魔都:栗本薫

「時の石」で描かれた、“優しい空想世界への憧れ”を更に突き詰めた作品で、構造的には『時の石』全く同じです。この作品について栗本薫は、「自分にとって特別な作品」と後書きに書いてます。読んでみると確かにそんな気がします。

筋としては夢落ちの探偵物(それも乱歩や十蘭、小栗といった頃の)という感じです。しかし、犯人がどうよりも、作家本人を思わせる人物が自らの好きな空想世界に浸り、遊び、苦しみ、現実へ帰るがしかし、やはり空想世界を求めてさ迷うという構造に、作家が書きたかったことが詰まってるように思うのです。

栗本薫は中島梓の名で『コミュニケーション不全症候群』という本を書いてます。その中で人と上手くコミュニケーションが取れないオタクなどを取り上げ、その心の構造を分析してますが、その本の結論は“でも、それの何処が行けないの?目をつぶらなきゃ見えないものだってあるでしょ?”というものでした。

『魔都』の底辺に流れるのも同じ主張です。栗本薫が作家を続ける原点を書いた作品なのでしょう。