Photo by Unsplash Tingey Injury Law Firm
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「コロナ禍の大学中退」結論
文科省任意提供データから
A-n-I/33
コロナ禍の大学における離学(休学・中途退学)の増加は、メディアによるセンセーショナルな報道とそれに関連した事業展開などを通じて、社会問題としてクローズアップされてきました。
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これまでの文科省発表ではコロナ禍における離学は減少ないしは変化なしというレベルのもので、コロナ禍のオンライン授業が大学生の在籍状況に影響する要因であったという根拠は得られていません。
文科省は2023年度の最新発表において、それまでとは異なる枠組みでの離学状況公表を行いました。そのため、前年度までの発表内容と比較できないことになっていました。
今回、文科省への情報開示請求及び任意提供を通じて、コロナ禍の大学における離学状況について確認できる明確な根拠を得ましたので報告いたします。
文科省は2023年度、2022年度(令和4年度)の大学を含む高等教育機関の中退・休学調査を発表しました。
令和4年度 学生の修学状況(中退者・休学者)等に関する調査結果
これまで報告は「大学 (大学院生含む)」でしたが、2023年度発表から「大学・短期大学」・「大学院」とカテゴリーを分けての発表となり、前年度発表分との比較が困難になりました。
前回A-n-I/30では2023年度発表データをもとに「大学(大学院生含む)」数値を推計し前年度までと比較し、
わずかな範囲で動きながら(2019->2020を除いて誤差の範囲にも見えます)も一定のトレンドを描いているのではないかと思われます。つまり、中退・休学ともにオンライン主体の時期、つまり、コロナ禍に入った2020年度に下落し、その後、2021年度あたりで底を打ち、2022年度に上昇トレンドに入ったかもしれない
ということを指摘しました。
今回、文科省に直接、データの提供を求め、公文書開示請求を経て、文部科学省高等教育局学生支援課より任意提供を受けました。今回提供を受けたデータについては、
・令和2年度及び令和3年度の学校種別(大学・短大、大学院)中退者数及び休学者数
・令和2年度における1年次の者の中退者数及び休学者数
・令和3年度における2年次の者の中退者数及び休学者数
及び
・令和2調査における令和2の大学・短大及び大学院の回答母数
・令和3調査における令和3の大学・短大及び大学院の回答母数
・令和4調査における令和4の大学・短大及び大学院の回答母数
・令和2調査における令和1の大学・短大及び大学院の中退・休学者数及び回答母数
となります。
以下、提供いただいたデータで、提供時に表にまとまっていたものです(データは2023年11月13日に入手)。
これらデータをもとに2019(R1)年度から2022(R4)年度にかけての4ヵ年分の中退率・休学率を出してみます(中退者数、休学者数を分子に、回答総数を分母にしている)。
なお文科省の離学状況評価については、レギュレーションがぶれている点、すでに指摘しています。
この国は大丈夫なのか?:文科省と共同通信の、知性と倫理(A-n-I/14)
概ね、0.5ポイント前後の差で「多い/少ない」、0.25ポイント前後の差で「やや多い/やや少ない」、0.2ポイント未満で「大きな差はない」という評価ですが、0.02ポイントの上昇でも「若干増加」と評価しています。
そもそも1ポイントにも満たない推移について前年度比での評価を行なってもどこまで意味があるのかわかりません。微細な変化については一定期間のトレンドを押さえると良いでしょう。上記表をグラフ化したものが以下です。「大学・短大」よりも「大学院」の推移が激しいので右側には「大学・短大」を抜き出したものも掲載します。
「大学院」については、休学がコロナ禍の2020年度に上昇し、その後、減少トレンドになっています。また、「中退」は2020年度に減少し、その後、2019年度ベースに回復しそのまま推移しています(概ね2020年度のみがイレギュラー)。
「大学・短大」の中退・休学ともに2020年度に減少し、その後、横ばいからやや減少、そして、2022年度においては上昇していることがわかります。この動きについては休学よりも中退で顕著になっています。
これらに合わせてコロナ禍の最初期に入学した「コロナ世代」についてもみておきます。2020年度入学生は当初よりオンライン授業等による離学が危ぶまれていたこともあり、文科省は2ヵ年、この学年を個別に調査しています。この学年は2020->2021年度から中退率、休学率ともに増加(それぞれ0.36ポイント、0.61ポイント)しています。
ただし、過去の調査を見てみると、1年生次よりも2年生次の方が中退しやすくなることが明らかであり、コロナ禍特有のものとも言えそうにありません。
4 おわりに
「大学・短大」に関しては前回私が提示した結論を概ね支持する内容になったと思います。
わずかな範囲で動きながら(2019->2020を除いて誤差の範囲にも見えます)も一定のトレンドを描いているのではないかと思われます。つまり、中退・休学ともにオンライン主体の時期、つまり、コロナ禍に入った2020年度に下落し、その後、2021年度あたりで底を打ち、2022年度に上昇トレンドに入ったかもしれない
「大学院」に関しては「大学・短大」とは異なる動きをしており、中退率はコロナ禍が始まってすぐに減少していますが休学率では逆に増加しています。これはコロナ禍の環境において研究活動ができないという判断のもと休学に踏み切った院生が多いのではないかと思われます。
「大学・短大」においてオンライン授業の時期に「中退が増えた」という事実はなく、他方で対面授業に戻るにつれ中退者は底打ちしたか、上昇した可能性があります。
これが文科省調査から見る「コロナ禍の大学中退問題」の基本的な認識となります。
2024年2月1日 公開
本ウェブサイト掲載の内容は蒲生諒太の個人研究成果です。所属機関等の公式見解ではございません。