はじめに──表面黒字、実質赤字の2023年
2023年、日本共産党は表面上「黒字決算」となった。政治資金収支報告書によれば、収入は194億円超、支出は189億円強で、約5.4億円の黒字と記録されている。だがこの黒字は、土地売却によって得た17億円超の臨時収入に依存した“見かけ上の黒字”に過ぎない。
この土地には、作家・森村桂氏の旧住居やカフェ跡地を含む遺贈資産も含まれていた。 2023年は、赤旗の購読収入が前年比8.1%という歴史的急落を記録し、党の基幹財源が大きく揺らいだ年でもある。赤旗収入の補填として行われた土地売却は、実質的に約12億円の赤字を覆い隠すものだった。
党の財務構造を見ると、2022年に流動性の高い資産である「預貯金」が完全に枯渇。翌年2023年には赤字を免れるために不動産を現金化せざるを得なかった。党内では現在、遺贈による資金確保が強く奨励されているが、それは再現性も持続性もない、一種の延命措置に過ぎない。
本稿では、2023年の日本共産党の財務危機を軸に、同党が直面している構造的な資金難の実態と、それに対する対処策の限界、さらには「Xデー」とも呼ぶべき財政的・組織的崩壊の臨界点到来の可能性を実証データとともに分析する。
この処分について、桂氏の友人であるジャーナリスト広川小夜子氏は「ついにニュースになってしまいましたね。共産党への寄付は森村桂さんの意志ではありません。桂さんの著作からの利益にもかかわらず、夫の一郎さんが全部、政治的なことに寄付したことに友人の一人として残念でなりません。軽井沢が大好きだった桂さんの思いをどこかに残してほしかったと思います。」とX(旧Twitter)で述べており、寄付の正統性を疑問視する声も上がっていた。
土地売却で救われた2023年
同党の2023年の政治資金収支報告書によれば(以下)、森村桂氏ゆかりの土地を含めた土地売却収入は17億2512万円にのぼる。
赤旗掲載の報告記事では「地方党機関からの納付金、その他」の名目で処理されており、総額30億9827万円のうち実に55.7%をこの売却が占めていた。
過去の同項目収入は2022年で14億6212万円、2021年で14億7113万円と安定していたため、この年の急増は明らかに土地売却の影響である。
帳簿上、日本共産党の土地資産は2022年の31億9901万円(左)から2023年の25億5984万円(右)へと減少。
簿価で約6.4億円の資産減に対して、現実の売却収入は17億円超だったことから、売却益は約9億円に相当する。政党の場合、この利益に課税されない。
もし土地売却がなければ?──繰越金の異常
2023年の日本共産党中央委員会の総収入は194億5871万円、支出は189億2126万円で、表面的には約5.4億円の黒字である。しかし、仮に土地売却(17億2512万円)がなければ、収入は177億3359万円にとどまり、実質的に11 億8767万円の赤字となっていた。
もしこの売却がなされていなければ、2023年の翌年への繰越金は約8750万円の赤字に転落していたことになる。これは、2000年以降の記録で初めてのマイナス繰越金であり、帳簿上も財務的な破綻状態にあったことを意味する。
赤旗収入の異常な急減
この年、党の主要財源である「機関紙誌・書籍等事業収入」は前年比91.9%にとどまり、前年比8.1%の急減を記録した。これは2000年以降で最大の下落幅であり、過去20年間の平均的な減少率(おおむね年2%)の4倍に相当する(下表)。
2023年の赤旗の急減の背景としては以下の3点が指摘できる:
1.物価高:2023年1月の物価上昇率がピークをつけており、生活費に大きく影響。
2.スマートフォンの普及:情報収集手段として赤旗の代替が進行。
3.松竹・鈴木騒動:党の体制批判を行った元党員2名が相次いで除名され、「公選制導入」など民主化を訴える波紋が広がった。
これらの要素が複合的に作用し、生活費を工面するためにスマホで代替のできる赤旗(新聞)の購読を打ち切る読者が増加、松竹・鈴木騒動がこの口実にされるケースもあったと思われ、収入の大幅減少につながったと推測できる。
預貯金ゼロ
日本共産党の財務を見る際、「預貯金」の減少が目立つ。この預貯金は普通口座及び当座口座を除いた、主に貯蓄向けの口座になる。
2000年時点では62億円もの預貯金があり、これは党本部ビル第1期工事のために確保されていた基金によるものである。その後、2002年時点で約半減、2005年にも大きく減額され、以降は年間5億円前後で推移するようになる。
一時的な例外として、2008年には一時的に15億円にまで増加しているが、これは同年の土地や建物の売却および貸付金の回収によるもので、資産の売却または回収による臨時的な現金流入と考えられる。
しかし翌年の2009年には再び残高は急減。この年、党はリーマンショックによる不景気での収入減少と民主党政権誕生にともなう衆院選で大敗、供託金没収などで支出が増大した。実際に当時の財務責任者は「09年の支出総額が前年より増えているのは、選挙関係費の増加などによるものです。収入総額が減っているのは、経済危機にともなう国民の生活難や機関紙部数の減などが反映しています」とコメントしている。
このように、政局や経済状況に左右されながらも、預貯金残高は減少の一途をたどり、2022年にはついにゼロ円となった。
キャッシュフローとは別口座とはいえ、財務状況が悪化している共産党にとって流動性の高い資産が底を打ったのは興味深い事態である(とはいえ、「預貯金がゼロ」という政党・政治団体は珍しくはない。2023年の土地売却後、残金で1億円の定期預金を契約している)。上記内容については公開後、その日のうちに大幅に加筆修正した。政治資金報告書の「預貯金」は普通・当座口座以外である旨、理解が反映されていなかったため
