Photo by ChatGPT
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序論
2023年、日本共産党は、党首公選制度の導入を主張し、党に異議を唱えた松竹伸幸氏と鈴木元氏の2名を、党規約違反として除名しました。松竹氏らは、党内での議論が十分に行われていないと感じ、外部の出版物やメディアを通じて問題提起を行う必要があったと主張しています。しかし、日本共産党の規約では、内部での議論を経ずに党外で党を批判することは規約違反とされています。
この一連の出来事は、党内外で感情的な反応を引き起こし、さまざまな混乱を生み出しています。そもそも党首公選を含めた、共産党の組織改革について一般市民がどう考えているのか、特にそれら党組織の根幹をなす事柄を抜本的に改革した際の市民の投票意識にどのような変化が起きるのか、具体的なエビデンスがない状態です。
今回、オンラインアンケートサービスを利用して、これら日本共産党に関する市民の意識を明らかにしようと思います。
方法
今回の調査ではオンラインアンケートサービス「Freeasy」を利用しました。アンケート期間は2024年8月19日から8月20日までです。
アンケートでは、次のような質問を行いました。
2023年、日本共産党は、党首公選制度の導入を主張し、党に異議を唱えた松竹伸幸氏と鈴木元氏の2名を、党内規約違反として除名しました。松竹氏らは、党内での議論が十分に行われていないと感じ、外部の出版物やメディアを通じて問題提起を行う必要があったと主張しています。一方、日本共産党の規約では、内部での議論を経ずに党外で党を批判することは規約違反とされています。この点を踏まえ、以下の質問に対して、あなたの意見をお聞かせください。(項目はランダム出題)
選択肢・肯定:とてもそう思う(7)・そう思う(6)・ややそう思う(5)・中間:どちらとも言えない(4)・否定:あまりそう思わない(3)・そう思わない(2)・まったくそう思わない(1)・不明:分からない(-)*()内は相関分析の際、数値化したもの 質問項目・立憲民主党と日本共産党を中心にした「野党共闘」に期待している(立憲共産「野党共闘」期待)・日本共産党は日本の政治に必要な存在だ(共産必要)・日本共産党は現在も「暴力革命」の方針である(暴力革命堅持)・選挙があれば、日本共産党に投票したい(投票希望)・党首公選制が導入されたら、日本共産党に投票したい(党首公選→投票希望)・「共産党」という党名を変更したら、日本共産党に投票したい(党名変更→投票希望)・日本共産党の議員や党員が行う、政府や与党、あるいは共産党に否定的な人に対するSNSの批判的な投稿を支持する(SNS投稿支持)・日本共産党のフェミニズム運動やLGBTQ運動への接近・連帯を支持する(フェミLGBT接近支持)・日本共産党が松竹氏らを除名したことを支持する(除名支持)・日本共産が松竹氏らの除名について党を非難する大手マスコミを「支配勢力」として批判することを支持する(マスコミ批判支持)
アンケートの回答は1,032名で、18歳以上を対象に、性別と世代(5歳刻み)で男女1年につき8名を基準に割り当てを行いました。例えば、20代では男性80名、女性80名の合計160名となります。70代以上については男女ともに100名(合計200名)を割り当てました。データクリーニングを依頼し、回答時間等から不適切な回答を排除しています。得られた結果については、男女と10年刻みの世代別の人口補正(ウェイトバック:18、19歳は「10・20代」として処理)を行いました。
結果
(1)人口補正結果
各項目について人口補正を行いました。人口補正の元データは総務省統計局「人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)」です。以下結果です。
「立憲民主党と日本共産党を中心にした『野党共闘』に期待している(立憲共産「野党共闘」期待)」という回答は約15%で、5割以上が否定的な見解を示しています。「日本共産党は日本の政治に必要な存在だ(共産必要)」という質問と「日本共産党は現在も「暴力革命」の方針である(暴力革命堅持)」という質問の回答は、どちらも約20%で拮抗しています。
