1 事件概要と背景
本件は、埼玉県戸田市で行われた市会議員選挙(2025年1月19日告示、1月26日投票) をめぐるトラブルである。戸田市内における外国人関連の諸問題に対して強硬姿勢を示す河合ゆうすけ候補(「河合陣営」)と、これを「ヘイトスピーチ」だと見なしてカウンターデモを実施した日本共産党員の家登みろく氏(「みろく氏」)との対立が発端だ。みろく氏は俳人であり、日本共産党の機関紙「赤旗」に連載を持ったり、関連するイベントやSNS研修会の講師を務めるなど、首都圏を中心に党の活動に熱心に参加している。
今回のトラブルの中心になったみろく氏であるが、そもそも彼女は戸田市の選挙とは無関係な立場である。それにもかかわらず、日本共産党の候補者である「むとう葉子陣営」が街頭で選挙活動を行っている現場に飛び込み参加し、河合陣営への対抗行動をし始めた。
みろく氏の行動中、物理的な接触があったとの証拠映像を河合陣営が公開したことでSNS上などで大きな波紋を呼んだ。
これを受けて「日本共産党は暴力的手段を容認しているのではないか」という批判が起こり、さらに党幹部がSNSやYouTube上でみろく氏を擁護する発言や動画を公開したことで、「幹部が公然と彼女の行動を支援・正当化しているのではないか」という疑念がいっそう拡大している。
今回のトラブルを考える上で背景としては大きく以下の二点が指摘される。
(1)日本共産党と暴力との歴史的イメージ
日本共産党は数十年来、穏健左派として議会での活動を通じた社会改革を目指す政党となっている。一方で、かつて実力闘争路線を取ったことで破壊活動防止法に基づく調査対象団体となるなど、「暴力を容認するのではないか」という批判的な視点で見られることがある。党としては長年、暴力性を否定してきたが、本件を機に「やはり暴力的手段と決別できていないのでは」と再び疑問の目が向けられる。
(2)ヘイトスピーチの捉え方とカウンター運動の過激化
この10年近く、在日外国人や移民などへの差別を糾弾するために、ときに過激な対抗デモや物理的な衝突を伴うカウンター行動が繰り返されてきた。近年ではこのようなカウンター行動が選挙運動の中にも浸透し「正当な抗議」なのか「選挙妨害」なのか判断が曖昧になっている事案が増えている(2024年の東京都知事選挙や兵庫県知事選挙)。本件でも「ヘイトスピーチに抗議しただけ」と「不当な妨害行為だった」という主張が対立している。
2 みろく氏の主張
河合陣営に暴力行為を指摘されているみろく氏について、彼女の主張を上記小池晃氏のYouTube動画に出演した際の証言から引用し、確認したい。なお、河合氏の所属が「日本保守党」とされるが、国政政党の同名政党とは異なる政治団体である。
その日は全く別の用事で戸田公園駅に行って/その帰り道に一団と遭遇したわけですね/日本保守党の河合ゆうすけさんたちの陣営が非常に大人数で/かなり広い場所を取ってそういうスピーチ演説をされているところだった/改札をはさんで西口東口とあってそれがしかも2階なので/先方がいたのは共産党がスピーチをしていたところの反対のどっち口か忘れたんですけど/反対の入り口の1階だったんです/私が用事から戻ってきた時にその集団にでくわしたんです/その時にやっぱり「いま戸田市は外国人の人口が非常に増えていて」/「治安が悪化しており危険な状態になっている」というデマを堂々とお話しされていた/やっぱりこれを信じてしまう人がいるだろうというここと/戸田市の人口比率でそれだけ海外 外国籍であるとか/在日の方だとか日本にいま住んでいらっしゃる方が多いのであれば/やはり駅を利用している中にやっぱり当事者が今この瞬間も傷ついているんだろうなと思ったら/やっぱりちょっと見過ごせないと思って/距離があるので共産党の方のところに行って/「私たちはどんな人とも仲良く過ごしていきたいし戸田市は既にそういった」/「海外ルーツの方とか外国籍の方とかいろんな方と一緒にやってる」/蕨とか川口もそうだと思うんですけどね/「やっているのでそういった言説に流されずより良い社会を作るために頑張っていきましょう」というようなスピーチをしていたわけですね/そしたら先方からですね