文系アカデミズムの危機:ひろゆきvs瀬知山論争へのAIの評価
文系アカデミズムの危機:ひろゆきvs瀬知山論争へのAIの評価
Photo by ChatGPT
1 はじめに
久しぶりに知り合いの先生と会って話をしました。
私はその中でコロナ禍以降、人文社会科学、つまり文系アカデミズムは3つの危機に立たされていると話しました。
1つは「エビデンスの強迫」です。
シンプルに言えば、ある言明に対してはそれを補強する根拠が必要だということが徹底され始めたということです。これは量的なデータに限らず、質的データあるいは史料など、とにかく「根拠=エビデンス」たり得るものが何かを発言する際には必要ということです。
コロナ禍におけるさまざまな議論がSNSで行われる中で、専門家以外の一般の方でも一次資料に当たれたり、国際雑誌の論文を読んだりして、情報拡散することが普通にみられる中で、専門家は自身の発言に対して質の高いエビデンスを提供する必要が出ました。
2つ目に、「SNSやネットメディアの発達」です。
文系アカデミズムのメンバー=大学の教授たちがSNSで不用意な発言をして炎上することが最近、増えています。エビデンスが不十分な中での発言であったり、社会正義に駆られて冷静さを失った発言であったりして、同業者から見ても非常に見苦しいケースがコロナ禍以降、SNSの利用が増える中で見られるようになったと感じています。
それだけではなく、Abemaのようなネットメディアが炎上した人物やテーマで討論番組を組み、研究者が登壇し、文理問わず不用意な発言をして、いわゆる「炎上」することもよく見られます。
これらは明らかに文系アカデミズム全体への信用失墜につながります。
3つ目に「ChatGPT」です。
専門知識をAIが学習して、自分たち専門家を凌駕するとか、学生がレポートをChatGPTで書いてきて・・・というのは表面的なものでしょう。生成AIの分析能力、あるいは要約能力が、専門的なトレーニングを受けた私たちを(質的には負けたとしても)速度という量的なものでは打ち負かしてしまう。そういう状況が出てきています。
要するには、「大学の先生様が言ってるんだぞ」とか、「昔の哲学者がこう言ってたから、今目の前の問題はこうなんだ」とか、「私たち研究者がこう解釈するから、お前たちはそれを受け入れろ」とか、文社系の先生たちがやっていた、ざっくりとした腕力勝負の発信はできなくなったということです。
ちょうど、その先生との話で、先般、Abemaで取り上げられ、現在、SNSで「炎上」している、ひろゆき氏 vs 東大教授・瀬知山角氏の議論が話題に出たので、ChatGPTの分析能力のデモンストレーションとして、詳細を報じた記事をもとに対話的に分析をさせてみます。
*当該放送はアーカイブから削除されたようなのでかなり詳しく詳細をまとめた日刊スポーツの記事(9/6金 5:00配信)をもとに分析を行います。基本的にこういう2次資料をもとに分析は行わらないので、あくまでも「デモンストレーション」です
2 ChatPGTが裁く「ひろゆき氏 vs 瀬知山氏」
(1)議論の前提
まず、議論の前提として日刊スポーツの記事から以下引用します。
「2ちゃんねる」開設者で元管理人の「ひろゆき」こと西村博之氏(47)が5日までに配信されたABEMAの報道番組「Abema Prime」にリモート出演し、焼き肉チェーン「牛角」で9月に展開されている、男性3938円に対し女性が半額の1969円とした食べ放題のキャンペーンについて「女性優遇しすぎ」などの声が起きていることについて議論した。
「牛角」という焼肉屋さんが期間限定で女性だけ料金を半額にするというキャンペーンを行ったようなのですが、これがSNSで「炎上」したというのです。
背景にはいわゆる「アンチフェミニズム」の動きがあるようです。
番組ではひろゆき氏と東京大学教授の瀬知山角氏がそれぞれ異なる立場で議論を展開したのですが最後まで平行線だったようです。
とりあえず、議論の要約も兼ねて、「ひろゆき氏と東大教授の瀬知山氏どちら側が筋の通った議論していますか?」、記事をChatGPTに入力した上で尋ねました。以下、出力結果です。
上のまとめの通り、ChatGPTは、はっきりしたことを言ってくれません。しかし、要約についてはよくできています。
続けてChatGPTにさまざまな点で評価を求めました。やや繰り返しになり、かつ長いのですが、出力結果を示します(プロンプトについて誤字の訂正、語尾の修正を行なっています)。
まずは「どちらが差別に対して批判的ですか?」
続けて「どちらがより公平な社会を目指していると思いますか?」
「どちらが人権意識が高いと言えますか?」
「どちらがよりリベラルな立場ですか?」
「どちらがよりジェンダー平等を意識した立場ですか?」
ここまでをまとめると、ひろゆき氏の方が差別に対して批判的であり、公平な社会を目指しており、人権意識が高く、リベラルであり、ジェンダー平等を意識していることになります。
