これまでの調査により、日本共産党と3.11以降の市民運動との関係について、公開情報や関係者証言から多くの事実が明らかになってきました。
3.11以降の市民運動の中でも現在、話題を集めているのが「カウンター勢力」とされるものです。カウンター勢力は、近年では2024年の東京知事選挙や総選挙、兵庫県知事選挙、2025年の参院選挙における敵対政党や候補者への過激な選挙妨害でも注目されています。その実態は、野間易通氏や安田浩一氏ら反差別系インフルエンサーの影響を受けた、匿名かつ流動的な過激活動家ネットワークとみられます。
2018~2023年、日本共産党は、反原発運動からカウンター勢力へと活動を広げてきた市民活動家・井手実氏に総額約2366万円を支出しました。多くは「選挙関係費」や「宣伝事業費」のデザイン料であり、党の主要取引先企業にも匹敵する規模です。井手氏は、法人格のないアート系活動家ネットワーク「Citizen’s Creative Council」の窓口も務め、2022年参院選では日本共産党の選挙用PV制作、2024年都知事選では蓮舫候補を応援する「WE WANT OUR FUTURE」の街宣運営に関与しました。
このネットワークと党をつなぐのが、党中央委員会職員で元民青中央委員長の姫井二郎氏です。姫井氏は2011年以降、官邸前反原発デモでカウンター勢力と接触し、志位委員長の「特命係」として関係を築きました。ブログやSNSには有名活動家たちとの交流も確認されます。党員を党外デモに動員する流れを作り、近年はJCPサポーターや「YouTuber小池晃」企画、2025年1月の党員で活動家の家登みろく氏による戸田市議選事件にも関与しました。
総じて、日本共産党は、カウンター系活動家や東京を中心にしたサブカル・アート系活動家ネットワークに対し、長期かつ高額な発注で活動基盤を支え、党職員を介して党外デモや直接行動型抗議への関与を拡大してきました。その結果、従来の議会中心路線から実力行動を重視する傾向に傾斜していると指摘されてもおかしくない状況に陥っています。
こうした党と市民運動との結びつきは、3・11以降に広がった市民運動について広く共有されてきた「市民が自発的に立ち上がった、政党色のない運動」という一般的なイメージとは異なります。東日本大震災後の首都圏反原発連合の金曜官邸前抗議や、SEALDsに代表される若者主体の活動は、その象徴とされてきたはずですが、これらに日本共産党が関与していたとしたら一般的なイメージとは違うものになってしまいます。
しかし、これまでの調査結果を踏まえつつ改めて事実関係を検証した今回の調査では、その背後に、党職員を介した人的・資源的なつながりが存在し、さらに近年、創設された中央直属枠組み「JCPサポーター」によって制度的に取り込まれていった可能性が浮かび上がりました。つまり、公式な党組織とは別に、市民運動と政党を結びつける「制度の外にある恒常的な回路」(「党の中の党」)が形成されていたのではないか――今回は、この視点から新たに判明した事実を報告します。
姫井二郎氏は、日本共産党中央委員会職員であり、元民青中央委員長、国民運動委員会の准中央委員・事務局次長を務めてきました。これまで、首都圏反原発連合と日本共産党の接点人物と認識されてきましたが、複数の証拠から、その関与の度合いは単なる接点以上であった可能性が高いと考えられます。
①メンバーとしての位置づけ
2013年6月3日、3.11以降の反原発運動の初期からの活動家でカウンター勢力の1人でもある竹内美保氏がSNS上で「反原連コアスタッフ中央集会スタッフでもある姫井さん」と投稿しています。これは、姫井氏が単なる参加者ではなく、組織運営に直接関与する「メンバー」であったことを示唆します。
加えて姫井氏が2012年9月21日にアップしたSNSの写真から官邸前デモにおいて「首都圏反原発連合」の腕章を着用していた事実が確認でき(下左写真)、彼が首都圏反原発連合のメンバーであったことが伺えます。
姫井氏自身も2012年8月「今日の感想。スタッフをしてくれた人に、いつもありがとうって、言われる。こちらが感謝せなあかんのに。参加者にも言われる。ありがとうってええ言葉やなぁ。この言葉があるから続けられるにゃと思う。感謝されたい、次長でした。おやすみまんぼなさい」と投稿しており、単なるスタッフではなく、スタッフを使う側、つまり運営側であったことを示唆しています。