それを聞きつけたのか男性3人が/そのうちの2人はスマートフォンで撮影をしていて/もう1人の方がカメラをですね こう近づける感じで「名前を住所を言え」「お前は日本人じゃないだろうどうせ」というふうに言ってきたわけですね/それ自体も人種を聞いて馬鹿にするっていうのはヘイトスピーチの類ですから/そういうのをやめてくださいということで/撮影も私だけだったらいいんですけども他にもたくさん後ろに人がいらっしゃるので/撮影はやめてくださいという感じでこう手を出したところをちょっと切り取られて/私は暴行をはたらいていないっていうのはもうすごく自信があることなので/あの動画がどれだけ拡散されようとそこはもう自明だと思うのでなんとも思ってないんですけれども/そこで「警察を呼べ」と/あっち側が「暴行を受けたんだから警察を呼べ」というふうに言ったので/私が「では交番が近くにあるから行きましょう」という感じで行く時に/少し何人かに追いかけれて交番に行く途中にも階段でちょっと引っ張られ/そのまま降板に「ちょっと助けてください」というふうに行ったという感じ
上記内容をまとめると以下のようになる。
・みろく氏は当日、別の用事で戸田公園駅に向かっていた。
・駅周辺で、河合ゆうすけ氏の陣営が多人数で演説をしている場面に遭遇。
・その演説内容を「外国人増加による治安悪化」を訴える“デマ”と感じ、見過ごせないと思った。
・日本共産党の候補者陣営が近くにいたため、そちらへ行って「多文化共生」のスピーチを行った。
・すると河合陣営の男性3人が近づき、スマートフォンやカメラで撮影しつつ「名前と住所を言え」「日本人じゃないだろう」と問い詰めてきた。
・みろく氏は「人種差別的な言動だ」と抗議するとともに、「他の人も映るので撮影をやめてほしい」と手を出した。
・河合陣営側が「暴行を受けた」として警察を呼ぶよう要求したため、「交番へ行こう」と提案して一緒に向かった。
・交番に向かう途中、階段で腕を引っ張られたと主張しており、到着後に経緯を警察へ説明した。
3 新たに入手された映像資料とそこで判明した事実
今回、みろく氏と河合陣営の接触について別角度から撮影された映像資料を入手した。この映像については日本共産党関係者から提供を受け、党中央委員会内でも共有されているという情報も入っている。撮影者が誰かは不明であり、党関係者か、第三者からの提供かは分からない。
映像は2分程度であり、両者の接触と以降の騒ぎが収められている。
動画から判明したことを明記していきたい。
(1)党関係者や候補者の“困惑”が映し出されている
最新の映像資料の解析によって、これまで以上に明確になったのは日本共産党候補者陣営が、みろく氏の突発的な飛び入り参加に戸惑いを見せていた事実である。
映像には、党候補者を支援するスタッフが「いきなり始まってて・・・」「どうしたらいいのか分からない」といった困惑をうかがわせるやりとりが記録されている。
スタッフは「むとう葉子です」と候補者名を連呼しようとしているが、その声をみろく氏はかき消す音量で河合陣営へのカウンターを行なっており、選挙応援という体をなしていない。
騒ぎが起こった後、むとう陣営と河合陣営の会話で、むとう陣営スタッフがみろく氏を指し「知らない人なんです。知らないの」と話している音声も確認している。騒動後、両陣営が話し合う中でみろく氏は一人「外国人と仲良くしよう」と叫んでおり、むとう陣営の一員という印象はない。むとう陣営スタッフはその後、「外れた方がいいよ。あんまり巻き込まれない方がいいよ」としており、みろく氏と距離を取ろうとしている。
みろく氏は「共産党です」と名乗りながら、河合陣営が行っていた街頭演説に対する“カウンタースピーチ”を主張しているが、むとう陣営があらかじめ彼女と連携していた様子はうかがえない。彼女の行動は組織運動として常軌を逸していると評価せざるを得ない。
(2)みろく氏による「共産党」の看板使用と対抗言動の弱さ
映像内では、みろく氏自身が「共産党です」と明言し、党のプラカードを掲げ、あたかも党の正式な立場としてカウンター行動をしているかのように見受けられる。ところが、そのスピーチ内容は論理的な証拠や具体的な政策的根拠に基づいたものではなく、断片的な主張が中心である。
