陰陽師:夢枕獏

私が氏の作品にはまるきっかけとなった本で、安倍晴明を主人公とした短編集です。

この本を最初に読んだのは大学出た頃ですが、安倍晴明や陰陽道にはその前、高校生の頃から興味を持ってました。しかし、古典が苦手で、古典に出てくる安倍晴明はイメージがつかめず、あまり魅力的に感じられませんでした。その後、平井和正の『地球樹の女神』などでまた興味が復活。そんな時に出会ったのがこの本でした。

一読して、はまりました。氏の力強い文体にぐいぐい引き込まれ、一気に読ませられてしまいました。

なんと言っても、これ程魅力的な晴明像を描いた作品はありません。

クールで博識、洒脱で伝法、冷たくて、しなやかで、優しい。惚れ惚れする、超絶の美貌の魔道師。闇と妖気に覆われた王城、平安の都に起きる様々な怪異を、フラリと自然体で解決していきます。

そして、その彼の横でワトソン役を引き受けてるのが、源博雅です。実直で武骨、質実剛健ででも一流の琵琶の腕を持つ芸術肌の部分も持つ武人です。彼は、宮廷やその周辺で起きる怪異を晴明に持ちかけます。この二人の活躍で物語が進んでいきます。

この二人の関係が良い。

方や文人、方や武人。魔道師と侍。実直と洒脱。本来ならあまり相容れそうにない二人が、こう、上手く持ちつ持たれつなのだ。

そしてまた、事件が無くても博雅は、その時その時の美味い物を持ってフラリと晴明のあばら屋に訪れる。そして、二人して良い月を観ながら酒を酌み交わしたりするのだ。余計なことなどしゃべくらず、

「飲むか。」

「飲もう。」

格好いい!

なんとも渋い男のつき合いって感じです。(『姑獲鳥の夏』の頃の関口と京極堂の関係に似てます。)

そしてもう一つの大きな魅力は、晴明が博雅に語る“呪”についての蘊蓄です。

魔道物では、得てして“なにか言いしれぬ魔力によって魔法が発動する”という風に省略したり、謎めかして説明するのですが、この本ではその仕組みを、しっかりと説明してくれるのです。その仕組みとは、つまり言霊の力の仕組みと言っても良いと思います。この“魔術論”と言っていいような蘊蓄が、蘊蓄好きな私のハートをがっちりつかみました。

そして、なんと言っても氏の力強い文体。ぐいぐいと引き込み、力ずくでねじ伏せられるような快感です。物語はこうでなくちゃ!!と思います。

物語が好きな方は、お薦めです。

(この作品は、岡田玲子氏によって漫画化されてます。こちらは原作に比べると、絢爛豪華で華やかな、絵巻物のような美しさがあります。平安の魅惑的な世界が描き出されてます。こちらも良い!)

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