*追記:当時を知るメンバー(→小泉兵義氏)からのコメントがありました。それによると姫井氏はコアスタッフ会議に決定権のないオブザーバーとして参加していたとのことです
*追記:以前、証言をして下さった福本氏からのコメントがありました。「機材一式を本部からリヤカーで運ぶのが姫井の仕事でした」
②「次長」という呼称とその意味
反原連の一部関係者は姫井氏を「次長」と呼称しており(ただし、竹内氏は2013年に「次長って姫井さんだったのか」と投稿しており、姫井氏がニックネームを使って身元を隠していたというわけではありません)、姫井氏はこれをドラマ『半沢直樹』に由来するニックネームだと説明しています。
となると、次長と呼ばれつつもその肩書きの背景を他のメンバーが理解していなかったのかというとそうでもないようです。反原連コアメンバーであり野田総理との面会にも出席した、日本共産党中央委員会職員の親戚でもある小泉兵義氏は、2025年のSNS投稿で、「姫井次長が笠井亮を高円寺に連れて来た際自分と会い同じ局の同僚の甥というところの信用から次長が非共産党系の社会運動と結びつく始まりで」、「野間易通となかまたち」との「癒着」につながったと述べています。また小泉氏は2025年「非共産党系社会運動と結び付く功労者」とも姫井氏のことを評しています。
この証言は、コアメンバーが姫井氏の背景を明確に理解していた、つまり、日本共産党中央委員会に所属し国民運動委員会の次長という、いわゆる「大衆団体」に指導を行える立場であり、彼を通じて日本共産党からデモに対して動員ができる可能性を把握していたことを示しています。「次長」という呼称が単なる愛称ではなく、党組織における正式な役職名としての重みを持ち、反原連の活動や対外関係において重要な役割を果たすものだったことがうかがえます。
③2012年後半からの関係強化
2012年9月には、当時日本共産党八王子市議であった青柳有希子氏が、「反原連のライブハウスの交流会」に参加し、姫井氏に「次長さまお疲れ様でした」とメンションしています。また、同年12月には、全労連の宣伝カーに「首都圏反原発連合」の横断幕を掲げた「反原連号」の写真を姫井氏が投稿しています。(同じ車が全労連のウェブサイトでも確認できる)。
2013年2月には、ミサオ・レッドウルフ氏が「官邸前抗議の後会議」と題して写真を投稿しており、その場に姫井氏が写っていることが確認されます。関係者証言によれば、隣席の男性は日本共産党系の日本医療労働組合連合会の職員とされています(下右写真)。
2012年後半には反原連と日本共産党、全労連など共産党系の団体の間での交流・連携・動員が進展していたことがうかがえます。
④資金と事務所機能の提供
2013年、日本共産党は反原連に対し20万円の「会費・拠出金」を支出しており、その連絡先住所には全労連会館(平和と労働センター・全労連が入居)を使用しています(以下レポート参照)。
すでに2012年の段階で全労連の宣伝カーが反原連の街頭宣伝に使用されていたことを踏まえると、一時的に同会館が事務所機能を担っていたとしても不自然ではありません。
姫井氏のブログによると2011年6月には姫井自身がデモの現場に赴き、ノンセクトの活動家と交流しており、2012年8月に首都圏反原発連合と野田総理との面会が行われています。千葉麗子氏の記述では2013年夏頃から共産党関係者がデモの現場で目立つようになったと推測できます(『さよならパヨク : チバレイが見た左翼の実態』(2016、青林堂))。
以前のレポートでは「2013年ごろから日本共産党が『首都圏反原発連合』に急接近していたことがわかります」としましたが、実際は職員が運営に限りなく近いメンバーとして加入していたわけですから、それよりも前の段階で共産党が接近、関与していたとみるのが自然でしょう。
以上の証拠を総合すると、姫井二郎氏は単なる「接点人物」にとどまらず、
・反原連の運営メンバー(コアスタッフ会議オブザーバー参加者)として活動