みろく氏の接触事件直前の発言は「こんにちは」「皆さん」「共産党でーす」「外国人とも仲良くしましょう」。撮影を行う河合陣営を指差し「スマホは外国製」「今日食べてきたご飯も外国の人たちが作ってくれたかもしれません」
小池晃のYouTube動画で語っているような論理武装されたスピーチではなく、主張は一般的でかつ断片的である(あくまでも映像の範囲)。
また、小池晃のYouTube動画でも「みろくさんがスピーチしてたんだ?」という確認に対して「スピーチというか/プラカードを持って肉声で」と微妙に言葉を濁す反応を示しており、「スピーチ」という表現が一種「盛った」ものであることを彼女自身も自覚していた可能性がある。
(3)「暴力行為」とされる出来事の事実確認
みろく氏は動画撮影を抑止するための行動を「切り取られ」、「暴力として拡散された」というが・・・以下が映像記録に基づく事実関係である。
まず、河合陣営はみろく氏に「選挙妨害である」旨、通告し撮影を行なうと同時に「警察を呼ぶ」と発言している。
加えて河合陣営はみろく氏が選挙運動員の腕章をしていない点を示し、「公選法違反である」という点も指摘している。
それに対してみろく氏は「警察でもなんでも呼んでください」と言っている。
この間、河合陣営はみろく氏に近づいたり離れたりしているがそれは前後一歩程度であり、距離としては2mほどをキープしている。
河合陣営の「日本人じゃねえだろおめえ」という挑発が行われる。
それに対して、みろく氏は嬉しそうな声で「おっ、ヘイトスピーチでました!」と叫ぶ。
その直後、「日本人じゃないと!」と河合陣営3人に向かって、みろく氏自身が大きく一歩踏み込む。その間、1m程度に縮まる。続けて、みろく氏は「思うのはなぜですか?」と河合陣営との距離1m程度で足を揃え、声を張る。
それに対して河合陣営の男性は「主張内容が・・・」と返答しようとするが、「なぜですか?」とみろく氏は河合陣営3人に向かって左足1歩詰め寄り、男性が持つスマホ及び手に左手をかける。この時、みろく氏の左手は膝の部分で曲がっている。
男性は大袈裟に叫ぶと共に一歩後退する。みろく氏も右足で一歩踏み込む。この際、みろく氏の左手は伸び切っている。男性の後退と連動するように腕が伸びているということは、男性の身体で前腕を支えていた(接触していた)可能性が高い。男性は「痛い痛い」と続け、河合氏が「むとうさん、今の暴力行為やで」と言う。
(4)「暴力行為」とされる出来事の評価
今回の映像資料から読み解けるのは「みろく氏の有形力の行使が物理的衝突のきっかけとなった」ということである。その行為が敵対者との身体的接触や物損の可能性があるものと予想できる以上、彼女が意図的に有形力の行使に及んだという指摘は可能である。この点をもって「暴力行為」をみろく氏が河合陣営に行ったということに無理はない。
映像を見る限り、河合陣営はみろく氏の言動を選挙妨害であると主張した上で撮影をしているため、この行為が証拠保全のためのものだと考えられる。そのため、撮影自体の合理性が認められる。
小池晃のYouTube動画ではみろく氏は「選挙妨害」と訴えられた点を述べていないため、河合陣営の行動が非合理的に映る。
同じく小池晃のYouTube動画でみろく氏は「撮影も私だけだったらいいんですけども他にもたくさん後ろに人がいらっしゃるので/撮影はやめてくださいという感じでこう手を出したところをちょっと切り取られて」としている。
映像資料では彼女の背後には人は認められず、河合陣営側の公開された他映像を確認する範囲では主な被写体はみろく氏であり(あるいは共産党関係者数名)、彼女の「撮影も私だけだったらいいんですけども他にもたくさん後ろに人がいらっしゃるので」という主張は状況と一致しない。
「撮影はやめてくださいという感じでこう手を出したところをちょっと切り取られて」というが映像でみろく氏は「撮らないでください」などの意思表示をしておらず、「撮影はやめてくださいという感じ」というのは映像を見る限り明示的ではない。
