速報「新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査」結果公表について

A-n-I/04

1.はじめに

 本日2021年525日東京の情報筋から連絡があり、文科省が「新型コロナウイルス感染症の影響による学生等の学生生活に関する調査」の結果を公表したことが判明しました。(結果は上記リンクより)

 教学関連の結果は下記画像1枚にまとまっています。(当該PDFより引用)

2.これまでの経緯

 A-n-I/03レポートにて、私たちはこの調査が2021年2月の予算委員会での立憲民主党議員の質疑に端を発すことを示しました。


 そこでは与野党が大学の調査結果(オンライン授業への満足度が高いこと、退学等を考える困窮学生の数がそれほど多くないこと)に疑義を唱え、両者が揃って大学は信頼できないものだと声を揃え、菅総理から文科省が主体の調査を行うようにという答弁を引き出したのです。


 つまり、この調査は与野党、そして内閣全体の「大学など信じるに足りない存在」であるという認識のもと行われた「日本の反知性主義」が凝縮されたものだったのです。


調査の結果


 この経緯を念頭に調査結果を見ていきましょう。


 オンライン授業の割合についてみると、大学に対して行った調査では「ほとんど遠隔」の割合が15%なのに対して、学生の回答では6割に上ります。なるほど、これはまさに大学が嘘をついた証拠だ! と思いたくなるものですがこれについて後ほど述べましょう。


 さて、次に本丸のオンライン授業への満足度です。「満足」「ある程度満足」「どちらとも言えない」「あまり満足していない」「満足していない」の5件法で聞いた質問について、肯定的評価は56.9%、否定的評価は20.6%でした。


 学年別に見ても肯定的評価が過半数を超えており、オンライン授業に対して否定的な評価だと言われていた1年生であっても過半数が肯定的評価、否定的評価は2割程度です。なぜか、3年生で否定的評価が高そうに見えますが、統計的に意義があるのかは不明です。


 オンライン授業の良かった点と悪かった点ですが、良かった点は「自分のペースで学修できた」「自分の選んだ場所で授業を受けられた」が6割以上の回答で見られました。悪かった点では「友人などと一緒に授業を受けられる、寂しい」が5割を超えており、「レポート等の課題が多かった」が5割程度、以下、身体的疲労や質問等のやり取りの少なさ、理解しにくさが見られました。


この調査結果は何を示しているのか


 1つ目のオンライン授業の割合ですが、これでもって大学は嘘つきだと言えるかと言えばなんとも言えません。オンライン授業の割合が大学報告と学生報告で違うのはそれ自体おかしいことではないからです。


 例えば、ある大学の1年生が100人いて、選択可能な講義科目が5科目、そして、10クラス10人ずつのゼミ(初年次授業クラス)が開講していたとします。この場合の数え方としては、科目数が6、クラス数は15となります。

 講義科目のうち1つ、そして、1年生ゼミを対面で行った場合、その大学の1年生における対面比率は、科目数では2/6で33%、クラス数では11/15で73%となります。


 このとき重要になるのは文科省が何の数値を大学に求めたのか、問うたのかということになります。その問い方、つまり、文科省による大学への通知とその補足とこれらの結果を照らしたとき、「大学は嘘つき」言説の真偽が問えることになるのです(この点は現在、調査中です)。


 続いて、本丸のオンライン授業への満足度です。興味深いことですが、与野党総出で袋叩きにできる、まさに「社会の敵ナンバー1」の「嘘つき大学」が垂れ流していた「オンライン授業の満足度は低くない、あるいは高い」という妄言を「清廉潔白な我らが文科省」も追認してしまったのです。


 そして、オンライン授業の良かった点と悪かった点ですが、これは大学関係者ならもう理解していると思います。これらは各大学の教学部あるいは高等教育センターが行なっていた学生アンケート、授業アンケート、さらにSNS上の大学教員の自助グループで共有されていた議論とほとんど同じものだったのです。つまり、2020年度、そして、2021年度、各大学で必死になって行っている教育改善の内容をさも新たに発見したかのように文科省は言挙げをし、この調査の価値を示すのですが、そんなものは大学の現場の人間からすれば「車輪の再発明」に過ぎないのです。


 要は、この調査結果は各大学は行っていたオンライン授業についての学生調査・授業アンケート調査とほとんど同じものであり、「清廉潔白な我らが文科省」が「社会の敵ナンバー1」の「嘘つき大学」の主張を認めてしまったものだったのです。


 ただし、調査そのものへの懐疑は持つべきかもしれません。例えば、サンプリングの方法や得られたデータへの補正の有無については全体像を把握する上では重要な論点です。ここら辺のテクニカルな議論はこれまでの経緯をもとにした結果の解釈とは別に行われるべきものです。

2021/5/25 公開