社交ダンスの疑問

 社交ダンスの経験が長い人でも「今更聞けない」という疑問をテーマにします。

一般編


1. 舞踏晩餐会や日本社交舞踏教師協会という団体名のように、社交ダンスには舞踏という言葉が使われます。舞踊との違いは何ですか ?


 本来、舞は「回る、回す」踊は「跳躍運動」踏は「踏む」という意味で、西洋から来たボールルームダンスはステップに重きを置いておりますので舞踏と訳されたようです。舞踊は踊りの総称で舞踏はその1つのジャンルとして社交ダンスや現代舞台芸術といったダンスに使われているようです。一字ですと、「軽快にステップを踏む」「タンゴを踊る」という使い方になります。しかし「軽快にステップを踊る」「タンゴを踏む」とは使われません。

 

2. ウインナーワルツとヴェニーズワルツは違うものですか ?


 同じです。ウインナーワルツはウイーンで流行したワルツです。ウイーンはオーストリアの首都で公用語はドイツ語です。Wikipedia によるとウイーンはドイツ語で Wien〈ヴィーン〉 英語で Vienna〈ヴィエナ〉 となり、ウィンナー・ワルツドイツ語で Wiener Walzer〈ヴィーナー・ヴァルツァー〉、英語Viennese waltz 〈ヴィアニーズ・ウォールツなります。ウインナーワルツはドイツ語のWiener Walzerを日本語読みにしたものです。現在は英語のViennese waltzを日本語読みしてヴェニーズワルツと呼ぶのが主流です。競技会パンフレッドでの略語はVwと記されています。ちなみにクラシックでワルツといえば「ワルツの父、ワルツ王」と呼ばれたヨハン・シュトラウス親子が有名で、もちろんウインナーワルツのことです。

 今は聞かれなくなりましたが、ボストン・ワルツ、イングリッシュ・ワルツ、キューバンルンバのように発祥国の名前がついていたり、コンチネンタル・タンゴ(欧州大陸のタンゴ)のようにアルゼンチンタンゴと区別していたときもありました。今やボールルームダンス(社交ダンス)の世界で発祥国の名前がついているのはヴェニーズワルツだけとなりました。庇を貸して母屋を取られるとはこのことです。 


3. 現在、スタンダード部門とラテンアメリカン部門に分かれていますが、どういう意味でしょうか ?


 それぞれの部門における種目の分類は「社交ダンスの種目」で前述しておりますが、スタンダードは標準又は広く知れわたり親しまれているという意味です。音楽の分野ではスタンダードナンバーなどと使われています。以前はモダン(現代的な)部門と呼ばれていましたが、これは宮廷舞踏会で踊られていたポルカ、マズルカらの古典舞踏対比としての分類です。しかし、この部門の種目もすでに制定から100年近くなりますので、スタンダードという現在の呼称が適しているかと思います。

 ラテンとはラテン民族(スペイン人、ポルトガル人、フランス人、イタリア人)のことで、ラテン・アメリカン・ダンスはアメリカ大陸のラテン系民族によるダンスという意味です。ジャイブは北米生まれでラテン民族のダンスではありませんが、踊り方の分類からラテンアメリカン種目に、またパソドブレはスペイン生まれですが、すでに中南米に伝わり流行していましたのでラテンアメリカン種目になったと思われます。ジャイブを分類した当初はラテン&アメリカン部門と呼ばれたようです。


4. 社交ダンスのブルースと歌謡曲のブルースは同じですか ?


 ブルースの音楽はアメリカ南部の黒人奴隷のワークソングから生まれました。ブルースの語源はブルー(青)です。黒人奴隷は雨が降れば休めるけど、晴れる(青空・ブルー)と過酷な労働が待っているというところから、ブルースは「気持ちが落ち込む」「心が滅入る」「人生を儚む」を表現する音楽です。ジャズの母体となる音楽の一つです。

 歌謡曲のブルースは音楽的にも相違点がありますが、全くの別物とも言えないようです。ゆっくりとした4拍子ですので、もちろん社交ダンスのブルースを踊れます。ブルース歌謡の起点は「ブルースの女王」といわれた淡谷のり子の「別れのブルース」と言われてます。作曲者の服部良一は「ブルースの父」と呼ばれたW.C.ハンディの人生と音楽に強い共感を覚えていたそうで、成り立ちからアメリカ・ヨーロッパなどでの現状まで、ブルースを深く研究していました。そして自分でもブルースを作ろうと思い立ったと言われております。ブルース歌謡の歌詞の中には「涙」「別れ」「溜息」「せつなさ」「ネオン」「お酒」という言葉が多く出ますから、人生の悲哀、浮き沈みを哀愁漂う詞の中で表現したものかもしれません。その後、雨後の筍のように出てきた「○○ブルース」は本来のブルースと大きくかけ離れたかもしれません。なお、ブルースは現在、スロー・リズム・ダンスと呼ばれています。


