不良少年とキリスト:坂口安吾

太宰治が自殺した直後の昭和23年7月に『新潮』に発表された、安吾的な視点による太宰治論です。文庫で24・5頁ほどの短編で読みやすく、安吾独特の力強い語り口が楽しめ、安吾の作家観、人生観が見え隠れする作品です。各社の文庫等には大抵収録されてますので、手に入れ易いと思います。

話しは安吾が歯痛に閉口してるシーンから始まります。軽やかでコミカルで巧みな文章を楽しく読むうちに太宰の死の話へと入っていきます。

安吾の語る太宰治は、「人間失格」や「斜陽」等で自ら語る、駄目でコンプレックスに凝り固まった、プライドの高い斜に構えた文学者では無いように思います。というか、そういう人間でもあるのですが、それを計算してやっていた訳ではなく、ただもう、少しでも人より凄いと言わせたいという思いと、そんな自分を恥じる思いがぶつかりバランスを崩しつつその波の中で文学にすがり付いていた不良少年と、安吾は見ているようです。

そして、そんな太宰の子供っぽさを安吾は慈しむように語っていきます。太宰は普通であることを恥じていたが、普通でなきゃ良い文学は書けない。発作的に二日酔いの勢いで死んでしまったが、もし生き残ったら、心機一転もっと良い作品を書いていたに違いない、と。

さらに、安吾自身の決意へと繋がっていきます。人生が終わる時まで書くと。一番好きな一節です。

私は気落ちしたときに読んでみます。なんだか救われるのです。

おすすめです。