・全労連など党系組織の資源を提供に関与の疑い
・党中枢との連絡・調整役を担う
という多面的な役割を果たしていたと評価できます。すなわち、反原連と日本共産党を実質的に結びつける「結節点」として機能していた可能性が高いと考えられます。
木下ちがや氏は、政治学者であると同時に活動家として、首都圏反原発連合や「しばき隊」に初期から関与してきた人物とされています。2025年5月、木下氏はSNS上で、自身が昨年まで日本共産党の党籍を有していたこと、そして共産党東京都委員会から除籍通知を受け取ったことを公表しました。
①除籍に至る経緯の自己説明
木下氏によれば、実務上は10年以上前から党員としての活動実態はなく、「すでに非党員である」と認識していたものの、名簿上は党籍が残っていたため、今回の通知が届いたといいます。除籍理由については、党に対して「社会科学的分析」を行ったことが理由だと説明しています。
②党籍と運動への関与
木下氏は、反原連やカウンター運動の初期段階から活動を行っており、彼が除籍まで党籍を保有していたという事実は、姫井氏以外に、市民運動の中心に近い人材の中に党員資格を持つ人物が含まれていた可能性を裏付けます。
③「グレーゾーン」の存在→以下追記で修正
木下氏の事例は、姫井氏の事例と合わせて、党籍保有者と現場でのノンセクト的な振る舞いが併存する、いわば「グレーゾーン」の存在を示唆します。外形的には党から独立した市民運動として活動しつつ、人的・情報的な接点を維持したまま運営や言論形成に影響を与えることが可能となる構造です。
この構造は、党と運動の相互依存的な人材運用の仕組みを理解する上で重要な視点を提供します。つまり、党は党籍を必ずしも活動の外形に反映させずに人材を保持し(運動の「外注」)、運動側は党の人的・物的資源を間接的に利用できるという相互利益の関係が成立し得ます。
*追記:③について木下氏は以下のようなコメントを公開している。
このさざなみの投稿は事実に反しますね。シェアされている蒲生氏の論文だと、まるで僕が共産党の指導下で社会運動に関与したかのようになってます。
「木下氏の事例は、姫井氏の事例と合わせて、党籍保有者と現場でのノンセクト的な振る舞いが併存する、いわば「グレーゾーン」の存在を示唆します。外形的には党から独立した市民運動として活動しつつ、人的・情報的な接点を維持したまま運営や言論形成に影響を与えることが可能」。
これはまったく事実に反するのは、関係者ならわかるはず。僕は2000年代から共産党とはまったく関係のない、フリーター労組やG8サミットのデモの警察対応をやっており、素人の乱のデモ指揮をやっていた小泉兵義くんと一緒に2011年の高円寺デモのリーガルをやっていました。高円寺での共産党のかかわりは、ひとりひとりの党員や地方議員が自発的にかかわってましたから、党機関にはかかわる余地はありませんでした(原田あきら氏も会議にきたこともありませんでした)。
2013年の反原連の官邸前抗議には、僕や小泉くんのような高円寺系の流れと、野間さんらのツイットノーニュークスの二つの流れがあります。ツイットノーニュークスの流れからしばき隊が生まれ、共産党の池内さおりさんらを応援していきます。他方、高円寺系は次第にフェイドアウトしていきます。僕はそののちも安保法制のデモなどでデモリーガルをやっていきますが、共産党関係者とは協力しつつも、指導下でなにかやったことは一度もありません。このあたり、さざなみはまったく理解していませんね。
③についての分析は一般論としてとどめ、木下氏に対して適応される印象は否定する形をとります。この③については3と同じく、組織としての独立性をどのように担保するのかという点、事実として党籍を持った活動家が関与した点に触れるのみとします。
これに付け加えて2012年の反原発金曜官邸前抗議と共産党とのかかわりについて書いておきます。歴史的に共産党は大衆運動を引き回すことを幾度となくやってきましたが、官邸前抗議についてはスタッフとして参加した共産党関係者は、仕事に徹し、方針に口を出すわけでもなく、献身的に支えていました。共産党という地道な組織人集団のいいところがでていたと言えると思います。2010年代後半はわかりませんが、この時期はとにかくそうだった。