5. JBDFの資格ではダンス教師とダンス指導員と使い分けておりますが、教師と指導員の違いは何ですか ?


 JBDFではプロフェッショナルダンス教師、アマチュアダンス指導員と分けております。教師と指導員の言葉の意味をウィキペディアで調べてみますと、教師(ティーチャー teacher)は 学校などで教育を担当する人員のこと。指導員(インストラクター instructor) ある分野に於いて様々な指導を行う立場の者をさすとあります。これ以外にも類語として講師、コーチ、師範 、教授、教官などもあります。 

 この区分けは曖昧な部分がありますが、感覚的、習慣的に使い分けがされています。何れも日本語では先生と呼ばれています。

   ・ 小・中・高の教員は必ず「教師」です。

   ・ピアノは「教師」「講師」、「インストラクター」のどちらも使われます。

   ・社交ダンス、バレエは「教師」、「インストラクター」のどちらも使われます。

    それ以外のダンスはインストラクターが使われます。

   ・英会話は「教師」です。

   ・スポーツ系は「インストラクター」、「コーチ」を使います。

   ・武道、芸道は「師範」です。

   ・陸海空軍、航空業界で教育に当たる職の人は「教官」です。

   

 以上から、ダンスの世界では明確な意味の違いはありません。JBDFの資格をプロ・アマでわかり易く分類したものです。以前はどちらもインストラクターでした。北海道プロ・ダンス・インストラクター協会はその時代の命名です。


6. 社交ダンスの教室はほとんどが○○ダンススクール、○○ダンススタジオと命名されますが、色々なダンスがある中にもかかわらず、ほとんどのスクールが○○社交ダンススクールや○○ボールルームダンススタジオと名付けられないのはどうしてでしょうか?


 我々のダンススクールには「ジャズダンスやってますか」「ヒップホップやってますか」と問い合わせが来ます。一般の人や他ダンスの人からはスクール名に「社交」や「ボールルームダンス」を入れないと区別がつかないと思われて当然です。団体名も同様です。日本のみならず世界のダンス団体も「世界ダンス議会」「世界ダンススポーツ連盟」というようにすべてのダンスを網羅しているかのごとくの名称です。競技会名も「全日本ダンス選手権」といった具合です。100年以上も前から続いている慣習です。20世紀初頭から中頃まではダンス=ボールルームダンスだったのかもしれません。そういう中で、現在の(公益財団法人)日本ボールルームダンス連盟及びその広域加盟団体である北海道ボールルームダンス連盟らは的を得ている名称です。ダンスが多様化している現在、事業所名、競技会名にも「社交」及び「ボールルームダンス」という語句を入れる必要性はあるのかもしれません。


7. 教室の広告で見かける「経営指導」とは何ですか ?


 一般的に、経営指導とは子会社に対する経営上の指導やフランチャイズ店に対する本部の指導、あとは商工会議所、経営コンサルタントのアドバイスなどを指します。ダンス教室の経営指導という呼び名は経営者かつスタッフの指導者、もしくは経営者かつダンス指導者という意味でしょうか。しかし最近は経営者も含めてスタッフとしているところが多くなりました。以前はダンス教室経営者とは別に、スタッフ指導という意味で「教授部長」という役職もありました。この言葉はダンス教師の社会的地位の低かった時代の権威付けとも言われています。


8. JBDFの資格認定試験、NDLSのアマチュア技術検定とがありますが、どちらも一般的には「テスト」と呼ばれますが試験と検定は違いますか ?


 どちらも一定のレベルに達しているかを見極めるものですが、重要度が違います。試験は他者の人命、生活に重要な影響を及ぼす職責に必要な知識、資質をチェックします。検定は他者への影響が少ないもので、職を得るために有利な検定もありますが、趣味の延長である検定も少なくありません。ただ自動車学校の卒業検定のように他者の人命に影響を与える検定もありますので、厳密ではないようです。


9. ダンス選手権大会も含めてスポーツの世界での「選手権」とはどういう意味ですか  ?


