Photo by ChatGPT
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「会議は会議室でやりましょう。/庶民は、ウナギを食べながら会議しません。」これは「地区党や県党で、時には専従、時には勤務員のときもあったかな。」と日本共産党の元専従職員を仄めかすアカウントがSNS上に投稿したものです。
この投稿を発端に日本共産党の関係者、特に党に批判的な立場の人たちがSNS上で日本共産党中央委員会の会食費用について言及しています。この1年、各党の政治資金収支報告書を点検している身として簡単にまとめたいと思います。
日本共産党中央委員会の政治資金収支報告書(総務省管轄)について2025年1月16日時点で公開されている2023-2021年、それに加えて私の手元にあったから2020年の報告書のうち、問題になっている「組織活動費(会議費)」の「食事・喫茶代」を抜き出したものが以下の表になります(5万円以上の支出に限る)。
2023年が突出して多いですが、それでも総額は81万円、中央委員会の総支出約189億円のうち、0.004%、会議費の中の1.90%となります。
この数字をもって、日本共産党中央委員会は贅沢をしていると言えるかといえば微妙です。全国政党の中央組織であり、尚且つ2024年最新人事で中央委員(190名)・准中央委員(25名)は215名、ここに職員の数も含めると300名近くの本部組織における、役員クラス、あるいは外部関係者との会合を想定した際、その支出額は1人につき1万円を超えても違和感はありません。頻度としても2020年は5万円を超える会食は1回、 2021年はゼロ、2022年は3回、2023年は10回となっています。そこまで頻繁であるとは思えません。
2023年の支出で特に目立つのは、6月5日の「京王プラザホテル」と11月16日の「ホテルニューオータニ」で、いずれも12~17万円と高額な点です。これは他の支出(5万円前後)と比べ際立っており、多人数を伴う特別な懇親会の可能性が高いです。ただし、それ自体を不適切と断定できる根拠はありません。
同年は食事を伴う会合自体も大幅に増加しました。統一地方選挙や松竹除名問題とは時期がずれており、むしろ翌年1月の党大会や新委員長選出に向けた人事調整・作戦会議が背景にあるのではないかと推測されます。いずれにせよ詳細は不透明で、今後の情報提供が待たれるところです。
上記のように実際のカネの動きを見る限りは特段、興味を引くような内容ではありません。これを問題視したアカウントは2023年の「食事・喫茶代」を提示しましたが、少なくとも現在、ウェブ上で確認できる2021年以降の会計資料を見る限り、日本共産党中央委員会が頻繁に高価な料亭等で食事をしているという状況ではないです。もちろん、党の末端に寄付を要請しておいて、「ウナギを食べるとは許せない」という気持ちはわからなくはないですが、公論としては力強さに欠け、一般的には「ウナギを食べられなかった元専従のヒガミ」として受け取られかねないものです。
私自身、日本共産党を含め、野党のカネの流れについてこれまで調査し批判も加えてきましたが、このような言及は日本共産党に関する批判的検討全体の印象を矮小化する的外れなものとしか言いようがありません。もしこの「食事・喫茶代」で党を批判したいなら、2023年の外部での会合増加とその背景について突っ込んで調査が必要でしょう。
3 コロナ禍の出来事
・・・と思って筆を置こうとしましたが、ふと、2021年はどうして会食がゼロになったのだろうかと考えてみたところ、そうか、コロナ禍の影響ではないかと思い至りました。だから2020年の会食件数も少ないのかもしれません。では、2020年はコロナ以前、つまり4月の緊急事態宣言前の会食なのかというと、実際に該当するのは11月でした。
2020年日本共産党中央委員会の政治資金報告書より
「しんぶん赤旗」は2020年11月22日に以下のような「主張」を掲載しています(抜粋します)。
主張GoTo見直し政府は根本から姿勢を改めよ 菅義偉首相が、観光需要喚起策「Go To トラベル」の運用の一部見直しなどを表明しました。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が感染拡大地域の適用除外などを提言(20日)したことを受けた動きです。あまりにも遅すぎる対応です。コロナはすでに「第3波」に突入し、感染者は激増しています。医療の現場などからは、早くから事業の見直しを迫る声が相次いでいたのに、あくまで続行に固執し、見直しを拒んできた菅政権の責任は重大です。感染の急速な拡大に真剣に向き合おうとせず、無為無策を続ける姿勢を根本から改めるべきです。上記の「主張」は2020年11月22日のもので、すでに「第3波」が懸念されている時期でした。なお、14日には当時の政策委員長・田村智子氏が「緊急事態宣言という事態にしないために、感染急増への対策が緊急に求められている」「感染が急増している地域も含めた全国一律の『Go To』はやめるべきだ」という趣旨の発言をしています(発言には旅行=GoToトラベル、だけではなく、GoToイートも含まれている記事では示されています)。
この発言の後、11月19日には日本共産党中央委員会が何らかの会食を行ったようです。
さらに田村発言の直前である11日、NHKは以下のように報じています。
こうした状況からもわかるとおり、当時の東京では感染者が明らかに増加していました。2021年に会食がゼロになった背景としては、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響が強く働いた可能性が考えられますし、2020年においても11月の会食時期は「Go To トラベル」や「Go To イート」が大きな議論を呼んだ最中でした。実際、「しんぶん赤旗」やNHKなどの報道からも、当時は専門家や医療関係者が感染拡大への警鐘を鳴らしていたことがうかがえます。
4 おわりに:たった一度の汚点
最後に何が問題とされるべきかを整理します。
「政府は“Go To”事業を見直すべき」と主張しながらの会食実施という矛盾
日本共産党は当時の政府施策「Go To トラベル」や「Go To イート」について、国民の移動増加が感染拡大を助長するとして強く批判していました。ところが、同じ時期に党中央自身が外部の会食や飲食を伴う行事を行っていた形跡があるとすれば、少なくとも言行不一致の印象や矛盾を指摘されてもやむを得ないかもしれません。
「外部から見える姿」と「党内部の実態」とのギャップ
「しんぶん赤旗」や党幹部の国会質疑などでは、感染症対策に厳しい態度を示していた一方で、党内行事や会合をどの程度縮小・自粛したのかは外部からは見えにくい面があります。政治資金収支報告書やSNS上の指摘がきっかけで注目を集めると、党として公表している姿勢(例:感染対策の徹底を呼びかける)と実際の行動に隔たりがあったのではないかと疑念を招きかねません。こうした疑問に対し、党側が「いつ、誰と、どの程度の規模で、どんな感染対策を講じていたのか」を説明していないことが問題視されています。
「政治資金」の使い道と党の倫理観
日本共産党は寄付や党員からの党費、機関紙「赤旗」の収入で活動資金を得ている部分が大きいとされます。加えて自民党等、他党の政治とカネを徹底的に批判してきました。そのため「庶民目線で支出に厳しい党」というイメージをアピールしてきましたが、「コロナ禍で感染拡大の危険を叫びながら自分たちは料理屋で会合をしていたのでは」という指摘が出れば、党の倫理観や説明責任に疑問符がつく恐れがあります。特にコロナ禍初期には、多くの国民が外食や旅行を控え、感染リスクと経済的苦境のはざまで苦しんでいました。そうした中で、党の“実際の行動”がどうだったのかが注目されるわけです。
この問題は金額の過多や頻度の問題ではありません。1回の会食であっても党組織が築き上げてきた信頼を大きく傷つける行為である以上、「ウナギを食べたかどうか」などと比べものにならない汚点でしょう。
公開日:2025年1月16日
原稿作成にChatGPT-4o及びo1を用いました