とても教育的な資料

「政治家による政党支部への寄附リスト」

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1 はじめに

  2023年から自民党の裏金問題に端を発して「政治資金」についての話題が盛んになっています。2024年6月19日には改正政治資金規正法が成立しましたが穴だらけと批判の声も聞こえます。

 政治資金の問題については「違法であること」「違法であるとすぐに判断でいないが法の趣旨と照らして倫理的に問題があること」「合法であるが倫理的に問題があること」に分けられるでしょう。

1つ目は自民党などで見られた「政治資金収支報告書への不記載」であり、次に私が週刊FLASHと組んで調査した「企業団体が購入する高利益率パーティー券=事実上の企業団体献金の抜け穴」となるでしょう。

 

「野党共闘」の研究⑤〜⑦ (自治労+市民連合の政治資金)

「野党共闘」の研究⑧:「市民連合」に関する基本的理解


そして、3つ目が今回取り上げるテーマである、「政治家が、自分が管理している政党支部へ寄附をして寄附控除によって税金を安くするケース」となります。

 国税庁曰く

個人が・・・政党または政治資金団体に対する政治活動に関する寄附金で一定のもの(以下「政党等に対する寄附金」といいます。)については、支払った年分の所得控除としての寄附金控除の適用を受けるか、または次の算式で計算した金額(その年分の所得税額の25パーセント相当額を限度とします。)について税額控除の適用を受けるか、 いずれか有利な方を選択することができます。


 上記を端的にいえば、「政党に寄附を行えばその分、税金が安くなる」ということです。これを利用して、政治家が自らが管理する政党支部に寄附を行い、税金を安くしているという事例が、一連の政治資金問題であらためてクローズアップされています。

 

自民・稲田朋美氏、党支部への寄付で所得税控除受ける 寄付原資は還流分ではないと否定(産経新聞)

立憲・吉田統彦氏も税優遇 党支部に5000万円寄付「原資は身銭」(毎日新聞)

 

 例えるなら、自分の会社に出資したら税金が安くなるという民間で考えるとあり得ない法制度の穴をついた行為が横行しているというのです。

  これに興味を持ち、現在公開されている令和2-4年(2020-2022)の政治資金報告書を点検し、「政党支部を利用した寄附控除を禁止する日本維新の会」、「国会議員(候補者)が管理する政党支部を持たない日本共産党」を除いた各政党の政党支部で寄附控除の対象となりうるもののうち、政党支部の代表者がその政党支部に寄附を行っているものを抜き出しリストを作成いたしました(上記)。

2   リストについて

 リストは総務省と各都道府県の選挙管理委員会が公開している政治資金報告書をもとに作成いたしました。選挙管理委員会によってはウェブ上に公開していない、あるいは特定年のものしか公開していない、公開しているがデータ処理が難しいものなどがありました。

今回該当するのは、

・兵庫県:令和3-4年のみ

・福岡県、広島県:令和4年のみがウェブ上で発見でき、今回はそれらを抽出

・新潟県:官報に要約したものが掲載されていたため、詳細なデータは記載できず

・石川県:令和2-3年はデータ抽出が難しい官報形式であったため、令和4年のみ抽出


    リストについては私が作成した後で、作成リストに限って第三者によって再度、点検を行い、誤字脱字及び控除対象ではない「事務所や車両の無償提供」などを削除しており、完成度を高める努力を行いました。しかし、このチェック方式では私が報告書自体を取りこぼした分は確認できません。このリスト作成自体、私のポケットマネーからの出費であり、資金の都合上、この方法が限界でした。


 データ数は1564件、該当する政治家(国会議員・候補者)は301、3年間での総額は20億809万983円です抽出した項目は「管轄」、「報告年(令和)」、「支部名」、「政党名」、「代表者」、「日にち」、「寄付金額」、「報告書URL」(+備考)となっています。

3   商業的には微妙なデータ

重要なことですがこのリストは「自らが管理する政党支部を利用して寄附控除を受けた政治家リスト」ではありません。あくまでも「自らが管理する政党支部に自己資本を投入した政治家リスト」であり、もしかしたら「純粋に資金繰りに困って身銭を切った人が多く含まれるリスト」かも知れません。

 必要なのはこのリストをもとに各政治家に「寄附金控除を申請しましたか?」と尋ねることですが、これが結構難しいのです。

 2015-2019年までの過去5年間の政治資金について、 「フロントラインプレス」というジャーナリストのグループが2021年に調査を行ったのですが控除を行なった「当たり」の打率はよくありませんでした。