だから今の「惨状」をみるにつけ、共産党が社会運動を引き回しているというよりも、社会運動に共産党が引き回されている、しかも幹部や一部党員がそれに飲み込まれているというのが実情でしょう。
「官邸前抗議については、スタッフとして参加した共産党関係者は仕事に徹し、方針に口を出すこともなく、献身的に支えていた」という点については、私は見解を異にします。一般的に、3.11以降の市民運動は非政党性のイメージを持ち、そうであるために組織運営も各種「党」とは独立している印象を与えてきました。私自身も、姫井氏が関係していたとしても、それはあくまで「接点」程度だと思っていました。しかし、運営に関する会議にオブザーバーとはいえ参加しているのであれば、事実上の運営メンバーであり、状況は異なってきます。実態として彼が「仕事に徹し、方針に口を出さず、献身的に支えて」いたとしても、外形上・制度上、「党職員」が意思決定の場にいるなら、従前の運動体のイメージとは大きく異なるものであり、そのことを多くの「市民」は知り得ません。多少抑制的になったとはいえ、従来の大衆運動と構造は同じであるなら、3.11以降の市民運動について社会に与えたインパクトは再検討しないといけなくなるでしょう。木下氏の考えは活動家としての論理としては理解できるものの、市民に向けた一般的な論理としては承服しかねます。
2025年5月、首都圏反原発連合の中心人物であったミサオ・レッドウルフ氏は、SNS上で、日本共産党との関係について「反原連って共産党の関連団体?」という質問に答える形で、明確な不快感を示しながら複数の発信を行いました。
その中で、首都圏反原発連合は共産党の関連団体ではないと明言し、「私を含む市民が立ち上げたグループ」であると強調しています。また、活動最盛期には共産党だけでなく、民主党系や社民党など、当時脱原発を掲げた複数の政党とも共闘していたと述べています。
①資金授受の説明とその限界
ミサオ氏は、日本共産党から反原連への金銭支出について、寄付ではなく、脱原発の情宣用に発行したリーフレットを買い取りたいという要望に基づき支払われたものと説明しました。そして、「自民や公明がリーフレットを買いたいと言ってきたら売ります」と述べ、中立性をアピールしています。
しかし、2013年に共産党が反原連へ支出した20万円分のリーフレット購入について、ミサオ氏の説明は本質的な検証には耐えません。例えば、市民連合が行なっていた利益率77%超のプラカードの販売のように、実費販売を建前としつつ、実際には寄付性を帯びた高額設定や、高利益率商品を用いた資金調達を行うケースが存在します。
このため、20万円という金額が「適切な取引」か「事実上の寄付」かを判断するには、単価・部数・制作原価・販売実績といった要素が不可欠です。しかし、ミサオ氏の説明にはこれらの具体的数値が一切示されておらず、利益率も不明なままです。
裏を返せば、この情報非開示は、外形上は販売取引を装いつつ、実質的には資金提供だった可能性を否定し得ない構造を温存していることになります。
②人的動員の実態
ミサオ氏は直接的な関連団体であることを否定しつつも、集会参加や申し入れ活動など、共産党側からの人的動員が実際に行われていた事実には触れています(「集会に来て頂いたり申し入れをしたりなど」)。これは、形式的な「非関連」宣言と、実質的な人的・組織的接続との乖離を示す事例です。党員が頻繁にイベントや抗議活動に参加していた(動員されていた)場合、その運動が政党から独立していたとする説明には説得力が欠けます。
③中立性アピールの空洞化
「自民や公明にも売る」という発言は、一見すると中立性を示すように見えますが、実際にそうした販売実績があるかは不明です。したがって、この発言は独立性の裏付けにはならず、むしろ政党資金を常時受け入れる可能性を否定しない姿勢を示しています。
この構造は、単にバックドアが常時開かれていたことを自ら告白しているに等しく、また、この団体が諸党派や諸活動家のヘゲモニー争いの場であったとしてもそれを容認するものです。言い換えれば、「市民主体」という看板の下で、政党と相互依存する外郭ネットワークであったことを示しています。