ともかくも、財政的に切迫した状況の中で迎えた「最大級の惨事」は赤旗収入の過去最大級の急減(前年比▲8.1%)であり、これが党の財政に深刻な打撃を与えたのは間違いがないだろう。もはや通常収入では支出をカバーできない事態に陥り、土地売却による17億円超の現金化によって命脈をつないだに過ぎない。
値上げと寄付の動き──対処療法としての10億円基金
2024年7月、「しんぶん赤旗」は日曜版の購読料を月額60円、約6.4%値上げした。これは2023年の赤旗収入減(約8%減)を金額ベースで埋め合わせる措置と見られる。
さらに2025年1月には、党が赤旗継続発行のために10億円の支援基金への寄付を募る。これは2023年の土地売却によるキャッシュに届かないものの、購読料増収と合わせて、財政再建の「目安額」として設定されている可能性がある。
一方で「赤旗」等の収入は年2%で減衰しており、今後大幅なV字回復は見込めない上に党支持者の高齢化によってこの減収は加速することが予想でき、値上げも支援基金も焼け石に水で終わる可能性が高い。
おわりに:「Xデー」は不可避か
2023年、日本共産党は表向きには5億3744万円の黒字決算を記録した。しかし、その実態は、土地売却によって帳尻を合わせた数字であり、本来は約11億8767万円の赤字であった。言い換えれば、「現金が足りず、資産を売って補填した」という単年度決算に過ぎない。
しかもこの資金調達には、森村桂氏ゆかりの土地を含む遺贈不動産の売却が用いられており、それは偶然得られた“遺産”にすぎない。構造的な収支改善ではなく、臨時収入に依存する状態が露呈したといえる。
問題は、赤旗収入の減少が一時的なものではなく、年2%前後の定常的減少が20年以上続いてきた中で、2023年には前年比▲8.1%という異常値を記録したことである。今後もこのスピードで購読数が減少すれば、党の根幹財源は急速に縮小し、財政破綻までの猶予は数年を切る可能性が高い。
この危機は中央にとどまらず、地方組織に波及する。例えば、東京都委員会の決算状況は象徴的である。
令和3年(2021年):収入約12.9億円/支出約13.0億円 → 赤字:約1274万円
令和4年(2022年):収入約11.8億円/支出約12.3億円 → 赤字:約4600万円
令和5年(2023年):収入約11.9億円/支出約12.0億円 → 赤字:約1370万円
3年連続で赤字が続いており、2021年に1億円あった繰越金は2023年には4074万円と、すでに逼迫している。中央が支出削減のために都道府県委員会への交付金を削減すれば、東京都レベルですら財政的に持ちこたえられない。
Xデーとは単に「資金が尽きる日」ではない。党組織を支える全国の専従職員、地区委員会、地方議員、さらには日常活動そのものを一斉に縮小・再編する日であり、党の体制そのものを見直さざるを得ない転換点である。
すでに預貯金は枯渇し、土地も売り尽くせば数年で尽きる。支出の構造改革は不可避であり、党内に蓄積する不満や求心力の低下が、組織の縮小→分裂→実質的解体へとつながる可能性もある。
近年、日本共産党は党員や支持者に対して「遺贈」(相続財産の寄付)を強く呼びかけるキャンペーンを展開している。党機関紙や公式ウェブサイトでもその必要性が繰り返し強調され、実際に2023年には故・森村桂氏の関係不動産が党に寄贈されたことが現金化され、財政危機を一時的に救っている。
しかしながら、この遺贈推進策は、いくつかの構造的限界を持つ。
まず、最大の問題は再現性がないことである。遺贈は偶発的であり、定常的な資金源とはなりえない。たとえば森村氏の事例のように、偶然寄付を受けた貴重な資産が市場価値を持ち、かつ売却可能であったからこそ成り立ったのであって、今後も同規模・同条件の遺贈が継続的に得られる保証はない。
さらに、支持基盤の高齢化が遺贈ポテンシャルの“天井”を早期に迎えることが確実視される。2020年代後半には、戦後期から共産党を支えてきた「団塊の世代」が80代を超え、人口としても急速に減少する。2023年の時点で日本共産党への投票者の約半数が70代以上とされる中で、今後10年の間に遺贈による潜在的供給者そのものが激減するのは不可避である。
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また、法的・倫理的な側面にも課題がある。遺族との意思の不一致、あるいは寄付者本人の意思確認の曖昧さが、今後法的なトラブルを招くリスクも否定できない。実際、森村桂氏の友人による異議申し立てのように、周囲との齟齬が露呈する場面も見られている。
つまり、「遺贈によって財政を支える」というモデルは、持続可能な財政戦略とは言い難く、むしろ“奇跡”に依存する危機的延命措置に過ぎない。土地売却や寄付が偶然重なって実現した2023年の財政黒字を前提に将来計画を立てることは、財務管理の視点からは極めて危うい。
このような臨時収入に頼る体質から脱却しない限り、日本共産党は構造的赤字体質から抜け出すことはできず、いずれ“奇跡が尽きた日”がXデーとして訪れることになるだろう。
日本共産党の存続には、抜本的な組織再編と財務構造の見直しが急務である。 “赤旗と組織をどう守るか”ではなく、“党のどの部分を捨てて延命できるか”という次元に入っている。
公開日:2025年5月16日
原稿作成にChatGPTを用いました