 

大調査 確定申告で政治献金を取り戻す国会議員たち

 

 今回もFRIDAYが今井絵理子で空振りしています。

 

今井絵理子議員 自身が代表を務める政党支部に1250万円寄付!「税優遇疑惑」へ“意外”な回答

 

 ただし、「フロントラインプレス」の調査で空振りだった稲田朋美等の議員が最新取材だと「当たり」になっているため、過去の調査よりも打率は上がっている可能性も・・・という状況です。

 このリストを用いて取材をするなら順々に政治家たちに質問状を投げことになりますが、博打的要素が強く、マンパワー勝負になり、一般メディアにおいてはコストパフォーマンスは悪いと判断できるでしょう。

     私自身、リストを作りながらこの点は意識していましたし、メディア関係者との情報交換でも同様の指摘がありました。要は商業的には微妙なデータなのです。ノリと勢いで動くとこういうことになりがちです。

4 「教材」として利用しよう!

   せっかく作ったリストも持て余すのも勿体無いです。どうしたものかと考えていたのですが、ふとアイデアが浮かびました。

   今回、このリストを「情熱はあるけど何をしたらいいのかわからない若者」のための「教材」として公開します。

 たとえば、政治・法学系の大学ゼミで簡単なリサーチ&ディスカッション資料に用いても良いでしょう。

政党別、管轄の委員会別にデータを分析して発見したことをシェアしてもいい勉強になります。また、寄附の日付も明瞭であるため、政治家の資金処理のパターン、さらに支部の経営状況、政治家のマネジメント能力などを調査することも可能でしょう。報告書のURLも添えていますから、自己資金を投入してまで会計を大きくしたいという政治家の金銭状況も検討することが可能です。

 もちろん、卒論・修論・博士論文で利用することも、研究者が普通にリサーチで用いることも歓迎します。

 

ただし、このリストにはより実用的な利用方法があります。

「情熱はあるけど何をしたらいいのかわからない若者」が就活のため「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)目当てに、よくわからないことをしている昨今です。

「総額**万円の寄附を行った政治家」をリストから抽出し、そのうち、寄付控除が報道されていない政治家について人海戦術で質問状を投げ白黒はっきりつけていき、「寄附控除」を政治家たちはどの程度、利用しているのか、全てを明らかにするというのも面白いのではないかなと感じています。メディア系ゼミ、メディアでインターンとして働く学生、大学新聞部やメディア系サークル、それぞれの新しいチャレンジとしていかがでしょうか。

寄附控除の有無とともに原資についても尋ねるといいでしょう。たまに見かけて驚くのですが歳費のほとんどを寄附している、あるいはそれを超えて寄附している議員もいました。それら議員の原資は一体何なのでしょうか。

また、寄附控除の打率が低い可能性を考慮して、そもそも自己資金を自分の政治活動に投入せざるを得ない状況をどのように考えるのか、政治家に質問してもいいかも知れません。「日本の選挙は金がかかる」と言われますが、このリストはその実態を反映している側面も多分にあるわけです。センセーショナルな調査報道にはなりませんが、この点を掘り下げる質問を追加すれば厚みのある調査となるでしょう。

 また、「教材」と銘打っていますがフリージャーナリストの方やメディア記者の方、政治資金の研究者の方もご活用いただいても大歓迎です。

 「フロントラインプレス」の調査では寄附金控除の必要な書類を取り寄せたかどうかまで公文書開示請求を行ない、政治家たちに問い合わせをしています。

しかし、現在の社会状況ではそこまで手間をかけなくてもいいかも知れません。昨今の政治資金への市民の関心の高さと政治資金規正法第2条第2項の条文「国民の疑惑を招くことのないように」が示す法の理念を鑑みるに、政治家たちは「国民の倫理上の疑念」を晴らすため、取材には誠心誠意回答してくれることでしょう。

 「教材利用」についてご支援いたします

 調査を行う上での質問やアドバイスが必要という場合、また、調査結果の公表に向けてメディア関係者との連絡を取りたい場合など、本ウェブサイトの「お問い合わせ」からお気軽にご相談いただければ可能な範囲ですが対応させていただきます。また、調査結果の公開時には蒲生作成リストを参照した旨、お書き添えいただけますと情報拡散の状況が把握できるので助かります。

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公開日:2024年6月20