ぼっけえ、きょうてえ:岩井志麻子
常連の(?)あんもさんにお借りした本です。公演の後39度熱を出して寝込んだとき寝床で熱でぼんやりしながら読んでいました。四編のミステリーが収録されていて、本の題名にもなってる「ぼっけえ、きょうてえ」は、第六回日本ホラー大賞を受賞したそうです。タイトルの「ぼっけえ、きょうてえ」。なんともコミカルな音ですが、岡山弁で「とても、こわい」という意味だそうです。名前負けしているミステリーが多い昨今、「ぼっけえ、きょうてえ」は数少ない「名は体を表す」ミステリーです。
四編とも、舞台は明治時代の岡山県の、片や海の小さい島。片や山の方の村を舞台にしています。
明治というのは意外と知らないことが多い時代です。文明開化に富国強兵に精を出す都市部のことは日本史やTVのドキュメンタリーなどでも紹介しますが、田舎のことになるとさっぱりです。(私は『遠野物語』ぐらいしか明治の田舎について書いた本を読んだ記憶がありません。)
この本の四作品はどれも、田舎の-いわゆるムラの-暗闇を上手く描き出してます。
「ぼっけえ、きょうて」は舞台こそ岡山市内の色街ですが、女郎がやわらかな岡山弁で語る世界は田舎の暗闇です。それは、小さいときに聞いた郷土の昔話のようです。暗い、恐い、妙にリアルな夢のような…そんな話です。
「密告箱」は、他の三編とちょっとだけ雰囲気が違うように感じます。流れているものは一緒ですが。
男と女の愛の話、と書いてしまうと「なんだかなぁ…」ですね。女性の怖さがよく描かれているように思います。
「あまぞわい」も男女の話ですが、どちらかというとすれ違いを描いた話です。
「依って件の如し」は、「ぼっけえ、きょうてえ」の暗黒昔話的な部分がより深化された悪夢のような物語です。「親のいない兄妹が、ムラの中で必死に生き、ついには自分たちの居場所を見つける。」筋だけ書くとこうなりますでしょうか。でも、この筋、西瓜の中の種一個ぐらいしかこの作品について語ってませんのでご安心下さい。
私は「依って件の如し」が特に恐くて美しくて鬱陶しくて好きです。「密告箱」の怖さも捨てがたいですが。
既存の安心して読める、ただやたら人が死んだりバラバラになったり幽霊になるだけのホラー、ミステリーに飽き足らない方には、うってつけです。
個人的にはこれに匹敵する恐い本は『遠野物語』くらいかもなどと思ったりするのですがいかがでしょうか?