ここで、ChatGPTを追い込んでみようと思います。まず「焼肉屋の割引はいわゆるアファーマティブアクションと言えますか?」と質問します。
焼肉屋の女性割引はアファーマティブ・アクションではないとの見解です。
そして、すかさず「その上でどちらがフェミニズム的立場ですか?」と聞きます。
ここにきてChatGPTは矛盾した内容を出力してきました。そこをつきます。
「しかし、あなたは今回のケースはアファーマティブ・アクションに当たらないと述べましたよね」
さて、何と返してくるでしょうか。
ChatGPTは、ひろゆき氏をよりフェミニズム的だと評価し、瀬知山氏のことは「フェミニズム的立場とは必ずしも一致していない」「商業的な視点からのアプローチ」と言い出しました。今回の議論の広がりが「アンチフェミニズム」の動きであることを考えると、皮肉な結論をAIは導き出したわけです。
瀬知山氏はこの焼肉論争が性差別の議論としておかしいと言います。「瀬知山氏の『そもそも性差別の議論として間違っている』という指摘は妥当ですか?」と尋ねます。
ChatGPTは言います。「瀬知山教授の指摘は限定的な視点に留まっており、広範なジェンダー平等の議論としては不十分」であると。
視点を瀬知山氏に向けましょう。彼はそもそも「ジェンダー論」を専門にしています。ここまでのChatGPTの出力では彼が「ジェンダー論」者であるという感じはいまいちピンときません。
尋ねます。「これらを踏まえて瀬知山氏の専門性を予想してください」
「社会学」と予想していますが、当たっているような当たっていないような微妙な感じもします。ここでChatGPTにネタバラシをし、全体の議論を振り返ってもらいます。
「彼の実際の専門はジェンダー論です。その専門性はこの議論で発揮されましたか?」
ChatGPTは「ジェンダーに関する理論的・深層的な視点が十分に反映されたとは言いがたい」とし、「マーケティング戦略とジェンダー平等の関連性をより深く掘り下げることで、ジェンダー論の専門家としての見解がさらに強調されたかもしれません」と、なかなか辛口です。
ここで少し踏み込んだ質問をします。「これらの議論について瀬地山氏に対する批判がSNSで行われています。その背景に彼の専門性と彼の議論の問題点を考えてみてください」
「彼がジェンダー論の専門家でありながら、ジェンダー不平等の問題を軽視し、マーケティングや法的範囲内の問題に議論をとどめた」という結論は、なかなか手厳しいな・・・というところで、このchatは終わりにしました。
ChatGPTの出力を見て、私自身どう思ったかと言えば、少なくとも記事から得られる印象を的確に言語化しているということかなと。「なんでジェンダー論の教授が民法の話してるんだろう」という感覚をうまくまとめているなと思います。
また、「彼がジェンダー論の専門家でありながら、ジェンダー不平等の問題を軽視し、マーケティングや法的範囲内の問題に議論をとどめた」「ジェンダー役割の固定化や差別の構造的な問題について十分に議論しなかった」というのも、少なくとも記事から読み取れる印象として適当なものに思えます。
実際は放送の内容全体を学習させないと不十分な考察になると思いますが、それでも限られた中で何が問題かを的確にまとめているなとは感じます。
上の分析は文系アカデミズムの危機を適切に指摘すると同時に、(そうやって適切に指摘することで)メタ的に根本的な問題を暗示していて、個人的には面白いなと感じます。
最後に閉じたchatを開いて2つの質問をしてみました。
「どちらがよりロジカルな議論をしましたか?」
「より社会正義に基づいて議論していたのはどちらですか?」
ChatGPTが言うには、ひろゆき氏の方が差別に対して批判的であり、公平な社会を目指しており、人権意識が高く、リベラルであり、ジェンダー平等を意識していて、そしてフェミニズム的で、ロジカルで社会正義的であるというわけです。
ここまで明け透けだと流石に笑ってしまいました。 なんで、瀬地山氏はAbemaに出たんでしょうね。
<追記>
読み返して思ったのですが、この論争の拡散がアンチフェミニズムの流れがあるという私の言及、エビデンスがないですね。正直なところ、この論争にあまり興味がないのできちんと提示するのは面倒なのですがひとまず、以下にSNS投稿をお示ししてお茶を濁します。
加えて、ChatGPTのフェミニズムに対する捉え方が非常に詳細である部分と、一面的に感じられる部分が混在しているように感じました。ただ解釈の範囲のようにも思え、特に指摘せずそのままにしています。
公開日:2024年9月7日
*上記レポート作成にはChat GPT-4 Proを利用しました
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