)』、『河童の三平(全)』等が出ており、比較的入手しやすいと思います。また、角川書店からも『水木しげるコレクション』(全五巻)が出ています。
リンク
水木ファンである第一寿はるかさんのホームページです。鬼太郎やねずみ男の名言を集めた水木名言集、はるかさんが作った動画を集めた水木動画館など、水木作品の面白さが抽出された面白いページです。ここのリンク集には、かなり多くの水木しげるファンのサイトが紹介されてます。お薦めです。