以上を総合すると、ミサオ・レッドウルフ氏の2025年5月の発信は、「関連団体か否か」という表層的なラベル論争に論点をすり替え、実質的な接続関係や資金構造の説明責任を回避する効果を持っていたと評価できます。
ここまでの内容を、これまでのレポートの内容を踏まえてまとめていきます。
首都圏反原発連合は、2011年以降に広がった脱原発デモを母体として生まれたノンセクト型市民運動とされています。しかし、公開情報や関係者証言を照合すると、発足から間もない時期に日本共産党の党職員・党系組織が深く接続していった経緯が明らかになります。
①初期接触と人脈形成
姫井氏は2011年以降、官邸前反原発デモで反原連メンバーと接触を開始しました。2012年9月には同氏が首都圏反原発連合の腕章を着用して官邸前デモに参加している様子がSNSで確認され、さらには関係者証言から姫井氏自身は決定権はないものの運営に関わる場に同席していたことが確認されています。
②資源提供と事務所機能
2012年12月には全労連の宣伝カーに反原連の横断幕を掲げた「反原連号」の写真を姫井氏がSNSに投稿しており、党系労組資源が早い段階から反原連の街宣活動に提供されていたことを示します。
2013年、日本共産党は反原連に20万円を支出し、その名目を「会費・拠出金」としています。この際、連絡先として全労連会館(平和と労働センター)が使用されており、少なくとも一時的に同会館が事務所機能を担っていたと推測されます(同会館に共産党系の反原発団体が入居していました)。
③人的接続の持続と「出向」の構造
こうした事実は、首都圏反原発連合が形式上は市民運動であっても、運営中枢の近くに党職員が存在し、労組や党組織の資源を利用できる状態が続いていたことを示唆します。「次長」という呼称が実務的な役職に近い意味を持っていたのであれば、まるで「党からの出向」であるかのような印象を受ける状況が生じていたと評価できます。この場合、外形上は独立した市民運動でありながら、内部的には党の戦略や人脈とつながる回路を有していたことになります。
④市民運動ナラティブとの乖離
3.11以降の市民運動は「政党/政治と無縁な市民が自発的に立ち上がった」という物語で語られることが多く、反原連もその一例とされてきました。しかし、上述の人的・物的な接続事実は、この物語が事実の一面的なものを描くものにすぎないことを示します。
以上のことから、首都圏反原発連合と日本共産党の関係は、単なる「共闘」や「支援」の域を超えていました。党職員の恒常的関与、労組資源の活用、事務所機能の共有、資金授受など、複数の面で実質的な結節が形成されており、これは市民運動の純粋性を前提とした一般的なナラティブと齟齬を来します。
首都圏反原発連合で形成された人脈は、そのままカウンターデモや安保法制反対運動へ移行し、さらに野党共闘の現場に組み込まれていきました。核になっていた「中年活動家」たちを動員論的にサポートしていたのが、共産党や旧社会党系団体であり、それら混成チームに花を添えていたのが「若者活動家」という構図と思われます。
この人的・組織的ネットワークは、単発の共闘ではなく、長期的に維持・活用される外縁戦力として党内に組み込まれ、最終的には「JCPサポーター」という中央直属の枠組みに結実した、そして、その中核的役割を担ったのが、姫井氏というのが私の見立てです。
①中央直属の「親衛隊」
JCPサポーターの事務局は党中央委員会にあります。従来の党員組織が支部や地区委員会を基盤としたピラミッド構造に対して、JCPサポーターは党中央管轄の部隊として機能する構造を持っています。また、JCPサポーターは党籍・国籍不問であり、日本共産党の非党員やヘイトスピーチのカウンター勢力の一部にいた外国籍活動家も参加可能な開かれた構造を持っていました。
この設計により、JCPサポーターのシステムは、党内外の活動家を混在させたチーム編成が可能となり、かつそれらを中央委員会直轄で管理することで、まるで中央の「親衛隊」であるかのように、過激な直接行動や実験的な広報活動に動員することが可能になります。結果として、党員でない人物が党中枢と繋がり、その運営に直接影響力を行使できるということで、一般党員よりも権限を強める可能性を持つ仕組みとなりました。