 「選手権」は選手の権利ではありません。「選手権」=Championshipですが、Champion=優勝者 ship=身分、状態、特性という意味です。船のshipは別物です。チャンピオンシップとは優勝者という身分、状態を表す言葉です。同じ使い方で、リーダーシップ、パートナーシップがあります。スポーツマンシップはスポーツマンとしてあるべき特性、性質という意味です。「選手権」が使われだした始まりは20世紀初めに開催された日本・中国・フィリピン3国による極東選手権競技大会というスポーツ大会しいです。「選手権」の「権」は「権力、権威、代表」の意味があり「出場した選手の中で最高位の成績を得た、選手の代表」ではないでしょうか。



技術・用語編


        

     ボールルームのballは後期ラテン語 の〈ballare 〉(=踊る)が語源で舞踏という意味になり、フットワークのballは 古代ノルウェー語の〈bollr 〉(=球体 が語源で足の親指付け根付近の肉球的な部位という意味になります。こういう風に綴りはballで一緒ですが、異なる語源、意味となります。balloon (気球)は球体のほうのballで、ballet(バレエ)ballad (バラード)は踊るほうのballになります。また人前でballsと言ってはいけません。


2. 右回りのターンをナチュラルターン、左回りをリバースターンというのはなぜでしょう ?


 まず、LOD(ライン・オブ・ダンス)と呼ばれるダンスを踊り進んでいく方向は反時計周り(左回り)と決められております。陸上競技、野球もそうです。スーパーやコンビニ、レストランのバイキングの導線も左回りだそうです。左手でかごや皿を持ち、利き手の右手で物を取るには左回りが適しているかもしれません。また人間には左回りの法則があるようです。利き腕も関係して単独では左回転がナチュラルということです。さて、カップルとして考えると、この反時計回りにウインナー・ワルツのナチュラルターン(右回転)を踊ると、コーナーではアンダーターンをすれば自然に回っていけます。リバースターン(左回転)でコーナーを回るためにはオーバーターンをしなければならず、大変技術を要します。相手を右にずらして組んでいる状態で相手の両足の間に前進すると自然に右カーブしていきますから、カップルとしては右回転は自然と言わざるを得ません。それがナチュラルターン(自然なターン)、リバースターン(逆のターン)と称される所以です。ラテンアメリカン種目では1部のフィガー(ナチュラルトップ、リバースロール等)以外はライトターン、レフトターンを使います。


3.    ルンバの第1歩目を音楽の第2拍目でステップするのはなぜですか ?

 

 ルンバは1930年代にアメリカ経由でヨーロッパに伝わり、世界中で流行しました。その後、競技種目に採り入れるときに1拍目から踊り始めるスクエア・ルンバ派と、2拍目から踊るキューバン・ルンバ派、この2つに意見が分裂し大激論の末、1962年に英国教師協会はキューバン・ルンバ派で統一することを決定しました。これはイギリスを中心としたインターナショナル・スタイルの話で、日本も当然含まれています。一方、アメリカ、カナダを中心としたアメリカン・スタイルではリズムという部門のアメリカン・ルンバでは1拍目からSQQと踊ります。どちらが正しいということはありません。音楽に合わせて手拍子をするときに、ダウンビート(1、3拍目)で手拍子するかオフビート2,4拍)で手拍子するかという感性の違いです。それぞれ個人によって違うかと思いますが、一般的には民謡、演歌、軍歌はダウンビート、ポップスはオフビートになると思います。特に洋楽はオフビートが強調されて演奏されることが多いので当然オフビートになりますまた教科書Latin American Rumba)には、音楽のアクセントは各小節の第1拍目にあり、第4拍目にはパーカシブ・アクセントがあると表記されています。ルンバは音楽的には特殊で複雑と言えます。スクエアー・ルンバ及びアメリカン・ルンバは第1拍目のアクセントにステップの第1歩目を合わせ、キューバンルンバは第1拍目のアクセントでセトリングをしてオフビートである第2拍目がステップのスタートになります。そして第4拍目のアクセントに小節の中で構成される歩数(基本は3歩)の最終歩を合わせます。このオフビートでのスタートが「ルンバの音の取り方は難しい」と言われる基になっています。一般的には第4拍のアクセントの音に予備歩を合わせてスタートします。


4. 予備歩を使う種目と使わない種目の違いは何ですか ?


 結論から言うと、タンゴとヴェニーズワルツに予備歩はありません。

用語集には「男性の最初のステップが右足から始まる場合、最初に左足から前進をはじめ右足のステップに入っていくがそのときの最初の左足ステップを予備歩という。」とあります。もちろんスタートで左足に乗って右足から前進することも可能ですが、予備歩を使うことによって大きなスイングと勢いをつけることが出来ます。ですからライズ&フォールとスイングのないタンゴ に予備歩はありません。ヴェニーズワルツは曲のスピードの関係で予備歩は困難になりますから、左足後退して、右足前進からスタートします。