共産党のSNS広報戦略(日本共産党の議員や党員が行う、政府や与党、あるいは共産党に否定的な人に対するSNSの批判的な投稿を支持する:SNS投稿支持)については、肯定的に捉えている人は1割にも満たず、「日本共産党のフェミニズム運動やLGBTQ運動への接近・連帯を支持する」人も15%弱程度に留まり、どちらも半数近くが否定的見解を示しています(フェミLGBT接近支持)。
松竹氏らの提案を含む共産党の大幅な改革が投票行動に結びつくかどうかを見てみましょう。現状の共産党に対する投票希望(選挙があれば、日本共産党に投票したい:投票希望)は8.4%です。これを基準にすると、党首公選を条件とするものは9.0%(党首公選→投票希望)、党名変更を条件とするものは9.5%で(党名変更→投票希望)、ほとんど増えていません。また、絶対数としても1割に満たないものとかなり少数です。
投票したくないという否定的見解については、現状を基準にすると5ポイント程度の減少がありますが、党のあり方を根本から変える改革に対する結果としては非常に弱い反応です。また、絶対数としても6割近くとかなりの割合になっています。
松竹氏らの除名については、1割が支持し、3割近くが否定しています(日本共産党が松竹氏らを除名したことを支持する:除名支持)。しかし、半数以上が中間的な回答や不明として立場を示していません。共産党のマスコミ批判については、1割に満たない支持と、4割強の不支持が示されています(日本共産が松竹氏らの除名について党を非難する大手マスコミを「支配勢力」として批判することを支持する:マスコミ批判支持)。
(2)相関分析
項目間の相関を導きました(赤+下線→r=.7以上の強い正の相関、赤→r=.4以上の正の相関、橙→r=.2以上の弱い正の相関、青→r=-.2以下の弱い負の相関 )。
まず、データの整合性を見るために、「日本共産党は現在も『暴力革命』の方針である」という質問に注目します。この質問に肯定的な回答をした人は、立憲共産の野党共闘に期待しておらず(r=-.22)、共産党を日本の政治に必要な存在とも認めていません(r=-.32)。共産党のフェミニズム運動やLGBTQ運動への接近も支持しておらず(r=-.27)、投票したいとも思っていません(r=-.23)。これらの関係性は理論的にも当然の結果であり、データの整合性が確認できると考えられます。
その上で、共産党の改革を望む人たちについて見てみましょう。現状の共産党に投票を希望する人たちは、党首公選や党名変更を行っても投票したいと考えています(r=.75、r=.68)。これらの相関は非常に高く、現状の共産党に投票する人は、党組織改革をしても投票する、そしてその逆、つまり、党組織改革をした共産党に投票したいと考えている人はすでに共産党に投票したいと考えていることが分かります。
松竹氏らを除名したことに対して、立憲共産の「野党共闘」への期待、SNSへの共産党関係者の投稿支持、党改革を条件とする投票希望との相関は少し弱くなっています。共産党のコア支持層ではない「野党共闘」支持層やSNSに理解のある層、党改革を求める層では除名への支持が弱まっていると読み取れます。
結論
今回の除名騒動に関して考えますと、松竹氏らの行動に象徴される共産党の組織改革が実施されても従来の支持層は離れない可能性が高いものの、新規の支持者が増える可能性も低いです。組織改革を行っても広く市民に支持を拡大するきっかけになるかは不透明で、党外への訴求力という点は改革を行うモチベーションにはなり得ないことが今回の調査で明らかになりました。
一方で、除名自体の支持は低く(多くの人が不明か中立的な立場)、マスコミへの批判の支持もほとんど見られませんでした。
共産党の組織のあり方や改革の行方は、市民の投票行動に大きな影響を与えるものではないと考えられます。冷静に考えれば、他の組織とは異なるガバナンスの方法を採用している組織が、他の組織と同じ統治方法に変更したとしても、その組織に対する魅力が上がるわけではありません。一方で、改革案を出した人物を排除したという事実を世間一般が受け入れることも難しく、不支持が支持を上回るのは当然の結果です。今回の調査が示すところによれば、党改革に関するニーズ、そして改革を訴えたものへの排除はともに一般市民の認識に基づいているものではありませんでした。
*PDF版には詳細データが提示されています
公開日:2024年8月26日
このレポートの作成にはChatGPT4oを利用しています