②姫井氏とJCPサポーターの関係
2025年5月、Zoom上でJCPサポーターを対象にした研修会が開催されました。テーマは参院選に向けたPR動画制作の講習会で、司会は姫井氏が務め、講師として「みぃ」「ちぃ」「もやまい」のJCPサポーターや党外活動家が登場しました。
「みぃ」は関西を拠点に活動し、党公式サイトでも活動が紹介されるサポーターです(党公式Facebookでの応援動画/ 党奈良県委員会の記事)。「もやまい」は「モヤモヤマイク」として活動しているインフルエンサーだと思われ、吉田あやか三重県議とのポッドキャストを配信しています。
③カウンターとの重複人脈
カウンター勢力とも人脈的に通じる井手実氏制作の動画が「JCPサポーター」公式YouTubeチャンネルで「サポータ協力PV&市民動画」の再生リストに分類されており、井手氏への支出がJCPサポーター関連で用いられている可能性を示唆しています。
また、2025年1月の戸田市議選では、カウンター勢力でJCPサポーターのTAKUYAMA(山本匠一郎)氏が「YouTuber小池晃」動画の企画関与を公言しています(「俺は提案して、企画動いてるぞ」)。この動画に出演したのが家登みろく氏です。山本氏には党からイベントに関わった「デザイン料」が支出されており(下写真参照)(「一昨年のサポまつりのC,s BARのバーカウンター組み立てに大工さんと地下駐車場で作業」)、そのイベント(JCPサポーターまつり)には過去(2018年)、安田浩一氏が講師として参加しています。
また、2025年8月の新宿での参政党街宣カウンター行動では、山本氏がスモーク・マシンを使用したと自ら告白し、「YouTuber小池晃」チャンネルでフィーチャーされた家登みろく氏の参加も確認されました。
④形式離党と活動継続
2025年、「史帆髙橋」というXアカウントはSNS運用へのクレームを受け、県委員会と協議の上で党籍を外し、JCPサポーターとして党を支援しカウンター活動を継続することで合意したと投稿しています(「形式的には離党して活動はこれまで通り続けることで合意しました。/カウンターとしてもJCP垢としてもこれまで以上にバリバリやります!」)。これは、過激な活動を維持するために形式的に離党しつつ、中央直属のサポーターとして活動を続ける方法が「抜け穴」として、つまり、制度上の空白として、用いられている可能性を示します。
首都圏反原発連合からカウンター、安保法制反対運動、野党共闘へと至る流れは、単なる政治的連携ではなく、共産党と党外活動家の間に恒常的な人的・組織的接続を築くプロセスでした。その最終形態の一つがJCPサポーターであり、中央直轄の動員・広報機能を持つ枠組みとして(まるで「近衛兵」のように)街頭行動とメディア発信を一体的に展開しています。
この構造は、公式の党組織とは別に存在しながら党中枢と直結し、官僚的な組織構造を無視した柔軟な戦術や党外ネットワークを動員することを可能にしています。言い換えれば、党外活動家と党との間の中間地帯、「グレーゾーン」に、新しい「党の中の党」を事実上築いた形です。
本調査で明らかになったのは、首都圏反原発連合、カウンター運動、安保法制反対運動、そして野党共闘に至る一連の流れが、日本共産党とノンセクト活動家との間での単なる共闘ではなく恒常的な人的・組織的ネットワークとして維持されてきたという事実です。
この結節点として機能したのが、党職員の姫井二郎氏と考えられます。姫井氏は党中枢と外縁運動の双方を行き来し、党側からは資金や労組ネットワークを提供し、運動側からは直接行動やSNS戦術のノウハウを吸収しました。その結果、党員・非党員・ノンセクト活動家が混在する独自のネットワークが形成され、互いに資源と影響力を融通し合う相互依存関係が出来上がりました。
このネットワークは公式組織とは別に存在しながら党中枢と直結し、外縁から党内へとSNS戦術や直接行動の文化や価値観が流れ込みます。近年の日本共産党党議員や党員、JCPサポーターによる過激な直接行動(2025年8月の新宿における参政党街宣妨害での煙幕使用や規制線突破など)やSNSでの罵倒的言動は、この延長線上にあります。