加えて、みろく氏はTwitterへの投稿として「スマホで撮影されていたので、撮影をやめろと言いながら、【手のひらをレンズの前にかざした】だけ」としているが、映像を見る限り「撮影をやめろ」などとは言っていない。
むしろ、河合陣営の「日本人じゃねえだろおめえ」という挑発に対して、嬉しそうな声で「おっ、ヘイトスピーチでました!」と叫び、「日本人じゃないと!」とそれまで河合陣営が2m程度にキープしていた緩衝スペースから一歩出て「思うのはなぜですか?」と文字通り「詰め寄った」のはみろく氏であり、映像からは明らかに彼女の方が衝動的に行動している様子が見られた。
河合陣営については「日本人じゃねえだろおめえ」という根拠不明な言いがかり、端的に言えば挑発があったが、その後、みろく氏の「日本人じゃないと思うのはなぜですか?」という質問に「主張内容が・・・」と回答しようとする姿勢を見せており、あくまでも「口げんか」の範疇で対応しようとしていたことが見て取れる。
みろく氏については河合陣営に自ら接近し、同陣営男性のスマートフォンに手を伸ばす仕草が映像から確認できる。彼女は「手のひらをレンズの前にかざした」だけだというが、男性が後退する際に彼女の腕も伸びており、相手に接触し力を加えていた可能性が高い。
動線を遮られたり拒否しているのに撮影を続行したりするなど、有形力の行使を誘発された痕跡はなく、彼女自ら有形力の行使をしているのは明瞭である。
みろく氏の行動については距離を詰め、河合陣営の男性に手を伸ばした時点で、身体的接触やスマートフォンなどの物損につながる可能性が予想でき、偶発的なものではないのは明らかである。
まとめ
戸田市の市議選とは無関係だったはずのみろく氏が、選挙運動の現場に飛び込みで参加したことが混乱の発端だった。彼女は外国人差別的な言動を行っていたとする河合陣営を日本共産党を名乗りながら批判したものの、実際には候補者(むとう陣営)の選挙を支援するわけでもなく、むしろ現場を混乱に陥れてしまった。むとう陣営のスタッフが後に「彼女のことは知らない」「巻き込まれたくない」と話している通り、飛び込み参加そのものが組織として想定外で受け入れしがたいものだった可能性は極めて高い。
さらに、映像にはみろく氏が河合陣営の挑発に乗って感情的に手を出そうとしている場面が残されており、結果的に河合陣営へ“暴力の証拠”を与えた格好となった。通常の政治活動家であれば、意図的な挑発を察して冷静に対応するが、みろく氏はそうした抑制が効かなかったと見られる。
河合陣営としても、当初この出来事を大々的に発信する気はなかったらしく、選挙終了からしばらく経って映像を公表した。しかし、日本共産党の幹部が素早くみろく氏を擁護したことで事態は一気に拡大し、“暴力事件”が一人歩きする形になった。
不可解なのは、当該候補陣営や現場スタッフが「みろく氏はまったく知らない人」と明言しているにもかかわらず、党の幹部が十分な事実確認をした形跡もないまま、あたかも彼女を組織的に保護するように動いた点である。これでは、党の地方議員と支援スタッフを切り捨てるも同然に映り、「なぜそこまでして彼女を守ろうとするのか」といった疑問や批判が湧き起こってもおかしくない。出来事直後、両陣営が話し合う中でみろく氏は一人「外国人と仲良くしよう」と叫んでおり、映像から受ける印象は「常軌を逸している」以外、なかった。出来事の最中冷静さを欠いた人物の証言をなぜ、検証もなく信じ、国政政党の党幹部が大々的に擁護しているのか理解できない。
ヘイトスピーチへの抗議そのものは社会的意義を持つ行為である一方、選挙期間中の暴力的・感情的対立は、党のイメージや候補者の選挙活動にも大きな影響を及ぼしかねない。今後、当日の映像や音声のさらなる公開と、党幹部がどのように事実確認を行い、みろく氏を擁護するに至ったのかが検証する必要があるだろう。いずれにせよ、当初は大ごとと見なされていなかったトラブルが、党幹部の“拙速な擁護”によって、予想以上に大きな波紋を呼ぶ結果となっている。
公開日:2025年2月17日
原稿作成にChatGPTを用いました