こうした行為は公共の安全や政治活動の自由を侵害し得るもので、もはや「市民運動」の域では理解できない、「実力行使」と評価できるでしょう。これが散々政治学者や社会学者は称賛していた「直接行動」の末路といえます。
重要なのは、この構造が、3.11以降に広まった「政治や政党と無縁な市民が自発的に立ち上がった」という美談的なナラティブと根本的に食い違っている点です。実際には、初期段階から政党や労組との間で資金・人材・資源が恒常的に融通され、互いの目的達成のために協力し合う共犯的関係が築かれていました。党は運動側から新しい戦術や文化を吸収して過激化し、運動側は党の資金力と動員力を得て肥大化していった――これが現実です。
比喩的に、そして、さまざまな証拠を突き合わせれば見えてくる構造的に言えば、このネットワークは「党の中の党」です。公式の枠外にありながら中央と直結し、時には本党の立場を超える行動を展開します。その自由さは戦術的には有利ですが、外縁が過激化すれば、党は意図せずとも政治的責任を負い、社会的信用を損なう危険性があります。かつて暴力革命を夢見て独自の軍事組織によって動乱を起こし、国会から議席を完全に失った政党が存在しました。そんな基本的なことを忘れたというのでしょうか。
民主集中制を採る政党において、恒常的な「分派」が統治不能性をもたらすことは歴史が示しており、本件もその危うさを色濃く映しています。さらに皮肉なことに、こうした「党の中の党」が、民主集中制に異議を唱えて「分派」の烙印を押され除名された松竹伸幸氏らを執拗に攻撃しているのです。分派が分派を分派として糾弾する――この構図は、政治的滑稽さの極致といえるでしょう。
とはいえ、私の興味関心は徐々に日本共産党の崩壊よりも、むしろ、ある種の人々の責任について移ってきています。それは3.11以降の市民運動を包み込んできたナラティブを生み出し、称賛し、実際に社会的に成功していった一段の連中のことです。
これまでの議論は「何が起きたのか」を明らかにする作業でしたが、これから必要なのは「誰が、いつから、何を知っていたのか」を問う作業です。
英雄の物語は終わり、舞台の上では、愚か者の記録を読み上げる時間が始まります。
公開日:2025年8月11日
*公開同日:当時を知る小泉氏、木下氏、福本氏からのコメントをいただきました。追記とともに、これに併せて表現について修正をいたしました
原稿作成にChatGPTを用いました
コメント(8/11発表後追記)
本レポートに対し、あるアカウントから「ネット情報の寄せ集めで、それ以上の裏取りをしないで、個人名や顔写真を出す三流週刊誌もどきの記事。これで事実関係が間違っていたらどう責任を取るつもりなのか」という批判的なコメントが寄せられました。SNS上の本人投稿は当事者による一次的な回顧資料であり、特に出来事から近しい日付で発信されたものの信憑性は高いと考えられます。実際、レポート発表後に当時運営に関わっていた小泉氏から姫井氏の関与に関する情報を直接得て、事実関係に大きな齟齬がないことを確認し、さらに詳細を補強するコメントもいただきました。これらは即時に本文へ反映し、木下氏からの公開コメントも同様に反映済みです。
活動家による発言は、政治的立場を守るために論点をずらすことがあり、過去には質問内容をSNS上で不要に晒したり、政治的に不利な調査に対し個人情報を拡散する事例も確認されています。そのため、本人たちの過去のSNS投稿という史料価値の高い情報を基本とする調査方法は、事実確認と調査者の安全確保の両面で妥当と考えます。
また、姫井氏については公党の幹部であり公人であること、ご本人が公開している写真を引用していること、論理展開上必要な証拠として用いていることからも、法的・倫理的に問題はないと判断しています。
本レポートは、公開情報を基にこれまでの調査成果を統合し、全体像を描いたものです。真実相当性の要件を満たしていると考えています。「三流週刊誌もどき」という表現は、事実確認や法的点検を経て発表される週刊誌報道への理解を欠く不適切な比喩です。加えて、「事実関係が間違っていたらどう責任を取るのか」と脅迫的に迫る態度は、冷静な事実検証や建設的な批判とは程遠いものです。